大学時代に公認会計士試験に合格後、事業会社の経営を通して社会に貢献したいという明確な将来ビジョンを持ち、監査法人や戦略コンサルティング会社でキャリアを形成してきた清水敬太氏。株式会社スシローグローバルホールディングス(現 FOOD & LIFE COMPANIES)の経営企画での経験を経て、2021年からは「人々の生活をより幸せで豊かなものとする」「日本文化の発展に貢献する」というご自身の価値観と合致した企業理念を持つ株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)に入社し、CFOとして企業の発展を支えています。
困難を楽しんで実績を積み重ねてきた清水氏のキャリアや、仕事に対して大事にしている考え方などについて、HUPRO編集部が伺いました。
【清水敬太氏のご経歴】
2001年3月 | 一橋大学経済学部卒業 |
2001年4月 | 有限責任監査法人トーマツ入所 |
2006年7月 | 株式会社ドリームインキュベータ入社 |
2012年7月 | 株式会社あきんどスシロー入社 |
2013年7月 | 同社執行役員経営企画本部長 |
2015年7月 | 同社取締役執行役員社長室長 兼 情報システム担当 |
2016年2月 | 株式会社スシローグローバルホールディングス(現 FOOD & LIFE COMPANIES)執行役員経営企画担当 |
2017年6月 | 同社執行役員財務経理担当 |
2019年10月 | 同社上席執行役員 財務経理・投資事業管掌 |
2021年4月 | 株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)入社 執行役員 CFO就任 |
2021年7月 | 株式会社ドン・キホーテ監査役就任(現任) |
2021年9月 | PPIH 取締役 兼 執行役員 CFO就任(現任) |
-大学時代に公認会計士の資格を取得されていますが、会計業務に興味を持ったきっかけをお聞かせいただけますか。
公認会計士という資格を初めて知ったのは高校時代、進学先の大学を決める際に職業案内を読んでいたときでした。当時から数字が得意という意識があったので、自分に向いているのではないかと思うとともに、会社経営のアドバイスができるという点でとても魅力的に感じました。
もともと会社経営を通じて社会に貢献したいという考えを持っていたので、得意分野を活かして公認会計士になって、まずは財務や経理という観点で経営者を支える存在になろう。そして公認会計士として経験を積み、いずれは財務部門で力を発揮して会社の経営に携わろうと、高校生ながらに決めました。
そして大学3年生から本格的に予備校に通い始め、大学4年生の時に公認会計士試験に合格することができました。
-新卒時は監査法人トーマツにご入所。そこではどのような経験を積まれましたか。
トーマツには金融や外資、スタートアップなど、業界に特化した部門もありますが、私は普遍的な理解を深めたかったので国内一般企業の監査部門に入りました。製造業やサービス業、中小企業からグローバル企業まで、業種や事業規模の異なる会社を監査しながら、いずれはこういった会社の経営が出来るようにと研鑽を積みました。
当時は現在ほど規制が厳しくなく、私も自らクライアントの経理作業を手伝っていました(笑)。クライアントと一緒に夜通しで連結財務書類を作ったことはいい思い出です。実際に手を動かすことで多くの学びを得ることが出来たという意味では、今の方々には出来ない貴重な経験になったかなと思います。
-戦略コンサルティング会社に転職されたのは、どのようなお考えからでしょうか。
監査法人には約6年ほど勤務したのですが、公認会計士として企業と接していく中で、経営に大きく貢献していくためには戦略面のスキルも必要だと考えたためです。公認会計士としてそれまで得た経験やスキルは全く活かせない異なるフィールドでのチャレンジでしたが、経営戦略の能力を身につけるために転職を決めました。
-実際に働いてみていかがでしたか。
ゼロからのスタートなので、最初は苦労しましたね。ただ、仕事内容は自分がやりたかったことそのものでした。競合や市場を分析して中期の経営戦略を作るなど、経営の一番重要な部分に沢山関わることができました。
幸いなことに自分の意思次第で何でもチャレンジできる環境でしたので、製造業、サービス業、金融業など、さまざまな業界のクライアントを担当させてもらい、元々持っている会計知識と合わせて経営全体を数字的に捉えることができるようになったと感じます。
