AIの活用など、次世代の技術を駆使した企業コンサルティングを行うAI CROSSでCFOとして活躍する圖子田 健さん。銀行員としてキャリアをスタ-トした後、ソフトバンク・ファイナンスグル-プに転職して、新規事業の立ち上げから投資先のIPO、買収した上場企業のマネジメントなど、さまざまな経験を積みました。現在はCFOとして、管理部門の立場から企業をリ-ドする立場にある圖子田 健氏が考える、リ-ダ-像についてうかがいました。
1997年4月 | 株式会社三和銀行 (現:三菱UFJ銀行)入行 |
2000年9月 | ソフトバンク・ファイナンスグループ(現SBIグループ) 入社 ソフトバンク・フロンティア証券(現SBI証券)株式会社 入社 |
2005年7月 | SBIホールディングス株式会社 転籍 |
2005年9月 | 兼務 株式会社インターメスティック(Zoff )社外監査役 |
2006年3月 | SBIホールディングス株式会社 不動産事業本部 不動産関連事業投資ユニット 企画部長 |
2012年1月 | 兼務 SBIライフリビング株式会社 執行役員管理本部 財務部長 |
2016年4月 | SBIインベストメント株式会社 転籍 投資部 部長 |
2021年11月 | イグニション・ポイント株式会社 入社 |
2021年11月 | イグニション・ポイントベンチャーパートナーズ株式会社 ジェネラルパートナー(現任) |
2022年4月 | AI CROSS株式会社 Chief Finacial Officer(現任) |
-圖子田さんは、大学時代、どのような学生でしたか?
勉強よりも運動に打ち込む学生でした。高校からラグビ-をしていて、大学、そして銀行でも続けていました。運動90、勉強5、遊び5くらいの割合ですね。就職活動では「グロ-バルに活躍できる仕事がしたい」と商社と銀行を受け、最終的に銀行に就職しました。
-銀行ではどのような業務を担当していましたか?
最初は支店で中小企業への融資を担当していました。教育制度がしっかりしていて、業務の基礎を叩き込まれました。次に本部に移り、インターネットバンキングに関する海外の事業調査に従事したのですが、そのときにソフトバンクグループの存在を知り、「自分もこの会社で働きたい」と興味を持ちました。当時はインタ-ネットサービスの勃興期で、明らかにパラダイムシフトが起きていることを強く感じておりました。ソフトバンクグループは新しい事業を海外から持ち込むことに力を入れており、この波に乗って伸びていきそうな会社だと直感したのです。
-どこの部署に配属されたのでしょうか?
ソフトバンクフロンティア証券です。今でいうベンチャ-企業の資金調達を支援する会社でした。おそらく国内初の試みだったのではないでしょうか。その会社の管理部門に配属されたんです。できたばかりの会社で、ここではレ-ルが敷かれていない中、ゼロイチで自分たちのビジネスを作り上げることを学びました。苦しいよりも、楽しい気持ちの方が大きかったですね。具体的には、自社の上場準備に関する作業がメインでした。有価証券届出書の作成の補助からそれに付随する監査法人の対応、上場準備に必要なことを雑用から何でもしていました。すべてが初めての経験ですが、手取り足取り教えてもらえるような生やさしい会社ではないので、自分で勉強しながら進めていきました。
管理部門に2年間在籍した後、投資銀行部門で3年間、実際にベンチャー企業の資金調達支援をしていました。業務内容はコンサルティングに近いですね。その後、異動でSBIホ-ルディングスに転籍しました。
-転籍後、業務内容は変わりましたか?
はい。不動産に関する新規事業立ち上げと、事業拡大に従事しました。不動産投資や不動産ファンドのファンドレイズ、さらにグル-プとしての戦略的な不動産関連企業の買収などをやらせてもらいました。
-眼鏡のフランチャイズ「Zoff」を展開しているインタ-メスティックの監査役も兼務していますが、どのような業務に従事していたのでしょうか?
