会社と直接利害関係のない、独立した有識者や経営者から選ばれることが多い「社外取締役」。社内のしがらみにとらわれないことで、会社の取締役の業務執行を監督できる存在です。本記事では、社外取締役の役割・義務・報酬などについて解説します。
社外取締役とは、会社や子会社・関連会社の取締役や使用人でない取締役のことです。コーポレート・ガバナンスにおいて、独立性と透明性の高い監視機能を持つとされています。
業績に厳しい投資家の多い欧米では積極的に活用されており、アメリカなどでは取締役会の半数以上が社外取締役という事も珍しくありません。
日本でも、2002年に商法が改正されたことから社外取締役が導入されました。また、2014年には会社法も改正され、大企業においては社外取締役を置かない理由について株主総会の説明が義務付けられています。
「社外」と名が付く通り、その企業と利害関係がない事が求められます。具体的には以下のような要件です。
2015年には、金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を打ち出しました。それによると経営から独立した立場の社外取締役は最低2名、グローバル企業においては1/3以上が望ましいとなっています。すでに東証上場企業の9割以上が社外取締役の設置を行っています。
しかし、日本は欧米社会と比べると性善説の考え方が根強いです。さらに従来のやり方を変えることに対する抵抗も強いため、社外取締役が本来求められる役割を果たしづらい環境にあります。
日本企業は、社内の結束が固く、組織には固有の文化ともいえるような慣習があったりと、ある意味では会社自体が「家族」のような位置づけで長い間存続してきました。
それで成果が出ているうちは良いのですが、経営が傾くと今までのしがらみから無駄を削減できなかったり、明らかな不正取引に手を染めてしまったり、多くの弊害が見えるようになってきています。
こうしたことをチェックするのが社外取締役の役割です。
社外取締役は、会社の経営や業務には一切タッチしません。その代わり何をするかというと、株主の利益という視点で取締役会を監督するのがその役割です。
今までは「お飾り」ともみられがちであった社外取締役ですが、日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が巨額の役員報酬を隠したとされる事件など、閉じた取締役会内で行われるごとにメスを入れることが期待されます。
企業の外にいることから見える、企業の問題点を解決する存在となるのが、社外取締役の責務であるともいえるでしょう。
取締役会に参加する社外取締役は、必然的にその会社の機密事項に触れることになります。
そのため、自らが社外取締役を務める企業で得た知識や情報を他の企業に渡したり、そのノウハウで自ら起業するという事はできません。
これは、社外取締役を退任した後も義務として課されることもあり、誓約書にその項目が盛り込まれることもあります。
社外取締役の報酬はどのくらいが妥当なのでしょうか。
社外取締役は、社外の人なので、当然会社事業についての見識はなく、コンサルティングとは異なります。
2018年4月末時点で東証1部に上場する約1980社の社外取締役について、株主総会の資料などから調べた朝日新聞と東京商工リサーチの調査によると、平均で年663万円の報酬を得ているそうです。
出典朝日新聞 2019/2/14配信「社外取締役、報酬は年平均663万円 兼務で高額報酬も」
社外取締役の報酬にはばらつきがあり、日経平均株価に採用されている上場225社では、1200万円が平均となっているそうです。
なお、日産自動車は社外取締役1人に200万円。その後、2018年6月からは3人に増員したとのこと。複数の企業を掛け持ちする社外取締役も多くいます。
日本企業のグローバル化に伴い、その経営についてもより高い健全性と透明性が求められるようになっています。相次ぐ企業不祥事を受け、社外取締役が機能するかが課題となっています。
しかし、社外取締役を指名するのは、会社の代表取締役です。
官僚が定年後に天下り先として企業の社外取締役に収まったり、世間に向けて女性活用を行っているように見せるために、あえて話題性のある女性を起用したりなども多く、期待されるような役割を果たせない場合が多くみられます。
最近も大手企業などで、社外取締役が有効に機能していないと指摘される事例も相次ぎました。
普段経営にタッチしていない分、社員なら当然知っているはずの会社の常識について疎いため、説明コストが高いという声も聞かれます。
欧米では社外取締役の設置が当然という状況の中、日本ではまだまだ取り組みが遅いとされています。
そのため、政府は今まではあくまで「指針」であった、コーポレートガバナンス・コードにおいて、法令において義務化することを検討し始めました。
2020年中には、会社法の関連法案が国会審議に出される予定です。法律に明記することで投資家にコーポレートガバナンス(企業統治)強化を外国投資家にアピールし、日本企業への投資を呼び込むことを狙いとしています。
今後さらに本来の役割を果たすことが期待される社外取締役は、法律や財務などの専門知識を持った、弁護士や会計士、税理士も適任といえるポスト。企業の矛盾を突くためには専門知識は不可欠です。