高校時代から「世の中に良いインパクトを与えたい」と考え、官僚としてキャリアをスタートさせた鹿島氏。MBA留学、戦略コンサルを経て、株式会社カカクコムの食べログ本部において新規事業の責任者や全社の経営企画部長を経験。その後、全国展開する美容室チェーンのCFOを経験された後、note株式会社では戦略・財務を中心に、コーポレート系全般を統括されています。
「Connecting the dots」というスティーブ・ジョブズの言葉をまさに体現されている鹿島氏の多彩なキャリアについて、HUPRO編集部がお話を伺いました!
【略歴】
2006年 | 東京大学法学部 卒業、外務省入省 |
2008年 | スタンフォード大学ビジネススクールに留学。MBA取得(2010年) |
2010年 | ブーズ・アンド・カンパニー(現Strategy&)入社 |
2013年 | 株式会社カカクコム 入社 |
2017年 | 株式会社ヘッドライト 入社。CFO兼CAO |
2018年 | 株式会社ピースオブケイク(現note)入社。CFOに就任 |
2020年 | noteにて取締役CFOに就任 |
-まずは、キャリアのスタートについてお伺いできますか。
大学の法学部を卒業して外務省に入省しました。高校生の頃から官僚になりたいと思っていたのですが、その理由は仕事を通して世の中に大きな、良いインパクトを与えたいと考えたから。世の中には官僚以外にもたくさんの仕事がありますが、当時はあまり仕事に対するイメージがわかず、社会をよくするのは国の仕事だと考えたのが最初の動機で、そこから具体的な進路とキャリアを思い描きました。
外務省では、企業に例えると経営企画部に相当する部署に配属されました。省内・省外のあらゆる部署や政治家の方などとも連携・調整して国全体の外交戦略を企画・立案する部署です。私は新人だったのでサポートが中心でしたが、スケールの大きな仕事に社会的意義を感じました。
-夢を叶えたわけですよね。それなのに外務省を去り、MBA留学という選択をされたのはなぜでしょうか。
官僚の仕事は、多くの人に影響を与え、社会をよくするための非常にやりがいのある重要なものだと思いました。働いている人たちも優秀な方々が多く、とても尊敬できる仕事です。一方で、私が個人として官庁という大きな組織で働く中で、社会にインパクトを与える仕事は国の仕事だけに限られず、いろいろな方法があるのではないかと考えるようになりました。官僚として大きな組織の中で政策を推進してインパクトを与える方法もあれば、組織は小さくても自分の力をどんどん発揮してインパクトを与える方法もある。世の中に対する理解が深まるにつれて、自分には後者の方が合っていると考え、キャリアチェンジを意識するようになりました。
ただ、当時は官僚を数年やっただけで、ビジネスのスキルや知識が全く無い状態。ビジネスサイドにキャリアチェンジするには経営全般の知識を身につける必要がある。そう考えて、スタンフォード大学のビジネススクールへのMBA留学を決意しました。
-キャリアを転換するにあたって、戸惑いはなかったのでしょうか。
もちろんありました。昔からなりたいと目標に定めて選んだ官僚という仕事にようやく就けたのに、数年で全く違った方向に舵をきろうとしたわけですから。当初思い描いていた道から外れてキャリアがつながらない方向転換をすることについては、自分の中でドロップアウトという感覚がありました。
-MBA留学を通しての一番の学びは何ですか。
マインドセットが180度方向転換したことですね。MBAの授業はもちろん全て役に立ったのですが、それ以上になにごとにも挑戦する、やってみるという考え方を身につけることができたことが大きかったです。
留学する前の私は性格もキャリア感も保守的だったのですが、ビジネススクールで教え込まれたのは、チャレンジして自ら新しいものを創造したり、新天地を切り拓いたりして、リスクを取っても進んでいくのがかっこいいという考え方でした。実際に、スタンフォードの学生は起業する割合が高く、シリコンバレーで小さなスタートアップ企業が世界を変える様子を目の当たりにしました。
当時の自分の価値観と真逆の考え方に触れたことで大きな刺激を受け、私の保守的なマインドセットを攻めの、挑戦する思考に転換できたことは、人生における大きなターニングポイントだと思っています。
-卒業後の転職先に戦略コンサルティング会社を選択したきっかけをお聞かせください。
留学は2008年から2010年にかけてしたのですが、2008年のリーマンショック後の不景気で、就職活動は楽ではありませんでした。スタートアップや起業にも興味はあったのですが、まわりの同級生の、経験豊富なアメリカ人でさえ仕事探しに苦労している中で、経験したキャリアは官僚のみ、英語もネイティブでない外国人の自分がどうやって戦っていったらいいのか。官僚の看板を外して当時の自分は無価値だなという焦燥感があったため、何かしら自信の持てる汎用的な強みや付加価値を身につけたいと思いました。