インタ-メスティックはSBIグループで投資した会社で、私が投資検討フェーズから担当した会社です。出資当時、Zoffは数店舗で展開する生まれたてほやほやの会社でした。僕が担当したてのころは数十名くらいの規模だったのですが、そこから事業計画の倍以上の速度で、急激にスケ-ルアップしていきました。同社においては経営陣、管理部門の皆様と予算策定、内部管理体制の拡充に関する作業などを一緒に行い、上場申請ができる体制になったタイミングで社外監査役として上場承認までの一連の膨大の作業に従事するという貴重な経験を30代前半くらいでやらせてもらいました。
その業務を終えた後は、SBI本体の不動産事業部門において、TOB(Take Over Bid:株式公開買付)のエクゼキューションから買収後のPMI(Post Merger Integration)、実際に買収先の執行役員財務部長として業務に従事しました。買収先自体は、当然事業の土台はできています。SBIグル-プとして、どのような位置付けでグループに寄与頂くかを、異なる価値観を持つの経営陣、従業員の皆様と一緒に取り組みました。本体の企画部長としてというよりも、買収先の財務部長としてバリュ-アップ、事業拡大を手がけていたのです。
-1人でこなすにはかなりの仕事量だと思うのですが、大変だったのでは?
はい。休む暇もない状態でした。ただ私は、常に自分の仕事の幅を広げることに飢えていたので、むしろ充実していましたね。自分からどんどん新しいことにチャレンジしていきました。成長したいという想いが、おそらく強いのだと思います。
当時は仕事で手一杯で、あまり自分自身のキャリアについて考えたり、将来を描いたりする余裕はありませんでした。ただこの頃に積んだ仕事の進め方、部下との接し方、そして「管理本部で今何が重要なのか」の優先順位づけなどのスキルは、かなり濃いものでした。上場会社をマネジメントした経験は、自分のキャリアのすべてに生きています。
-これまでさまざまな経験を積まれていますが、現在はどのような仕事をしているのでしょうか。
今はSBIグル-プを離れ、イグニション・ポイントという会社に在籍しています。新規事業やDXに強みを持つコンサルティング会社です。同社自体がベンチャー企業ではあるのですが、コンサルティングという枠に留まることなく、自ら新規事業の開発や私が従事するようなベンチャーキャピタル部門を立ち上げております。現在、私はそのベンチャー投資部門において、イグニション・ポイント ベンチャーパートナーズの立ち上げをメンバーと一緒にゼロイチからいろいろやらせてもらっています。
-転職のきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけとなったのは、2020年1月頃からのコロナ禍です。20数年、SBIグル-プにいて、居心地はよかったんです。しかしCOVID-19によって、パラダイムシフトというと大げさかもしれませんが、世の中の流れがガラリと変わりました。「どんなにがんばっても、人間はアンコントロ-ラブルなリスクの前では無力なのだ」と痛感しました。
また、それまでは「組織に対する貢献」というのが自分の中の仕事軸でした。会社に対し、自分がいかに貢献できるか、という目線で仕事をしていたのです。しかしコロナ禍による世の中の変化を目の当たりにしたことで、キャリアの後半は「世の中に対する貢献」を自分の軸にしたいという気持ちに変わりました。
コロナ禍で、働き方も大きく変わりましたよね。場所にとらわれないスタイルになりつつあります。会社の枠組みを超えて「これをやりたい」という人が集まり、成果を出す。そして次へ行く。そのような時代なのかなと思いました。ベンチャ-企業の若い優秀な経営者と話しても、そのような会話になることが多く「若い人は会社に縛られない考え方をしているのだな」と実感したのです。そのような環境において、今後、自分をどうブランディングしていくかを真剣に考える中でイグニション・ポイントに出会ったのです。
-転職にあたり、イグニション・ポイント以外の会社は受けたのでしょうか?
いえ。それまでもたくさんの会社から声はかけていただいていたのですが、受けたのはここだけです。イグニション・ポイントのパートナーとカジュアル面談をしました。普通、雇う側は高い金を払うわけなので「会社に対してどのような貢献ができるのか」と質問しますよね。しかしイグニションのパートナーは「圖子田さんは何がやりたいですか?」と聞いてきて、それが印象的でした。先端テクノロジ-を活用したイノベ-ションを武器に、世の中の社会課題にチャレンジするという会社の価値観が、自分の価値観とマッチしました。残りのキャリアをここでチャレンジしていければ、ワクワクするし楽しそうだなと感じたのです。
-現在はAI CROSSに在籍していますが、イグニション・ポイントと兼務でしょうか?
兼務です。AI CROSSは、もともとSBIインベストメント時代に私が投資担当として、上場を経験させて頂いた会社で、昔から知っているんです。同社のミッションである「Smart Work, Smart Life」に賛同し、自分も体現したいと思いました。同社には社員だけでなく業務委託の人や私のように兼務している人、さまざまな働き方をしている人がいます。AI CROSSもイグニションも、副業OKなのですよ。CFOとして、労務と人事以外のすべてに目を通しています。
-今の時代だからできる働き方というわけですね。
はい。責任は非常に重いですが、上場会社のマネジメントに参加できるのでワクワクしています。
-仕事をするにあたって、どのようなことを大切にしていますか?
