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高年齢者雇用確保措置とは?運用方法もご紹介!

社会保険労務士 蓑田真吾
高年齢者雇用確保措置とは?運用方法もご紹介!

労働人口の減少に歯止めはかからず、働き方改革により様々な施策が講じられています。女性活躍推進、特定技能の活用による外国人労働者の受け入れ、そして高年齢者の活用などが挙げられます。そこで、今回は2021年4月から適用される改正高年齢者雇用安定法として、70歳までの就業機会の確保等を企業の努力義務とする施策が注目されています。これは、企業による努力義務として、70歳までの雇用延長に留まらず起業支援やフリーランス契約、社会貢献活動参加などへの支援が選択肢に加えられました。そこで、今回は高年齢者雇用確保措置などにフォーカスをあて解説してまいります。

高年齢者とは

高年齢者雇用安定法第2条では、高年齢者とは55歳以上であると定義しています。また、高年齢者等とは中高年齢者(45歳以上)である求職者、中高年齢失業者等(45歳以上65歳未満の失業者その他就職が特に困難な厚生労働省令で定める失業者)と定義しています。

高年齢者雇用確保措置とは

高年齢者雇用確保措置では、高年齢者雇用安定法第9条には定年(65歳未満のものに限る)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、以下の3点のいずれかの措置を講じなければなりません。

(ア)定年の引き上げ (イ)継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入 (ウ)定年の廃止

令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果によると
雇用確保措置の実施済企業のうち、 割合は以下のとおりとなっています。

・定年制の廃止により雇用確保措置を講じている企業は2.7%
・定年の引上げにより雇用確保措置を講じている企業は19.4%
・継続雇用制度の導入により雇用確保措置を講じている企業は77.9%

実務上参考にすべき2つの判例

トヨタ自動車事件

トヨタ自動車事件は、定年再雇用後の仕事内容について提示された労働条件等について争われた事件です。指揮命令関係にある会社と労働者の関係上、どのような労働条件を提示するかは会社に一定の裁量があるのは言うまでもありません。しかし、社会通念上頭底受け入れ難いような職務内容(例えばこれまでの経験値を全く度外視した職務内容)を提示することは「実質的に」継続雇用の機会を与えたとは言い難く、むしろ会社として機会を与えたという単なる実績作りの為ではないか?との印象を受けます。そして、そもそもそのような労働条件の提示をすること自体、高年齢者等雇用安定法の趣旨に反するということです。

九州惣菜事件

九州惣菜事件とは、高年齢者への継続雇用制度によりパート従業員から大幅に賃金が減額されたこと等について争われた事件です。高年齢者雇用安定法の趣旨として継続雇用制度についても定年前後における労働条件の継続性が一定程度確保されることが前提となることから75%の賃金減額という条件は、そのような大幅な賃金減額を正当化する合理的な理由が必要ということです。

九州総菜事件

雇用保険からの給付

60歳時点での賃金と再雇用後の賃金を比較し、65歳までの間の賃金が75%未満となった場合は、雇用保険から高年齢者雇用継続基本給付金が支給されます。これは、再雇用後の賃金に対して上限として15%を乗じた額となります。(2025年4月1日より現行の給付率上限は15%から10%に引き下がることとなります。)

60歳時点での賃金と再雇用後の賃金を比較し、61%未満に減額した場合は、減額後の賃金に上限の15%を乗じます

そして、再雇用後の賃金が61%を超え75%未満までは15%から減じた率を賃金に乗じます

また、75%以上の賃金が支給されている場合は支給されません

よって、再雇用後の賃金が60歳時点と比較して61%を下回る場合は、雇用保険からの給付では足りず、同一労働同一賃金の視点からも一定の説明は必要と言えるでしょう。

高年齢者雇用確保措置を運用するにあたって

高年齢者雇用確保措置を運用するにあたって無視すべきではない視点があります。

(1)同一労働同一賃金 (2)高年齢者雇用安定法の趣旨

高年齢者も労働契約を締結する以上は、労働者である以上、以下の点について留意すべきです。

・今後のキャリアパスをどう描くか ・どのような仕事を任せるか ・どの程度の給与を支給するか ・現役世代との均衡性をどのように確保するか ・高年齢者の声を誰がどのようにくみ取るか

などは、雇用確保措置を導入する前から決定しておくべき部分です

最後に

働き方改革の目的の一つとして生産年齢人口(15歳~64歳)の減少による人手不足解消が挙げられます。言うまでもなく当分の間は是正することは困難であり、女性活躍、外国人労働者の受け入れと並び、高年齢者の活用は重要な施策です。

そして、2020年4月から大企業が先行して同一労働同一賃金が施行されました。説明義務への対応や処遇の改善などが企業に求められています。現在でも複数の判例が出されているものの自社の労務管理に置き換えた際に未だ不透明な部分があるもの事実です。

生産性の高い職場環境を維持していく上でも、高年齢者への雇用確保措置は今後も重要な位置づけとなります。

この記事を書いたライター

大学卒業後、一般企業を経て都内の医療機関に就職。医師、看護師をはじめ、多職種の労務管理に従事しながら一念発起し社会保険労務士の資格を取得。 【他保有資格】2級ファイナンシャル・プランニング技能士、労働法務士 等
カテゴリ:コラム・学び

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