企業の活動が多様化しているのと同じように、銀行も貸し出し方法を多様化させて顧客ニーズを満たそうとしています。アセットファイナンスというのはここ最近急激に増えてきており、法改正も適宜行われている方法となってきています。実際に銀行と対応する人のみならず、決算書を分析する際や、資金調達に苦労している会社への助言などにも有用な用語ですので、覚えておくべき用語です。
それでは、今回はアセットファイナンスについて、メリット・デメリット含め、現役公認会計士が解説していきます。
アセットファイナンスとは、アセット=資産を元手に、ファイナンス=資金調達をする方法です。通常、資金調達というと、銀行から借り入れを行ったり、株式として、会社に出資をしてもらったりすることが一般的です。
特に、銀行から借り入れを行う際に中小企業等は信用が無いので、担保として不動産などの提供を求められることがあります。古くからの企業であり差し出せる担保があれば良いですが、設立して間もない会社や、他行に既に担保提供している会社は追加の融資を受けられない場合があります。
そこで、企業の保有する資産に注目したアセットファイナンスが登場します。資産と一口に言っても、土地等の不動産だけではなく、企業の保有している売掛債権などを担保とすることで、資金調達を行うことになります。具体的には、企業は売上代金の一部を売掛金として1か月から半年ほどの債権を持ちますが、入金されるまでは手元に資金が残りません。
一方で買掛金や従業員の給与などは早い段階で支払わなければならないとなると、企業は資金繰りに困ることとなります。この売掛金を買い取ってくれる会社があれば良いですが、なかなかそんな親切な会社はありません。そこで、銀行が組成したSPC(特別目的会社)等に売り、会社は代金を受け取ることで資金化がスムーズに行えることとなります。
アセットファイナンスは先述の通り資産から生じるキャッシュフローを基礎として行われる資金調達です。そのほかに、コーポレートファイナンスと呼ばれるものがあります。これは、企業価値そのものに着目した資金調達方法であり、昔ながらの資金の貸し付けは、企業価値のみに着目して貸し出しが行われてきました。
また、プロジェクトファイナンスと呼ばれるものも特定の業種ではよく行われます。大規模な工事を請け負った場合には、通常の資金では間に合わないためプロジェクトの収益性そのものに対して貸付けが行われます。
アセットファイナンスのメリットとしては、先ほどの例のように資金調達が困難であるが、優良企業の売掛金は沢山ある、といった会社の資金調達に適しています。土地等を担保に差し入れてしまうと、その分の登記費用も掛かりますし、いざ土地を売ろうとしても銀行が担保を外すことを拒否してしまったら売ることもできません。また、借入の返済が進んできて、残高も減少してきたので担保を解除してほしいと伝えても、完済するまでは解除してくれないことが一般的です。
一方、アセットファイナンスであれば、返済という行為が不要なものがあるため、このような担保が付きまとうことも減ってきます。
また、先ほどの例のように売掛金などをSPCに売り渡すことによって、貸借対照表から対象資産が減り、代わりに現預金が増加することとなります。これにより、長く張り付きがちな資産が貸借対照表から消え、代わりに優良資産である現預金が増えるため、企業価値の増大につながります。これにより、ROA(総資産利益率)が向上したり、銀行借入の際の金利が低下したりするメリットを享受できる場合があります。
いいことばかりのように見えるアセットファイナンスですが、デメリットも存在します。例えば1億円の売掛金があったとして、それをSPCに売却した際に1億円が支払われるかというと、そうではありません。売却の手数料等が差し引かれるため、結果として銀行の金利よりも高い手数料を支払うことになります。それも、銀行からの借入利息は毎月払いであるところ、債権の売却手数料は一括して支払うことが基本になるため、想像以上に高い金額を取られることもあります。
また、最近はレンタカー会社においてもアセットファイナンスを使うことがあります。レンタカー会社は、初期投資として何百台ものレンタカーを購入しなければならず、資金調達に苦労することがあります。そこで、企業に貸している車の債権を担保として資金調達することがあります。その際に、債権譲渡の誓約書を相手企業から入手しなければならないことがあり、レンタカー会社の信用が低下してしまう可能性があるのです。
アセット・ファイナンスでは資金調達を自社資産を担保にして行うため、自社の信用度はそれほど関係ありません。一方でコーポレート・ファイナンスは自社の信用力を基として資金調達する方法です。
ただコーポレート・ファイナンスの場合では自社の信用力を利用して資金調達を行うため、会社としての信用度が低い場合には利用することが難しくなります。しかしアセット・ファイナンスを通じて財務体質を改善していくことで、会社としての信用度が高まりいずれはコーポレート・ファイナンスによる資金調達も実現できる可能性もあります。
いずれの資金調達の方法にもメリット・デメリットはありますが、より低コストで資金調達可能であるのはアセット・ファイナンスの方だと言えます。
通常の資金調達をしている場合は特段実務で考慮すべきものはありませんが、アセットファイナンスは特殊な資金調達が含まれるため、経理上留意すべき点があります。
例えば、契約上、債権を売却した後でも債権先が倒産した場合は売却者に責任が生じるような時、その旨と金額を財務諸表に注記しなければなりません。すると、先ほどROAが上昇して金利も低下が期待できると言いましたが、実際注記を見てしまえば元々の決算書がどのようなものだったかは容易に想像できてしまいます。この注記を見落としたことで後に訂正をせざるを得なかった会社もあります。中小企業であればそれほど気にすることはありませんが、上場会社などでは訂正の報告はタブー視されているので留意が必要です。