公認会計士のM&Aにおける役割とは何でしょうか。財務の専門家として、デューデリジェンスやバリュエーションなど様々考えられます。将来、公認会計士や証券会社マン、弁護士になってM&Aに関する仕事をしたいと考えている人も少なくないと思いますが、今回は一般的に公認会計士はM&Aにおいてどのような役割でどのような仕事をするのか詳しく見ていきましょう。
公認会計士がM&Aでどのような仕事をするのかを理解するために、まずはM&Aとは何か押さえておきましょう。M&Aは「Merger and Acquisition」、つまり企業又は企業の一部が合併ないし買収されることを言います。
以前ヤフーがZOZOTOWNを買収したというニュースが2019年9月13日に発表されました。このように、M&Aとは会社が合併・買収を通して取得会社が非取得会社の支配権を獲得することを言います。
このM&Aは大企業になるほど大がかりな作業です。考えてみてください。例えばトヨタ自動車が新天地のアフリカで新事業を行うとなると人や工場をどのようにアフリカへ移動するか、アフリカに工場を建てるにはいくらかかるのか・国際法律裁判所に訴えられないかなど考えなくてはいけないことが多く、非常に調査や計画が大事になります。M&Aも同様に企業にとっては戦略に関する大きな意思決定です。
相手の会社をいくらで買収し(買収され)、全部買収するのか一部買収するのか、従業員はどうするのか、買収した企業が保有する工場や本社ビルはどうするのかなど考え出すと枚挙にいとまがありません。
このように、M&Aは、お金や会社の資産が大きく動く重要な意思決定イベントなのです。
M&Aの流れも確認しておきましょう。
まず、M&Aが求められるケースとしては、経営者が主力事業を海外で拡大したいとき・新規技術を素早く入手したいとき・ライバルを飲み込みたいときなど様々ですが、まずはそうした話は経営者とM&Aのプロである証券会社が話を始めます。
証券会社が営業もかねて「この会社をこの金額で今が買い時です」のような話を経営者とすることが多いそうです。そして実際に買収する方針が固まってきたら、「①相手の企業について買収しても借金や訴訟など問題ないか・②相手の企業の購入価値はいくらが妥当なのか・③買収するプロセスはどうするか・④買収した時に独占禁止法など法律面は大丈夫か」について買収対象会社についてひたすら調査・計画します。業界ではM&Aが結婚によく例えられますが、そのニュアンスも伝わってきますね。
そして、上記の①②③④の全部の段取りを証券会社が進め、①②について監査法人と、③④について弁護士事務所と相談しながら進めていきます。つまり、公認会計士に話が来るのは①②の内容です。
監査法人は買収案件において相手企業の事業内容を監査する場合多くの情報を握っていますから、秘密保持契約を踏まえて証券会社が企業価値評価を測るうえでの情報提供をします。会社の保有する資産は妥当なものか・売掛金などどこの会社に対して有しているかといったものですね。
M&Aを行なうためにはデューデリジェンスが不可欠です。デューデリジェンスとは、投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを評価することを言います。投資対象となる企業や投資先の価値やリスクを評価するためには、高度な知識が要求されます。一般に、デューデリジェンスは、組織や財務活動に関する調査を行なうビジネス・デューデリジェンス、財務内容などから産業リスクや企業リスクを調査するファイナンス・デューデリジェンス、定款や登記事項などといった法的事項について調査するリーガル・デューデリジェンスなどに分けられ、それぞれのデューデリジェンスについて、それを専門とする人が行っています。
ファイナンシャル・デューデリジェンスにおいて、公認会計士が行なうのは主に企業価値評価です。企業価値評価とは、簡単に言えば、会社や事業の値段を決めることです。企業価値評価の方法には様々な方法があり、いずれの方法も非常に高度なものです。企業を評価する方法については、唯一絶対の評価方法は存在していないため、評価しようとする企業が置かれた環境や企業そのものの特性を踏まえたうえで、公認会計士が最適な評価方法を選択することになります。
公認会計士は、企業価値を機械的に評価するのではなく、個々の事情に応じて、その特殊性を適切に把握し、判断しながら財務の専門家としてデューデリジェンスを進めていくのです。M&Aを行なおうとしている会社の貸借対照表や損益計算書をはじめとする財務諸表を入手することによって、当該企業の経営状態について把握しようとします。
