野村證券株式会社で機関投資家営業に従事し、ロンドンへの社費留学、ニューヨークオフィスへの赴任を経て、現在は株式会社ROBOT PAYMENTの取締役を勤める久野聡太氏。今回は海外経験も積まれた久野氏の経歴、野村證券での経験から管理部で活きていること、そして管理部の今後のビジョンなどについてHUPRO編集部がお話を伺いました。
【ご経歴】
2010年 | 野村證券新卒入社、日本株の機関投資家営業の部署に配属 |
2015年 | 社費留学(London Business School) |
2017年 | 留学修了、NYオフィスへ異動 |
2019年 | 当社入社 |
【久野氏のキャリアグラフ】
―2010年に新卒で野村證券に入社されていますが、なぜ野村證券を選ばれたのでしょうか。
元々、私の父が外資系の金融機関に勤めていて、金融業界には昔からなんとなく関心がありました。たまに父のオフィスに遊びに行くこともあり、なんとなくその残像が残っていたのを今でも覚えています。また就職するなら若いうちに厳しいところで経験を積んだ方がいいと考え、日本企業の中では最初に内定をいただいた野村證券に就職を決めました。
当時、一般的に「厳しい」と言われる野村證券に就職することに不安を感じていましたが、ここで何年か働けば今後の自分自身のキャリアにポジティブに響いてくると父にも言われましたし、前向きに考えていました。
―不安を感じながらも野村證券で頑張ることができたモチベーションは何かありましたか。
先輩には恵まれており、支えになってくれたことが一番大きかったです。私が配属された部署は本社の中でも一段とプレッシャーが大変と言われているようなところだったので、一言では言い尽くせない様々な厳しさを感じることが多くありました。そのような中で自分をかわいがって、色々教えてくれた先輩方がいたので、自分も頑張って将来こういう人になるんだと仕事における一つのモチベーションになっていました。尊敬できる先輩は多かったです。
―周りの環境がモチベーションの一つとなっていたんですね。機関投資家営業部ではどのような仕事をされていましたか。
機関投資家向けの株の営業をしていました。多くの場合、自分のお金ではなく年金などの投資家から数百億、数兆円の資金を委託されて、それを運用する仕事です。プロの投資家に対して、この株が良いんじゃないかとか、今はこういう風にした方が良いんじゃないかというように、儲かるアイデアや情報を提案して投資家の運用成績の向上を支えるビジネスをしていました。
ただ、相手(お客様)は自分よりも株取引の経験が豊富なプロの投資家なので、提案をしても「それは違うよ」「なにもわかっていない」「そんなことはもう知っている」などと言われることもあり、初めは知識もないですし、信用していただけず苦労しました。それでも、投資家とディスカッションを重ねていく中で少しずつ専門知識を身に付け、また彼らが考えつかないであろう着眼点からのアイデアを提供することを心掛けて、お客様からダメ出しを貰いながらも少しずつ信頼を得ることができました。お客様は自分以外の他社の営業とも付き合っているので、その中で自分がどうすれば価値ある営業になれるかを常に考えていましたね。
―投資家のお客様と信頼関係を築くために、特に意識していたことはありますか。
とにかく毎日コンタクトを取ることは意識していました。お客様は外部から運用資産を委託されて運用している責任があるので、自分もその責任をしっかり自分の心で共有させて頂き、自分の提案を言いっぱなしにせずアフターフォローすることなどは心掛けていました。儲かった時だけではなく、損させてしまった時こそまめにコミュニケーションをとり、必ず次のアイデアも提案して、誠心誠意対応することが重要だと考えていました。もちろんそれでお客様から怒られることもありましたが、厳しい方であるほど教えも多くありました。
―野村證券で起きたチーム解体をきっかけにモチベーションが降下していますが、当時久野さんが感じていたことを教えてください。
この出来事がきっかけで野村證券の社会的地位が下がってしまい、コンプライアンスも更に厳しくなったので、正直ビジネスがしづらい、会社に迷惑をかけたチームに属していた身として居づらいなと感じていました。直属の上司や部長などかなりの人数が退職してしまい、自分はこのままこの会社にいていいのか悩みました。
一方で、退職した方々が携わっていた業務や顧客を引き継ぐことになり、新たな仕事に挑戦することでチームに貢献できるかもしれないとも考えるようになりました。ちょうどその時に、先輩から「ディール(IPO・PO)担当の責任者を一緒にやってみないか」とお誘いいただきそれを引き受けたことで、他部署を中心に関わる人の幅も広くなり、より色々なことを知っているお客様とも出会うことができました。
―その時に転職を考えなかったのは、自分が携わることの出来る業務が増えたからだったのですね。
そうですね、当時入社三年目だったので、転職にはまだ早いかなという考えもありました。また、一番面倒を見てくださっていた先輩方はまた一緒に頑張ろうと言ってくださったことも、野村證券で働き続けた理由の一つになります。新たな業務も増え、自分が担当するお客様も増えたことでやりがいを感じるようになり、頑張ろうと思いました。
