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持株会社のメリットとは?リスクヘッジにも役立つ事業運営の効率化手法

HUPRO 編集部
持株会社のメリットとは?リスクヘッジにも役立つ事業運営の効率化手法

「〇〇ホールディングス」という会社の名前を聞く機会が多いのではないでしょうか?このホールディングスとは日本語で「持株会社」と言います。

実は、近年では、日本でも会社の持株会社化が進行しています。特に、数多くの株式を発行している上場企業については、常に多様なリスクに晒されているので、そのリスクを効率的に管理する仕組みが必要です。様々なリスクを効率的に対処することを目的として、多くの会社がすでに持株会社化して企業グループを形成しているというわけです。

そこで今回は、持株会社のメリットについて焦点を当てたいと思います。構造的に生じるメリットによって企業活動の適正化が図られるため、ぜひ最後まで参考にしてください。

持株会社とは?

持株会社とは、子会社の株式を保有することによって傘下企業の経営等を支配する会社のことです。一般的に投資目的で他企業の株式を取得するケースがありますが、これは持株会社の考え方には含まれません。持株会社の場合には、いわゆる「○○ホールディングス」といった名前を付ける企業グループを指すのが一般的で、様々な事業や会社を持っている会社の上に持株会社と呼ばれる管理機能を有する会社を作ることになります。つまり、持株会社とは、純粋に“事業を支配する目的”からの株式取得が想定されるものです。

持株会社は、「純粋持株会社」「事業持株会社」の2種類に区別されます。純粋持株会社とは、様々な子会社を管理や決算を組んで子会社からの配当で収益を得ることを目的とするもの、事業持株会社とは、親会社側でも事業を営みながら子会社を管理・支配するもののことです。

いずれにしても持株会社は各子会社の株式を基本的に100%またはそれに近い形で保有して、事業戦略を統一しつつ、子会社からの配当や経営指導料という名目で収益を計上することとなります。

なお、持株会社の概要については以下のコラムでも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。

持株会社のメリットとは?

それでは、持株会社のメリットについて詳しく見ていきましょう。持株会社化のメリットとして考えられるのは次の5点です。

・経営リスクやダメージを分散できる
・効率的な事業運営が可能になる
・M&Aが効率化される
・買収防衛に役立つ
・差別化できる事業ごとに人事制度・労働条件を細分化できる

持株会社なら経営リスクやダメージを分散・軽減できる

持株会社構造にすることによって、経営リスク・ダメージを分散できるというメリットが生じます。一般事業会社が直面するリスクには多くの種類があることから、具体的な場面に沿ってリスクヘッジ等について見ていきましょう。

グループが所有する知的財産の保護に役立つ

企業は、それぞれ知的財産や営業秘密など、外部に流出させてはいけない情報を抱えています。持株会社によって企業をグループ化することができれば、他の一般事業会社からこれらの秘匿性の高い情報を保護することが可能となります。具体的には、持株会社に保有している知的財産や営業秘密といった(グループ)会社にとっての資産を、事業を展開する会社(事業会社)から分離して、一括して効率的に管理するという手法が採られるのが一般的です。

このように、持株会社は、会社固有の個人資産を保護する目的でも利用することができます。持株会社の場合、これらの資産は技術的には会社が保有するものであり、個人が保有するものではないため、負債債務、訴訟、その他のリスクから保護されることになります。

訴訟対応が効率化

たとえば、訴訟などが起こった際に、一つひとつの事業会社が対応していると訴訟リスクや訴訟コストに個別に対応しなければいけません。しかし、持株会社化しておけば、訴訟対策などの業務を一括で請け負うことが可能になるので、本来的業務とは無縁の訴訟追行業務などを効率的に進めることができるでしょう。

経営リスクへのフォロー

また、持株会社構造は経営リスクへのリスクヘッジにも有用です。たとえば、企業グループ内の会社が倒産した場合、持株会社(親会社)は資本損失を被り、純資産が減少する可能性があります。しかし、倒産した子会社の債権者は、法的には持株会社に報酬等の請求権を行使することはできません(なぜなら、法的主体が異なるからです)。つまり、持株会社が正しく設立されていれば、ある子会社の債務負担が他の子会社に影響を与えることはありませんし、ある子会社が倒産を宣言しても、他の子会社に影響を与えることはありません。

このように、持株会社(およびその様々な子会社)の財務上および法的責任に晒されているリスクを抑制するのに役立ちます。

この点に関連するのが、事業の一部を税率の低い地域に戦略的に拠点を置くことで、企業の全体的な税負担を軽減することも可能だということ。法的主体を区別することによって税制上の優遇さえも狙えるのは大きなメリットと考えられるでしょう。

企業価値毀損への予防

さらに、企業グループの資産保護のための戦略として、親会社が持株会社として事業内容ごとに子会社を設立することも行われています。たとえば、ある子会社は親会社のブランド名や商標を所有し、別の子会社は不動産を所有するということも可能です。

権利・財産を異なる法的主体に帰属させることによって、資産・イメージなど、企業価値を左右する重要な財産を保護することができます。

持株会社なら効率的な事業運営が可能になる

持株会社でホールディングス化が進めば、効率的な事業運営が可能になるというメリットが得られます。なぜなら、親会社がグループ全体の事業方針を統括して指揮することができるからです。たとえば、親会社が経営部門を、子会社が適切な形で事業部門を遂行することができれば、各々が業務に専念できるので、全体としての効率性が向上するのは言うまでもないでしょう。

もっとも、グループ化の際に将来的な事業運営の効率化まで視野に入れなければ、どこかのタイミングで各部門の経営に圧迫感が出る、場合によっては事業進行自体が阻害されるリスクさえ生じかねません。組織変更は常にデメリットも抱えるものなので、適正な運用が期待されます。

