会計事務所に入所して税理士を目指したものの、スタートアップ企業の経営者のスタートアップの熱意を内部でサポートしたいとキャリアを転換。様々な事業フェーズの経験を経ながらも、株式会社マクアケのビジョンとスケールに惹かれ、再びチャレンジの道を選択した田村氏。
「現状に満足せずにやりきる喜びを感じるとやめられない」と語る田村氏は、キャリアを変える中で何を思い、どんな経験を重ねてきたのか。HUPRO編集部がお話を伺いました!
【田村祐樹氏の略歴】
2007年 | 中堅税理士法人 入所 |
2012年 | 飲食スタートアップ企業 入社 |
2017年 | 大手英会話サービス企業 入社 |
2018年 | 当社 入社 執行役員 経営管理本部長 |
【田村祐樹氏のキャリアグラフ】
-新卒で会計事務所へ入所されたんですね。もともと税務にご興味はあったんですか。
将来のことを考え税理士の親戚や友人の父親に話を聞き、「経営者に近く面白い仕事だ」とアドバイスを受けて、漠然と税理士になろうと考えました。
高校まではずっと部活中心の生活で、大学に入って打ち込めるものを探していたこともあり、資格を取ろうとダブルスクールで勉強を始めました。
-働きながら税理士資格取得を目指されたのですね。
卒業後に資格を取るまで勉強に専念するか、または、大変でも働きながら勉強するかという選択の中で、私は後者を選びました。早く実務をしたい、現場に出たいと思っていました。
入所後は実務が楽しすぎて仕事に熱中したのですが、勉強もしなければなりませんでした。仕事、プライベート、勉強それぞれに全力投球していましたが、税理士試験合格には至りませんでした。
税理士試験は科目合格なので後からでも合格を目指すことはできたのですが、スタートアップ企業に転職する機会を得たことで、キャリアの方向性が変わりました。
-スタートアップ企業に転職されたのは、どのような経緯からでしょうか。
税理士業務は魅力的な経営者に出会え、やれることはたくさんあります。ただ、第三者的な立場のアドバイザーなので、困っているクライアントに解決の材料は提供しても、本当に困った時に助けられず限界がありました。良いことがあっても、当事者ではないことに歯がゆさを感じたりして、仮に資格を取れたとしてもこのまま自分のやりたい事が実現できるのかと、もやもやしていました。
そのタイミングで新規顧客として担当についたのが、飲食のチェーン店の全国展開を目指すベンチャー企業でした。経営者や創業メンバーの熱量が非常に高く、とても魅力的に感じ、一緒に働く楽しさにのめり込みました。事業を開始して数か月経過したぐらいで既に手ごたえを感じ、破竹の勢いで急成長をしていきました。そして担当して1年が経過したタイミングで、管理部門を社内で立ち上げたいという話が出た時に、来ないかと声をかけていただきました。外側でアドバイザーとして関わるのではなく、中に入ってやりたいという想いが強くなり転職を決めました。
ー実際に事業会社の中に入られてどうでしたか。
管理部門の立ち上げに関する必要な手続きは一通り理解していたのでその点は困りませんでした。ただ、外部から知識をもとにアドバイスをすることと、実際に内部で行うことは大きく異なりました。事業会社の現場で当事者として実務を経験したことで、例えば法律ができた背景を理解することができたり、経営者が当時求めていたアドバイスやサポートの理由など、会計事務所にいた時のやり取りが蘇り、深く理解することができました。
例えば資金繰りの相談で、会計事務所時代は「社長!このままいくと数か月後にキャッシュが足りなくなるので何とかしてください」と言う無責任な発言をするだけでしたが、実際に自分で資金繰り管理を行ってみると、資金不足はこんなにきついんだ、何とかできないから相談しているんだ、ということが分かりました。
アドバイスをするのは簡単ですが、実行することはとても難しい。その違いを理解して知識と経験が繋がったことが自信になりました。
ー会計事務所からベンチャー企業へのキャリアチェンジ。迷いはありませんでしたか。