-そしていよいよ事業会社にご転職。スシローGH(現F&LC)を選んだ理由は何でしょうか。
コンサルティング会社で6年ほど経験を積み、次は実際に事業会社の経営に参画してみたいと考えていたタイミングで数社から声をかけていただき、そのうちの一社にスシローがありました。
当時スシローは株主が変わり、次の成長を実現するために新たな経営軸を立てる必要があり、そのミッションのために経営企画部長として白羽の矢を立てていただきました。「人々の生活を豊かにする」「日本文化の発展に貢献する」という自身の価値観とも合致することに加え、当時33歳でありながら売上1,000億円規模の事業会社の経営を担わせてもらえるというチャンスは滅多にありません。本社が大阪にあったので、縁の無い土地に行くというリスクを取ってもチャレンジしたいと決断しました。
-念願の事業会社の管理部門でのチャレンジ。どのようなことに取り組まれましたか。
売上1,000億円の企業でありながら、実は経営企画は新しく立ち上げる部署で、部下も最初は2人でした(笑)。逆に言えば、経営企画機能がなくてもコンテンツやオペレーションの強さだけでここまで成長する会社が世の中にあるんだ、ということに正直最初は衝撃を受けました。一方でこれを売上2,000億円、あるいは更に大きくしていくとなるとこれではいけません。戦略的に方向性を決め、属人的な業務を1つ1つ仕組化するという地道な改革に自分でどんどん取り組みました。
とは言え改革は苦労の連続でした。従来の仕組みを変えることには当然抵抗もありますし、年齢が若かったこともあり求心力を高めるのに苦慮しました。ただ会社として必要な方向に向かっている以上あとは頑張るしかありません。努力する姿を見て分かる人は分かってくれると思いながら、採用、マーケティング、開発など、ほとんど全部の部署を経営企画の立場からサポートし、変革していきました。
また特に力を入れたのは、会社の根幹となる人財採用です。当時苦労していた新卒採用においては自分でプレゼン資料を作成して人事部に渡したり、会社説明会で説明したりもしました。中途採用も直接何人も実施しましたが、こうやって採用した人が現在も中枢メンバーとして会社に残って活躍してくれているのは実はとても嬉しく思っています。
幸い、こういった取り組みが奏功し、多くの協力やサポートも得て2017年には念願の東証一部上場を果たすことが出来ました。日々本当に多くのお客様に食事を楽しんでもらい、また上場後は海外展開も本格化したことで成長を続け、2021年には売上2,500億円、時価総額も6千億円に達したことは、8年半前を振り返ると感慨深いです。多くの幸運により、自分の価値観に合致した仕事が出来たと本当に感謝しています。
-2021年4月にPPIHに入社&CFOに就任。コロナ真っただ中での小売業への転職を決めた気持ちを聞かせてください。
やはり自分の価値観である「人々の生活をより幸せで豊かなものとする」、そして「日本文化の発展に貢献する」に合致する会社であることが大きいです。小売業は外食産業と同じく人々の生活を直接豊かに出来る仕事ですし、またその中でPPIHは最も積極的に海外展開をしている会社です。「ジャパンブランドスペシャリティストア」というコンセプトで日本の良いものを世界中に広める取り組みにはとても共感しました。
一方でもちろん小売業界はコロナ禍、ECの台頭で大きな変革を余儀なくされています。ある意味安定した環境でスシローを更に成長させる方がリスクは少ないことは間違いありませんが、自分自身の社会貢献や人間的成長という観点でそれで良いのか。色々悩んだ結果、チャレンジし続けることを決め、かねてからご縁のあったPPIHへの入社を決断しました。
-CFOとしての現在の仕事内容はどのようなものですか。
現在はまず財務とIRを組織も含めて進化させることに取り組んでいます。正に前職の最初の頃と同様ですが、社員の力を大きく引き出し、一部採用もしながら組織を強くすることに取り組んでいます。また業務内容は大きく前職と変わらないものの、PPIHは「ドン・キホーテ」を主力とするディスカウント事業、ユニーが展開する総合スーパー事業、海外も北米やアジアと、幅広いビジネスモデルや地域で事業展開しています。その分多様な人もいるわけなので、そのアジャストには時間をかけて取り組んでいます。
