経営方針が一致しなくなった場合や、不祥事を起こした場合に取締役を解任する必要が生じる場合があります。こうした場合に取締役を解任する際、どのような方法・手続きがあるか、注意点とともに解説します。
一般的に解任とは、選任者の一方的な意思で職を解くことをいいます。これに対して辞任は選任された者が自らの意思で職から退くことをいいます。取締役が自ら職を退く場合、つまり辞任する場合、いつでも取締役は辞任をすることができますが、会社に「不利な時期」に辞任した場合には、会社から損害賠償請求をされる可能性があります(民法651条2項)。「不利な時期」については、ケースによって判断が分かれるところですが、例えば、なんの引き継ぎもしないで取締役が辞任するといった場合には、会社にとって「不利な時期」にあたるとされる可能性があります。
取締役を解任するには、
①株主総会決議によって解任する方法
②解任の訴えを裁判所に提起する(株主)
方法があります。ただし、②の方法は、特殊な場合に使われる方法で、一般的には①の株主総会決議による方法が用いられます。
株主総会決議による解任はいつでもでき、特に解任に理由は必要ありません。解任の手続きとして、取締役解任のための株主総会決議は、次の要件を満たしている必要があります。
・株主総会決議に議決権を行使できる株主の過半数以上が出席していること
・出席した株主の過半数以上で決議していること
これらの要件を満たした株主総会決議により、取締役の解任について過半数の賛成が得られた場合に会社は取締役を解任することができます。なお、定款で出席要件を3分の1まで下げることはできますが、それ以下にはできないことが会社法で定められています。また、決議についても過半数以上とすることを定款で定めることはできますが、それを下回ることはできません。
取締役を解任する場合には、次のような事項に注意する必要があります。
①株主総会決議を適法に行うこと
②正当な理由なく解任した場合には、取締役から損害賠償請求をされる可能性があること
①については、会社法の規定に従って、適法に株主総会決議を行う必要があり、これを行わなかった場合には、株主総会決議取消しの訴えなどにより、取締役の解任決議の効果を取り消されるおそれがあります。
②については、解任するのに理由は必要ありませんが、解任に正当な理由がない場合には取締役は会社に対し損害賠償請求権を有します(会社法339条2項)。正当な理由は、最高裁判所の判例によると、持病の悪化により療養に専念する必要がある場合に、取締役を解任した事例について、正当な理由があるとしています。
損害賠償として請求されるのは、一般的に残りの任期期間の報酬とされています。正当な理由がなくても解任できますが、こうした損害賠償を請求されるリスクがあることに注意が必要です。
前述のとおり、取締役の解任は株主総会決議を適法に行う必要があります。そこで、取締役を解任する場合の株主総会決議の手続きについて流れを説明します。
まず、取締役会で株主総会に関する事項について決定します。なお、取締役会を設置していない会社の場合には、取締役が決定します。決定する事項として主なものは以下の通りです。
・株主総会の日時と場所
・株主総会決議の目的(取締役の解任)
・書面による決議を認める場合にはその旨
・電子投票を認める場合にはその旨
株主総会に関する時効について決定したら、次は株主総会の招集通知を株主へ発送します。招集通知は取締役会設置会社の場合には書面で行う必要があります。招集を行う期限は、会社が公開会社(上場企業のように株式に譲渡制限がない会社)である場合には、株主総会決議の日の2週間前まで、非公開会社(株式に譲渡制限がある会社)の場合には1週間前までに通知を発する必要があります。通知に記載する事項は、主に①で決定した事項になります。
株主総会決議の進行については次のような流れで行われます。
1.議長就任
2.開会宣言
3.議事進行に関する説明
4.出席株主数と議決権数の報告
6.議案の説明
7.質疑応答・審議方法の決定
8.議案の採決
9.審議終了・閉会
なお、一般的な株主総会決議では上の事項に加えて、監査役による監査報告や、計算書類に関する報告も行われます。
株主総会が終了したら議事録を作成します。議事録には以下の内容を記載します。
・株主総会が開催された日時及び場所
・議事の経過の要領及びその結果
・監査役等により述べられた意見又は発言
・出席した役員等の氏名又は名称
・議長の氏名
・議事録を作成した取締役の氏名
取締役の退任は登記事項になるため、登記を行う必要があります。
解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対して解任によって生じた損害賠償を請求することができます。つまり言い換えると、解任について正当な理由がある場合には取締役は損害賠償を請求することができません。
正当な理由が認められるのは以下の場合です。
• 健康悪化により職務の執行に支障がある場合
• 法令・定款に違反する不正な行為を行った場合
• 職務の能力を欠き著しく不適任である場合
上記に加え、取締役の経営判断ミスが正当な理由に含まれるかどうかについては見解に相違が見られます。裁判例では、一般論として経営判断ミスによって会社に損害を与えた場合も正当な理由になると述べたうえで、取締役としての適正の欠如や投機性の高い取引の失敗を経営判断ミスであると指摘し正当な理由であると認めたケースがあります。
実務では、取締役相互間の対立や株主と取締役の対立が原因で取締役が解任されるケースも見られます。そのような場合はケースによりますが、単に経営方針の食い違いや人間関係の悪化は正当な理由として認められにくいといえるでしょう。