企業も家計も、お金の出入りを管理する必要があると思います。この際に用いられるのが、「簿記」です。日常的な取引を帳簿に記録して、最終的な決算結果を導き出すためのものです。そして、簿記には、「単式簿記」と「複式簿記」の2種類の方法があります。単式簿記は簡単、複式簿記は複雑、というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?
本記事では、単式簿記と複式簿記がどのようなもので、両者はどう違うのかを解説します。また、青色申告をする際にはどちらの方法を取るべきなのかについても踏み込んで説明するので、どうぞ最後までご覧ください。
単式簿記とは、取引を1つの勘定科目に注目して出入金の事実を記載する方法のことです。簡単にいうとお小遣い帳や家計簿のようなものです。
以下は、単式簿記の方法で現金の移動を記した具体例です。
例1.5月24日に雑費を10,000円、現金で支払った場合
例2.5月25日に商品で50,000円を売り上げ、現金で受け取った場合
例3.5月26日に銀行より100,000円の借り入れをした場合
以上の具体例から明らかなように、単式簿記によった場合、「現金が出入りした事実」を簡単に理解できます。減ったのか増えたのか、を捉えやすいということです。帳簿への記入方法も簡単なので、特別な簿記の知識がなくても記録できるというメリットがあります。
例えば、銀行の通帳が単式簿記の具体例として挙げられます。ご存じの通り、通帳では出入金の事実と実際に動いた金額が記載されますよね。
単式簿記のデメリットは、「現金が出入りした事実」にしか注目しないという点から導かれます。
まず、現金の出入りの理由が分からないということです。「減った」「増えた」ということはすぐに分かりますが、「なぜ減ったのか」「なぜ増えたのか」を詳細に知るには単式簿記のみでは不可能です。
次に、全体の財政状態である借金の残高などが把握できないというデメリットがあります。例1でいえば、雑費で10,000円の支払をして現金が10,000円減ったということはわかりますが、現在の現金の残高までは把握できません。個々の取引の額面移動のみに注目するため、全体的な動向を知るには、別途計算する必要が生じるのです。
さらに、現金が動くことのない取引は、記録をすることができません。例えば、掛けでの販売などがこれに当たります。現金の移動がない以上、単式簿記に記載する術がないのです。
以上のように、単式簿記は、出入金以外の場面にひどく弱いのが欠点です。そのため日常的に取引をしている方、企業にとっては、常々財政状態を把握する必要があります。その場合には、単式簿記ではなく、以下の複式簿記を採用することが一般的です。
複式簿記とは、すべての取引を借方・貸方の二面的に捉えた上で複数の科目によって記載する方法のことをいいます。先ほどのように具体例をあげてみましょう。
例1.5月24日に雑費を10,000円、現金で支払った場合
例2.5月25日に商品で50,000円を売り上げ、現金で受け取った場合
例3.5月26日に銀行より100,000円の借り入れをした場合
複式簿記では左側を「借方」といい、右側を「貸方」といいます。資産の増加、費用の発生を担当するのが「借方」、負債と純資産の増加、収益の発生を担当するのが「貸方」です。複式簿記で取引を記入する際には、「借方と貸方、どちらにどのような勘定科目を記載しなければいけないのか」を理解しなければいけません。
具体例に沿って見てみましょう。例1では、「雑費としての支払いのために」「10,000円の現金を支払って」います。したがって、借方に雑費10,000円、貸方に現金10,000円を記入します。
1つの取引を二面的に捉えなければいけないので、慣れていないと難しいのが複式簿記です。記入方法の複雑さは、複式簿記のデメリットとして考えられるかもしれません。
ただ、勘定科目ごとにすべての取引を記入しているので、全体的な取引の流れ、財務状況の把握には優れているというメリットが挙げられます。さらに、以下で述べるように、青色申告の65万円の控除を受けられるという点も魅力的でしょう。
記帳が簡単か難しいかという点に注目すれば、単式簿記の方が手をつけやすいですし、複式簿記は敷居が高いと言えるでしょう。ただ、実利を考慮すると、間違いなく複式簿記がおすすめです。というのも、単式簿記と複式簿記では、確定申告における控除枠に大きな違いが生じるからです。
具体的に言うと、単式簿記で記帳している場合は10万円の控除しか受けることができません。これに対して、複式簿記で記帳しておけば、青色申告の65万円控除を受けることができるのです。つまり、個人事業主などの方で節税をしたい人は、複式簿記を選択しなければいけない、ということです。
複式簿記がなぜこれほど優遇されているのか、それは、上述のように、複式簿記が網羅的に財政管理をすることに長けているからです。つまり、複式簿記という信憑性の高い管理手法によって出入金管理をしている以上、ある程度の優遇を与えてもよいのではないか、という配慮に基づくものです。
また、複式簿記によって帳簿をつけていると、賃借対照表と損益計算書を作ることができます。賃借対照表も損益計算書も、企業の財形状況を把握するうえで欠かすことのできない書類です。
賃借対照表とは、「資産、純資産、負債」にフォーカスした書類のことです。これを把握することで、集計時点の資本状況を理解することができます。
貸借対照表は、「バランスシート」と呼ばれることもあります。借方・貸方について、左右の合計額を一致させなければいけない、つまり、左右のバランスをとらなければいけないという特徴があるためです。
エクセルなどの表の場合、左側の借方が「資産」であり、右側の貸方が「負債」「純資産」に振り分けられます。つまり、資産は「負債と純資産を足す」ことで割り出されるのです。この賃借対照表を作れば、単式簿記では分からなかった現金残高や売掛金、借入金の残高などを把握できます。
損益計算書とは、「費用と収益」にフォーカスした書類です。収益から費用を差し引けば「利益」を知ることができます。つまり、損益計算書とは、家計における利益状況、経営状況を把握するために作成されるものと言うことができます。
エクセルなどの表の場合、左側の借方が「費用」、右側の貸方が「収益」です。個人事業主だけではなく、企業においても作成必須の書類と考えられています。
経営状況を正確に把握できるし、控除額も大きい。複式簿記には多くのメリットがあります。しかし、このメリットを享受するには、本来ならば複雑な複式簿記の勉強を要します。わざわざ勉強をしてまで…と躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。
そんな方のためにおすすめなのが「会計ソフトの利用」です。会計ソフトを使えば、簡単に複式簿記の形式で帳簿をつけることができます。特に、最新の会計ソフトは、短時間で操作方法などを理解できるほど使い勝手が良いものばかりです。業務量が少ない時期のうちに、会計ソフトを導入してみてはいかがでしょうか?
会計ソフトを使えば、毎日発生する取引について、借方か貸方かを入力するだけで済みます。あとの必要な作業は、すべて会計ソフトが自動で作成してくれるので、とても便利です。
複式簿記と単式簿記の違いや、それぞれのメリット・デメリットについては以上です。複式簿記は、すぐに独学で習得できるようなものではありません。ただ、企業の財政状況をきっちりと管理できる方法です。また会計ソフトを利用すれば、大変なはずの複式簿記の勉強をせずともメリットを手にすることができます。いろいろな会計ソフトが普及しているので、ぜひご活用ください!