経理業務を目指すにあたり、まず初めにすすめられるのが簿記の勉強。なかでも「簿記検定」は必須とも言われる資格です。しかしこの「簿記検定」が、「実務では役に立たない」という声もちらほらと聴かれます。本記事では、資格試験と実務における簿記の違いとその価値について解説します。
試験と実務では思わぬところで違いがあります。たとえば、資格試験ではあらかじめ「合格基準」が決まっています。
合格基準が7割の試験であれば、後の3割は未解答や誤回答でも合格です。もし100点中99点だったら、大変な好成績でしょう。
しかし、実務の経理では、1つでも間違ってしまったら、決算の数字が異なって不適切会計の原因なってしまいますので、ミスは許されません。常に100点であることが求められるのが実務の厳しいところです。
実務では会計ソフトにて伝票を作成する場合、この品目によってどの勘定科目にすべきかと悩むことが少なくありません。
勘定科目は法的な決まりはありませんので、その会社や組織独自の勘定科目を設けていることも良くあります。場合によっては過去の取引内容の確認なども必要です。
伝票入力は当事者が行うフローになっているところでも、証憑に添付されている領収証や請求書などの必要書類や、社内規定によって添付が決められている出張申請書や仮払申請、交際費であれば出席者一覧などといった書類自体がそもそも正当なのかどうかというチェックも必要です。
場合によっては勘定科目修正や、必要書類の再取付などを指示する必要があります。試験では基本的に勘定科目は問題の中で与えられていますので、悩むところはありません。
しかし、簿記検定では、実務ではほとんど使用しない勘定科目の仕訳問題が出題されたりします。そして、そもそも与えられた請求書の請求内容や記載事項の誤りなどをチェックするということはまずありません。
実務においては、取引の正当性の確認が取れ、会計ソフトへの内容の入力が正しく行われていれば、財務諸表はデータの紐づけによりボタン一つで作成可能です。現在では、計算は全てソフトウェアがやってくれるので、自力で電卓をたたく必要がありません。
もちろん入力内容のチェックは必要ですが、正しく入力さえできていれば、計算誤りというのは基本的に内容に設計されています。
しかし試験では逆に、総勘定元帳や試算表などの作成問題が出題されることがありますし、複雑な計算が出題されることも珍しくなく、難易度が上がる程、計算も大変になります。
他にもいろいろありますが、実務は仕訳入力までの工程でのチェックに手間がかかりますが、実際に入力さえちゃんとしていれば、数字の計算はほとんどなく、資格試験は仕訳における勘定科目の妥当性や書面の不備についてはチェックが不要ですが、実際に計算などが大変ということになります。
ここまで読むと「簿記検定が役に立たないって本当なんだ」と思われるかもしれません。確かに、経理業務について最初の頃は、社内ルールを覚え、会計ソフトの使い方さえ学べばルーティンワークはこなせるようになりますので、簿記の勉強をしなくても良かったのでは?と思うでしょう。
しかし、入力などの簡単な実務をこなせるようになって、ワンランク上の業務に携わるようになると、簿記検定の資格取得をした人とそうでない人では差がついてきます。
なぜかというと、「なぜその処理が必要なのか」ということを体系立てて理解している人とそうでない人では、業務全体の流れを把握する力が変わってくるからです。
仕訳ひとつとっても、なぜ仕訳が必要なのか、仕訳されたデータはどうなるのか、この語句はどういう意味でどの帳簿とつながっているのかといった基礎ができていないと、定型的な業務をこなせるようになっても土台がないので、次のステップを積み重ねることが難しくなります。
簿記検定の勉強は、即効性があるものではなく、後からじわじわと効いてくるものだと考えた方が良いでしょう。
簿記検定の勉強は、「簿記」という考え方を含め、基本を身に着けるのに役立ちます。そして、経理業務への転職を考えている人にとっては、資格は大きな武器となるでしょう。
しかし、実務というのは各企業によって異なる面もあるため、最初は簿記検定の勉強が実際の実務とあまり関わりがないように思えるかもしれません。
簿記検定を取得した=実務をこなせる、という事ではなく、簿記検定の勉強をした基礎の上に実務能力を築いていくようなイメージだと考えていただければわかりやすいかと思います。
簿記検定の資格は、未経験者の方にとっては、経理業務の実務につくために必要なパスポートであり、すでに経理業務に携わっている人にとっては、ステップアップするための素養になります。キャリアアップを考えている方は、実務と並行して勉強してみてください。