会計専門職大学院は、高度な会計知識を備えた人材を育成することも目的に設立されている教育機関です。大学卒業後の修士課程に該当し、修了すると専門職学位を取得することができます。この記事では、そんな会計専門職大学院について詳しく解説していきます。
会計専門職大学院とは、会計大学院とも呼ばれ、会計の専門家を教育するための機関です。従来、会計の専門家である公認会計士となるためには、会計士試験を突破しなければなりませんでした。
しかしながら、会計士試験だけで公認会計士の資質を涵養することは非常に困難でありました。そうした現状を踏まえたうえで、公認会計士として備えるべき資質・能力の養成に、公認会計士試験だけでなく、高等教育機関における体系的な会計教育を通じた取組みが必要不可欠であるとの認識から提起された大学院が、会計専門職大学院です。
会計専門職大学院は、会計の専門家を体系的な会計教育を通じて育てる機関であるものの、社会人のリカレント教育のための機会を提供することも目的として期待されています。
リカレント教育とは、フォーマルな学校教育を終えて(義務教育を終えて)社会の諸活動に従事してからも、個人の必要に応じて教育機関に戻り、繰り返し再教育を受けられる、循環・反復型の教育システムのことを言います。そのため、会計専門職大学院は、社会人になってから、再度教育を受けたいという人のために教育の機会を提供する機関でもあります。
会計専門職大学院が創設されたきっかけは、2003年(平成15年度)の公認会計士試験制度が改革され、2006年(平成18年度)から試験制度が新しくなると金融庁が発表したためです。
金融庁は試験制度の改革案において、公認会計士新試験の目的は、実務経験者や専門的教育課程の修了者も含め、受験者層の多様化と受験者数の増加によって、資格者を増やすことであると述べられており、試験体系の簡素化や試験科目の見直し、また試験の一部免除の拡大などの改革を通して、受験しやすい環境を作るとしました。
2006年の改革案を元に、3段階5回渡っていた試験を1段階2回に簡略化することにし、具体的には、1次(一般的学力)、2次(短答式5科目・論文式7科目)、3次(筆記・口述)だった試験を短答式と論文式からなる1回の試験して受験者の負担を軽減しました。
以上の変更を経て、試験科目が財務会計論・管理会計論・監査論・企業法の4科目、論文式は会計学・監査論・企業法・租税法の必須4科目と民法・経営学・経済学・統計学の中から1科目を選択するという現在の形式に至りました。
受験科目免除についても変更があり、一定の要件を満たす実務経験者や専門資格試験合格者、専門資格者、専門職大学院過程修了者などに対しては、試験科目の一部を免除するとし、加えて短答式試験合格者に対して、2年間(予定)の有効期間を設けた短答式試験免除を導入しました。
同様に論文式試験についても、2年間(予定)の有効期間を設けた科目合格制を導入し、その他、所要の経過的措置を手当した上で、会計士補の資格を廃止になりました。
2003年の公認会計士試験制度の改革の影響もあり、中央大学が日本で初めて会計専門職大学院を創設し、その2年後にあたる2005年に北海道大学・東北大学・千葉商科大学・青山学院大学・早稲田大学・明治大学・LEC東京リーガルマインド・法政大学・関西学院大学が新たに会計専門職大学院を創設しました。
2005年以降に会計専門職大学院を創設した大学一覧
2006年 大原大学院、愛知大学、関西大学、甲南大学、立命館大学
2007年 愛和淑徳大学、兵庫県立大学
2009年 熊本学園大学
公認会計士試験の内容が変更したことやその変更に合わせた会計専門職大学院の創設もあり、公認会計士試験の受験者数は逓増し、2010年には公認会計士試験の志望者数が最大となります。
2006年(平成18年)公認会計士試験の志望者数 20,796人
2007年(平成19年)公認会計士試験の志望者数 20,926人
2008年(平成20年)公認会計士試験の志望者数 21,168人
2009年(平成21年)公認会計士試験の志望者数 21,255人
2010年(平成22年)公認会計士試験の志望者数 25,648人
会計専門職大学院を修了した場合、会計修士(専門職)あるいは会計学修士(専門職)の学位が与えられます。2019年10月現在、日本には14の会計専門職大学院があります。詳細は以下の図表の通りです。
