取引と言うと個人や会社同士で交渉が行われることをイメージすると思います。一昔前はそれだけで良かったのですが、昨今では企業が多角化や部門を細分化することも多く、同じ社内であっても別会社のような雰囲気となっていることも時にはあり、そうすると、他部門よりも自部門が有利になるように働きかけることも多くなります。
そんな時、社内取引というものが発生してきます。それでは、社内取引って何だろう?社内取引を導入するメリットって何だろう?という疑問に現役公認会計士がお答えします。
社内取引というのは、読んで字のごとく、社内での取引です。では、どのような時に発生するかというと、A部門とB部門で共通して使われる備品があったとして、A部門でまとめて購入したものを、B部門に渡す、といった時に使われます。
そんな当たり前のことをなぜ話にするのかと疑問にお持ちかもしれませんが、例えば部門に予算が割り当てられていて、利益が高ければ高いほどその部門に対する賞与が増えるとしたらどうなるでしょうか。先ほどの例でA部門はB部門に備品を渡さない、もしくは自分たちで使う分しか備品を購入しない、という事態が想定されます。
しかし、それぞれの部門で同じ備品を購入していたら配送費や値引きの関係で損をする可能性があります。そこで、両者が得をするように、と考えられたのが社内取引という制度です。
社内取引では、部門間で売値を擬制します。例えばA部門で100円の備品を購入した際に、B部門には手間賃として105円で売り渡します。B部門も市場で買う110円よりも安い為得をしますし、A部門としても元々100円のものを売るわけですから、お互いが得をすることになります。このように、社内で金額を決めて売買を擬制することを、社内取引と呼びます。
では、社内取引価格はどのように決定されるのでしょうか。これは取引する部門の性質によって異なります。
まず、先ほどの例のような常備品について社外から購入した場合は、仕入価格以上、市場価格以下の値段を付けます。
もし、市場価格が仕入価格よりも低いとすれば、そもそも仕入先を誤っている為両者が逆転することは基本的にあり得ません。こうすれば、両部門が得となり、企業全体の利益につながることになります。
次に、販売部門と製造部門で社内取引が行われる場合です。例えば、販売部門と製造部門、それぞれ予算が達成された場合は賞与を与えるという条件であれば、販売部門は製造部門よりもより安く仕入れようとしますし、製造部門はより高く売ろうと考えます。しかし、一般に販売部門は製造部門がいなければ成り立たないですし、製造部門は販売部門がいなければ成り立ちません。
よって、ある程度第三者である管理部門が社内取引価格を決定することが多いです。その社内取引価格は、製造部門でロスなく生産した時に係るだろうコストに、10%等の一定の利益率を乗せるなどの方法によって決定されることがあります。これによって、製造部門はコストを下げることで目標達成に近づきますし、販売部門はより製品を良く見せて販売価格を上げることで目標達成に近づけます。
しかし、この方法は製造部門が元々コスト高であった場合にはコスト削減努力をあまりしなくてもよくなりますし、販売部門がいくら頑張っても販売価格が高くなりすぎてそもそも売れないリスクがあります。
この他の社内取引価格として、同一の性質を持つ他社製品の市場価格に一定の割合をかけて決定する方法があります。この方法であれば、製品の販売価格で他社と大きく負けることはない為、先ほどのデメリットを補うことができます。
また、この社内取引価格で恒常的に製造部門が赤字になる場合は根本的な問題があるはずであり、事業そのものから撤退を考えるきっかけとなります。他社製品で全く同じものが市場にあることが前提ですし、そもそも市場価格がない製品であるとこの方法が使えないデメリットもあります。
先ほどは、社内取引価格の決定方法等を解説しましたが、この社内取引価格が適正でないとどんな弊害があるでしょうか。
部門間取引の場合は、社内取引価格が適正でないと各部門で無駄に仕入を行うことになって企業全体として損をするという点では理解しやすいと思います。また、製造部門が販売部門に引き渡す価格が適正でないと、製造部門のコストダウン意識が薄れたり、販売部門が努力しなくとも製品が売れてしまう事態が起こったりする可能性があります。
この社内取引価格は広義では親子間の価格にも適用されます。自動車に例えればわかりやすいですが、ディーラーとメーカーとの間の価格をどうするかで全体の利益が変わってくるからです。
本来、メーカーが設けるべき価格をディーラーに移転してしまった場合は、ディーラーで利益が出て法人税が高くなり、メーカーは納税をしなくともよくなるかもしれません。逆に、メーカーからの販売価格が高すぎるとディーラーで納めるべき税金が少なくなってしまいます。これらが極端な場合は、税務調査で指摘される項目となりますので、市場価格とのバランスを取ることが大切となります。
先ほどの事例のように部門間で共同購入する場合は社内取引を導入することがあるでしょう。しかし、あまり社内取引を進めすぎると、むやみに販売元の部門が利益を追求しようとしたり、セクショナリズムが発生したりする可能性があります。また、いちいち伝票を起こさねばならないなど、かえって効率が悪いことがあります。
この点、多角化が進んでおり、各部門で経理部門が完結している会社であれば、わざわざ追加で経理部門を設置することもなくなります。また、その部門では取り扱っていないが、他部門では取り扱っている製品が豊富である場合は、営業マンの販売品目が増えることで、全体としての利益が増大する可能性が高まります。
このように、社内取引導入の可否は会社の形態によって様々ですし、一度決めた制度や価格は変更することが難しくなるため、導入の際は部門を超えた事前協議が必須となってきます。