企業のグローバル化や多角化が進んできており、M&Aという用語も一般に浸透してきています。M&A等でよく見かけるDCF法という言葉。思ったよりも古くからある企業価値算定の方法ですが、実際に実務で採用されているのはここ15年くらいの話です。今回はDCF法についての解説をするとともに、DCF法以外の企業価値算定法や、そのメリットデメリットを現役の公認会計士が紹介します。
DCF法とは、Discounted Cash Flow 法の略で、一般的にそのままDCF(ディーシーエフ)法と呼ばれることがほとんどです。これは、企業価値または事業価値を算定する際に計算される手法の一つで、近年では数ある手法の中でもとても重要視される方法となります。
企業価値を算定する局面というと、企業の買収等、株式を売買する際や、株式を相続や贈与する際にその金額を決定する際というのが代表的となります。ただし、後者の相続や贈与ではDCF法が税法上認められることは少なく、使われることはほとんどない為、主に企業の買収や個人間の株式の売買の際に使われると考えてよいでしょう。
では、DCF法はどのように計算されるのでしょうか。DCF法では、企業が獲得するだろうキャッシュフローに着目し、それを現在の価値に引き直したものを企業価値として株価を算定します。具体的には、将来のキャッシュフローを企業が見積り、それを割引率で除することによって計算されます。
M&Aの交渉場面では、バリュエーションと呼ばれる企業価値を算出するプロセスの中でDCF法が用いられることがあります。
先述の通りDCF法では、将来キャッシュフローと割引率を用いて企業価値を算定します。まず、将来キャッシュフローについては、企業が策定したものであるため、獲得すると予想されるキャッシュフローが増加すればするほど企業価値が高まります。この点、売り手の企業は高い数値で提示する傾向にあり、買い手の企業は懐疑的に判断して低い水準で見積もる傾向にあります。また、何年後のキャッシュフローまで加味するかどうかで価値が増減することとなります。一般的には企業は永続し続けるものとして年数を区切らないことも多いのですが、実務では際限が無くなるのを防ぐため、小規模の会社であれば5年から10年程度見積もるだけの場合もあります。
また、割引率によってもDCF法の価値が増減します。割引率というのは、将来獲得するキャッシュフローを現在の価値に引き直す率となります。例えば、今日もらえる1万円と、10年後にもらえる1万円であれば、今日もらえる1万円の方が現在価値よりも高いはずなので、10年後にもらえる1万円は、割引率で価値を下げるということになります。では、割引率はどのように算定されるかというと、借入の利率や国債の利回り等を基礎として、企業固有の率が決定されます。よって、借入が大きい会社であるほど銀行の利率に左右されますし、純資産が大きい会社の場合はどれだけ配当をするのかで率が変化してきます。割引率についてはかなり多くの要因が絡んでくるので、金利や国債の利回りが上がれば上昇する、というくらいで覚えておけば大丈夫でしょう。
DCF法以外にも、企業価値を算定する方法は沢山あります。ここでは代表的な方法を解説します。
これは、企業が実施した配当が将来も続くことを前提として、そのキャッシュフローに着目する方法です。主に、企業の支配権を持たない少数株主に適用される方式となります。少数株主は企業の支配権がない為、企業から与えられる配当のみを期待して株式を取得すると考えらえるためです。本方式は主に相続税の評価に使われ、一般的に株価が下がりやすい方式となります。
これは、評価対象会社に類似する上場会社や、類似の業種の株価を基に算定する方式です。主にこれから売買されるだろう株式に適用されることが多いです。DCF法が企業の将来収益獲得能力に着目しているのに対して、市場での価値に着目した方式と言えます。
これは、企業の有する資産から負債を差し引くことで求められる方式です。DCF法では評価の方法によって価値が大きく変動しますが、純資産法では過去の財務諸表を前提とするため価値の変動は小さくなります。企業が解散することを前提として計算される方式で使いづらいのすが、客観性に優れている為に、企業価値算定での実務では無視できない方式となります。
DCF法は企業価値を算定する際に必ずと言っていいほど出てくる指標です。では、そのメリット・デメリットは何でしょうか。
まず、メリットとしては将来のキャッシュフロー獲得能力に着目している点が挙げられます。他の純資産法や配当還元法は、過去の数値に基づいて算定されている為、将来性が加味されません。買収する側としては過去よりも将来のほうが気になる為、DCF法はその点で非常に優れている方法と言えます。
また、どちらかというと現在の資産が少なく、将来性を期待されている企業にてDCF法が用いられるケースが多いです。
一方、デメリットとしては、将来計画の作り方や割引率の算定方法によって企業価値が大きく異なる点が挙げられます。売却側の企業としてはより会社を良く見せようとする傾向にありますが、その将来計画を否定する側はそれを反証することが困難となります。また、相続税の評価ではほとんど使われない為、一般の人にはあまりなじみがない手法であるとも言えます。
通常の企業価値算定の現場では、DCF法で求められた株価は参考情報として留められ、あとは双方の納得する価格で折り合いをつけたり、経常利益の5倍程度といった形で売買価格が決定されることも多いです。
以上、DCF法について解説しました。DCF法の考え方や、それが用いられる場面などお分かりいただけたと思います。DCF法は企業価値の算定をする手法の中でも、とても重要視されているものですので、是非この機会にしっかりと抑えておいてください。