現場にしっかり入り込むこと、現場で学び続けることです。例えばですが、投資後に、経営が計画通りにいっているかどうかの報告を受けるのですが「なぜうまくいっていないのか」が、現場の業務を知った上で自分の頭の中で整理できていないと、助言はできないですよね。いい加減なことは絶対に言えないので、現場の状況を把握した上で、踏み込んだ指示を出すようにしています。きわめて当たり前のことです。
-5年後や10年後、個人として、あるいは会社としてどのようにビジョンを描いていきたいと考えていますか?
会社としては、管理部門として営業や開発をサポ-トしつつ「Smart Work, Smart Life」をどこまで追求できるかという部分にチャレンジしていきたいです。
個人としては、何かしら自分なりにライフワ-クになるような社会課題に対してしっかりと向き合って、チャレンジできているのが理想ですね。10年後、20年後に世の中がどうなるのかを自分なりにしっかりと想像しながら、そのなかで起きうる社会課題に対して関わっていきたいと思います。
-自分の仕事で「ここは譲れない」と思っている部分はありますか?
世の中の変化に応じて、柔軟に対処する。むしろ「譲れない部分がない」というのが私だと思っています。
-これからCFOや管理部門のリ-ダ-を目指す人に、アドバイスをお願いします。
管理部門は、どちらかというと守り、ディフェンスです。でもこのディフェンスがすごく重要です。最終的に難しい判断を下す人がCEOなら、CFOは「そこに持って行く人」です。そのためには判断材料を数字や言葉で表現できなければいけません。そして自分の意見を押し通すのではなく、相手の意見にまずは耳を傾けることが大前提です。「自分がこう思っているから、相手も同じように思っているはず」というのは絶対ありません。職業人としての高い倫理観を持ち、そして相手の話を聞き、まずは意見を受け入れられる人でないと、究極の選択をしなければならない局面に立ったときに、間違った情報をCEOや経営陣に与えることになりかねません。
実は、私は若いころ、このことで結構苦労しました。私はどちらかというと、自分でどんどんやりたい人なのです。それで痛い目に遭うこともありました。管理部門の人間は、冷静に「なぜそう思ったのか」「どうしてこうしたいのか」など、しっかり相手の話を聞き、整理して、論理に落としていって、全体最適を見つけ出す必要があるのです。
-管理部門に向いているのは、どのような人だと思いますか?
自己探求心の強い人だと思います。会計や適時開示に関する関係法令やルール、事業に関連する法令などはどんどん目まぐるしく変わります。常にそれに高いアンテナをはれる人。自分で調べて「自社に置き換えればどうなるのか」を考える。事業やトレンドなど周囲にアンテナを張りめぐらせ、自分で知識を深め、能力を高めることが苦でない人は、素養があるのではないでしょうか。
-管理部門における、理想のリ-ダ-像はありますか。
部下に細かいことを言いすぎても、相手のためにはなりません。自分で考えて失敗して、経験を積み重ねてもらうしかない。「私はこう考えるから、こうしろ」とズバズバ指示するのは緊急事態のときだけです。指揮官だけがグイグイいく組織は長続きしません。本人も周りもくたびれてしまう。部下もいつまでたっても達成感を得られない。一見遠回りに見えても、部下に経験を積ませることが大事です。ただし、その失敗で株主に損をさせるのはまた別。社内で失敗してもらうのは大いに結構です。むしろ堂々と失敗できる環境を用意することが大事なのかなと思います。
「みんなが働きやすく、かつ最高のパフォ-マンスを上げられる環境をつくりだす」というのが、私の最も重要な仕事だと考えています。朝、起きたときに「会社に行きたくない」と思わせないようにしたいですね。私自身、若いころは精神的につらかった時期がありました。でも、精神的に落ち込んでいると、生産性は上がりません。リ-ダ-が無駄に怒鳴ったり、追い詰めたりするのは、まったく意味がありませんよね。もったいないです。働くのは人なのですから、人を尊重しなければ良い仕事はできません。人は失敗を積み重ねて成長していきます。私自身、いろいろな方に育てていただき、とても感謝しています。社員が苦労の末に目標を達成し、喜んでいる姿を見ると、私も「よかったな」と嬉しくなります。寛容な心を持ち、「最後は私が責任を取る」と言い切れるのが、理想のリ-ダ-なのではないでしょうか。
―本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
今回お話を伺った、圖子田 健氏がCFOを務めるAI CROSS株式会社のHPはこちら!