特許というのは一般生活ではなじみが薄い言葉ですが、よく耳にはしますよね。大手企業や製薬会社等では頻繁に特許の話が出てきます。ところで、特許権についても会計処理があります。なじみがない科目ですが突然話が出てきて会計処理を考えなければならないこともあります。そこで今回は、特許権の会計処理について解説していきます。
特許権とは、特許を受けた発明者が一定期間にわたってその技術等を独占的に使用できる権利を言います。特許権は一定の書類等を提出し、特許庁の審査官の審査を受けて得ることができます。ただし、皆さんご存知のように先に提出した人が権利を取得できるため、後から提出した類似のものは認められない権利となります。
特許権の会計処理を理解するには、まず特許取得の流れを押さえる必要があります。
特許取得のためには、願書、特許請求の範囲、明細書、必要な図面、要約書を特許庁に提出する必要があります。
パソコン又は書面で出願しますが、所定の用紙や文字の書き方が決まっているため、自分での出願においてはまずそこで引っかかるでしょう。また、どのようにしたら特許が通りやすいのかなどは自分で調べてもあまりよくわからないことがあります。
そこで、弁理士に一定の料金を支払って特許権の出願の代行を頼むことが多くなります。
それでは自社で出願した特許権はどのような会計処理となるのでしょうか。特許というだけあって相当な価値が見込まれますが会計の原則は取得原価主義と呼ばれるものです。
つまり、外部から特許を購入したわけではなく自分で特許を生み出したということで取得原価はゼロとみなされるのです。つまり特許権そのものは会計処理されません。
しかし、貸借対照表に特許権が少しだけ載っている場合があります。これは先ほどお話したような弁理士への支払報酬や出願費用そのものとなります。これらについては資産計上することができ、税法上8年で償却されます。
このように自社で出願した特許権はあまり資産に計上されませんが、特許料を受け取る場合があります。これが本業でなければ営業外収益に、特許料の授受を本業としていれば売上高として計上されます。
また、税法上償却年数が8年となりますが、特許の有効期限は20年ですので、上場会社で特許料を受け取ることを生業としているような会社は20年で償却している場合もあります。
次に、特許権を他の第三者から購入した場合の会計処理です。自社で出願した場合は付随費用等しか資産計上できませんでしたが、第三者から購入した場合はその支払い対価と特許に係る付随費用が資産計上できます。
これは、自社で特許出願の場合は価値が測定しづらいですが、第三者との取引であれば取引価格が明確であるため資産計上できるのです。また、特許の名義変更の際の付随費用も同じく資産計上されます。
ただし、税務署から不当に高いもしくは安い価格で特許権を売買した場合は適正価格との差額を寄付金としなければならないという指摘が入るかもしれませんので、特に親子間で特許権の売買を行う場合は注意が必要です。
M&A等により取得企業が特許権を保有していた場合は、その特許権の時価を評価して計上することとなります。これは企業結合会計に基づいて計算されます。
企業結合会計では、企業の純資産と購入金額の差額を「のれん」として資産計上し、20年以内の期間で償却しなければなりません。これは、購入価額との差額は超過収益力とみなされ、資産性があると考えられているためです。
しかし、のれんは最大20年で償却されるため、全てをのれんとしてしまうと企業の本来の収益力がわかりづらくなる可能性があります。そこで、企業結合会計基準では配分可能な資産はのれんではなく該当する資産に配分するよう要請しています。
この超過収益力の一部が特許権によるものであると考えられる場合には、その分を時価評価して特許権として計上することとなります。評価方法としては、特許権から得られるキャッシュフローを推定して、そのネットされた金額が貸借対照表に計上されます。また、特許は海外ではよく訴訟の対象となることが多い為、特許権を侵害している場合は注記するか、訴訟損失引当金を計上しなければならないこともあります。
なお、外部から購入した特許権のように、付随費用が発生するようであれば追加で資産計上され、税法基準を採用している場合は8年で償却計算が行われます。
特許権は自社で出願した場合はほとんど貸借対照表に計上されないため、意外と大企業の決算書を見ても科目として見ることは少ないと思います。しかし、特許ビジネスで成功している会社を買収しているような会社の決算書では特許権が莫大に計上されている可能性があります。ただし、金額的重要性が無い場合は無形資産として一括して表示されている場合がありますので、留意が必要です。
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