SCMという言葉は、1980年代に登場して、今では大企業では当たり前のように使われている経営管理手法です。このように、比較的新しい用語ですが、一般的な用語として定着しており、経営者や管理部門の人間にとっては覚えておくことは必須のものとなっています。ここでは、そんなSCMについての基本と、どのような業種に適用されているかを現役の公認会計士が解説していきたいと思います。
SCMとは、(サプライチェーン・マネジメント-supply chain management)の略で、供給連鎖管理といったように翻訳されます。元々アメリカで生まれた発想で、この言葉が開発される前までは、物流システムについての社内での最適化に注目をしていました。しかし、原材料の供給者から最終消費者までの一連の流れに着目し、全体として最適な物流手法を考えた結果、このSCMという発想が生まれました。
SCMは具体的には、今までのように生産者の在庫のみを管理するのではなく、仕入業者や店頭在庫等それぞれの在庫管理を行うことで、生産から販売までをスピーディーにかつ過剰在庫を各段階で持たないように工夫する管理手票です。トヨタのかんばん方式に似ていますが、店舗での販売情報が即座に製造業者に送られ、そのデータがまた供給業者に送られることで、必要なものを必要な分だけ生産し、かつ売れ筋は在庫切れを起こさないようにすることを言います。
SCMは一般にスーパーなどの小売業者で最も発達していると言われます。皆さんがスーパーで商品をかごに入れ、レジに持っていくと、バーコードでスキャンされて会計を支払いますよね。あれは、単純に会計をする目的だけではなく、多くは「どの商品がどれだけ売れたか」も同時に管理しているのです。これを受けて、バイヤーは製造会社に発注をかけ、また製造会社は原材料などを仕入れる目安とします。
実際にこのSCMを導入して有名となったのが、アメリカのウォルマートという会社です。これらの仕組みを人間で行うのではなく、生産者や材料の供給業者等にもシステムを導入させることで、タイムリーな販売管理、在庫管理、運送管理を行うことに成功しました。
このように、SCMによって、在庫を必要な時に必要なだけ供給できるようになりました。この効果は他業種、特に運送業界にも大きな影響を与えることになります。
例えば、今まで原材料を運ぶだけの物流会社、商品のみを運ぶ物流会社と、運ぶものによって運送会社が分かれていました。しかし、多品種化してきた製商品の登場により、物流会社もその多様化に応える必要が出てきます。ただ、単純に多様化すればいいというわけではなく、SCMのように類似の製商品や、相互に関連している会社の物流を受託することで、効率化が図られるようになりました。例えば、原材料をメーカーまで搬入した後に、メーカーから販売店まで商品を搬入すれば、往復するコストや時間を短縮できるようになるのです。つまり、今までのようにただ運べばよいというだけではなく、より効率的・効果的に物流を行うという付加価値が発生するようになったのです。
SCMを導入することによるメリットは、先ほどのように時間の短縮や物流費用の削減などが挙げられます。これらはコストに着目したものになります。これに加えて、先ほどのようなPOSレジを導入することによってお客さんの志向が明らかになり、売れ筋商品を増やしたり、新製品の開発に活かしたりすることができるようになります。また、お客さんの年齢や性別などもレジで入力すれば、より商品開発の参考情報にもなってきます。
一方で、SCMを導入することによるデメリットも存在します。最も大きなデメリットとしては、システム導入コストです。POSレジから発注、在庫管理まで全体を管理するシステムを自社のみならず取引業者にも全部入れることで、膨大な費用がかかります。当然、システム導入費以上に利益が計上されれば良いですが、利益が出た理由がSCMのおかげかどうかわからないうえに、データの有効利用ができずにかえって損失を計上する可能性も出てきます。
また、より良い業者が存在してもSCMを導入することによって発見できなくなる可能性が出てきます。これは、SCMを導入することでシステム化が進んできて、取引をしていない業者はその枠内に入ることが難しくなってくるためです。もちろん、それでも新規取引先の開拓は行うのでデメリットも解消できそうですが、システム導入自体を拒んだり、良い業者でもシステムが使いこなせずにかえって非効率になったりする可能性もあります。
さらに、SCMは管理する人材が必要となりますが、確保ができなかったり、採用するコストがかかったりとしたデメリットが挙げられます。
SCMはこのように多くのメリットが存在しますが、決算や会計にどれだけの影響を与えるでしょうか。
システム化が進むことによって、在庫が減少し、不要であった倉庫や車両が減少していくなど、決算書に計上される資産が減っていきます。一方でこれによって利益が増大していくと、ROAすなわち総資産利益率が上昇することで、外部からも優良企業としてみなされやすいというメリット等が存在します。