企業ガバナンスの重要性が高まる中、公認内部監査人(CIA)は外資系企業・大手企業を中心に高い評価を受けています。CIAは、国際的に認められた「内部監査」の資格です。
この記事では、CIA資格の難易度、合格率や学習時間、他資格との比較を通じて自分に合ったキャリア選択を見つけるヒントを紹介します。
公認内部監査人(Certified Internal Auditor)とは、国際内部監査人協会(IIA)が認定する、内部監査における国際的な資格です。この資格は、世界190以上の国と地域で認知されています。資格を取得することで、グローバル企業でも通用するガバナンスや内部統制に関する専門性を証明することができます。1999年からは日本語でも受験可能となりました。
内部監査とは、企業の内部に所属する人が行う監査業務です。
企業が効率的かつ健全に事業を進めるためには、業務の仕組みや社内規定などを整備する必要があります。これらを内部統制と呼びます。
内部監査では、この内部統制が適切に機能しているか、不正が起きていないかを、独立した立場から評価します。
さらに、監査を通じて明らかになった課題を報告書で示し、業務の健全性向上のために具体的な提案を行うといった業務もあります。
このように企業の意思決定を支える、言わばコンサルティングとしての役割も果たします。
公認内部監査人(CIA)は、企業の経営層や監査委員会に対し客観的な評価を行う信頼性の証となる資格です。経営課題に直結する、下記のような領域で活躍が期待されます。
ESG | 持続可能な世界の実現のため、企業の長期的成長に重要な3つの観点。 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字。 |
J・SOX (内部統制報告書) |
上場企業に義務付けられている制度。 財務報告の信頼性を確保するために内部統制の整備・運用状況を報告する仕組み。 |
コンプライアンス強化 | 法令や社内規定の遵守を徹底し、企業の不正防止や信頼性向上を図る取り組み。 |
また、CIAは継続的な専門能力の向上が求められる資格です。CPE(Continuing Professional Education)制度により、定期的な学習単位を取得することが必要です。これは公認会計士などにも導入されている制度で、常に最新の知識とスキルを備えている必要があります。
次に、CIA試験の内容について詳しく見ていきましょう。
CIA試験は、内部監査の専門知識を体系的に問う3つのパートで構成されています。
パートごとの出題範囲は下記のとおりです。(2025年9月現在)
Part1 【内部監査の基本】 |
・内部監査の基礎(35%) ・倫理と専門職としての気質(20%) ・ガバナンス、リスク・マネジメントおよびコントロール(30%) ・不正リスク(15%) ⇒問題数:125問/試験時間:2.5時間 |
Part2 【個々の内部監査業務】 |
・個々の内部監査業務の計画策定(50%) ・情報の収集、分析及び評価(40%) ・個々の内部監査業務の監査及びコミュニケーション(10%) ⇒問題数:100問/試験時間:2時間 |
Part3 【内部監査部門】 |
・内部監査部門の運営(25%) ・内部監査の計画(15%) ・内部監査部門の品質(15%) ・個々の内部監査業務の結果とモニタリング(45%) ⇒問題数:100問/試験時間:2時間 |
これら3パートを通じて、内部監査人としての総合力が試されるのがCIA試験の特徴です。
出典:一般社団法人日本内部監査協会「資格認定制度からのお知らせ|公認内部監査人(CIA)資格認定試験の新シラバス公表に関するご案内」
受験資格としては、以下のいずれかに該当する必要があります。
補足になりますが、試験申込にあたってはIIA本部での登録が必要です。登録が完了すると3年の有効期限が設定されます。この3年以内に、3パート合格することが必要です。
(1回のみ、有料による1年間の延長が可能です)
また、合格後は資格登録のため、3年以内の任意のタイミングで実務経験の証明を要します。実務経験の必要期間は下記のとおりです。あわせて確認しておきましょう。
受験料は、IIA個人会員かそれ以外かで、価格が異なります。
登録料を含む3パート合計の受験料はIIA個人会員の場合は14万8,000円、会員以外の場合は22万6,000円です。
IIA個人会員 | IIA個人会員以外 | |
