近年、AIの登場によって、今ある職業のうち702業種が将来なくなるという論文が発表され波紋を呼んでいます。資格の取得を目指している人にとって、現在取得を目指している資格が将来性のある資格なのかというのは、重大な関心事の一つだと思います。そこで、税理士と不動産鑑定士の将来性について本記事で解説します。
税理士には税理士法で定められた独占業務があり、
については独占業務として税理士だけが行うことができます。
①の税務書類の作成は、確定申告書や、法人税の税務書類などの税務署に提出する書類の作成をクライアントに代わって行う業務です。
②の税務代理は、クライアントより「税務代理権限証書」と呼ばれる公的書類をもらって、納税者に代わり、所得税や法人税などの申告をする業務です。
そして、③の税務相談は、税金の計算方法や節税についての税金に関する相談を受け、アドバイスする業務です。この他にも、クライアント先の企業の年末調整業務など、ほかにも税理士の業務はありますが、主な業務内容は以上のような業務です。
前述のような税理士の業務を前提においた場合、税務申告書の作成に関する単純な事務処理の部分や、クライアント先の企業の記帳代行といった事務作業的な側面が強いものについてはAIによる代替が可能だろうと考えられています。
他方で、法人税に関する税理士業務のように、専門的な知識だけでなく、解釈や判断を必要とする業務や、税務相談のように経営者やクライアントとのコミュニケーションを必要とする業務についてはAIが完全に代替する可能性は極めて低いとされています。
また、AIは一般的に結論だけを述べるのみで、結論に至るまでの過程が示されないとされていることから、税務相談や税務上のコンサルティング業務のように、論拠を示すことで相手を納得させる必要のある業務についてもAIによる業務の遂行は不向きといえるでしょう。
したがって、税理士の業務が全てAIによって代替されるとは考えにくく、AIの登場によって税理士の仕事内容がこれまでの事務処理的な作業がメインの働き方から、コンサルティング業務がメインの働き方へと変化すると考えるべきでしょう。
不動産鑑定士にも法令で認められた独占業務があり、不動産の鑑定評価がその独占業務となっています。
鑑定評価業務は、
に分かれます。
①の公的評価は、国や都道府県からの依頼を受けて、国内の地域・区画ごとに定められた標準的な地価や、土地にかかる税額を決めるために行われる鑑定評価のことです。
②は企業や個人が依頼主の場合の土地の鑑定評価業務です。主に不動産を売買するときや、不動産を貸し借りするとき、不動産を相続・贈与するとき、不動産を担保にするときなどに行われます。
③のコンサルティング業務は、対象となる不動産を、さまざまな角度から調査・分析し、その結果をふまえて、顧客のニーズに合わせた的確なアドバイスを行うものです。例としては、企業が所有する不動産の有効活用方法の提案などがこれに含まれます。
不動産鑑定士の仕事のうち、公的評価については単純な作業となっている部分が多く、税額を決めるために客観性があり妥当性のある価格であればよいという業務の特性から、仮に国や地方公共団体がAIによる価格評価に従うことを決定した場合には、仕事の大部分がなくなってしまう可能性があるといわれています。
他方で民間評価については、AIによる鑑定評価は、AIの判断材料となる不動産情報のデータベースを構築することが困難であり、AIによる代替は難しいのではないかという意見があります。
また、コンサルティング業務についてはクライアントに提案する不動産活用方法がなぜ有効なのかを説明するプロセスが必要となるため、結論だけを提示するAIでは難しいとされています。したがって、不動産鑑定士の場合も税理士と同様に一部の業務はAIによる代替が可能ですが、全てが代替される可能性は低いと考えられます。
税理士業界は、平均年齢が60歳を超えており、税理士の高齢化が問題となっています。こうした中で税理士業界では後継者不在による事業承継が問題となっています。また、今後AIによって税理士の仕事の全てがなくなるという事態が考えにくいことからすると、税理士は今後もしばらくは売り手市場が続くと考えられています。
これに対し、不動産鑑定士は市場規模が小さく、公的評価の仕事も年々減少していることから、仮にAIによって仕事の一部が代替された場合には税理士に比べて影響が大きいと考えられます。現状、有資格者の人数が少ないことから、今後新たな市場が生まれた場合には将来的な発展が見込まれますが、現時点では未知数です。
いずれにせよ、どちらの資格もAIなどによる影響を避けることはできませんが、共通して言えるのはコミュニケーション能力やコンサルティング能力などAIによって代替不可能な部分を伸ばすことが今後重要となっていくでしょう。