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どの経験が先に活きるかは分からない。UPWARD株式会社取締役CFO荒木克則氏がチャレンジを続けながら掴んだキャリア

HUPRO 編集部
どの経験が先に活きるかは分からない。UPWARD株式会社取締役CFO荒木克則氏がチャレンジを続けながら掴んだキャリア

新卒で野村證券株式会社に入社。リテール営業や債券・デリバティブのマーケティング業務に従事したのち、専門性を確立するためにファイナンス部門へとキャリアシフトした荒木氏。三井物産株式会社に転職して東京で財務企画と資金決済を担当し、シンガポールでは現地法人の財務業務全般を経験。その後、野村證券での営業時代に抱いた課題感を解決できるUPWARDの事業に共感し、同社のCFOに就任されました。コロナ禍での苦境を「できることは何でもやる」という実行力で乗り切る荒木氏のキャリア遍歴について、HUPRO編集部がお話を伺いました!

【略歴】

2006年 野村證券株式会社 支店営業→金利為替マーケティング→財務経理
2014年 三井物産株式会社 財務企画・資産決済→シンガポール現地法人 財務室次長
2019年 UPWARD株式会社 現 取締役CFO コーポレートグループ統括本部長

【キャリアグラフ】

新卒で入社した野村證券で、試行錯誤しながらビジネスを学ぶ

-大学時代はどんなことを学び、どんなキャリア観をお持ちでしたか。

大学では経済学部に所属していました。勉学よりも合気道や麻雀に熱中していたのですが、ただ、金融の講義を受けるなかでファイナンスが面白いと感じ、将来は証券会社や銀行などの金融機関で働きたいと漠然と考えていました。

-それで新卒で野村證券株式会社に入社されたのですね。どのような経験を積まれたのでしょうか。

まずは名古屋支店に配属され、支店周辺エリアの営業を担当しました。

最初こそ業績が良かったものの、すぐに他の人に追い越されて鳴かず飛ばず。当初の自分の失敗は、人の話を聞かず、自分の話ばかりだったことにありました。空気が読めず、まだ営業がどういうものか分かっていなかったです。「どうやったら売れるようになるんだろう?」と、最初の1年間は本当に苦労しましたね。

少し良くなったという感触を得られたのは2年目からです。「このままではダメだ」と、出来ないなりに気づいたことや先輩からのアドバイスなどで軌道を修正していきました。とにかく「お客様が何に関心を持たれているのか」を知り、丁寧なコミュニケーションを心がけました。どうやったら興味を持って話を聞いてくれるかを考え、地元の方と話が弾むように名古屋のことを勉強し、織田信長や豊臣秀吉、中日ドラゴンズの荒木選手の話など、事前にネタを用意するようにも。試行錯誤したことで少しずつ成果を出せるようになりました。

しかし、2008年にはリーマンショックを経験。苦労してお取引を得たお客様に大きな損失が出ました。当然怒るお客様もいらっしゃったのですが、「今までありがとう」と言ってくれる方もいらっしゃって。損する/儲けるというだけではなく、これまでの関係性への満足度と言いますか、一生懸命な部分に注目してくれるお客様がいることを体感し、価値の提供の仕方は目に見えるリターンだけではないかもしれない、と考えるようになりました。

-その後、金利為替マーケティング部門に異動されたとのことですが。

はい。グローバルマーケッツ部門の中で債券やデリバティブの引き合いを担当する一部署で、ディーラーが持っている債券や為替の在庫を支店のお客様に卸す、引き合いの業務を行うことになりました。

これまでやってきた支店営業とは全く異なる分野だったため、最初は引き合いの仕方や、商品別の担当ディーラー、プライスの貰い方も分かりません。担当も価格も商品も仕組みも分からないということで、かなり苦労しました。

ただ、債券や為替のマーケットは、面白く学びが多かったです。10億・20億という大口のお客様に対して、支店の営業担当者と一緒にオーダーメードで提案するというような経験ができて、自分で考えて提案ができるという環境に、やりがいを感じました。

また、為替の三大市場と当時言われていたのは東京・ロンドン・ニューヨークですが、ニュースやイベントに反応して変動します。世界の動きをじかに感じられるダイナミズムは、これまでの部署では得られなかった経験で、非常にワクワクしましたね。

ファイナンスに専門分野を定め、さらに経験を積む

-社内公募で財務経理に異動されますが、応募された理由をお聞かせください。

ファイナンスの分野で、具体的な専門性を身につけたかったからです。

営業や金利為替マーケティングなどの業務を経験するなかで、「この先どこに専門性を置くべきなのか」を考えていたのですが、金利為替マーケティング部門に移って2-3年目には、財務や経理などのファイナンスで専門性を高めようと方向性が定まりました。そのタイミングでちょうど社内公募があったのでチャレンジしました。