---|---|---|
CIA 登録料 | ¥18,000 | ¥36,000 |
CIA Part1受験料 | ¥46,000 | ¥66,000 |
CIA Part2受験料 | ¥42,000 | ¥62,000 |
CIA Part3受験料 | ¥42,000 | ¥62,000 |
試験は通年で実施されているため、自分のペースにあわせて試験日を決めることができます。
試験方式は下記の表のとおりです。
形式 | すべて選択式(4択) コンピューターを使うCBT(Computer Based Testing)方式 |
スコア方式 | 250〜750点のスケールドスコアで評価、600点以上が合格ライン |
受験言語 | 日本語・英語など複数言語に対応 |
CIA試験の合格率は、世界規模で各パートともに40〜50%前後とされています。
パートごとの詳細は下記のとおりです。(2025年時点)
パート1 | 合格率44% |
パート2 | 合格率48% |
パート3 | 合格率56% |
出典:Institute of Internal Auditors | Internal audit certification program pass rates
なお、3パートすべての最終的な合格率としては、10〜15%程度とされています。この数字だけを見るとハードルを感じるかもしれません。
ただ、表にある各パートの合格率からすると、資格取得は十分に可能と言えます。各パートはそれぞれ独立しており、1つずつ合格を積み重ねていくことができるため、短期集中型の学習や、仕事と両立しながらの長期的な取り組みも可能です。
一般的な合格者の学習時間は400時間前後と言われています。
仕事と両立しながらの場合、半年〜1年かけて取り組むケースが多く見られます。学習負荷は一定ありますが、他の難関資格と比べると現実的なボリュームと言えます。
最終的な合格率は10〜15%程度と先述したとおり、CIA試験は決して簡単な難易度ではありません。その背景として、主に3つの要因が挙げられます。
例えば、パート1の問題数125問/試験時間2.5時間でいえば、【1問あたり約1分12秒】で回答する計算になります。見直しの時間なども想定すると、あまり余裕はありません。限られた時間内で解答するスピードと正確性が求められます。
過去問は公開されていないので、出題傾向の把握が難しく、初学者にとっては対策が立てづらい部分もあります。 公式の情報が限られている分、独学では不安を感じる人も少なくありません。
内部監査やリスク管理の実務経験がある人でも、油断すると見落としがちな論点が出題されるため、体系的な学習が欠かせません。
上記で難易度の高さの要因について触れてきましたが、英語力があると有利に働く場面があります。理由は主に2点あります。
1点目は、試験の原文が英語で作成されている点です。
CIA試験は国際資格であり、試験問題の原文は英語です。日本語版はその翻訳ということになります。英語で受験すれば、原文の意図をそのまま理解できるため、誤解が生じにくくなる可能性があります。
2点目は、教材・情報の豊富さです。
CIA試験の公式教材や最新の参考書、模擬問題集は、英語版の方が圧倒的に充実しています。また、最新の出題傾向や改訂情報にも、英語のほうがアクセスしやすいです。
もし英語での受験を選ぶ場合は、TOEIC700点以上が目安とされています。
CIAの難易度をよりイメージしやすくするために、ほかの代表的な資格と比べてみましょう。そうすることで、自分に合った学び方や目標も見つけやすくなります。
以下の表は、6つの資格について最終的な合格率や学習時間などをもとに、難易度を比較したものです。
資格 | 合格率 | 学習時間 | 主な受験資格 | 難易度ランク |
---|---|---|---|---|
簿記2級 | 約30% | 約200〜300時間 | 制限なし | D(易しめ) |
CISA | 約50% | 約300〜400時間 | 実務経験要件 | C(中堅) |
CIA | 約10~15% | 約400時間前後 | 大卒以上 ※実務経験で例外あり |
B(中堅) |
簿記1級 | 約10% | 約500〜800時間 | 制限なし | A(難関) |
USCPA | 約20〜30% | 約1,000〜1,500時間 | 大卒+単位要件 | A〜S(難関) |