ビジネススクールにはいろいろな業界出身の学生がいるのですが、その中でコンサル出身の同級生達を見ると、ビジネススキルが優秀で思考の幅も広く、人間的に成熟した人が多かったことがコンサル業界を意識するきっかけになりました。彼らが育った業界に身を置いて実践を積みたい、コンサルであれば様々な業界の企業やいろいろなテーマのプロジェクトと接する機会があり、企業の課題や悩み事を解決しながら、ビジネスを加速させたり組織を変革させたりというインパクトを与えられる。自分の昔からのモチベーションにもマッチしていて、面白そうだと考えました。といっても当時の私はMBAを除くと第二新卒くらいの職歴しかなかったので、MBA採用だともう少し職歴が上の即戦力が期待されるため就職活動は苦労しましたが、ポテンシャルを評価いただいて外資系の戦略コンサルティング会社にMBA採用の中途入社で入ることができました。
このコンサルティング会社では、当時の日本代表の方と一緒のチームで仕事をすることが多く、経営者の振る舞いを身近で感じることができたのは、今にもつながるとても良い経験でした。
-その後株式会社カカクコムへと転職されますが、なぜコンサルティング会社から事業会社へ転身されたのでしょうか。
戦略コンサルティングという仕事は、もちろんずっと続ける人もいますが、途中で事業会社やファンドなどに転身して活躍する人が多い業界です。私も例に漏れず、コンサルティングの仕事自体は想像通り面白くエキサイティングだったのですが、30歳になったタイミングもあり、一度自分で事業やサービスを企画したり推進したりする立場で仕事がしたいと思うようになりました。ちょうどそのタイミングでカカクコムが自社サービスである食べログの新規事業担当を探しているという話を聞き、魅力を感じて入社しました。
-初めての事業会社では、どのような業務を担当されたのでしょうか。
最初の2年は食べログの新規事業の責任者として、新規事業を企画してローンチさせ、サービス運用をしていました。コンサルで新規事業のアドバイザリーをしたことはありましたが、自分でやるとなるとまったく勝手が違います。エンジニア、デザイナー、営業、カスタマーサポート、外部の取引先といった様々な人と関わり、その人たちを巻き込みながら事業を立ち上げるという業務は、楽しさと苦労が両方あって充実していました。
その後、カカクコム全体の経営企画部へと異動して、予算策定や予実管理、経営戦略策定、投資・M&Aに関わる業務などに携わりました。カカクコムは食べログや価格.comをはじめとして多種多様なインターネットサービスを展開しているのですが、一口にインターネットサービスといっても対象とする業界やビジネスモデルも様々で、それらのサービスすべてを予算という形で俯瞰することができたのはとても良い経験で、現在の私の資産となっています。時価総額も大きい上場企業だったので、自分が組んだ予算が承認されて最終的には世に出て市場への約束になる。とても大きなプレッシャーを感じました。
もちろん、やりがいを感じることも多かったです。カカクコムは食べログや価格.comなど消費者向けのサービスがたくさんあり、自分の関わるサービスや事業がとても多くの人に利用されていたため、自分の軸である「世の中に良いインパクトを与えたい」という想いを実感することができ、やりがいと面白さを感じました。
-その後CFOへの就任という形で転職されたきっかけは何だったのでしょうか。
カカクコムでは事業サイドで2年、経営企画として2年働き、当時は転職するつもりはありませんでした。会社の規模が大きいので、転職しなくても社内で色々なことに挑戦できる余地があったためです。
一方で、カカクコムでの仕事でスタートアップ企業への出資も担当しており、その仕事を通じて勢いのあるスタートアップを見ていくうちに、自分が経営者として意思決定をして、会社を成長させられる役割への興味がどんどん湧いてきました。スタンフォードで感じた「起業が一番クールだ」という空気感やチャレンジ精神に、ようやく自身の経験や自信が追いついてきたのかもしれません。
そんな時に、全国で美容室チェーンを展開する会社からCFOとしてのお誘いがありました。ファイナンスのバックグラウンドは持っていなかったのですが、これまでコンサルやカカクコムでやってきたいろいろな経験を活かすことでチャレンジできると考え、思い切って飛び込みました。
-CFOという経験されたことの無い職種、実際なられてみてどうでしたか。
CFO、経営陣の一人として参画したので、数字だけではなく会社全体の意思決定に関しても責任を持たなければいけない点が、自分にとっての新しいチャレンジでした。自分の舵取りで会社の業績や顧客、株主、社会に対してのインパクトが変わってくる。経営面から会社の最終的な意思決定に関わる責任を強く感じました。
-2018年からは現職のnote株式会社のCFOに就任されるわけですね。
スタンフォードでテクノロジー企業が革新的な技術やサービスで世界を変えているのを目の当たりにしたこと、そしてカカクコムでも様々なインターネットサービスに触れ、テクノロジーを駆使したサービスが世の中のたくさんの人に利用され広がっていく様子を見てきたので、テクノロジーのスタートアップ企業で挑戦したいという気持ちはスタンフォード留学時代から漠然と持っていました。
