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産休・育休を経てもキャリアを諦めず働ける。アトラエ岡田真理氏が語る女性会計士の魅力とは

HUPRO 編集部
産休・育休を経てもキャリアを諦めず働ける。アトラエ岡田真理氏が語る女性会計士の魅力とは

慶應義塾大学商学部を卒業後、公認会計士論文式試験に合格し、有限責任監査法人トーマツに入所。トーマツでは東証一部上場企業を中心に建設業、製造業、サービス業など業種規模様々な企業の会計監査を経験され、現在は株式会社アトラエ(以下、アトラエ)にてコーポレート業務に従事されている岡田真理氏。

順風満帆なキャリアのように感じますが、岡田氏曰く「絶望」と形容されるような困難な時期も経験されてきています。2児の母でありながら、会計士としても確固としたキャリアを築かれてきた岡田氏に、女性が会計士を目指す魅力など、さまざまな点をお伺いしました。

【略歴】

2010年 慶應義塾大学商学部卒業
2011年 公認会計士試験に合格
2012年 有限責任監査法人トーマツ入所
2020年 株式会社アトラエ入社

【キャリアグラフ】

父の助言と医師である兄・姉への憧れから会計士を目指す

―慶応義塾大学商学部に入学されています。入学前から公認会計士を目指されていたのですか?

いえ、会計士を最初から目指していたわけではありませんでした。それよりも、顧客がどうしたら喜ぶかとか、ビジネスの仕組みはどうなっているのかとか、商学そのものに興味がありました。

同級生には入学直後から会計士受験向けの予備校に通う人も多かったですが、入学当初の私は、「まずは大学生活を謳歌したい」と考え、予備校には通いませんでした。入学直後から予備校に通っていた同級生を見ていると、息切れしてしまい、結局会計士にならなかった人もいましたね。そういう人たちを見て、「なんとなく予備校に通い始め、途中でリタイアすることだけは嫌だな」と思っていました。

そんな風に考えていたので、大学に入学するとダンスサークルに所属し、大学生活を楽しみました。2年生になると、公演を主体的に作り上げる運営活動も行うようになり、休日は朝から夜までダンスの練習、合間に公演に向けた協賛企業を募る渉外活動、加えて飲み会(笑)など、毎日充実していた一方で、勉強する時間は作れなかったですね。とはいえ、200人超の部員と作るダンス公演は、チームで一つのものを作り上げる楽しさ・喜びを深く感じ、かけがえのない思い出ですね。今もチームで働くことを大事にしている一つの礎になっていると感じます。

―公認会計士を目指し始めたのはいつだったのでしょうか?

ちょうどその頃、父親が内部監査の業務に携わっていたんです。業務で関わる会計士の方の働きぶりについて話し、ほかにも「経営層にアドバイスできてやりがいもあるし、ある程度年齢を重ねても、女性であっても、バリバリと働けるよ」と教えてくれたんです。それをきっかけに、「会計士」という選択肢が私のなかで育ち始めました。

私の歳の離れた姉と兄が医師をしていることもあり、「二人のように、資格をとってバリバリ稼ぎたい」という思いもありました。最終的に、社会の役に立てる職業であるという魅力と兄弟と肩を並べられるという魅力が重なって、会計士を目指す決意をしました。覚悟が決まるまで結局1年かかったので、予備校に入ったのは大学2年生になった頃です。

1年遅れて始めた会計士の受験勉強。卒業してすぐに合格できた秘訣は

ー大学2年生で受験勉強を始められたということですが、そこからはずっと勉強ばかりでしたか?

いえ、そんなこともありませんでしたね。先に述べたように大学2年生の時は、サークル活動に熱中していたこともあり、予備校には入ったものの勉強はそっちのけになってしまっていました。

本腰を入れて会計士の受験勉強を始めたのは、大学3年生になったタイミングです。会計系のゼミに入り、在学中に会計士資格を取得した先輩や会計士受験を目指す仲間に囲まれる環境に身を置くことで、「勉強しなきゃ」と火がつきました。同じ頃、大学2年生時に簿記2級の試験に複数回落ちたことが姉にバレて、家族の前で叱責され、大泣きした出来事もありました。姉に憧れて会計士試験を目指したのに、とても悔しくて恥ずかしくて。それからの生活は一変して、勉強中心の生活に変わりました。

とは言え、大学生なので私にとって遊びたい気持ちを抑えるのは容易ではありませんでした。それでも、継続して勉強できたのは、会計士受験を志す仲間の存在が大きかったです。周囲のみんなが会計士試験の受験を目指しているので、プライベートのスケジュールが一緒で、予備校の答練前は一緒に集中して勉強して、終わった後は、適度に息抜きもできたことで、効率よく勉強できたと思います。仲間のおかげで苦しい受験生生活もメリハリをつけて楽しめました。

だから私の中では「勉強だけしていた」というわけでもありません。ただ、一番勉強していたときは、朝9時から夜9時までコンスタントに勉強していました。

ー試験に合格されたのはいつですか?