-専門性というところで、証券アナリストや米国公認会計士を取得されていらっしゃいますよね。

はい。証券アナリストは入社2年目の時に、米国公認会計士は野村證券の財務経理をやっていたときから、その後三井物産に転職したときを跨いで取得しました。

資格取得を志したのは、ファイナンスを専門分野にするために取っておいた方が良いと考えたからです。平日は仕事、土日は勉強と両立させるのは大変でしたが、資格取得に向けての学習を通して、監査、財務会計、税務など、ファイナンス全般を体系的に学ぶことができました。

ー財務経理でのやりがいやご苦労などをお聞かせいただけますか。

事業計画を作るのは大変でしたね。色々な部署から数字があがってくるのを集約し、それを再分析して最終的に一つの事業計画ができあがるのですが、各部署と綿密にコミュニケーションを取って仕上げていくので、やり終えた後には達成感がありました。

財務経理は数字を扱う部署ですが、数字の意味を理解しないと、ただ数字を操作するだけになってしまいます。逆に、ビジネスの実態が分かっていると、意味を持った数字になります。私はリテールを経験したので営業店のビジネスが分かり、マーケット部門での経験からある程度商品も理解できる。これまでのあらゆる経験が、財務経理の業務を遂行する上で活かされたと思っています。

-そうしたなかで三井物産に転職されたのは、どういったきっかけだったのでしょうか。

事業会社に興味が湧いたためです。金融機関は事業会社向けにファイナンスの面から様々な支援を行いますが、事業会社の側でファイナンスを使って事業を支援できたらどうなるだろう、と。もともと野村證券に入社した動機もファイナンスを活用して企業の成長に貢献していきたいということだったので、今度はそれを事業会社の中でやっていきたいという想いに突き動かされたかたちです。

たとえばM&Aひとつとっても、金融機関の立場だと成約すればそこでご縁は切れますが、事業会社はそこからがスタート。資金調達なども事業会社は金融機関のような「お手伝い」に留まらず、調達した資金を事業へと還元し、流れは続いていきます。そういったところで、挑戦がしたくなり、事業会社への転向を決めました。

-事業会社に入社されて感じた、金融機関との違いはどのような点でしたか。

そうですね。金融機関ですと、いかにお客様から手数料をいただくかが大事なポイントですが、事業会社の財務では逆に、金融機関に支払うコストをどう抑えるかを考えなければいけません。いかに金融機関とリレーションを構築していくか、工夫や駆け引きが必要になります。

私は前職の経験から、金融機関がどのように収益を上げていて、どこが交渉のポイントなのかが肌感覚で分かります。なんとなく手の内を理解しながら話ができるので、その点ではアドバンテージがあったと思います。

-興味関心のあった事業会社の財務部、醍醐味を実感されたエピソードなどはありますか。

国際金融決済などは、総合商社の財務部ならではの業務でしたね。たとえばM&Aでブラジルのある会社を買収したときにはブラジルレアル建てで数百億円規模の送金が必要でしたが、新興国通貨は規制があるため米ドルを介した複雑な送金スキームを検討し、金融機関にプライスを取って一番いいところで送金をして、着金した翌日には買収のプレスリリースが出るなど、なかなかに面白い案件がありました。

-その後シンガポールに転勤されますが、現地ではどんなお仕事をされましたか。

現地法人の財務室の次長として財務業務全般に従事し、さまざまな金融取引、たとえば決済や資金調達、為替などを取り仕切っていました。

シンガポールは金融規制がかなり厳しく、毎年金融機関から取引先の顧客についてのチェックが入ります。どの国と取引をしている会社なのか、などの質問状に回答する仕事などもありました。あとは東南アジアなので、物価上昇が激しかったり、いろいろな通貨での取引があるのも特徴ですね。タイバーツやマレーシアリンギット、インドネシアルピアなどでの取引なのですが、各国通貨規制が異なり取引時の注意点が変わったりしてさまざまな学びがありました。

-海外現地法人でのお仕事、苦労されたことはありますか。

ローカルスタッフのマネージメントは大変でしたが、学びが多かったです。

先ず、自分自身が英語は得意でなかったのでコミュニケーションをとるのに苦労しました。また、日本人とは仕事感そのものが違い、有給休暇に加え国で定められたメディカルリーブがあるため、スタッフの休みが多くて。加えてシンガポールでは2-3年ぐらいで転職するのが普通という環境だったので、スタッフが慣れてきたころに離職されてしまう懸念がありました。そのため、スタッフとコミュニケーションを取りながら、ロールを変えたり次の新しいチャンスを与えるようにしていました。大変なところも多かったですが、非常に学びの多い環境でしたね。

新人時代の課題感からUPWARDの事業に共感し、CFOに就任

-UPWARDにCFOとして入社されますが、スタートアップでのCFOへのチャレンジは以前から考えられていたのですか。

野村證券を退職するときには、既に事業会社のCFOというポジションをキャリアの視野に入れていました。財務経理に携わる人間にとっては、会社のファイナンスを一手に担うCFOは目指すべき最後のゴールポジションではないでしょうか。ただ、野村證券を退職した時点で私はまだ30歳ぐらいで経験も少なく、機は熟していませんでした。その後三井物産で経験を積んだことで、そろそろCFOを狙ってみよう、スタートアップ企業が面白いのではないかと考えていたときに、ある投資家の方にUPWARDを紹介していただいたことがきっかけです。その投資家とはDNX Ventures日本代表の倉林さんであり、彼が三井物産OBというご縁で知り合うことができました。現在もUPWARDの社外取締役として支援いただいている関係です。

