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帳簿在庫とは?実地棚卸と差異が出たらどうする?

公認会計士 大国光大
帳簿在庫とは?実地棚卸と差異が出たらどうする?

在庫管理は製造業や小売業であれば必須の課題です。在庫の管理の仕方によって損益が大きく異なりますし、経営のスピードも変わります。さて、帳簿在庫とは文字通り帳簿に記載されている在庫を指しますが、どんな時に有効活用できるのでしょうか。今回は、帳簿在庫とは?実地棚卸と差異が出たらどうするか、等を現役公認会計士が解説していきます。

帳簿在庫とは?

帳簿在庫とは、帳簿上記載されている在庫を指します。別名は理論在庫とも言います。
企業は日々仕入や売上を繰り返していて、現物と一緒に納品書や出荷伝票等の伝票をやり取りします。この伝票に基づいて計算された在庫が帳簿在庫となり、現段階で企業に「あるであろう」在庫の数となります。

帳簿在庫を使って何がわかるの?

では、帳簿在庫がわからない企業があるかというと、零細企業ではかなりあると言っていいでしょう。このような会社の場合は年に一度の棚卸によって在庫の種類ごとに実際の数をカウントして集計を行います。決算としては基本的にはどちらの方法を採っても結論は大きく変わりません。しかし日々の管理では雲泥の差があります。

まず、帳簿在庫がわかっている場合はその在庫が切れている際には適宜発注をすることができますが、帳簿在庫がわからないといちいち現物を確認して無いことを確認してから発注をしなければなりません。自社の商品にしてもお客さんから「すぐに品物を送ってほしい」と言われても帳簿在庫がわからない場合は現物を確認してからでないと注文すら受けられません。

また、従業員が在庫を破損してしまったり、高額商品を盗用したりしても気づかないリスクがあります。帳簿在庫がわかっていれば実地棚卸の際に差異が出るため、実物が無くなっていたらわかりますが、帳簿在庫がなければそのまま見過ごされてしまいます。

帳簿在庫と実地棚卸の関係

帳簿在庫は万能ではありません。あくまで理論的な在庫の数量であり、盗難や破損などで実際の在庫数量と異なることがあります。よって、帳簿在庫と実地棚卸を組み合わせることが重要です

では、帳簿在庫を付けずに実地棚卸だけの方が簡単で良いのかというとそうではありません。実地棚卸の結果、帳簿在庫と差異が出た場合はその分析をすることが必要です
例えば、帳簿在庫が実地棚卸在庫よりも多かった場合は、先ほどのお話のように在庫がなくなっている可能性があります。しかし、よく見てみると別の同じような在庫が帳簿よりも多かった場合は単純に払い出しの際に間違えた可能性があります。その際は帳簿をそれぞれプラスマイナスすればよいのです。

逆に帳簿よりも実地棚卸数量の方が多い場合は同じように減っている在庫がないか確認をするとともに、標準的なレシピが間違っていないかを確認します。飲食店であればわかりやすいですが、一つのハンバーグを作るのに常に卵3個が帳簿上は払い出しがされているにも関わらず、現場の改善努力で2個の卵で済んでいるとします。この場合は、帳簿在庫が常に3個減っているにも関わらず、現物は2個ずつしか減っていないことになります。この点は商品マスタの変更をする必要があります。
このように、帳簿在庫と実地棚卸を組み合わせることで日々のオペレーションの間違いが見つかるようになります。

帳簿在庫が重要な業種

先ほどお話した通り、欠品の有無を確かめるのに重要な業種はスーパーなどの小売業となります。欠品は商品にしても材料にしても致命的なロスとなります。

その他に、製造業でも帳簿在庫を把握することは必須でしょう。例えば特定の原材料の帳簿在庫よりも棚卸在庫が以上に少なく、その原因を探ってみると特定の人物の工程のみ材料のロス率が高い、などという原因分析ができます。原因がわかればその人物に対して指導したり工程の改善を行ったりすることができるでしょう

このように、物流を伴う事業や製造業では帳簿在庫の管理が極めて重要であり、一定以上の中小企業であれば当然のように管理されています。

帳簿を付けるべき在庫、そうでない在庫

ではすべての在庫について帳簿を付ければよいかというと、それは費用対効果によって異なります。先ほどのように重要な在庫については帳簿在庫をつけて実地棚卸結果と照合することが有用ですし、会社でまとめ買いしたボールペン1,000個を一つずつ帳簿管理することは効率としてはあまりいいものとは言えません。

ですが、切手や収入印紙等は帳簿在庫を付けることが多いです。確かに切手や収入印紙は一枚60円や200円など高価とはいいがたいかもしれません。しかし、60円分の切手100枚あれば6,000円になり、換金が容易に行えるため担当者がちょっと借りるつもりで・・・と換金してしまうかもしれません。帳簿在庫がわかっていれば異常に気付くわけですが、そうでない場合は再犯の可能性も出てきてしまいます。

よって、企業にとって重要な在庫でなくとも換金可能性の高いものについては帳簿在庫を把握しておくことが良いでしょう

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
カテゴリ:コラム・学び

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