短答式試験に合格したのが4年生の12月です。当時、短答式試験の合格率が10%弱で、その後の論文式試験の合格率が30%以上だったので、「短答式試験にさえ受かれば論文試験はそこまでハードではないだろう」と思っていました。
大学を卒業した2011年の8月に論文式試験を受験して、11月に合格発表があり、無事公認会計士試験に合格することができました。

ー本格的に勉強を始められてから2年弱で会計士試験に合格されたわけですが、勉強のコツは何でしょうか?

私の場合、大学2年生から予備校には入ったものの、1年間はほぼ何も勉強ができていない期間があったので、予備校が組んだ受験勉強スケジュールとは別に、よりタイトなスケジュールを組む必要がありました。他の受験生よりも集中して勉強しなければならなかったので、モチベーション維持のためにいろいろなことをやっていました。例えば、ゼミの仲間を巻き込んで一緒にテストをして点数を競い合ったり、わからないところは質問して教えてもらったりするなどしていました。定期的に息抜きをするのも、モチベーション管理のうえで役立ちました。

大学の受験勉強と同じく、戦略的に勉強することも重要です。どのタイミングでどの科目を勉強するのかといったことや、どの科目で重点的に得点を取るのかといった得点戦略を考えることなど、勝てる戦略を作ったうえで、それに基づいて勉強していったのが良かったのだと思います。

保育園に落ちて絶望。めげずに会計士としてキャリアを積む

ーその後、トーマツに入所されました。なぜトーマツを選ばれたのでしょうか?

トーマツは他の監査法人と比べても、より「若手に任せるカルチャー」がある、と聞いていました。実際に、社内のリクルーティング業務の運営・企画はすべて入所1年目の若手が担当します。私たちのリクルーティングを実際に担当している一年上の先輩たちを見て、「本当に若手に任せてくれるんだな」ということを実感しました。

ゆくゆく海外での勤務をするにしても、責任ある立場を任されるにしても、経験する年次が早いほうが良いですよね。いつ何が自分の身に起こるかわからないですから。他の監査法人からも内定をもらっていたのですが、最終的にはそうした「若手に任せる」トーマツの風土に惹かれてトーマツへの入所を決めました。

ートーマツに入所されてからは、どのような業務を担当されたのでしょうか?

国内監査班というグループに所属して、大企業から中小企業まで、さまざまな企業の監査業務を担当しました。業種別に部署が分けられる前だったので、担当した企業は規模も業種も本当にさまざまでした。その傍ら、入所1年目には希望していたリクルーティング業務にもアサインしてもらい、力を入れていました。

監査業務は入所前にイメージしていたものと一致するところと、そうでないところの両方ありました。チームで一丸となって繁忙期などの「やるべきときにやる」というところはイメージ通りでしたが、想像以上に形式的・手続き的な面もありましたね。

業務をやるなかで、IPO前の企業の内部統制などを整えていく業務も任されました。仕組みが出来あがっている上場企業を見てきた後だったので、それらの仕組みを参考に、IPO前の企業に入りこみ、上場に向けて一緒に仕組みを作る業務です。会計のルールが未整備なままの企業の経理担当の方々を対象に「これはこういうルールでやっていくんだよ」と教えながら、その会社にあった仕組みを一つ一つ一緒に作り上げていくような作業でした。会計士というよりも、コンサルタントのような業務です。

ートーマツに入所されてからも、勉強はずっと続けられていましたか?

そうですね。会計士試験に合格しても、修了考査に合格しなければ正式に公認会計士にはなれないので、みなさん勉強はずっと続けています。それ以外にも、業務でクライアントに聞かれた質問に答えられるよう、日々の勉強は必要になります。それが最低ラインで、それ以上勉強するかどうかは人によります。

ーその後、出産されて育休に入られたんですね。

そうです。当時私が所属していた部署では、女性会計士の場合、マネージャーまで昇格されてから出産されるケースが多かったので、私のように入社3年目で出産するケースは非常に稀で、仕事を続けられるのかとても不安でした。そのため、「できるだけ早く復職して働きたい」という思いでした。

子どもは当然保育園にあずけられるものだと思っていたのですが、あっさり保育園に落ちてしまったんです。本当にショックでした。予定していたタイミングで復帰できなくなり、「私がこれまで勉強に費やしてきた時間は何だったのか」と、これ以上ないくらい絶望しました。このときの経験があるので、「働きたいのに、育児が原因で働けない」という人がいる現状を何らかの形で変えていきたいな、と思うようになりました。

ー復職されてからは、順調にキャリアを築かれていったようですね。

出産後は子育てをしながらなので、残業しない制度を利用して働いていました。時短勤務で働きつつも、「意地でも昇格してやる」と育休期間の遅れを取り戻すかのように気合いを入れて働いていました(笑)。結果、無事にシニアに昇格することができました。

シニアの次のポジションはマネージャーなのですが、マネージャーは上場企業の主任が求められるポジションなので、「育児との両立は難しそうだな」と思っていました。マネージャーをある程度経験してから出産をして業務量を減らす、というパターンは当時もあったのですが、もともと子供がいる女性がマネージャーになるケースはほとんどなかったからです。そのとき「将来的にはキャリアを考える必要があるかも」と思ってはいました。

ただ、監査法人は働き方改革も進んでおり、以前より育児と仕事の両立がしやすくなった業界だと思います。育児もしながらキャリアを継続したい女性には、会計士資格を取得してファーストキャリアで監査法人に勤める、という選択肢はおすすめですね。産休・育休を取得して、時短勤務で働いている女性会計士の友人は多いです。

会計士が事業会社に転職するメリット

ー二度目の育休を取得されたときは、まだ転職は考えていなかったのでしょうか?