―その後、アベノミクス相場・部署に配属されると同時にモチベーションが上昇していますが、ここではどのような仕事をしていましたか。
基本は営業の時と同じ仕事をしていました。それに加えて、アベノミクスの影響で増加した新規上場や資金調達のニーズに応えるべく、案件を成功させるよう活動していました。初めは資金調達やIPOについての知識が浅かったのですが、自分が担当することになったからには理解を完璧にしなければならないと思い、違う部署の人たちとコミュニケーションを積極的に取ることでレギュレーションや特有のルールなど教えてもらっていました。
―2015年には社費留学を経験されたのですね。そもそもなぜ社費留学を選んだのでしょうか。
この理由にも、私の父の存在があります。父は外資金融機関で働いていたので、金融業界で働くならMBAを取った方がいいと言われていました。昔は反発して無視していましたけど、どこかで覚えていたんだと思います。野村證券には私が入社する前から社費留学の制度はあったのですが、そのために入社したわけではなかったので、入社当時は父の言葉が脳裏に残りつつも海外へ行く気持ちはあまりありませんでした。
しかし、働きながら次のキャリアステップを考えたときに、留学を経験して海外で働くことができたら今までとは違う世界が見えるかなと考えるようになりました。また、東京で一緒に働いていた優秀な先輩方も実際に社費留学を経験されて、その後海外拠点で働く、というキャリアを歩んでおり、自分のキャリアとしてもこういう人たちのようになりたいと思い、ロンドンのビジネススクールへ入学させていただくことができました。
―留学されてからモチベーションが下がっていますが、この時に感じた葛藤などはありましたか。
留学当初はモチベーションが非常に高かったのですが、自分の英語力の低さに落ち込みモチベーションが下がってしまいました。もちろん授業は全て英語で受けるのですが、基本周りのみんなは英語が喋れる中で、自分はディスカッションの時にメンバーの言っていることが分からなかったり、自分の考えも英語で伝えることができなかったりして、最初は本当に恥ずかしく、しんどかったです。
ただ、自分でアクションを起こさないと何も始まらないので、たとえ文法が滅茶苦茶でしどろもどろでも伝えたいことはちゃんと伝えなければならないと思うようになりました。最初は先生の言っていることを聞き取るだけで精一杯でしたが、数か月経って少し慣れてきたときには自分で発言しようかなと、気持ちも前向きになっていきましたね。
また、この社費留学直前に結婚し、一緒にロンドンへ来て支えてくれた妻や、ビジネススクールの仲間たちのサポートがあったから自分自身も成長することができました。とても感謝しています。
―奥様や仲間に支えられながら、卒業されたのですね。留学後、仕事に対する意識や考え方に変化はありましたか。
留学から帰ったら野村證券でもともと所属していたチームに戻るのではなく、キャリアチェンジしたいという気持ちが芽生えました。留学前は、機関投資家を相手とするグローバル・マーケッツに所属していたのですが、上場企業に対して資金調達やM&Aなどビジネスを行うIB部門に異動したいという思いが芽生えていました。結構ありがちな心変わりなのですが、自分もそうなるとは全く思っておらずびっくりしました。
その一方で、若いうちに海外で働きたいという別の思いもありました。未経験のIB部門へ異動すると、海外で働く機会はなかなか巡ってこないので、海外で経験を積むなら今がベストタイミングかなと考えていた時に、ニューヨークのオフィスで機関投資家向けの日本株営業のポジションがあると提案していただきました。一度くらいは金融の中心ニューヨークで働くのも良い経験かなと思い、2017年にニューヨークに赴任しました。
―ニューヨークでは日本とは違った営業の経験を積まれたのですね。ここで改めてご自身のキャリアについて悩まれていますが、何かきっかけとなる出来事はあったのでしょうか。
直接的に何かきっかけがあったのではないのですが、ニューヨーク赴任前に本当は別の部門で働きたいと考えていたことに繋がります。もっと自分の市場価値を上げられるビジネスに身を置きたいと考えていました。
転職を考えていた頃、ロボットペイメントの代表がわざわざニューヨークまで来てくださり、上場するための中心人物として一緒に働いてほしいとお声がけを頂きました。私はそれまで直接的にはIPO準備には関わったことがありませんでしたが、機関投資家営業の立場からはIPOに深く関わっていたので、自分としてもロボットペイメントに貢献できることはあるのではないかと思い、入社を決めました。
自分の市場価値を上げて競争力のある人間になりたいという考えも転職動機の一つであったので、IPO準備に関して未知の部分が沢山ある分、それだけ自分は成長できるのではとも考えていました。
―当事者として初めて経験されたIPO準備は、順調に進んだのでしょうか。