持株会社体制ならM&Aが効率化される

持株会社という統一軸を作っておくことによって、将来的なM&Aをスムーズに進めやすいというメリットが得られます。なぜなら、「株式」という流動性の高いもので結びつき合っているため、組織変更に馴染みやすいという性質が認められるからです。

そもそも、持株会社によるホールディングス化では、親会社と子会社、そして、子会社同士はあくまでも別会社という建前が維持されます。つまり、一定の関係性は有しつつも、建前上は別の組織です。

したがって、将来的な買収・合併のタイミングで問題となるような会社間の摩擦・軋轢・トラブルを回避しやすい土壌ができあがっているうえに、M&Aによってより密接な関係性が出来上がることへの抵抗感も和らげられることになります。

また、仮に子会社側の売却を検討する場合でも、持株会社構造なら決算が独立しているので資産調査などの手続きをスムーズに進められやすいと考えられます。

持株会社は買収防衛に役立つ

持株会社関係にあれば、ホールディングス化した子会社の買収防衛に役立ちます。なぜなら、親会社がすでに大部分の株式を保有していることから、子会社側・親会社側で敵対的買収等に対する防衛策を二重構造でとることができるからです。

特に、昨今では外国資本による市場参画が激しく、資本力の劣る中小企業レベルの子会社は簡単に買収されるリスクがついて回ります。敵対的買収が成功してしまうと、経営方針の転換だけではなく、知財やノウハウなども流出するおそれがあるため、額面に換算できないデメリットさえ生じかねません。

したがって、対外的な防衛力を高めるという意味でも、持株会社は有用だと考えられます。

差別化できる事業ごとに人事制度・労働条件を細分化できる

持株会社にすれば、事業単位(子会社)ごとに人事制度・労働条件を細分化できるので、各子会社における事業活動をより円滑に進められるというメリットがあります。

たとえば、製造する商品ごとに工場の稼働状況は異なるでしょう。そうなると、休日・労働時間・残業制度・福利厚生制度・人事評価制度なども異なるのは当然なので、持株会社構造にして差別化を図った方が現実的な対応が可能となります。もし、持株会社構造にせずに統一的な就労規則に縛られてしまうと、会社側だけではなく従業員側の不満もたまるというデメリットが生じるでしょう。

したがって、持株会社によって従業員の労働環境にまでメリットが生じると考えられます。

純粋持株会社特有のメリット・デメリット

それでは、特に純粋持株会社に焦点をしぼってメリット・デメリットについて考えてみましょう。

純粋持株会社のメリット

持株会社のうち、純粋持株会社のメリットとしては、子会社管理に専念できることが挙げられます。いわゆるホールディングス会社であれば2,3社の子会社ではなく、10社や100社などの多くの子会社を有することが多くなります。

この点、事業持株会社では自社の事業や管理をしながら子会社の管理もしなければならず、子会社管理に注力ができなくなります。よって、純粋持株会社の方が子会社管理能力に優れていると言えるでしょう。

純粋持株会社のデメリット

純粋持株会社は本業が無いので、子会社からの配当や経営指導料から利益を生み出すこととなります。よって、子会社の業績が芳しくないと収益が獲得できず、結果として投資家に配当ができないという可能性もあります。

また、純粋持株会社は子会社からの配当金が利益の大部分を占めることとなりますが、配当金が益金不算入になり税金が発生しないことが多くなります。しかし、子会社側では利益が出るので法人税を払うこととなり、グループ全体としては税金が多めに流出してしまう可能性がある点がデメリットとも言えます。

純粋持株会社の連結納税のススメ

純粋持株会社のデメリットの一つに、子会社からの配当金が益金不算入となることでグループ全体の税金が高くなってしまうものがありました。

この点、連結納税制度を適用するとデメリットが解消できる場合があります。というのも、連結納税制度は親会社と子会社で発生した損失と利益を相殺してグループ全体として納税をすることができるため、純粋持株会社のデメリットを補えるのです。

ただし、適用できるのは法人税部分だけで、地方税部分については今まで通りメリットはないという点に注意が必要です。また、連結納税は専用のソフトの導入や専門知識の必要性、子会社から入手する資料が増えることなど費用対効果の面で必ずしもメリットがあるわけではないことにも注意したうえで判断する必要があります。

事業持株会社のメリット・デメリット

つづいて、事業持株会社のメリット・デメリットについて考えてみましょう。

事業持株会社のメリット

事業持株会社のメリットとしては、本業を営みながら子会社を管理するため、持株会社単体でも利益が出る構造にあることです。したがって、無理に子会社から経営指導料や配当金を貰わなくともよく、配当原資が十分に確保できることが利点であると言えます。

また、人材確保しやすいというメリットも得られます。というのも、「○○ホールディングス」という会社は知らなくとも本業の「○○株式会社」は知っているということはよくあります。求人を出す際に「○○ホールディングス」よりも看板事業で募集をしたほうが応募者も多く集まりがちだと言えます。

事業持株会社のデメリット

事業持株会社は本業を行いながら子会社管理をするため、子会社管理に手が回らなくなるおそれがあります。また、会社内に子会社管理部門と本業管理部門が重複することもあり、管理コストが高くなってしまう可能性もあります。

まとめ

持株会社は他業種に参入しやすかったり意思決定のスピードが上がったりと様々なメリットがあります。また、持株会社によって生じるデメリットは、連結納税や適正な経営管理によって十分にカバーすることができます。

持株会社化によって企業の社会的な存在感は飛躍的にアップします。将来的な企業成長・各事業単位のスリム化などの展望を実現するため、適切なタイミングでの導入を検討しましょう。

この記事を書いたライター

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