-数多くのスタートアップ企業のなかで、なぜUPWARDだったのでしょうか。

UPWARDに入った理由ですが、野村證券の営業時代の経験が背景にあります。

当時は紙の地図を持って担当するエリアをぐるぐる回って、名刺を100枚くらい貰っていくものの、“営業先を全然管理できない”という課題感がありました。スマートフォンから直感的に「行くべき先」が分かり、カンタンにデータが蓄積されて次の一手が見えてくるというUPWARDのプロダクトを知ったときに、「これが当時あったらよかったな」と。当時から顕在化していた営業現場の課題感と、その解決策としてUPWARDのサービスに納得感があったため、ジョインしました。

あれだけ営業しんどいな、と思っていたことが今の転職に繋がっているのですから、どんな経験が先のキャリアに活きるかは分からないものですね。

-描いていたCFOの像はUPWARDに入社されて実現できていますか。

想像通りのところはありますが、違うところも多いですね。

財務の仕事は当然行いますが、どちらかというとそれ以外、現在は特に採用にかける時間が大半を占めています。時々営業の商談にも同席しています。一時期はコロナ禍での事業の軌道修正のために、CFOとCOOを兼務していた時期もあるなど、入社以来あまり財務経理という縛りは意識せずに、“企業価値を上げることが仕事”という気持ちで取り組んでいます。

UPWARD入社前から何でもやらなければいけないとは思っていましたが、想像以上だった、という感じですね。

-入社直後にコロナ禍が始まり、ご苦労はありましたか。

そうですね。弊社のサービスはフィールドセールス、要は、訪問営業向けのツールなのですが、コロナ禍による訪問営業の自粛で大きな商談がスリップするなどして、業績が伸び悩みました。

また、リモートワーク中心の働き方が社内の人間関係やモチベーションに与えた影響も大きく、マネジメントチームを含めて退職する人が増え、一気に苦境に立たされました。

-どうやってマネジメントチームを立て直されたのでしょうか。

秘訣は“数”です。

退職者のなかにはHRマネージャーもいて、その方の代わりに採用エージェントを使って探したのですが、なかなか「この人だ」という方に出会えなくて。困っていたところ、代表の金木から「LinkedInなどを使ってみたら」とアドバイスを受けて、ダイレクトリクルーティングにも着手しました。新たな強いチームを作るために、腱鞘炎になるくらいメッセージを送信しながら、1ヶ月あたり100人ぐらいオンライン面談をし、一人でも多くの方とのご縁を作っていくことを心がけました。その甲斐あって、いまの主要メンバーの多くを新たに仲間に迎えることができ、チームの立て直しができてきたと思っています。

-これまでのキャリアで採用活動に役に立っていることは何でしょうか。

いろいろありますが、証券会社の営業時代の経験は大きいです。

営業の思考回路にあるのは「どうやったら買ってくれるか」「どうやったら投資してくれるか」ですが、採用活動もある種の営業行為。どうすれば当社に興味を持ってくれるのか、関心を持った人が人生を賭けてみようと思ってくれるのか。UPWARDというまだあまり知られていないサービスに興味を持ってもらう話を考えて、プレゼンテーションを用意しなければなりません。

ここは営業とほぼ一緒だな、と思っています。

-今後のご自身や会社の目標をお聞かせいただけますか。

私の仕事は、「いかに企業価値を上げていくか」が最大のミッションです。財務、経理、採用、できることには全て注力して企業価値を上げることで、お客様へのより良いサービスの提供や、社員の満足度の向上に繋げていきたいと考えています。

-Huproマガジンの読者、転職を検討している方へのメッセージはありますか。

キャリアで大切なのは、チャレンジやトライアル。自分のキャリアを振り返ると、まずは何事も全て「自分でやってみよう」と挑戦を続けてきました。少しでも面白そうだなと思ったことは、とりあえずやってみることをおすすめします。

そして、これは採用面談でもする話なのですが、誰しもが自分で「これを解決したいな」と感じることや、世の中の課題だと考えていることがあるのではないでしょうか。そういったことを解決するようなサービスやプロダクトを扱う事業の会社に入社することができれば、仕事が楽しめるはずです。

私は、UPWARDというスタートアップに来て凄く満足しています。自分のエネルギーや情熱を100%かけられるサービス、事業に巡り合うことが、素晴らしいキャリアに繋がっていくのではないか、とそんな風に思っています。

-本日は貴重なお話、ありがとうございました!
今回お話を伺った、荒木様が取締役CFOを務めるUPWARD株式会社のホームページはこちら

この記事を書いたライター

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