税理士の平均年齢が高齢化していることは、以前から指摘されていました。実際に平均年齢を調べてみると約60歳です。また、税理士試験の受験者と合格者のデータからは、ここ数年で高齢化の傾向が急速に加速していることが読み取れます。
税理士の高齢化の原因には、従来からある原因と、近年になって発生した原因の2つが考えられます。このような状況の中で、これからの税理士の生き残る道についてご紹介していきます。
まず、税理士の高齢化の現状について、3つのデータから把握します。
日本税理士会連合会が行った、平成26年1月1日時点での調査データによりますと、全国の税理士の年代別の人数と割合は以下のとおりです。60歳代の人数が約3割と最も多く、50歳代と40歳代がそれに続くというかたちになっています。
このデータをもとに、20歳代の平均年齢を25歳などとして全体の平均年齢を算出してみますと、59.9歳となりました。粗めの仮定条件下での計算とはいえ、税理士の平均年齢はほぼ60歳であるといえます。
上記と同様の調査で、従事年数は以下のとおりでした。20年以下が全体の4分の1ほどと最も多く、30年以下と10年以下がそれに続いています。
これについても、例えば従事年数1年以下は0.5年、20年以下は15年、40年超は45年などと仮定して、全体の平均従事年数を算出してみますと、17.6年となりました。
次に税理士試験の受験者数と合格者数のデータをみてみます。以下リンクの過去の税理士試験結果で、税理士試験結果表(学歴別・年齢別)に着目しました。
平成26年度から平成30年度について、全体、41歳以上、25歳以上30歳未満、25歳未満の受験者数と合格者数をまとめますと、以下のとおりとなります。
出典:税理士試験|国税庁
わずか5年間で、税理士試験全体の受験人数が1万人以上も減少しています。中でも25歳から30歳では約3千人、25歳未満では約2千人もの大幅な減少が見られます。受験者数の減少は、この若い世代の減少が主因といえます。
一方、41歳以上の受験人数はほとんど変わっていません。41歳以上というと、50歳代以上や60歳以上なども含まれるため、年齢的な範囲が大きいというのもありますが、比較的高めの年齢層の受験者数には減少傾向がみられません。
結果として、全体の合格者数に占める41歳以上の合格者の割合が、平成26年度の29.1%(910人中265人)から平成30年度の36.7%(672人中247人)にまで上昇しています。この傾向は今後も続くとみられるため、税理士の高齢化はますます進んでいくものと予測されます。
以上のように税理士の高齢化が進む背景には、どんな理由があるのでしょうか。大きく分けて2つの理由が考えられます。
まずは従来からある理由です。税理士試験は大学の対象学位の取得などで科目免除になることがあるのですが、国税従事による科目免除というものもあります。
・10年または15年以上税務署に勤務した国税従事者は、税法系の科目が免除
・23年または28年以上税務署に勤務し指定研修を修了した国税従事者は、会計系の科目が免除 出典:税理士法 第七条および第八条|電子政府の総合窓口e-Gov
長年の実務を通じて税に関する見識を身につけた人たちに対する措置であり、この優遇措置自体は社会的に有益であり、合理的であると考えられます。
しかし、このような優遇措置があることから、結果として税務署に長年勤めた人が定年または定年が近づいたタイミングで税理士になるケースが多くなります。このため、税理士の平均年齢は、税理士制度発足以来、ほぼ一貫して高止まりしてきました。
次は、近年になって発生した事情による原因です。昨今のAI(人工知能)の進化はめざましく、さまざまな分野で急速に実用化が進んでいます。
2013年に発表された論文「雇用の未来」において、AIの進歩によって10年後になくなるであろう仕事がリストアップされました。
出典:Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne ”THE FUTURE OF EMPLOYMENT”|英オックスフォード大学
この論文によりますと、「税務申告書類作成者」は、10年後には99%の確率で機械に代替されると予測されています。
この論文が発表された2013年の10年後は2023年です。2019年の現状は、クラウド会計などの普及が進み、日常的な仕訳や単純な税務処理レベルの仕事では、着実に機械に置き換えられつつあります。いずれ高度な税務処理まで機械がこなせるようになる日も遠くないでしょう。
このような状況を見て、とりわけ若い世代で税理士に将来性がないと感じる人が増えたため、税理士試験の受験者数の大幅な減少につながったとみられます。新しく税理士になる若い世代が減っているわけですから、必然的に高齢化がすすむことになります。
高齢化やAIの進歩が進む状況の中で、今後税理士が活躍するにはどうしたらよいでしょうか。高齢の税理士と差別化することや、AIに淘汰されにくいスキルを身につけることなどが鍵になります。
まずはITへの対応が挙げられます。高齢の税理士ではなかなか最新のフィンテックなどをフォローしきれない可能性が高いためです。
クラウド会計などのITを活用することで、正確に大量の案件を処理することが可能になれば、報酬額を低めに設定して大量に顧問契約を結ぶこともできるでしょう。
また、税理士だけでなく、日本社会全体が高齢化していることを逆手にとって、事業承継や廃業、相続などの分野に特化していくことも有望です。
顧問の開拓先としては、高齢の税理士よりは自分と近い世代の税理士に顧問税理士になってほしいと考えているスタートアップやベンチャーの企業が考えられます。また、高齢の税理士の引退に伴って新しい顧問税理士を探している会社もあるでしょう。
単純な経理処理しかできない税理士は、AIによって早晩淘汰される運命にあります。AIに容易に淘汰されにくいスキルを身につけることが必要になります。
そのようなスキルの例として、以下のようなものが挙げられます。
税理士の高齢化についてみてきました。以下がこの記事のまとめです。
税理士試験のデータをよく見ますと、25歳未満の合格者数はそれほど減っていません。むしろ合格率は1%から1.4%にまで上昇しています。若い世代にとって、税理士の仕事が決して魅力がなくなったわけではないのです。
今後は何らかの強みのある税理士の需要が高まっていくことが予想されます。この記事が少しでもお役に立てたなら幸いです。