公認会計士 | 約10% | 約3,000時間以上 | 大卒以上 | S(最難関) |
難易度を比較すると、CIAは簿記2級より難しく、簿記1級よりはやや易しいとされることが多いです。
また、CIAやCISAは、公認会計士やUSCPAほどの膨大な学習時間は必要ありません。
働きながらでも取得を目指せるレベルと言えるでしょう。
なお、CISAはITやセキュリティ分野に特化した資格で、CIAよりやや取り組みやすいと感じる人もいます。特に最近では、DX推進(デジタル変革)やサイバーセキュリティの重要性が増しており、CIAのニーズも高まっています。
資格選びにあたっては、「難易度」だけでなく、「将来のキャリア」「業務との関連性」「語学力」なども踏まえて判断することも大切です。
上記の表のとおり、専門的な資格は多岐にわたりますが、企業の内部統制やガバナンスに関わりたい人にとっては、CIAの取得が最適です。
ここでは、CIA試験合格のためのヒントを紹介します。
CIA試験に合格するためには、効率的な学習戦略が欠かせません。
まず、学習方法としては「独学」と「スクール」の2つの選択肢があります。独学はコストを抑えられるのが大きなメリットですが、情報収集やモチベーション維持が課題となることもあります。過去問は公開されていないので、市販のテキストや問題集を使って学習が必要です。
一方、スクールや通信講座を活用すれば、費用がかかる反面、出題傾向の把握がスムーズになり、模擬試験による時間配分の練習などしやすい環境になります。効率的に合格を目指したい方はスクール等の活用も有効です。
試験までの学習計画にあたり、例えば下記のように想定してみましょう。
このような場合は、平日は1〜1.5時間、週末に3〜4時間程度の学習を続けるスタイルが現実的です。
さらに、通勤時間や昼休みなどのスキマ時間を活用することで、無理なく継続しやすくなります。
試験は3パートに分かれているため、パートごとに目標を設定することで、モチベーション維持にも効果的です。各パートは、出題項目が細かく分かれているため、学習計画を立てて段階的に進めることが合格への近道になります。
CIA(公認内部監査人)資格は、内部監査・リスク管理・ガバナンスといった分野での専門性を証明する国際資格です。取得することで、企業内での信頼性が高まり、キャリアアップや年収向上につながる多くのメリットがあります。
CIA取得者は、内部監査における専門性の高さから、管理職候補として採用されるケースも多く、企業の経営層からの信頼も厚い資格です。特に以下のようなキャリアパスが期待されます。
CIA取得者を優遇する求人も増えており、キャリアの選択肢が広がるのが大きな魅力です。
CIA資格は、以下のような業界で特に高いニーズがあります。
業界 | 活用領域 |
---|---|
金融機関(銀行・証券・保険) |
リスク管理 コンプライアンス対応 |
製造業・IT・ヘルスケアなどの上場企業 |
グローバル監査体制の整備 内部監査の実務運用 |
コンサルティングファーム・監査法人 |
クライアント企業への監査支援 改善提案 |
CIA資格を活かすことで、企業の信頼性向上や経営層への働きかけなど、実務の中で課題を見つけて改善へ導く“提案型の監査”を担うポジションにもつながります。
つまり、単なる確認業務にとどまらず、経営に貢献する攻めの監査に発展できる可能性があります。
CIA資格を持つ人の年収は、一般的に以下のような水準になります。
特に外資系企業では、昇進スピードが速く、年収レンジも高めの傾向にあります。
資格取得によって、年収が大きく向上するケースも多く、努力に見合ったリターンが十分に期待できる資格です。
公認内部監査人(CIA)は難易度こそ高めですが、国際的に通用する専門性とキャリアの広がりを得られる資格です。内部監査・リスク管理・ガバナンスといった分野での活躍が期待され、企業の中核を担うポジションへのステップアップにもつながります。
また、他の資格との比較を通じて、自分に合ったキャリアパスを見極めることも重要です。CIAは単体でも十分な価値がありますが、CISAなどと組み合わせることで、専門性と市場価値をさらに高めることができます。
資格取得はゴールではなく、その先のキャリアを切り拓くための武器になります。戦略的に取り組むことで、年収アップや転職成功にもつながります。
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