近年、中小企業の案件数の増加に伴いさらなる拡大を見せるM&A市場。日本国内においては後継者不足による売り手企業の増加と、経済回復による買い手企業の積極的な買収で、事業承継を中心に、より一層M&A市場は活発になっています。今回はそんなM&A市場規模の推移から最新動向、今後の展望まで解説します。
M&Aは、「Mergers and Acquisitions」の略称であり、企業の合併や買収を指します。
合併は、通常、2つの企業が合意のもとで統合し、1つの新しい企業を形成するプロセスを指します。この場合、通常、合併元の企業は同等の地位を持ちます。一方、買収は、通常ある企業(買い手企業)が他の企業(売り手企業)の株式の多数または全てを取得することを指します。
買い手企業が売り手企業を買収することで、事業の拡大を図ったり、売り手企業の技術やスキルの活用ができます。一方で売り手企業にとっては後継者不足や経営基盤の不安定さを解消することができるので、双方にメリットを生むことができます。
ここからは日本のM&Aの市場規模について見ていきましょう。
M&Aの市場規模は、M&Aの件数あるいは取引金額で表すことが多いです。
現在においては、日本国内のM&Aの市場規模は拡大傾向にあり、2022年には日本企業のM&A案件数として過去最多の4,304件までに増加しました。2023年は4,015件とやや減少したものの、高水準が続いています。
またこれまでの件数の推移をみると、1990年代後半から2000年代にかけてM&Aの件数は急増が始まりましたが、昨年までの間に2回、その数が大きく落ちかねない経済危機があったことが特徴として挙げられます。
2008年のリーマンブラザーズの経営破綻により起こった世界的な不況により、経営が厳しくなり自社を譲渡したい売り手企業は増えたものの、買い手が現れずそのまま倒産してしまう企業も多く存在しました。この影響は2012年ごろまで続き、その間のM&A案件数は1,600件~1,900件ほどに低迷していました。
2012年ごろから徐々にM&A市場は回復していき、2019年にはM&A件数として過去最高の4,088件となりました。
そんな中、2020年から世界的にコロナウイルスがまん延し、経済活動が大きく制限される事態になりましが、M&Aの件数はリーマンショックの時のような大幅な落ち込みは見られず、2021年、2022年は再び拡大傾向に転じました。これはM&Aの認知度の拡大によって売り手や買い手の潜在層の顕在化が進んでいたことや、国の金融緩和などの影響でしょう。
取引金額については、15兆円を超えた1999年以降、概ね5兆円から20兆円の間で変動しています。上述の通り、全体としてM&Aの件数は増加傾向にありますが、取引金額については一定の金額で推移していることから、案件規模が小型化していることが考えられます。
M&A市場の最新の動向について、以下の3点が特徴として挙げられます。
バブル期から2008年のリーマンショックの頃までのM&Aは、主に大企業と中堅企業を対象に行われていましたが、近年は中小企業を対象としたM&Aの件数が増えています。以下、数値トレンドに関しては、中小企業庁が出している下記の資料を参照します。
参考:中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」(中小企業庁)
特に、事業承継を目的としたM&Aが増加していることがわかります。
《参照記事》
上述の中小企業をはじめとして、これまで日本の企業では親族内での事業承継が一般的でしたが、近年少子高齢化が進む中で後継者不足が問題となっています。
下記のグラフは昨年までの10年間の日本企業の後継者不在率を表しています。2020年までは65%~66%を記録していましたが、その後は減少傾向になっており、2023年は53.9%でした。
直近3年で大幅な改善傾向にあるものの、未だに半数以上の企業で後継者がいないというのは日本の抱える大きな問題といえます。M&Aはこのような後継者がいない企業を存続させる切り札的な位置付けになりますので、事業承継を中心にM&Aが活発に行われている傾向があります。
また、DX化を推進する目的でIT企業を対象にしたM&Aが積極的に行われている傾向があります。DX化とは、業務効率を上げるためのデジタル化であり、会社内で新たなシステムを導入して活用するなど、業務の軽減や生産率を向上させることを指します。DX化のためにITに強い人材を確保することも一手ですが、IT企業をM&Aで買収することでIT人材を確保することも可能であり、積極的にM&AによるDX化が推進されています。
このように、M&A市場は拡大を続けているわけですが、その理由としては以下の3点が挙げられます。
上述の通り、現在日本の多くの企業においては高齢化が進んだことで経営者が引退したくても後継者がいないという問題が多くみられています。後継者の見通しが立たなければ廃業に追い込まれて、従業員の雇用が失われたりと多くのステークホルダーへ影響を与えることになります。そうした際に事業の継続性を保ちながら新たな経営資源も確保できるというM&Aは有効な手段であるとされています。
M&Aの市場が拡大している理由として、事業継承・引継ぎ支援センターなどの公的機関や、民間のM&Aアドバイザリー会社の増加も挙げられます。現在ではM&A仲介やアドバイザリー会社をはじめとして、金融機関や士業事務所でもM&Aをサポートするケースが増加しています。M&Aを相談しやすい環境が整ってきているのも、M&A件数の増加につながっているといえるでしょう。
《参照記事》
最近では、M&Aアドバイザリー会社だけでなく、M&Aマッチングプラットフォームが登場しています。こうしたサイトでは、希望条件に基づいた案件を簡単に探すことができ、低コストでM&Aを進めることができます。M&Aに対するハードルが下がったことで、今後さらにM&A件数の増加に貢献していくことが予想されます。
拡大傾向にある日本のM&A市場ですが、依然として小規模案件への対応が少なく、地方に弱いという課題も挙げられます。その理由としては、零細企業や地方企業の中でM&Aに対する正しい理解が進んでいない点や、またそうした小規模・地方案件を扱うM&Aアドバイザーが不足しているという点が挙げられます。
後継者不足の解決やDX化をはじめとしたM&Aの有効性とそのニーズは、本来企業の大小や地域に依存するものではありません。今後、M&Aが全ての企業にとって戦略的に有効な選択肢となりえるよう、M&Aへの正しい理解の普及や、小規模M&Aを取り扱うM&Aアドバイザーの創出および地方配置が求められるでしょう。
今後のM&A市場について、後継者不在率が今後も直近数年のペースで減少していくとすれば、後継者不在に悩む中小企業のM&A件数は徐々に減っていく可能性があります。
一方で、近年日本に多く存在するスタートアップ企業やベンチャー企業など、軌道に乗っている若手経営者の企業については、M&Aの買い手企業となって一気に会社を成長させたいという志向が強まっており、今後もM&Aという選択をしていくでしょう。
さらに、上述のM&Aプラットフォームの増加に伴い、中小規模の案件がさらに増加することが予想されるため、このことからも今後もM&A市場は拡大していく見通しとなっています。
世界全体のM&A市場を確認するためにPwCの発表を見ると、2023年において件数は前年比6%減少、取引金額も25%減少となり、全体的に減少傾向にある</span>といえるでしょう。その要因としては、金利の上昇と資金調達難であるといわれています。
M&A市場の売り手や買い手のサポートを事業とするM&A業界もM&A市場の拡大とともにニーズが高くなっています。M&A業界は転職者にとっては魅力が多く、人気の業界です。ですので、M&A市場だけでなく、M&A業界の転職市場も活発になっているのです。
今回はM&A市場の規模や、その動向や展望について解説しました。M&Aは売り手企業にとっても買い手企業にとっても重要な経営戦略であり、今後もその件数は増え続けるでしょう。また市場規模の拡大に伴い、採用活動も強化されていくことが予想されるため、M&A業界へ転職を考えている方はぜひ業界特化エージェントであるヒュープロにご相談ください。