そこでご縁があったのがnoteです。代表からミッションやビジョンの話を聞いて、自分の目指す世界観と共鳴するものがあり、面白そうだと思い参加しました。
ーnoteのCFOとしてはどんなお仕事をされていますか。
noteには「Be Creative(クリエイティブでいこう)」というバリューがあります。ビジネスには難題や課題がつきものですが、困難があるから無理と考えるのではなく、クリエイティブに考えて解決しよう、乗り越えていこうというものです。コーポレート部門は一般的に守りの部門で保守的なイメージがあるのですが、決まったルーティンワークだけをこなすのではなく、テクノロジーを積極的に使って業務の自動化や効率化を考えたり、ゼロベースで業務の要不要を検討したりというアプローチをして、クリエイティブに会社にとって新しい価値を生み出すことを意識しています。
入社当時のnoteは社員が30人程度でコーポレート組織はない状態でしたが、現在の社員数は150人以上。急速な成長を支えるためのコーポレート組織作りは現在進行形で行っています。
-これまでの多様な経歴をご自身ではどうお考えですか。
留学先のスタンフォード大学の卒業式でスティーブ・ジョブズが行った有名なスピーチの中に、「Connecting the dots(点と点をつなぐ)」という言葉があります。自分の経歴はまさにそれで、点と点でばらばらにやってきたことが線でつながり、今の自分の糧になっていると感じます。
官僚から始まり、MBA留学を経て、戦略コンサル、IT企業における新規事業の開発、経営企画と、ファイナンスやCFOと直接関わるキャリアを持たなかった私が、現在noteのCFOをやっている。それは、コンサルで様々な業界やプロジェクトに関わったり、カカクコムの新規事業開発で企画から立ち上げ・運用まで行ったり、経営企画部で多様なインターネットサービスやビジネスモデルに触れたことで、いろいろな事業への解像度を高めることができたからです。
コーポレート部門は、ともすれば事業部と距離ができてしまいがちな組織ですが、私はこれまでの経験から事業モデルを俯瞰して見たり、現在のサービス状況から今後のあり得る展開を予測して積極的に事業についてディスカッションすることを心がけています。典型的なCFOバックグラウンドを持っていない自分が現在CFOとして働くことができているのは、これまでの点と点が線になってすべての経験が今の自分に役立っているからだと思います。
-今後のビジョンをお伺いできますか。
自分の根本的なモチベーションである、「世の中に良いインパクトを与える」という軸は引き続き持っていたいと思います。noteは私自身大好きで社会的に意義のあるサービスだと思っていますので、noteを成長させることで社会に良いインパクトを創出していきたいです。
noteは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」をミッションに掲げています。noteではコンテンツを投稿する人をクリエイターと呼んでいますが、クリエイターはアート活動をする人だけでなく、一般のビジネスパーソンや主婦/夫の方もクリエイターだと考えています。そもそも、人間は生きている限り何かを生み出しています。たとえば、散歩をするにしても、どのコースをたどるかは自由ですし、仮に昨日と同じ道のりでも、同じ日・同じ風景のその瞬間は二度となく、私たちはある意味その時間をクリエーションしています。誰もが自由に自分の言いたいことや好きなものを世の中に発信して広めるクリエイターとして活躍できる、そういう社会をnoteを通じて後押ししていくのが私の目標です。
-この記事の読者にアドバイスやメッセージをいただけますか。
世の中に一人として同じキャリアはありません。自分の過去の経験は変えられませんが、一つひとつの経験をうまくつなげていけば、結び付いた結果が将来のキャリアになります。最初から「そこに辿り着きたい」とプランを練るよりも、置かれた場所で全力を尽くすのが重要ではないかと、私は思います。私もこれまでのキャリアでステップアップを意識したものはなく、目の前のことに興味があって面白そうだと全力投球した結果、今に至ります。
また、大企業も含め、現在は働き方も多様になってきています。その時々の仕事に全力でコミットしながら自分の価値を会社の内・外の他者に認めてもらい、自分で機会を掴みに行く必要があると思います。仕事に一生懸命取り組むのを前提として、自らの価値を発信しないと注目してもらえません。発信をして自分を知ってもらい、価値を認めてもらうことでよりいっそう羽ばたくことができます。
実際、noteでキャリアのことや自分の仕事のことを発信する人はどんどん増えていて、そこで注目されたことで転職につながったり、フリーランスの方であればお仕事につながったりとたくさんのサクセスが生まれています。自分のキャリアを発信していくことは、今後一層キャリア形成にとって重要になっていくと思います。noteはそんなビジネスパーソンの皆さんを全力で応援します。
今回お話を伺った鹿島氏が取締役CFOを務められているnote株式会社のHPは
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