その過程で早速2021年9月には約800億円の自己株式買付、10月に同額の社債発行を実施するなど、やることは本当に沢山ある状況です(笑)。
-IR体制の構築について、詳しく教えていただけますか。
PPIHの時価総額は約1.5兆円(2021年11月1日東証終値) ですが、これは日本全体で100番目くらいの規模の企業です。海外の機関投資家の保有比率が高く、世界中から注目されているのも特徴です。
ただ私なりに実情を分析すると、各種準備や投資家とのエンゲージメントなどにおいて会社としての経験値は、世界からの注目度や、1.5兆円の時価総額を持つ企業に求められるクオリティを考えると強化する余地があると感じます。
日本、そして今後世界を代表する小売企業となる会社であるという魅力を一緒に伝えていく仲間をもう少し増やして、会社規模に相応しいIRチームを作ることに、私の経験も活かして取り組んでいければと思っています。
-今後の会社として個人としてのビジョンを伺えますか。
会社のビジョンは2030年に売上高3兆円、営業利益2000億円という壮大な目標を掲げているので、その数字に向けて進んでいきます。売上高のうち1兆円は海外で作る予定ですので、日本の良いものを更に積極的に海外に広めていく予定です。
また更に長期での定性目標としては、PPIHを長期的に成長し続けられる会社、書籍にもあるような「ビジョナリー・カンパニー」に飛躍させることが経営陣の目標です。顧客最優先主義で、お客様を楽しませることを永続的に続けられる会社になって欲しいと思います。
個人のビジョンは特に無いというか、会社のビジョンを実現することでしょうか(笑)。
自身の大切にする二つの価値観を実現できるPPIHで、会社のビジョンを達成するために自分が貢献できることは全てやりたいと思っています。目指すものが大きい分、難しいチャレンジも多いと思いますが、結果として自分の成長にも繋がると思います。多くの優秀な仲間にも加わってもらいながら、一緒に高い目標を達成していきたいですね。
-キャリア形成において大事にしていることはなんでしょうか。
変化を恐れず、困難にチャレンジすることかも知れません。公認会計士の受験時代や監査法人トーマツ時代は、将来のために若い時はどんどん苦労をしようと思っていたのですが、難しいこともやっているうちに苦ではなくなり、楽しめるようになりました。なぜそう思えるのか、理由は良くわからないので、こういう性格に産んでくれた親に感謝しています(笑)。
もちろんチャレンジにおいて失敗をしない人はいないでしょうし、私にしてもプロジェクトがうまくいかない、一時的に評価を下げられるなどは何度もありました。ただ、それでも取り返しのつかない失敗だとか挫折だとは考えませんし、一時的な失敗=終わりではありません。足りなかった部分を改善し、次のチャレンジをして、成果に繋げていけば良いだけだと思います。
どうせなら他の人には出来ないような高い目標にチャレンジし、失敗しながらでも、楽しみながら大きな成果を出し続けていけたらと常に考えています。
-最後に、CFOや管理部門を目指す人へのアドバイスをいただけますか。
そうですね。CFOや管理部門を目指す人の考え方や価値観は十人十色でしょうが、自分で仕事を考えて能動的に取り組めることが最も大事だと思います。管理部門で働く人はやや保守的な傾向があり、チャレンジしきれない人や待ち姿勢の人が多い印象がどうしてもありますが、それでは自身の成長や、会社の成功には貢献しきれないのではないかと思います。
例えば、営業部門から難しい依頼があった場合、最初から「それは無理です」「できません」と一辺倒に答えるのではなく、何かしら工夫できることはないかトライするなどでしょうか。業界の中で、あるいは業界を超えて手強い競合と戦わなければいけないのに、内部で意見の相違があったら勝てるわけがない。いかに色々な視点を満たした最適解を提示できるかが、本当に良い管理部門には求められると思います。前例や慣習に囚われず、知恵を絞って新たなものを生み出すようなCFO、管理部門になっていくよう意識してもらえると良いかと思います。
『相並ばない二択を安易に受け入れず、両立させる知恵を絞れ』
CFOや管理部門を目指す皆さんに、弊社の企業理念集「源流」にあるこの言葉を贈ります。
今回お話を伺った清水氏がCFOを務める株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスのホームページはこちら