
国税庁が税務調査へのAI導入を進めており、2026年9月には申告・納税データを一元管理する次世代基幹システム「KSK2」が稼働予定です。税目横断の分析が可能となり、調査は精度重視へ。小さな経費ミスも見逃されにくい時代に入りました。本記事では、AI税務調査の実態と実務対応を解説します。
いわゆる「AI税務調査」とは、AIの活用によって税務調査の対象の選定精度を高める仕組みを指します。
従来は、調査官の経験や勘に依存する部分も一定程度ありました。
しかし現在は、申告データや業種ごとの傾向をもとに、データに基づいて調査対象を選定する仕組みに移行しつつあります。
AIが実際に税務調査を行うわけではなく、あくまで事前の分析段階で活用されます。
具体的には、以下のような情報をもとにデータ分析を行い、申告内容に不整合のある対象を抽出します。
税務調査の本質は、あくまで事実関係の確認であり、最終的な判断はこれまで通り調査官が行います。
つまり、AIは調査の入口を担い、人は最終判断を担うという役割分担になっています。
ここで押さえておきたいのは、調査の着眼点そのものが大きく変わったわけではありません。
変化しているのは、あくまで異常や不整合を見つける精度ということになります。
税務調査は、明確に「量から質」へシフトしています。
その変化は、追徴税額の推移に端的に表れています。
国税庁が公表したデータによると、令和5事務年度(2024年6月までの1年間)の所得税の税務調査件数(簡易的な接触を含む調査等合計)は約60万5千件と、前年から5.1%減少しています。
一方で、申告漏れに対する追徴税額は1,398億円余りに達し、過去最高を更新しました。
なぜ、件数が減っているのに金額は増えているのでしょうか。
理由としては、「指摘できる可能性が高い先だけを選んで調査している」ためです。
AIやデータ分析の活用により、従来のような広く薄い調査ではなく、成果につながる対象へと絞り込まれているのです。
さらに注目すべきは、1件あたりの申告漏れ金額です。
公表データを見ると、特定の業種では数千万円単位の申告漏れが確認されています。
<事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種>
| 順位 | 業種 | 1件あたりの申告漏れ所得金額 | 1件あたりの追徴税額 | 前年順位 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 経営コンサルタント | 3,871万円 | 1,040万円 | 1位 |
| 2位 | ホステス、ホスト | 3,654万円 | 507万円 | - |
| 3位 | コンテンツ配信 | 2,381万円 | 436万円 | - |
| 4位 | くず金卸売業 | 2,068万円 | 683万円 | 2位 |
| 5位 | ブリーダー | 2,028万円 | 459万円 | 3位 |
| 6位 | 焼き鳥 | 1,657万円 | 427万円 | - |
| 7位 | 太陽光発電 | 1,625万円 | 119万円 | 8位 |
| 8位 | 内科医 | 1,621万円 | 408万円 | - |
| 9位 | スナック | 1,616万円 | 326万円 | 18位 |
| 10位 | 西洋料理 | 1,517万円 | 288万円 | - |
こうした結果から分かるのは、調査対象に選ばれた時点で、すでに一定のリスクが見込まれている可能性が高いということです。
もちろん、業種によるリスクの偏りは存在します。
ただ、「自社はこの業種ではないから大丈夫」とも言い切れません。
実務の現場で実際に指摘されるのは、必ずしも特殊な不正だけではありません。
むしろ多いのは、売上計上のタイミングのズレや、経費処理の曖昧さといった日常業務の小さな積み重ねです。
AIによって選ばれた調査は、すでに「違和感のある数字」を前提に始まります。だからこそ、日頃から説明できる状態を作っておくことが、最大の防御策になります。
税務調査へのAI導入によって最も大きく変わったのは、「調査に入る前の段階で、ある程度のリスクが見極められている」という点です。
なぜなら、調査対象の選定は、複数のデータをもとに機械的に絞り込まれているからです。
具体的には、以下のような情報が横断的に分析され、不整合のある対象が抽出されます。
従来のように、地域やタイミングに基づく無作為的な選定は減少し、データ上の根拠を伴う選定が主流になっています。
ここで重要なのは、前段でも触れたとおり、調査で問題になるのは必ずしも大きな不正だけではありません。
売上の計上時期のズレや、経費処理の一貫性の欠如など、日常業務の中で生じる不整合がきっかけになるケースは少なくありません。