※2011年に愛和淑徳大学が会計専門職大学院の募集を停止し、それに続くように2014年に愛和大学、2015年に法政大学・立命館大学・甲南大学、2017年に中央大学が募集を停止し現在は14の会計専門職大学院が残っています。
会計専門職大学院では、会計専門職業人として必要とされる理論と実務に習熟し、かつ職業倫理観および豊かな会計的センス、高度な判断能力や思考能力の修得を目指します。会計専門職で開講されている講義は様々ですが、北海道大学の会計専門職大学院で開講されている講義科目を参考までに確認しておきましょう。
このように、会計専門職大学院では、会計に関する科目を中心として、税務・監査・経済、法律、情報システムなど、様々な科目を学ぶことになります。高度の会計に関する知識だけではなく、会計倫理などの専門家として身につけておくべき倫理観についても養っていきます。会計専門職大学院では、知識を身につけるだけではなく、実践的な力も身につけることができることが特徴です。
会計専門職は、今後、監査業務だけではなく、多様な業務に就くことが求められます。そのため、財務会計・管理会計・監査・税務会計の会計4分野に関する基礎的な知識を満遍なく具えることが必要とされます。したがって、どの会計専門職大学院に進学した場合でも、これらの科目に関する高度な知識を身につけるべく、受講者の関心に合わせて、様々な科目を履修することができるようになっています。
気になる学費面ですが、国立・公立大学であれば年間およそ65万円〜75万円、一方私立大学であれば、年間およそ120万円〜180万円かかることになります。
最終的な目的である学位の取得と就職には国公立と私立で違いはありませんが、それぞれの施設によって勉強する環境が変わってきますので、自分の求めている学習レベルと環境を踏まえ、学費を考慮する必要があります。
大学の学部を卒業しさらに2年の修了期間と多額の学費を踏まえても、会計専門職大学を卒業するメリットは以下のことが挙げられます。
・大学院講師との繋がりが作れること
・同じ業界・業種を志望する学生同士の繋がりが作れること
・専門的な学習を通じて、学部生にない多角的な視野で業界を分析できること
・短答式の3科目免除があること
・さらに2年の期間を経ることで、社会に出る前に「会計人としての基礎力」を磨けること
・将来のキャリアに専門的な学習や学位が役立つこと
一方、会計専門職大学院に通学するデメリットも相応に存在します。
・学費が高いこと
・若いうちの2年を費やすことになること
・会計士や税理士試験に関係ない科目まで勉強しなければならないこと
上記で挙げたメリット・デメリットを踏まえて、自分にあった選択を行い、会計人として将来のキャリアを歩んでいきたいですね。
会計専門職大学院を修了した後は、ほとんどの人が会計に携わる仕事につきます。会計専門職大学院を修了すると、一定の要件のもと、公認会計士試験の短答式試験の一部科目が免除されるため、卒業後に公認会計士試験にチャレンジする人も多くいます。短答式試験における「財務会計論、管理会計論、監査論」の3科目が免除されることになります。
その結果、論文式に重点を置いた試験勉強を行うことで試験勉強の負担が軽減できます。昨今では、会計専門職大学院の修了生に対する期待は高まりつつあります。
企業の経理業務だけではなく、国際財務報告基準に対する対応、連結納税制度に対する対応、内部統制の強化、新しいITシステムの導入など、会計的に高度な知識が求められる場において、様々な役割が期待されるなど、従来よりも仕事の範囲は広がっています。
会計専門職大学院は、高度な会計知識を持つ人材を育成する教育機関です。2019年現在において、14大学にしか設置されていません。会計専門職大学院を修了すると会計専門職の学位を取得することができ、修了生の多くが監査法人や税理士法人に就職しています。
もちろん、一般企業などに就職する人もおり、様々な分野で活躍しています。今後、AIの発展によって、会計の専門家の役割は変化していきます。そんな環境のなかで、会計専門職大学院に対する役割も変化しており、今後は、ITに強い会計専門職大学院の誕生が社会的に養成されています。