私が入社する前にIPO準備を担当されていた方からの引き継ぎが非常にスムーズで、きめ細かくご助言いただいたおかげでスケジュール通りに進めることができました。私が困ったときには前任の方含め、会社の方々が手を差し伸べてくださり、この時にロボットペイメントは良い人を呼び寄せる力があると感じましたね。また、主幹事証券の担当の方や監査法人の先生方にも恵まれました。その方々には本当に感謝してもしきれません。
その反面、会社のためにサポートしてくれている方々の期待に応えなければいけないプレッシャーはとても大きかったです。私を助けてくださった社員の方々はそれだけ上場することを願っていたので、何としてでも上場を成功させなければならないと責任は感じていました。
―多くの方々の想いが重なって、上場は成功されたのですね。上場された時の心境はどのようなものでしたか。
上場する直前は燃え尽き症候群になってしまうのではないかと思っていましたが、上場初日や二日目も実はあまり実感が湧かず、思った以上に気持ちに変化がありませんでした。徐々に「あ、上場したんだな」と感じ、そこから色々な投資家の方からご連絡をいただいたり、決算準備に取り掛かったりと忙しくなったので、燃え尽き症候群になる暇もなく変わらずに働くことができています。
―久野さんが考える管理部の理想や、その実現のために意識していることはありますか。
事業部の気持ちに寄り添うことの出来る管理部が理想です。
人間は忘れてしまう生き物なので、初めは厳格に決まりを作っていても、時と共にルールは形骸化してしまうことがほとんどです。そういったことを防ぐために管理部はコンプライアンスやガバナンスについて厳しく取り締まりますが、ビジネスサイドで働く事業部からは反感を抱かれることが多くあります。
私は野村証券では営業として働いていたので、現在管理部で働きながらも事業部側の気持ちも少しはわかる人間かなと思っています。そのため事業部の立場を理解して最適解を考えつつ、コミュニケーションを取りながらこちらの主張も共有することは忘れないようにしています。
―今後どういう管理部にしていきたいか、5年後のビジョンを教えてください。
人手不足なので、まずは体制を拡大したいと考えています。現在管理部のメンバーは、一人で二つ三つ業務を掛け持ちしている形で働いてくれています。それによって色々なことが学べるという良い面もあるのですが、一方でそれぞれの仕事に対して専門的に深めることができないという面もあります。管理部のメンバーにはさらにプロ意識を高めてもらうことで、それが彼らの市場価値を高めることになればいいかなと考えています。体制を強化していくと共に、一人ひとりがプロフェッショナルとして会社に貢献してほしいです。
また、これは私個人の希望ではありますが、社費留学のような制度を将来的に作りたいと考えています。実際に私が海外留学を経験して、とても大変でしたが新たに学ぶことがたくさんあり、そこでかけがえのない大切な仲間に出会うこともできました。キャリアの相談をできる、本当に貴重な仲間です。なので、ロボットペイメントでも社費留学制度を作って、人脈はもちろんアカデミックなことを改めて学んで、キャリアアップしてビジネスの世界に戻る人たちが増えればいいなと思っています。
―管理部で活躍できる人の共通点や、久野さんが管理部として求める人物像はありますか。
事業部の気持ちが分かる人は、管理部で活躍できるのではないかと思います。これは管理部だけに言えることではありません。特に、会社内の全部署と関わる経理は最たる例だと思います。わが社の経理財務部長は、入社した初めに営業として働いていたこともあって事業部側の気持ちを理解していて、全部署と良好な関係を築くためにコミュニケーションを密に取っているので非常に信頼できますし、そういった部分は管理部としても見習って大事にしています。管理部だけでずっと働いていたよりは何かしら事業側に関わって、事業部が何を考えているか少しでも分かる、想像できることが管理部にとって必要になってくると思います。
―最後に、管理部門として働くことを目指しているヒュープロマガジン読者に、メッセージをお願いします。
現在、管理部主体で企業価値を向上させていくことに焦点が当たっています。株の話に戻ってしまいますが、現在日本でも株主至上主義(最近だと少し情勢が変わってきているかもしれませんが)が中心的な考えとなっており、投資家が積極的に株主提案をしてくる世の中に変化しています。そのような状況で大事になってくるのはコーポレートガバナンスであり、それを整えるのは管理部の役目です。
そこで、規則を作り会社の体制を整える守りのガバナンスだけではなく、ESGへの取り組みや、多様性を持った組織づくり、インセンティブ設計など攻めのガバナンス体制を作っていくことで、管理部が主体となって企業価値を高めていくことが重要になってくると考えています。なので、このような観点を持った人材のニーズが、今後は高まっていくのかなと私は思います。
―本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
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