企業が大きくなると、様々な方法によって部門を管理します。部門も大きくなるとその組織のみで意思決定を行うことや業績評価をすることが機動性等の観点から望ましくなってきます。
今回はそんな組織再編の一つである会社分割について、現役公認会計士が解説します。
会社分割とは、組織再編の一種であり、既存の会社がその有する権利義務の全部または一部を分割して他の会社に承継させることを言います。このうち、既存の会社に事業を移すことを吸収分割と言い、新たに設立した会社に移すことを新設分割と言います。
吸収分割は例えば同じような事業を行っている子会社に親会社の権利義務を移す際に使い、どの子会社でも行っていないような事業を新たに子会社として管理するためには新設分割を用いることがあります。
会社分割のうち、吸収分割の方法は以下の通りです。
まず、吸収分割契約書を作成して関係者が見られるように会社に保管しておく必要があります。その後、吸収分割会社において債権者が異議を唱える期間を設けます。これは、分割先の企業の財政状態が悪い場合、債権者が不利益を被ることがあるためです。
その後再度書面を備蓄したのち、承継する会社の債権者にも異議を唱える期間を設けます。これは、債権者にとって負の財産ばかり押し付けられるような場合は不利益となる可能性があるためです。
なお、新設分割の場合は、新たに会社を作ることになるので、既存の会社の債権者が異議を唱える期間を設けるのみで実施できます。
会社分割の会計処理は、「企業分離等に関する会計基準」「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」に沿って行われます。
会社分割の会計処理についてはこれらの基準に書いてありますが、実務指針だけで500ページ近くあるほどです。これだけ聞くと読む気もなくなるような会計基準ですが、ベテランの公認会計士でも隅から隅まで読むことはありません。事例に直面する都度、辞書代わりに使用される程度となります。
基準を読む際は原文を読むのではなく、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」の末尾にある説例を読むことをお勧めします。監査法人に勤める会計士も事例に合った説例を参考にして仕訳をすることが多いです。
税務上は、分割型分割か、分社型分割かによって分けられます。
人的分割、すなわち分割会社の株主等に対して、事業を継承する会社や新設される会社から対価が交付される場合は分割型分割とされます。
一方で、物的分割、つまり分割会社に対して、事業を継承する会社や新設される会社から対価が交付される場合は分社型分割とされます。
簡単に言えば、元々あった会社の株主に何らかの対価を支払うか、その会社そのものが株式を得るなどの対価をもらうかという違いになります。
税務上最も重要な論点としては、適格分割と非適格分割の違いです。詳細な要件は割愛しますが、適格分割では資産及び負債を簿価で引き継ぐことになり、非適格分割では資産及び負債を時価で引き継ぐこととなります。
簡単に違いを説明すると、適格分割では会社分割をした前後で会社の経済的実態が変わらない場合に適用され、非適格分割では会社分割をした前後で会社の実態が変わっている場合に適用されます。
会社分割のメリットを考える場合には、他の似たような処理との違いを考える必要があります。
会社分割と似た事業の継承方法としては、事業譲渡があります。事業譲渡は特定の事業について会社から会社に移転する点で会社分割と同様ですが、事業譲渡が事業に関する資産及び負債について特定して個別に移転し、会社分割では事業について一括して移転するという点で異なります。
よって、個別の資産負債を特定しなくとも良いという点で会社分割にはメリットがあると言えます。もっとも、会計処理をするために結局は資産負債を洗い出さなければならないという点では薄いメリットであるとも言えます。
また、分割も事業譲渡も従業員が会社から会社に移転します。事業譲渡の場合は、雇用関係の移転について個別に従業員に同意を得なければなりません。一方で会社分割では労働関係が当然のように移転先に引き継があれるため、労働者との話し合いなど、法律にのっとっていれば当然のように引き継げるメリットがあります。
会社分割は先ほどのお話のように、包括して事業を継承するメリットがあります。しかしこれは逆にデメリットでもあります。
というのも、事業譲渡は資産及び負債を特定して引き継ぐため、後から知らない資産負債を引き継いだということはありません。一方で会社分割では事業に関する権利一切ということになりますので、簿外債務を引き継ぐ可能性があります。
このようなデメリットを防ぐためには、分割前の会社の訴訟事件や債務保証等の有無について法務部門や弁護士と連携をとって進める必要があります。
それでは、実際に行われた会社分割の事例をご紹介します。
楽天の100%子会社である楽天モバイル株式会社が、会社分割を用いて合同会社DMM.comの運営する「DMM mobile」及び「フレッツ光」を利用したインターネットサービス事業「DMM光」を承継しました。楽天モバイルは、本会社分割の対価としてDMM社に約23億円を公布しました。
これによって、楽天モバイルは、モバイル事業の顧客基盤の拡大と、「楽天エコシステム」におけるメンバーシップの強化を狙う。また、楽天グループの豊富なサービスや、「楽天スーパーポイント」とのシナジーを創出を図っています。
共同印刷は、クレハのブローボトル事業を会社分割(簡易吸収分割)により承継することを決定し、クレハと吸収分割契約を締結した。共同印刷は、本会社分割の対価として、クレハに約17億円を公布しました。
共同印刷グループは、中期経営方針において、生活・産業資材部門の拡大を重点施策に位置付けている。これによって、共同印刷は、生活・産業資産部門における事業領域の拡大を推進し、企業価値の向上を狙います。
今回は、会社分割についてお伝えしてきました。最初に会社分割の仕組みを理解するのが少し難しいですが、実際に行われた事例と共に考えると理解しやすくなるためおすすめです。
《参考記事》