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「公認会計士は最強の職業」スキルを武器に、やりたいことに正直に向き合ってきたミツフジ株式会社CFO木内達也氏のキャリア遍歴

HUPRO 編集部
「公認会計士は最強の職業」スキルを武器に、やりたいことに正直に向き合ってきたミツフジ株式会社CFO木内達也氏のキャリア遍歴

駐在員、ベンチャー企業の支援、部署の新規立ち上げなど、公認会計士として幅広い業務に携わり、現在はベンチャー企業ミツフジ株式会社でCFOを務める木内達也氏。今回は、公認会計士になったきっかけからキャリア選択時の思い、今後のビジョンまで、詳しくお伺いしました。

【略歴】

1996年 センチュリー監査法人大阪事務所(現 EY新日本有限責任監査法人)
2004年 アーンスト・アンド・ヤング・シンガポールに日系企業担当として駐在
2009年 大阪に帰任
2015年 有限責任監査法人トーマツ大阪事務所に入所
2017年 東京へ転勤
2019年 ミツフジ株式会社に入社

【キャリアグラフ】

税理士である父の影響を受けて、士業・公認会計士を志す

ー公認会計士になるまでのことを教えていただけますか。

公認会計士になったのは、父親の影響が大きいと思います。父は大阪・梅田で税理士事務所をしており、80歳を超えて今なお現役です。「士業に就けば定年もないし、自分のペースで働くことができる」と小学生の頃から言われており、士業という響きにも憧れをもっていました。公認会計士を選んだのは、親を超えたいという思いからです(笑)。

資格取得のために専門学校に通い、1995年に大学4年生で公認会計士試験に合格。阪神・淡路大震災のあった年です。当時は神戸大学に通っており、友人で亡くなった人もいました。被災地でボランティア活動を一生懸命やっていたので神様が合格させてくれたのではないかと思っています。翌年春に卒業したのですが、監査法人は秋が就職シーズンです。実務補習所に通うための費用を稼ぐために約半年ラーメン屋とスポーツ新聞でアルバイトしたのち、センチュリー監査法人(現在のEY新日本有限責任監査法人)に就職しました。

ーセンチュリー監査法人ではどのような業務を担当されたのでしょうか。

監査法人ですので、主な業務は上場企業の会計監査でしたが、IPO準備の仕事も多い部門でした。今思えば、キャリアの最初から現在にもつながるIPOを目指す会社に関われたのは幸運でした。

自身の行動で変化を起こす経験ができたシンガポール駐在

ー入社8年目には、シンガポール勤務となったそうですが。

センチュリー監査法人は2000年に太田昭和監査法人との合併により新日本監査法人となり、アーンスト・アンド・ヤングのメンバーファームとなりました。僕が行ったのはアーンスト・アンド・ヤング・シンガポールで、日系企業のグローバル展開支援のための専門部署「JBS(ジャパン・ビジネス・サービス)」です。

シンガポールの駐在ポストに空きが出たと同僚から聞き、自分から希望して駐在員になりました。もともと、国際ジャーナリストの落合信彦さんに憧れており、彼のように世界を股にかけて仕事をしたいと漠然と思っていました。当時、僕のいた大阪事務所から海外駐在に行く人はほぼいなかったので、運がよかったのだと思います。話が出てからは2、3か月で駐在が決まったため、急いでTOEICの勉強をしました。

シンガポールはアジアのハブのような役割を果たしている国でした。経済的にも右肩上がりの活気のある環境で仕事ができたのは非常に良かったです。実は、マレーシアの駐在枠も空いていて、どちらかを選ぶことができました。迷ったのですが、妻が、駐在妻に人気のあるシンガポールにならついていってあげると言うので、シンガポール勤務に決めました。

ーシンガポールでの業務内容は、どういったものだったのでしょうか。

日本ではIPO準備に携わりながらも、やはり上場会社の会計監査がメインだったのですが、シンガポールでは監査、税務、アドバイザリーというアーンスト・アンド・ヤングの提供するすべてのサービスのコーディネート業務を行っていました。350社ほどあった日系企業クライアントを2人で担当していました。
僕はシンガポールの公認会計士ではないので、監査実務はシンガポール人の方が行います。僕は、監査で発見された問題点等を現地法人の日本人社長にわかりやすく伝え、どうやって改善するのかを一緒に考えたりする役割でした。税務では、法人税率の低いシンガポールを利用したグローバルでの節税スキームの導入支援から、クライアントの日本人駐在員の個人所得税申告のコーディネートまで何でも行っていました。