公認会計士協会が発行している『企業価値評価ガイドライン』によれば、企業価値評価時に求められる公認会計士を次のように示しています。
① 企業価値評価業務を行う公認会計士は、会計及び企業価値評価に関して、専門的知識と経験を有していなければならない。
② 職業的倫理と誠実性をもって企業価値評価業務を遂行しなければならない。
(出典:公認会計士協会『企業価値評価ガイドライン』p.12)
このガイドラインでは、このような資質を有した公認会計士だけが、専門家としてM&Aに関わることが求められています。企業価値評価を行なうにあたって、公認会計士はデューデリジェンスを行ない、企業の価値を決定しますが、企業の価値を決定するにあたっては、様々な資料を勘案することになります。
公認会計士が企業評価を行なう際に依拠する資料としては、
会社の将来に影響を及ぼす可能性のある社会情勢の変化、経済政策、法令等の改正、景気予測、景気指標の過去の推移などを示した ①「一般的要因に関連する基礎資料」、業界に関する最近の各種報道記事、類似上場会社の株価の推移、同業他社の業績に関する情報といった ②「業界要因に関連する基礎資料」、業種、業態及び取引規模に関する資料、収益性、財政状態、配当政策に関する資料、経営、営業、技術、研究等の特異性に関する資料、経営戦略や経営計画に関する資料などといった③「企業要因に関連する基礎資料」などです。
公認会計士は、こうした資料を総合的に判断しながら、企業価値を推計していくことになります。
公認会計士のM&Aにおける役割は企業価値や会社事業に関する情報を提供することですが、実際にどのように働くのでしょうか。
先ほど証券会社が段取りを決めるといいましたが、証券会社から「売掛金の売掛先の情報をくれ」「財務諸表に表れていないがこの資産(工場など)は見積もりってどうやって出したのか」など情報提供を頼まれるので、その都度それに対応する形であまり主体的に働きかけていく感じではありません。
公認会計士は会計のプロですから、買収における資産の見積もりや情報の整理には証券会社も頼らざるを得ないということでしょう。やはり公認会計士がお墨付きを与えた数値であれば買収企業や被買収企業もその数値に対して疑念を持ちづらくなります。
公認会計士の業務は殆どが財務諸表監査ですが、こうしたM&Aアドバイザリーや他にはソフトウェアライセンス監査のように、「公認会計士がOKというとお墨付きがつく」という信頼性を活かした非監査業務もあり、BIG4でそれぞれ売上のうち非監査業務が占める割合も違います。
こうしたM&Aの業務をたくさん引き受ける監査法人に就きたいと考える方も多いと思います。しかし、M&Aの業務が監査法人にとって収益源となるかは一概に言えません。これには監査法人の収益モデルを理解する必要があります。監査法人は金融庁の監督のもと成果報酬が禁止されており、報酬の位置づけは業務すべて「監査報酬」となります。
つまり、成功した場合に手数料数%という報酬体系をとれず、金融庁の敷いたルールのもと、「案件で要した人件費又は経費に一定額の上乗せした金額を報酬にする」のように見積もり請求しないといけないことになっています。このようにしないと監査法人がその信頼性をみだりに乱用するリスクがあり、過去にそうした事例があったことの歴史によるものです。
ですので、M&Aが成功しようがしなかろうが公認会計士が働いた分に連動して会計事務所に監査報酬が支払われるのでM&Aだからというわけではなく、むしろ案件の売上は圧倒的に財務諸表監査より低いでしょう。
M&Aを行なうためには、適正な企業価値を評価しなければなりません。適正な企業価値を算定するためには、高度な専門知識が必要となりますが、会計・税務・監査に精通している公認会計士はこの業務を行なうのにぴったりの仕事です。実際、M&Aが行われる際には、多くの公認会計士が関わっています。
また、BIG4ではFAS(Financial Advisory Service)といって事業採算や買収費用を計算するだけの特殊部隊のような部門も監査法人に併設して存在しますが、公認会計士の従業員に占める割合は一部であり監査法人からは独立した存在です。
公認会計士でM&Aの業務をできる人材になれば買収案件の度に呼ばれるようになるという話もあり、キャリアの幅も広がると言います。皆さんも是非、M&Aの業務にチャレンジしてみてください。
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