簿記には複式簿記と単式簿記があります。それぞれ特徴やメリットデメリットがありますが、企業で税制状況を把握するには複式簿記が使われています。では、複式簿記とは、いつから普及しているのでしょうか。また、誰によって複式簿記は世間に知れ渡るようになったのでしょうか。今回は、複式簿記の歴史について解説していきます。
そもそも簿記には単式簿記と複式簿記の2種類があります。
単式簿記とは取引を一つの勘定科目で帳簿に記載する方法で、複式簿記は取引を複数の勘定科目で記載する方法です。
単式簿記は発生する取引の目的のみの記載で、例えば、現金の入出金などの記録で、借入金を把握できないなどのデメリットがあります。一方、複式簿記は発生する取引の目的とその手段まで記録され、例えば支払いがあったケースでそれが現金での支払いであるなど、取引内容を2つの面から記録するため、取引の発生原因やお金の流れが明確になります。
単式簿記と複式簿記の違いについてはこちらのコラムも参考にしてみてください。
簿記の歴史は、紀元前にまでさかのぼるといわれています。人類として初めて簿記を使用し始めたといわれているのは、古代バビロニアの人々です。古代都市である「バビロン」の遺跡からは、借金返済に関する記述が残された粘土板が見つかっています。
つまり、この時代には既に、このような財政状況の計算をする習慣があったということです。年代でいえば紀元前2,000~紀元前1,700年頃になるので、簿記は4,000年以上もの歴史をもっていると考えられます。
この簿記の知識は、やがてギリシャやローマなどの古代ヨーロッパに広がり、さらにベネツィアの商人はひとつの取引に対して借方と貸方を記載し、お金の動きを正確に把握していたといわれています。また、投資家が商品に投資をしたことで、投資家に儲けを分配する際に複式簿記が必要になったのだとも考えられています。このように、さまざまな理由から複式簿記の考え方は、600年以上も昔から広まっていたのです。
日本では、大蔵省の招待によってイギリスの紙幣頭書書記官アレキサンダー・アラン・シャンドが1873(明治6)年に、「銀行簿記精法」を刊行し、同じ年に福沢諭吉が「帳合之法」という本を出版しました。これは、アメリカの商業学校で使われていた簿記の教科書を翻訳した書物です。この際、「帳簿人書き記す」という言葉が用いられるようになり、「簿記」をいう呼び方が広がったのです。そして同じ頃、日本政府は大蔵省に「簿記法取調係掛」を設け、複式簿記の正式採用を決定したといわれています。
複式簿記の理論や、複式簿記を使った商いを普及させた人として、以下の4名の人物が有名です。この人達がいなければ、簿記はここまで広がりもせず、発達もしていなかったかもしれません。
14世紀の中世の時代、ベニスは貿易船に乗って商人として働いていました。そして1回の航海が終わるたびに収支を調べ、利益を分配するという方法をとっていたのです。これは「ベニス式簿記法」とも呼ばれていますが、基本的な原理は今の複式簿記にそのまま受け継がれているといわれています。
イタリアで商人として大成功をしていたマルコは、古くから伝わってきた簿記が、どういった過程でこの時代にまで伝わってきたのかを研究したといわれています。そして、これらの研究に関する著述を非常にたくさん残しました。それらの内容の大半は、マルコ自身が築き上げた会社においての経理が基いなっています。
マルコの会社は、自社の経営状況を把握するため、毎年財務諸表を作っていました。そして、資産と負債を確認していたのです。けれど、当時のイタリアの商人の中でこのようなことをしていたのはマルコだけだ、と言われています。
マルコは複式簿記に対する正しい知識をもち、自社の財政状況を正確に把握したからこそ、大成功をおさめた商人になれたのです。複式簿記の必要性を、マルコは自身の生涯で証明したといえるでしょう。
パチョーリは、数学者としての自身の哲学を活かし、商売を続けるためには現金、帳簿、複式簿記が必要だと主張していました。実際に、年月が経つとともに複式簿記の優位性は広まり、信頼度も高まっていくのです。
複式簿記を世界中に広めたともいえるのが、ルカ・パチオリです。ルカ・パチオリは、ヴェチア商人が採用をしていた簿記の計算方法を詳しく解説している「スムマ大全」を書き、複式簿記を広く普及させて世の中に貢献したといわれています。
スムマ大全には、商人の会計記録が把握できる日記帳、財産目録の作成方法、仕訳原理を活用した処理方法、詳細な決算項目までが載っており、当時は「会計のバイブル」とまでいわれていたほどです。
また、このスムマ大全が世界中に広がっていくと、各国の商人もまた、この考えを取り入れ始めるようになりました。簿記会計が今のように広まり、高度なシステムによって管理されたのは、ルカ・パチオリの功績が大きいといえるでしょう。
このように複式簿記の歴史は非常に古いのです。最初はひとりの商人が自分でひらめいた会計方法が世界中にまで広がっていったということもお分かりいただけたでしょう。複式簿記には単式簿記ではできない非常に多くのメリットがあります。このようなメリットも、複式簿記がこんなにも広がり、現代にまで受け継がれている理由の1つといえます。