税理士業界から事業会社に行くという発想が当初は全く無かったのですが、担当としてクライアントに関わったことで、自分の求めているものがここにあると確信に変わり、チャレンジをしたいと強く決心することになりました。ただ、最初は家族など周りの理解が得づらかったのは確かです。
国家資格という一般的に安定というイメージの強い税理士という職種・業界から競争の激しい飲食業界に転身するということは、結婚した直後で守るものができたという責任感もあったので、中途半端にやって「だめだった」ということでは許されないと覚悟を固めていました。それこそ人生を賭けて転職をした感じです。
遅くにタクシーで帰ってきて数時間寝て朝には出社する、というほぼ家にいないほどの生活をしていたのですが、どれだけ目まぐるしくても「やれない」と感じたことは特になかったんです。必死にもがき続けていたのもありますが、会社が成長していくことが嬉しくて、ひたすら楽しかったです。ただ、子どもの顔は寝ている時しか見られないので、なかなかなついてくれませんでしたね。転職を理解して家族を支えてくれた妻には感謝しかありません。
-忙しさを苦にせず打ち込めた原動力は何だったのでしょうか。
純粋に楽しかったからですね。
飲食の直営店舗とフランチャイズ本部を運営していたのですが、設立当初から業績が好調で、特にフランチャイズ契約店舗が毎月3、4店舗ペースで数か月立ち上がる時もありました。関東から関西に、そして北海道から沖縄まで広がり、インドネシア・中国・香港・台湾・ベトナムなど海外にも複数店舗を展開し、やればやるだけ店舗が増えていきました。
管理部門も最初は一人だったのですが三人、五人と採用してチームになり、海外にも進出したことで英語や中国語でのコミュニケーションも多く発生しました。新しいハードルが出てきてもそれをチームの力でどんどん乗り越えていきました。立ち上げから事業の成長を共にしてきたので、「これが事業会社か!」と体感し、忙しい中でもやりがいがありました。
-周囲のスタッフはどんな感じでしたか。
それがすごいことに、皆が同じ熱量を持っていました。管理部門は十数人の規模になり、人数が増えるほど全員が同じ方向を向くことは難しいはずなのに、エネルギーが未来に向いていました。社長にカリスマ性、巻き込み力があったことも大きかったですが、今思うとよくできたなと思います。
-苦労したこと、辛かったことはありますか。
苦労は常にありました。会計事務所では帳簿をチェックして申告書を作ったり、資金繰りや節税の提案をするなど一般的な税理士業務を行っていましたが、経理の実務はやってこなかったので、わからないことも数多くありました。加えて管理部門の立ち上げは全て初めての経験でした。1個1個吸収して形にして、また失敗して…の繰り返しでした。
成長のスピードがとても早く、並行して上場準備も行っていたので、資金繰りはずっと厳しく、ずっと頭を悩ませていました。
銀行からの借り入れや、成長投資資金を複数のVCからエクイティで調達するなどして、やっと回している状態でした。業績が悪化して借り入れを断られ、もう無理だなと思いました。
CFOは経営状態を最も把握している立場です。もっと早くに社長の歩みを止めるべきだったのですが、大きな流れを動かすには経験が足りず、5年で年商を50億にするという社長の確固たる思いや勢いを止められませんでした。
ー未然に倒産を防ぐことはできたと思われますか。
振り返ると結果論ではありますが、タイミングはあったと思います。フランチャイズ展開を進める中でマーケットフィットを感じたタイミングがあり、そこで、人材育成と組織づくりにしっかり注力すべきだったと感じています。一定程度の規模まではトップダウンの組織でも事業は成り立つと思いますが、将来を見据えた組織としての強さを備えるために踏むべき、育成という必要なステップは絶対に怠ってはいけないということを学びました。それは攻めを止めてでもすべきプロセスです。
あの時に勇気を持って組織づくりに注力できていれば、各現場でのマネジメント体制の地盤が確立し、強い足腰で成長ができていたかもしれません。どの会社でも転機は訪れます。この経験で、勇気を持って足を止めることは大事だと学びました。
-その後マクアケに入社されますが、ずばりマクアケのどこに魅力を感じられましたか?