では、自社の数値について、理由を整理して説明できる状態でしょうか。
この問いにすぐ答えられない場合、そこにリスクが潜んでいる可能性があります。
結局のところ、AI時代に求められるのは特別なテクニックではありません。
日々の処理に一貫性があるか、そしてその内容を説明できるか。
この基本が、そのまま調査対応の質を左右します。
KSK2の稼働によって、税務調査はこれまで以上に「見逃されにくい仕組み」へと変わります。
申告データの管理方法が大きく変わり、税目をまたいだチェックが可能になるためです。
ここでは、以下の点について解説します。
現行のKSKと次世代システムKSK2の違いは、「税目ごとの管理」から「データの一元管理」へ変わる点にあります。
現行のKSKでは、法人税・所得税・消費税などの情報はそれぞれで管理されており、部門ごとに扱うデータが分かれています。
そのため、税目をまたいだ確認には一定の制約がありました。
一方、KSK2ではこれらの情報が統合され、同一のシステム上で管理されるようになります。
個人・法人・資産に関するデータも含めて横断的に確認できるため、複数の情報を同時に照合することが可能になります。
この違いにより、これまで把握しづらかった申告内容の不整合も、より明確に確認できるようになるのです。
KSK2では、あらゆる情報が連携されることで、以下のような確認がしやすくなります。
こうした複数の観点からのチェックが同時に行われるため、単一の税目だけでは問題が見えにくかったケースでも、違和感が把握されやすくなります。
結果として、「一つひとつは問題なさそうに見えるが、全体として不自然」という状態が見逃されにくくなります。
KSK2の稼働後は、小さな数値のズレや処理の違いが指摘されやすくなります。
特に注意が必要なのは、次のようなポイントです。
これらは従来から調査対象となってきた項目です。
ただし、KSK2では確認の精度と網羅性が高まるため、「見つかる可能性」が大きく変わります。
「少しのズレだから問題ない」と考えていないでしょうか。
データが連携される環境では、その小さなズレが全体の不整合として認識されることがあります。
最終的に重要なのは、個々の処理が正しいだけでなく、申告全体として整合性が取れているかどうかです。
この視点を持っておくことが、今後の税務対応では欠かせません。
法人・経理担当者が取るべき実務対策の軸としては、「正確なデータ」と「説明力」にあります。
以下の3点に沿って解説していきます。
証憑管理は、すべての土台です。
実地調査では必ず確認され、形式だけでなく内容の整合性まで見られます。
特に重要なのは以下の3点です。
これらが揃っていない場合、単なるミスではなく「管理体制の不備」として評価される可能性があります。
また近年は、電子帳簿保存法への対応も含めて、データとして適切に保存されているかも重要な判断材料です。
検索性や改ざん防止措置が不十分な場合、それだけでリスクと見なされることもあります。
「すぐ提示できるか」「内容まで説明できるか」。
この状態を日常的に維持できているかがポイントです。
曖昧な勘定科目は、そのままリスクになりやすいです。
「雑費」「その他」が多いと、内容不明の支出と見られやすくなるためです。
本来分けられる支出は適切な科目へ振り分ける。
そして、科目ごとに内容と根拠を説明できる状態にしておくことが重要です。
特に注意したいのは、同様の支出が毎期「雑費」に集約されていないかです。
継続的に発生している費用であれば、独立した科目として整理することで、数値の透明性は大きく向上します。
この整理の積み重ねが、調査時の印象と評価を左右します。
前年比で大きく動いた数値は、ほぼ確実に確認されます。
これはAIにとっても検知しやすい典型的なポイントです。
例えば、下記のような点を事前に整理し、説明できるようにしておくことが重要です。
重要なのは、「後から考える」のではなく、発生時点で理由を残しておくことです。
月次報告や社内メモの形で記録しておけば、決算や調査時の対応負担は大きく軽減されます。
AI税務調査の普及により、求められる税務会計人材の役割は大きく変わっています。
単純な記帳やチェック業務が減り「処理する人」から「説明できる人」へとシフトしています。
「説明できる人」とは、AIが出した結果を元に、数値の違和感をどう読み取るか、その内容をどう現場に伝えるかを実行できる人です。
また、KSK2の稼働に伴い、「調査に強い経理体制をつくれる人材」のニーズも高まっています。
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