税理士資格取得にあたって、大学院の学位取得による科目免除を考える方も多いでしょう。今回はそんな科目免除と修士号の学位が得られる名古屋商科大学ビジネススクールについて、同校の准教授である野坂和夫氏、および修了生で現在、税理士事務所の代表を務めている若尾房市氏のお二方に、ヒュープロ編集部がお話を伺いました。
ーまず初めにお二人の簡単なご経歴とプロフィールを教えていただけますでしょうか。
若尾氏:
私は中央大学商学部会計学科を卒業後、周りに税理士や会計士を目指す友人が多かったこともあり、新卒で税理士事務所に就職しました。友人が在学中に資格取得の勉強を始めていたなか、私は就職した後から税理士を目指し始めました。
15年ほど働きながら試験合格を目指していたものの5科目の合格には至らず、2016年9月に名商大ビジネススクール会計ファイナンス研究科に入学しました。
2018年9月に同校修了後、翌年3月に税理士登録を行い、2020年4月に池袋で若尾房市税理士事務所を開業、2022年4月に中央区へ移転しました。現在は、同事務所の代表を務めて5年目となっています。
野坂氏:
私は早稲田大学商学部に在学中に公認会計士試験の合格を目指していたこともあり、大手監査法人に新卒で入社しました。監査の経験を積む中で、他の仕事も経験したいと一念発起し、大学院に入学。働きながら博士号を取得したのち、野坂公認会計士・税理士事務所を開業しました。現在は同事務所の代表を務めながら名商大ビジネススクールの准教授として教鞭を取っています。
ー野坂様は監査法人でのご経験の中でキャリアチェンジを検討されたとお聞かせいただきましたが、理由があればお伺いできますでしょうか。
野坂氏:
あくまでも私の経験に基づくものですが、監査はどうしても企業のチェックを行うという意味で、クライアントを調べている、詮索しているといった感覚で、仕事を行う必要があります。また、クライアント企業の従業員の仕事を邪魔しているのではないか、と考えながら業務を行うのも懸念としてありました。
また、「ありがとう」と言われづらいというのもキャリアチェンジを考えた理由の一つです。やっぱり、感謝を直接伝えてもらえる仕事をやってみたいなと(笑)。
ー若尾様が働きながら税理士試験勉強をする中で、大学院に通うことを決断したのはなぜでしょうか?
若尾氏:
税理士事務所に勤めながら税理士試験の勉強を続ける中、周りの人と勉強している時間が勿体ない、という話をよくしていました。当然ですが、好きで何年も税理士試験の勉強をしていたわけではありません(笑)。税理士になりたいという気持ちは強かったのですが、記憶力勝負の側面もあることがあまり好きではありませんでした。
その一方で、大学院での単位取得による科目免除を受けることにも躊躇いがあったというのが正直なところです。5科目すべてを試験で合格せずに税理士になるということにネガティブなイメージを持っていたため、大学院へ行くという決断を出来ずにいたのです。
しかし、それはあくまでもイメージであって、実情を知らないのに選択肢を閉ざすのはよくないと感じ、大学院に通学していた事務所の先輩や友人に話を聞くようにしました。
そのうち、資格学校では学べないことを大学院では学べると分かり、成長するなら大学院に通うべきという決断を下すことができました。
ー周りの方にお話を伺ったことが、若尾様の大学院に通うことに対するイメージを一変させたのですね。資格学校と大学院で習う内容について、具体的にどのような違いを感じられたのでしょうか?
若尾氏:
一番の違いは、資格学校だと知識を記憶して試験に合格するための勉強が中心であることに対して、名商大ビジネススクール会計ファイナンス研究科では、ケースメソッドを通して実際の税理士業務に活かせる知識や考え方まで学ぶことができるという部分です。
私は資格学校に通った経験もあるのですが、資格学校は試験に受かるための知識は教えてくれるものの、実務には繋がりづらい部分が多かったです。
一方で名商大ビジネススクールでは、試験に合格してもらうのが目的では無いため、税理士業務の中で課題にぶつかったり迷った際に、解決するための考える力が養えると感じました。税法についての枝葉の知識ではなく、幹や根っこの部分を教えてくれるというイメージでしたね。
税理士資格取得をゴールとしている方にとっては資格学校に通う選択肢もアリだと思いますが、税理士事務所で働いていたことや、その後の開業を見据えると、私には名商大ビジネススクールでの学びがマッチしていると感じました。
野坂氏:
教える側としても、暗記勉強じゃないという部分が大きな違いだと思っています。
私はもともと取得していた公認会計士の免除制度によって税理士に登録したので、税理士試験がどのような内容なのか、あまりよく知りませんでした。
いざ詳細に見てみると、公認会計士試験や司法試験は仕組みの理解を問うことが多い一方で、税理士試験と不動産鑑定士試験はほとんど知識の暗記ができているのかが問われるということが分かりました。ですので税理士試験に合格したからと言って、税理士の実務に活かせる知識を習得している方ばかりでは無いのです。
少し話は変わってしまいますが、大学院に通って科目免除しようとしてる方は賢明な判断をされていると感じます。どうしても試験でだと「不合格」の可能性をゼロにすることはできないですからね。
実は一昔前まで、科目免除によって登録した税理士を採用しないという事務所もあったのですが、今は科目免除者の方が官報合格者よりもその後のキャリアにおける判例や実務に活かせる知識を持っていると判断されるケースもあるようです。
ー実際に働きながら大学院に通ってみていかがでしたか?
若尾氏:
分かってはいましたが、大変でしたね。なんといっても大変なのは時間を捻出することです。単位を取得するためには勉強しなければならない、勉強するためには仕事を終わらせなければならないので、常に効率を意識する必要がありました。
ー働きながら通学をしていた際、どのような1日のスケジュールだったかお伺いできますでしょうか?
若尾氏:
平日の朝は4時〜5時に起床して授業の予習を行い、出社のため7時には家を出ていました。21時ごろまで働き、帰宅した後は勉強の1時間ほどに留め、23時に就寝していましたね。隔週の平日1日の夜間、18時20分から21時45分まで修論ゼミに参加、土日は9時20分から17時頃まで終日授業に参加して学修するという形でしたが、日曜日の夜だけ息抜きの時間にしていました。
これはかなり特殊なケースだとは思いますが(笑)、働きながら通うには、それなりにタフであることも重要かもしれません。
ー当時勤務されていた事務所は、大学院通学への理解があったのでしょうか?
若尾氏:
私の働いていた事務所は特にどちらというわけでもありませんでしたが、自分の仕事をやってくれればそれ以外の時間は何をしてもよい、という社風でしたので、比較的通いやすい環境ではあったと思います。私と同じように10年以上税理士試験勉強している同僚や、名商大ビジネススクールに通ってた方がいたのも、通学のしやすさに繋がっていました。
事務所によって就業しながら大学院に進学して勉強する社員に対する理解はまちまちで、通学による科目免除を応援する事務所もあれば、税理士資格を取得後に独立して辞めてしまうことを懸念し、通学に消極的な事務所もあります。
ー野坂先生にお聞きします。若尾様のように、働きながら大学院に通う方は多いのでしょうか?
野坂様:
多いですね。私は仕事を辞めて受験勉強に専念するのは勿体ないと思っています。特に、名商大ビジネススクールでは、修論ゼミは平日隔週1日の夜間、専門科目は2週末(4日間)で完結して科目毎に学修していく形ですので、仕事との両立がしやすいです。
税理士事務所や税理士法人で働いている方であれば、土日に大学院で学んだ知識を平日の実務でアウトプットする、というサイクルが作れますので、学んだ知識を資格取得後まで使わずに忘れてしまうというリスクも減らすことができます。
ー実務に活かせる知識を学べる大学院の中でも、授業が土日のみで通いやすい名商大ビジネススクール会計ファイナンス研究科ですが、他に税理士を目指すにあたってメリットがあればお聞かせください。
野坂様:
まず一つ挙げられるのは、MBAの学位も取得できるということです。税理士は、クライアントの経営者とやり取りする機会も多いので、経営に関する実践的な知識を十分修得しておくと、相談相手としての信頼関係を構築できるだけでなく、集客能力を上げることにも繋げることができるのです。
また、会計ファイナンス研究科でも全ての専門科目をケースメソッドで学べることも大きいと思います。判例分析などによって、具体的な実務に活かせる知識を身に付けることができ、税理士になってからも役立つでしょう。
若尾氏:
私は名商大ビジネススクールに通って、より幅広い視点でお客様の課題解決にあたれるようになったと感じています。
少し具体的な話をすると、通学する前は損益計算書の税引前当期純利益と税引後当期純利益の間の法人税等をいかに小さくするかという部分ばかりを意識していました。それが、名商大ビジネススクールで様々な分野を学んだことによって、貸借対照表から損益計算書まで視野を広く持ち、節税一辺倒ではなく資産構成や借入や資金繰りなど広い視野でのコンサルティングができるようになりました。
税理士業務において、いかに税金に詳しいかが大事だと考えていたので、名商大ビジネススクールで学んでいなければ、このような幅広い視点でコンサルティングできることの大切さに気付けなかったと感じています。
〈関連記事〉
ー名古屋商科大学ビジネススクール出身の税理士として、活躍されている方の共通点はありますか?
野坂氏:
名商大ビジネススクール出身で、大手税理士法人の代表取締役社長に就任された方もいらっしゃり、実際に活躍している修了生が多いと実感しています。
本学出身で活躍している税理士の一番の共通点は、先ほども少し触れたMBAの知識を活かして仕事をしていることです。MBAではリーダーシップやクリティカルシンキング、ネゴシエーションなどといった経営学の領域を学びますが、これらを税務や管理会計と組み合わせてサービスを提供できる税理士が活躍する傾向にあります。
若尾氏:
かなり率直に申し上げますと、現実問題、クライアントにとっては担当する税理士が官報合格か科目免除による合格かというのは、どちらでもいいものです。それよりもどのように貢献してくれるかを重視していますので、MBAを取得して幅広い角度からサポートする税理士の需要が高いです。
ー最後に、名古屋商科大学ビジネススクールへの入学を検討されている方に向けて、メッセージをお願いします
野坂氏:
先ほども申し上げましたが、働きながら平日は隔週1日夜間の修論ゼミ、専門科目は土日のみで学び修了できること、そして条件を満たせばMBAも修得できるということが、本学の大きな特徴であり、独自性です。これらをメリットと感じられる方なら、どなたでも歓迎しておりますので、是非ご検討ください。
若尾氏:
大人になると、何かに本気をかけるという機会はかなり少なくなってしまいます。
そんな中で、本気で学ぶ時間を2年間取りたい、内容の濃い2年を過ごしたい、より成長できる場所を求める人には、名商大ビジネススクールはかなり向いていると思います。
逆に、なるべく楽に科目を取得するため、という理由で選ぶのはオススメしません。独立をするしないに関わらず、生涯役に立つ学びができる分、他の大学院に比べると単位取得の難易度が高いからです。
大学院に支払う学費を有意義に使いたい、自分の成長に使いたいという方にはおすすめです。
ー本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。