入社する前に創業者、取締役や人事担当者など複数の方に会う機会をいただいたのですが、会社やサービスを大切にしている想いの強さや仕事に対する姿勢を聞いて、「こんな素敵な人たちがいるんだ」と感銘を受けました。加えてマクアケの目指すビジョン の素晴らしさやこれからの世の中により求められるサービスとしての期待感や、事業スケールの大きさなど、全てに魅力を感じ、自分もこの会社や事業を一緒に成長させていきたいと強く想うようになりました。そして上場準備の段階ですでにこの先の広がりも期待できることなど、すべてに魅力を感じました。
実は、マクアケに入社する半年ほど前に英会話サービスの会社に入社したのですが、そこは新しいことをしなくても今のことをきちんとやっていれば伸びていくという、安定した素晴らしい会社でした。前職のベンチャー企業が倒産した後でまたベンチャー企業に転職をすることに対して家族の心配があったので一度マクアケを辞退し、安定企業に進む道を選んだのですが、「自分はここで何をしたいのか。ここに居続けたら、過去の悔しさや経験が生かせず、挑戦する情熱や想いが消えてしまう」と不安に駆られ、気がついたらマクアケ取締役の木内に「もう一度チャンスを下さい」と電話をしていました。
ー常にご自身ができる最大値を目指していらっしゃるんですね。
そうですね。やりきることの大切さを経験すると納得できるまでやらないと気が済まなくなりますね。
少学校から大学まで打ち込んでいたサッカーを通じて培われてきた性分かもしれませんが、その前に小さい時から自分には、「生かされている」という感覚があります。幼少期に大病を患って回復したり、階段から落ちたけれども幸い打ち所が良かったり、九死に一生を得るというような経験を何度か経験しているので、生きている以上頑張らなければいけないと潜在的に考えています。現状に満足せずに頑張ってやりきる喜びを感じると、生きていてよかったと感じます。
-マクアケではどんなお仕事をされていますか。
管理部門でCFOであり経営管理本部長として、財務経理とコーポレート法務の2部門を統括しています。メンバーはそれぞれ素晴らしい経験と力を持っているプロフェッショナルな集団で、公認会計士や上場企業出身者等で構成されています。私は経営管理本部長として、財務会計、法務の視点を軸足に、事業を成長させるために何が必要かという観点から攻めと守りを両軸で強化しています。管理部門だから守りだけをしていればよいというわけでは全くなく、あくまで財務会計、法務という専門領域のノウハウを生かしながらいかに事業を成長させるか、が軸にあるべきだと思うので、マクアケの経営管理本部では攻めも守りもどちらの意識も持ち、コア業務は100点で行う前提で、積極的にチャレンジをしています。
小学校では生徒会長、中高ではサッカー部のキャプテンをしていたのですが、「俺について来い!」というタイプではないにもかかわらず、「お前だろ!」と周りから推薦されて選ばれてきました。ぐいぐい引っ張るのではなく下から支え、チームの調和を取るのが昔からの自分のスタイルです。
管理部門はリーダー主導のチーム体制は合わないので、今までのチームビルディングの仕方や役回りが活かせていると感じます。
-上場までの話をお聞かせいただけますか。苦労したこと、大変だったことは何でしょうか。
まず第一に、上場前のタイミングでトラブルが続いたことです。今のままではまずいかもという、前回のベンチャー企業の転機と似たようなシチュエーションでした。そこで、管理部門主導で約二カ月営業をほぼ止めて、守り強化施策としてビルドアッププロジェクトを行いました。勇気がいることでしたし、いろいろと手を尽くし、功を奏して業績の改善に繋げられました。それまでのマクアケは流れが良くてどんどん成長してきましたが、上場準備のタイミングでトラブルが続いたのは、一度止まれという天からのメッセージだろう、と感じました。
このタイミングでアクションを起こせたのは前職までの経験のおかげだと思います。無理をして前に進んでも良いことは無く、負荷がかかり過ぎる体制はどこかで歪みが出てきます。前職の経験を考慮に入れて成功したことで、以前やりきれなかったことのリベンジができたと思いました。
次の苦労は、いわゆるクラウドファンディング事業を手掛ける企業の上場は日本中を見ても過去に例が無かったことです。パイオニアとしての宿命ですが、前例が無いところを突破するというのは想像以上に大変で、東証の審査も標準審査案件ではなく理事会審査案件になりました。
当時、日本でのクラウドファンディングビジネスは東日本大震災の後に誕生したこともあり、募金活動や寄付的な意味合いが強いイメージがありました。実際に他社サービスにおいてトラブルもあったため、東証としてもこのビジネスモデルが安全かどうか分からずリスクを取れないと判断されました。マクアケは一般的なクラウドファンディングとは違い、新商品や新サービスの予約販売サービスが基本となっているため募金や寄付活動のようなプロジェクトはそもそも扱っていないのですが、より安心安全なサービスにするために審査体制は創業当初から強化しており、トラブルの発生率の低さ、トラブルを未然に防ぐ対処と事後の対応フロー、投資家への利益保護に対する考え方など、法的な面と営業面の双方でこれまで築いてきた体制を説明し、理解をいただきました。
ここで困難なチャレンジを成し遂げられたのは、経営全体の意識や思想がしっかり確立していたからです。だからこそ私もそれを信頼し、与えられたルールの中で正しいことを正しくやると決めていました。グレーゾーンに突っ込んだり曖昧さを残すことなく、信頼が得られるように健全なサービスを創り上げてきました。経営者の中山の思想が全員の共通認識となっており、一人一人がそれをしっかり意識して、真面目過ぎるぐらい真摯にやってきた結果だと思います。
-マクアケで働く方々、社内風土について教えていただけますか。
マクアケのサービスが大好きでビジョンに共感しているということはもちろんですが、共感だけではなく「ビジョンの実現のために自分に何ができるか」という考えをしっかり持っている人が多いです。事業を純粋に伸ばして目指すゴールはこれだという根っこの想いで繋がっていながら、そこに向かうために個々の角度からアプローチができる。「我ごと」感が強く、自分が大切にしているサービスに対してみんなが意見を持っているので、議論が活発です。
今は人が増えてきたのでビジョンをどこまで浸透し続けられるかというのが今後のチャレンジです。ビジョン共感度を薄めずにメンバーが同じ方向を向き続けるために、上場した後にみんなで話し合ってマクアケの文化や行動指針を言語化したカルチャーブックを作りました。カルチャーを浸透させるために「カルチャー推進部」という専任の部署があり、社内向けの広報活動や盛り上げるための企画から各種施策運営までを担当しています。リモート勤務でより関係が薄くなりがちな中でも採用活動は積極的に行っているので、新しい環境下でどうコミュニケーションを取っていくかを考えています。部活や社内向けTV番組の制作などマクアケならではのユニークな取り組みを通して、各自のモチベーション向上に力を入れています。
-現在活躍される中で、やりがいを感じるのはどんな時でしょうか。
正直言って、やりがいしかありません(笑)
上場はしましたが、今後やるべきことはまだまだたくさんあります。クラウドファンディング事業を行う企業での上場が初めてだったのなら、上場会社としてこの先を創るのも初めてです。上場タイミングで、「マクアケが提供しているのはいわゆるクラウドファンディングサービスではなく、アタラシイものや体験の応援購入サービスである」と新しく定義し直したことも当社にとって重要な転機でした。私の経験としては、ファイナンスやM&A、格付け、社債などのマクアケがまだ行ったことのない領域もこの先にはあるだろうし、チームメンバーも同じようにやりがいや未来への期待を感じています。新しいチャレンジは今後のキャリアに繋がっていくし、そういう場をチームに提供できることが嬉しいです。
事業でもやらなければいけないことは山積みです。日本国内でも地方ではもっとサービスを広めていきたい領域がたくさんあります。もちろんそれを国内から世界に目を向けるとさらにまだやることは無限に広がっていきます。マクアケが初めて開拓した「0次流通(ゼロジリュウツウ)」という新しい市場を顕在化していくことを目指しています。
-新しい市場「0次流通」とは具体的にどういうことでしょうか?
新商品のデビューにフォーカスし、市場に出る一次流通の前の段階で商品を知り、購入することができる市場のことです。この新商品デビューを実現するのが「0次流通」であり、当社の応援購入サービス「Makuake」を通して顕在化しています。新商品のデビュー市場に特化したオンラインサービスは今までありませんでしたが、事業者がマクアケのサービスを利用すると、一般発売前にサイトに新商品を掲載できて、ユーザーから評価やコメントがもらえます。データを取ることでユーザーの反応が分かりますし、入金されてから商品を作り始められるので、リスクなく商品をデビューさせることができます。
「Makuake」の累計会員数は185万人以上います。この人数を相手にして市場の反応をマーケティングできますし、PR効果もあります。20%の手数料の中にこの全てのサービスが含まれているので、マクアケがよほど嫌いでなければ利用していただけるといいと思います。
企業側も消費者側もメリットがあり、商品カテゴリーはオールジャンルを扱っていますし、月平均で700件以上の新商品やサービスが生まれる場になっているので面白い商品もたくさんあるのですが、「Makuake」の良さがまだユーザーに届いていないと感じています。もっと「Makuake」を知ってほしい、上場もその一手段です。
-5年後10年後に目指すビジョンはありますか。
モノが生まれる時は必ず「Makuake」でデビューさせてから流通に乗せるという流れがベーシックになるように、世の中のプロセスをガラリと変えたいです。新商品を出す時は「Makuake」で「0次流通」にのせるのが当たり前、在庫を作ってから売るのではなく作る前に売る、そんな時代にしたいです。
日本のルールを3年後に変え、世界のルールを5年後に変えるという目標を掲げていて、そこにいかに近づけていくか、試行錯誤しながら進んでいきたいです。
-HUPRO読者に向けてメッセージをお願いします。
士業は資格を取るまでが大変なので、キャリアに悩んでも、今の立場を失うのが怖いと保守的になってしまうのは無理もないことです。ただ、税理士法人や監査法人、弁護士事務所から事業会社の管理部門へのキャリアチェンジは珍しいことではありません。マクアケにも、私と同じようなステップを踏んだメンバーが複数人います。
専門的な領域で第三者の意見を提供する価値のある仕事をしている税理士、会計士、弁護士の方や今目指している方の中には、当事者として関わりきれていない不甲斐なさ、もっとやりたい、責任を伴うけどやりがいを感じて仕事したいという想いを抱きながら業務に取り組まれている方もいらっしゃると思います。
その場合は、ぜひ思い切ってチャレンジしてみてください。これまでと全く違う景色が待っていますし、違った感動とドラマがあります。
人生一度きりなので自分に正直に、素直になってキャリアを切り拓いていきましょう。
-本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
お話を聞かせていただいた田村氏が経営管理本部長を務める株式会社マクアケはこちら!