平成29年4月からスタートした働き方改革の一環で、平成31年に「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」の強化を目的に労働安全衛生法が改正され、産業医の果たす役割に注目が集まっています。
今回は、 話題の産業医とはなにかを紹介するとともに、産業医の職務や働き方改革の中で産業医に求められる役割について解説します。
産業医とは、事業所内の労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師のことです。会社規模によって産業医の選任が義務付けられています。
会社は、常時50人以上の労働者を使用するようになれば、14日以内に産業医を選任する必要があり、産業医の選任を所轄労働基準監督署長に届け出る義務があります。
労働者数は企業単位でなく会社内の事業所単位で判断し、産業医の選任も事業所単位で行います。
(産業医の選任基準)
従業員数 | 産業医 |
1〜49人 | 選任義務なし |
50〜999人 | 1名以上の選任(嘱託可)(※1) |
1000〜3000人 | 1名以上の選任(専属)(※2) |
3001以上 | 2名以上の選任(専属) |
(※1)嘱託:医師などをしながら月に数回、事業所にきて活動する産業医
(※2)専任:該当の事業所のみに勤務する産業医
また、所定の有害業務(坑内業務、深夜業など)に携わる事業場で常時500人以上の労働者を使用する場合は専属の産業医を選任する必要があります。
従業員49名以下の事業所は、産業医の選任義務はありませんが「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師などに労働者の健康管理等を行わせるよう努める」という努力義務があります。
産業医の選任基準に違反した場合、または、労働基準監督署長への届け出をしなかった場合には、50万円以下の罰金が科せられます。
産業医になるための要件は、医師であることと、下記のいずれかに該当することです。
● 厚生労動大臣が定める産業医研修の修了者
● 労働衛生コンサルタント試験(試験区分保健衛生)に合格した者
● 大学で労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師の職にある(あった)者
● 産業医の養成課程のある産業医科大学などで、所定の課程を卒業し、その大学が行う実習を履修した者
産業医の職務は、労働安全衛生規則に規定されています。
産業医の主な職務は、下記の事項のうち「医学に関する専門的知識を必要とするもの」と定められています。
● 健康診断及び面接指導等の実施、その結果に基づく労働者の健康を保持するための措置。
● 長時間労働者への面接指導などの実施、その結果に基づく労働者の健康を保持するための措置。
● ストレスチェックの実施、ストレスチェック後の面接指導の実施、その結果に基づく労働者の健康を保持するための措置。
● 作業環境の維持管理に関すること。
● 作業の管理に関すること。
● 前3号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
● 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
● 衛生教育に関すること。
● 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
上記以外に、少なくとも月に1回以上は作業場等を巡視し、作業方法や衛生状態に有害のおそれがあるときは、労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければなりません。
健康診断や定期巡視などの結果、労働者の健康を保持するための措置が必要な場合(健康上の理由で休業が必要、危険な作業方法があり改善が必要、など)は、産業医は事業者などに対して必要な勧告を行い、また、衛生管理者に対して指導・助言を行います。
産業医に求められる役割は前述の「産業医の職務」の通り多岐に亘りますが、政府が働き方改革を推し進める中で、「長時間労働」や「メンタルヘルス不調」などにより健康リスクが高い労働者への対応がより重要になってきます。
平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況によると、直近の「長時間労働」や「メンタルヘルス不調」の現状は下記の通りです。
平成 30 年7月1日を含む1か月間に 45 時間を超える時間外・休日労働をした労働者がいる事業所の割合は、前年より減少したものの全体の1/4になります。
過去1年間(平成29年11月から平成30年10月)に メンタルヘルス不調により「連続1か月以上休業」または「退職」した労働者がいる事業所の割合は、休業が6.7%、退職が5.8%に
なります。
「長時間労働」や「メンタルヘルス不調」は脳・心臓疾患や精神障害の原因となると考えられ、場合によっては死亡事故や自殺につながることもあります。
出典:産業医制度の在り方に関する検討会報告書・参考資料P14,15|厚生労働省
働き方改革関連法により平成31年4月1日から 「産業医・産業保健機能」と 「長時間労働者に対する面接指導等」が強化され、産業医の権限が下記の通り具体化されました。
● 事業者又は総括安全衛生管理者に対して意見を述べること。
● 労働者の健康管理等を実施するために必要な情報を労働者から収集すること。
● 労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合において、労働者に対して必要な措置をとるべきことを指示すること。
産業医の役割は、事業場の状況(規模、業種、業務内容等)により大きく異なりますが、「長時間労働」や「メンタルヘルス不調」による被害を抑えるために、労働者の労働時間や健康状態について幅広く情報収集し、事業者などに対して必要な措置を求めていくことが必要となります。
そのためには、ストレスチェックの活用、長時間労働者に対する面接指導の強化などを図るとともに、衛生委員会や衛生管理者、看護職などと関係強化を図りチームとして対応することが今後ますます重要になってきます。
産業医とは、事業所内の労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師で、労働者数50名以上の事業所には産業医の選任義務があります。
産業医に求められる役割は多岐に亘りますが、働き方改革が進展するなかで「長時間労働」や「メンタルヘルス不調」などにより健康リスクが高い労働者への対応がより重要になってきています。