新しい顧客獲得のための営業も行っていました。当時、J-SOX(内部統制報告制度)が日本に導入され、当然海外の子会社でも対応が必要になりました。J-SOX導入支援の大手顧客を獲得し、表彰されて臨時ボーナスをもらったときは本当にうれしかったですね。

外国に駐在することで会計基準の進化に取り残されることが唯一の心配だったのですが、それは杞憂でした。当時から、シンガポールはIFRS(国際財務報告基準)を採用していたので、逆に日本の会計士に先んじてIFRSを実戦の場で学ぶことができたのです。

ーシンガポールでは満足度が高かったのですね。

監査以外に仕事の幅が大きく広がったことや、人に頼られる立場になったことが満足度につながりました。シンガポールに行く前はマネージャーでしたが、シンガポールに行ったら受け取った名刺に「Executive Director」と書いてありました。シンガポールのアーンスト・アンド・ヤングで日本人といえば僕だったのです。現地のボスから全幅の信頼を得ているという感覚も、それまでには感じたことのないものでした。世界を股にかけて仕事したいという憧れへの第一歩を踏み出せたような気になっていました。

また、生活面では、ベッドルームが3つある120平米以上の部屋で大きなプールもあるコンドミニアに住んでいました。週末はゴルフに行き、長期休暇を取ってリゾートで家族旅行を楽しむなど、家族ともども駐在員ライフを満喫しすぎて、帰ってから元の生活感覚に戻すのに一苦労でした(笑)。

大阪から関西を盛り上げるために帰国したが、ベンチャー支援に目覚めて転職を決意

ーシンガポールでは4年間勤務し、その後帰国されています。

はい。始めは3年間の契約だったのですが、1年延長の要請があり4年間勤務しました。現地のボスに「ずっとシンガポールにいてくれないか」と言われたのですが、大阪でやりたいこともあったので帰国を選んだのです。やりたかったのは、関西企業を様々な面から支援をして、関西経済を盛り上げることでした。

しかし、帰国後は若干の退屈さを感じてしまいました。
シンガポールでの経験を生かして、元駐在員の仲間たちと「アジア上場支援室」や「新興国コンサルティング室」などの新規部署立ち上げにも関わりましたが、やはり東京とくらべると大阪では海外案件が少なすぎました。また、監査も担当していましたが、ルーティンワークが苦痛になっていました。監査はある意味、変わらない、変えないことに価値があるのですが、シンガポールで自分の行動で変化を起こすエキサイティングな経験をしてきたので、監査が退屈に感じたのだと思います。そんな中、ベンチャー企業を支援するという非常にエキサイティングな業務があることを知り、監査法人ではその分野で圧倒的トップである「トーマツベンチャーサポート(現在のデロイトトーマツベンチャーポート)」を擁する有限責任監査法人トーマツに転職することにしました。

ーどのようなことをやりたいと思われて転職したのでしょうか。

やりたかったのはやはりベンチャー企業の支援です。アーリーステージから成長させてIPOまで一貫して支援する仕事をしたかったのですが、そういう業務に当時一番力を入れていたのがトーマツでした。トーマツの方と飲み会でそういう話をしているうちに、引き抜かれるような形で転職が決まっていました。

トーマツへ転職した後も監査は担当していたのですが、だいぶ減らしていただけましたので、その分、やりたかったベンチャー支援とIPO準備を中心に担当していました。
ベンチャー企業支援では、ベンチャー企業の社長が投資家や大企業のオープンイノベーション担当者たちの前で自社の魅力や将来性について紹介するピッチイベント「Morning Meet UP」を2週間に1度のペースで開催していました。トーマツベンチャーサポートのメンバーは、私よりも一回り以上若いメンバーも多く、彼らの熱量に圧倒されながらも、付いていくのに必死でした。大阪府や大阪市、奈良市等のベンチャー企業成長プロジェクトに携わり、ベンチャー企業社長のメンタリングや、事業計画作成の支援など2年半は本当に楽しい日々でした。

ーその後、東京へ単身赴任されています。

有限責任監査法人トーマツのトップは包括代表というのですが、そのリーダーシップを強化するために、「包括代表室」という、いわゆる社長室のようなトップのブレーン兼事務局を立ち上げることになったのです。海外経験も含めた幅広い経験があり、他法人から来ていることでしがらみがないので僕に白羽の矢が立てられたのだと思います。包括代表に直々に依頼されて断れるはずもなく、もちろん即答で引き受けたのですが、子供も大きくなっていたので家族もついてきてくれず、はじめて単身赴任をすることになりました。

ベンチャー支援をやりたかったのに、包括代表のサポートなんて真逆の仕事です。始めは興味をもてずにいましたが、監査法人の中期経営計画の策定や、グローバルな組織再編などに携わり、やはり新しいことに挑戦するのが好きなのか、情熱をもって取り組めるようになりました。監査法人の将来のために非常に重要な取り組みであり、やりがいのある仕事ではあったのですが、変化を起こすには巨大すぎる組織です。やはり、自らの行動により大きなインパクトを起こせるベンチャー企業に携わりたいと思い、包括代表室で1年半、2代の代表に仕えた後、トーマツを退職することにしました。

ベンチャー企業の支援側から一転、ベンチャー企業の中の人へ

ー事業会社・ミツフジ株式会社にいくことにしたのですね。

ベンチャー支援やIPOをしているときに知り合った弊社の経営顧問の紹介で社長と面談し、転職を決めました。関西経済を盛り上げるという志で関西(京都)のベンチャー企業を選んだつもりだったのですが、東京オフィス勤務で単身赴任も継続になったことは誤算です(笑)
僕は、何をやるかも大切ですが、誰とやるかをより重視しています。僕は、社長の三寺の考え方が大好きで、彼と働けることがうれしいのです。だから、彼がやりたい生体情報取得の技術をつかった世の中の課題解決を実現させたいと思っています。熱中症の予兆を検知するなど、非常に難しいテーマが多いのですが、いいモノをつくって、熱中症患者を減らすなど、社会課題の解決に貢献したいですね。

現在はCFOとして、財務戦略の立案と実行をはじめ、中期経営計画の策定や、強い会社になるための組織づくりなどを幅広く行っています。資金を含めた組織の土台がしっかりしていれば、中長期的に会社は成長していけるはずです。ビジネスを成長させる役割のオフェンスチームが思いっきり暴れられるように、びくともしない土台をつくるのが僕らディフェンスチームの役目ですね。

ー木内様は多数のベンチャー企業を支援してきましたが、自身がベンチャー企業に入っての印象はいかがですか。

支援するのと、実際にベンチャー企業の中で取り組みを進めるのとではまったく別物でした。やらなければいけないと分かっていることも、優先順位をつけなければとても全部はできませんから。転職先に事業会社を選んだ理由の一つは、支援してきたベンチャー企業の社長から「先生、そんなに言うなら自身でやってみてくださいよ!」と言われたのがくやしかったからなのです。実際にやってみて、これまで支援してきた企業への関わり方を申し訳なく思いました。偉そうに言って本当にすみませんでした(笑)。

現在は士業の先生からアドバイスを受ける側になりました。やる側に立つと理想の状態を見失いがちなので、外部の方からのアドバイスは貴重であり、絶対に必要なものなのです。これも新しい気づきでした。これまで公認会計士として幅広い業務を担当してきた方ではありますが、ベンチャー企業の中では知識は十分ではありません。特にファイナンスの理論や実務などは、公認会計士をしていても別途勉強しなければ分かりません。もちろん、実際は専門家に助けてもらいながら進めるのですが、思考の軸を持つために、自分が勉強することも大切であると思います。

ーモチベーションは上がっていますね。

駐在時代と同じで、自分の行動でできたこと、できなかったことが自分に跳ね返ってきて結果に現れるのが仕事のモチベーションになっています。もちろん責任の重さは駐在員の比ではなく、自分も経営者の一員だという気持ちで日々の仕事をしています。

今後は、会社の成長を実現させたいと思っています。自分一人の力では大したことはできないと分かっていますので、チームの力を合わせて成し遂げたいですね。

ー最後に、HUPROの読者に向けてメッセージをいただけますか。

公認会計士をしている人は、そのすごさに気付いてほしいですね。監査法人の中にいると周りにいる全員が公認会計士なので減点方式で見てしまいがちですが、会計士には、会計を中心として体系的に広く学んだ高い専門性があります。現代の企業社会の中で生きていくなら、最強に近い職業ではないでしょうか。僕自身、今世は公認会計士を選んで本当に良かったなと思っています。十分満喫しているので来世は違う職業を選んでみたいですが(笑)。監査法人の外に出ると、自分が思っているより力をもっていて、頼りにされることに気付くはずです。自信がもてず「自分なんか通用しないのでは」という理由で事業会社への転職を逡巡している人がいたら、まずは飛び込んでみてほしいです。戦っていくためのいい武器をもっていますから!!

-本日はお話いただきありがとうございました。
今回お話を伺った木内氏がCFOを務めるミツフジ株式会社のHPはこちら

この記事を書いたライター

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