はい。将来的には「悩むかも」と思ってはいたものの、まだこの段階では監査法人で勤め続けようと思っていました。ある程度経験を重ねて余裕もできてきていたので、育休期間は海外勤務の可能性を視野に入れて英語の勉強をしていたくらいです。

ーそれではなぜ、アトラエに転職されたのでしょうか?

知人からお誘いがあったんです。私は以前から知人を通じてアトラエのことは知っていて、好感を持っていました。そのアトラエから「会計士を探している」ということでお声がけがあったので、私としても「これは良いタイミングだな。チャンスだな」と思って、転職を決意した次第です。

アトラエはホラクラシー組織という体制を取っていて、経営陣以外に肩書きがありません。私の現在の部署も、CFOがいて、あとはメンバーがいるだけ。一人ひとりが、当事者意識を持って、経営者視点で「アトラエにとって自分が何をすべきか」を考えて行動しているので、部署間の壁もなく、実際に入ってみると「これはやりやすいな」と感じました。監査法人時代にクライアントで管理部門と他部門の上下関係があったり軋轢がある会社を見てきたので、他の部署と垣根なく仕事ができる環境は非常にありがたいと感じます。

アトラエは社員全員が「世界中の人々を魅了する会社を創る」というビジョンに向けて一丸となってチームで取り組んでいて、社員個々人のエンゲージメントも非常に高い組織です。入社前の時点ですでにさまざまな魅力を感じていたのですが、「“アツい”このメンバーたちと一緒に働けたら人生が充実するだろうな」と思ったことが、入社の決め手でした。

トーマツでリクルーティング業務を担当していた際、会社に不満を持ち、それをそのまま受験生に伝えてしまう人を見て、「あまり気持ちの良いものではないな」と思っていました。でも、アトラエなら、嫌なことがあればチームを組成して、実際に社内制度を変えれば良く、実際にそれができます。非常に風通しが良い環境ですね。

アトラエは子育てにも理解があり、夕方になると子供が学校からオフィスに帰ってきたり、オフィスに赤ちゃんがいたりするんです(笑)。それが当たり前なので、他の社員も全然気にしない。入社するタイミングで、コロナにより保育園が閉園してしまって、私は不安を感じましたが、皆さん普通に受け入れてくれて、非常に助けられました。

ー会計士が事業会社に転職するメリットは何でしょうか?

今まで座学や監査法人で勉強してきたことを、ダイレクトに活かせることですね。アトラエは、私が入社した後、子会社ができ連結決算が始まりました。子会社も含めてどのように仕組みを整えていけばベストな組織になるのかといったことを考え、仕組みづくりに取り組んでいる最中で、ゼロから作り上げる難しさと楽しさを感じています。
監査法人にいたときは「これは知っていて当然」とされていた知識でも、事業会社にいくと知らないメンバーのほうが多数派なので、知っている知識を活かして周りのメンバーをリードし、チームに貢献できます。そういった面でも、「会計士の資格を取得してから事業会社にきて良かったな」と思いますね。

ー会計士を目指されている方に応援メッセージをお願いします。

とくに女性の場合、出産や育児をしながらでも自分の働きたい働き方を見つけられる会計士の資格は非常におすすめです。私の場合、会計士の資格と監査法人で経験してきたキャリアがあるので、「今私に何かが起きてしばらく働けなくなっても、絶対に復職できる」という自信があります。そこに怖さはありませんね。会計士はいろんな働き方があるので、選択肢を多く持っておきたい方には向いているかもしれません。
会計士の資格を保有していることで、大企業の社長から各種専門家まで、さまざまなプロフェッショナルの方々と対等に喋れるきっかけをいただけたことも、「会計士になって良かったな」と思う点です。

私は会計士受験に本腰を入れるのが1年遅れてしまいましたが、その後の会計士としてのキャリアで遅れを感じたことはありません。合格さえしてしまえば、同期とのスタートラインは一緒です。とても魅力ある自分の可能性が拡がる資格なので、戦略的に、息抜きも忘れず、受験勉強に励んでみてください。

ー今回はお話をお伺いさせて頂き、誠にありがとうございました。

今回お話を伺った公認会計士の岡田真理氏が勤める株式会社アトラエのホームページはこちら

この記事を書いたライター

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