日本を代表する商社やベンチャー企業で経理、財務、営業など幅広く経験を積んだ岩崎司氏。現在はVR空間上を活用した近未来のサービス「メタバース」の領域で事業を拡大するクラスター株式会社のCFOとして活躍されています。そんな岩崎氏のキャリア遍歴について株式会社HUPROがお話を伺いました。
2011年 | 京都大学法学部 卒業 |
2011年 | 三菱商事株式会社 入社 三菱商事ファイナンシャルサービス 出向 |
2012年 | 三菱商事株式会社 機械グループ管理部 |
2014年 | 株式会社LiB 入社 |
2017年 | クラスター株式会社 入社 COO就任 |
2020年 | クラスター株式会社 取締役CFO就任(現在) |
ーどうして京都大学法学部に進学されたのですか?
法曹関係の職に就きたいと考えたからです。
幼い頃から戦争や紛争などに関心があり、争いを武力解決ではなく、話し合いで解決できる仕事に就きたいと考えていました。
なんとなくですが、国際連合の職員や外交官になりたいとイメージしていました。
本格的に決心したのは高校生の時で、弁護士資格を取った方が良いなと考え、司法試験合格率NO.1(当時)だった京都大学法学部への進学をしました。
ー幼い頃から国際紛争の関心があったのは何故でしょうか?
インドネシアを訪れた経験があったからですね。
8歳くらいの時に家族でインドネシアに旅行をしました。そこで自分より年下の子がすでに働いている状況を目にして、衝撃を受けました。
「自分自身がいかに裕福であるのか」、「恵まれた環境で生まれたなら何か世の中のためにできることはないか」と幼いながらに感じ、歳を重ねるにつれて世界の貧困問題や紛争に強く関心を持つようになりました。
ーインドネシアでの経験が原点だったのですね。その後新卒時には三菱商事への入社をされていますが理由等はありますか?
京都大学入学前とは考えが少し変わり、「日本の産業を元気にしたい」と感じたことことが大きな理由です。
大学在学中に、国際連合の職員や日本の外交官として働くには英語が必要だと感じ、半年間フィリピンに留学しました。
その後、日本に帰国した際に、サムスン電子やLGグループの製品が、日本のテレビCM、しかもゴールデンタイムに放送されていることに衝撃を受けました。
自動車産業とともに日本の高度経済成長を支えたのが電機産業だと思っていましたが、日本よりも経済発展が遅れていたはずのアジアの企業が、そのお膝元日本にどんどん進出しており、「失われた何年というレベルではなく日本の産業は今後衰退していくのでは?」と危機感を感じました。
留学後のクリアな視点で、日本を見たからこその気付きでした。
世界の紛争や貧困問題への取り組みも関心を持ちつつ、まず日本の産業にも関わっていきたいという想いから、ビジネスモデル含めて総合商社が適していると考えて、三菱商事への入社を決めました。
ー三菱商事㈱では営業部門ではなく、管理部門に配属されたのですね。
そうですね。まずは数字周りについてしっかり学び、土台を作ってから営業や事業開発に携わりたいと考えていたので、管理部門への配属を希望しました。
最初の一年は三菱商事フィナンシャルサービス㈱に出向し、現場で簿記や会計周りの基礎を学びました。
出向先では、「結構頑張った!」と感じていたのですが、評価を見たらびっくりしました。
部内同期7人の中で最下位の評価でした(笑)
この時はひどく落ち込みましたが、負けず嫌いな性格なので、何としても見返してやろうと強く決意しました。
出向を終え、本社側の管理部門に戻ってからは日本の会計関係だけでなく、米国会計基準(US-GAAP)や国際財務報告基準(IFRS)の会計まで担当していたため、土日も含めてとにかく勉強して成果を出そうと必死でした。
3年目には税務の勉強がしたくて、周囲がゴルフに出かける中で、自費で大原専門学校の税理士コースを受講し、自己研鑽に励みました。
勉強が実を結び、成果と評価も徐々についてきました。
ー三菱商事㈱で結果が出始めた中、なぜ転職を決意されたのですか?
「日本を盛り上げる事業の立ち上げをしてみたい」と考えたからです。
コーポレート関連の仕事を3年ほど担当し、そろそろ営業部門に異動する選択肢を検討するフェ―ズにいました。
ただ、当時の東京本社にいる営業の仕事は、海外投資先の管理業務に近いもので、自分がしたい仕事のイメージとは乖離がありました。過去の投資ですでに儲かっているビジネスを回していくだけでなく、手触り感のある事業づくり、ゼロイチの事業立ち上げに興味を持っていたので、このタイミングで転職をしようと考えました。
三菱商事㈱は当初から3~5年で転職する可能性も考えていましたし、入社以降、よりダイレクトに日本の産業活性化に関わりたいという想いが強くなったので、転職への決断に迷いはありませんでした。
ー転職活動の中でどうして株式会社LiBを選ばれたのですか?
転職の際に重要したのは3つの軸です。
その条件を満たしたのが㈱LiBでした。
㈱LiBはキャリア女性を支援するサービスを提供しており、「慢性的な人手不足」「働きたいけど働けない女性」という日本固有の問題を解決できる可能性がありました。
また、会社の売上も0で設立間もないという状態が、これから事業を作っていけるという条件にハマりました。
ベンチャー転職ですごく魅力に感じたのが、自分の上司を選べることにあると思います。当時の上司は元リクルートの非常に優秀な方で、この人の元で成長したいと考えたことが転職先として選んだ大きな理由です。
ー㈱LiBに転職されて大変だったことはありますか?
未経験の営業職でかつ未経験業界だったことは、慣れるまでに苦労しましたね。
特に三菱商事㈱にいた頃とは全く違う「仕事の進め方」にはなかなか慣れませんでした。
ー仕事の進め方には、どのような違いがあったのですか?
例えば、三菱商事㈱では、何か業務をスタートする際はいくつか案を作り、最終的にどれにするのかという意思決定は上司に任せることが多かったのですが、㈱LiBではまるで違いました。
「どんな提案をしたいのか?何故それにしたのか?」それを自分自身で明確に言語化しなければいけません。リクルート式でいうところの「お前どうしたいの?」ですね(笑)
今まで「自分がどうしたいのか?」「なぜしたいのか?」に関して、深く考えて仕事をしていなかったと痛感しました。知識をつけて、できることが増えている気になっているだけだったと思い知らされました。
ー大手での経験が活きたことはありますか?
営業相手への想像力を働かせることができたことです。規模が大きい会社とのやりとりで、相手のポジションは何か?目の前の人が意思決定者なのか?そうでなけれれば、どうすれば相手を通じて決裁フローに乗せてもらえるか?を想像することができました。
大手で働いていた時は、当たり前に感じていた階層構造や、決裁しやすいタイミング等については、最初からベンチャーで働いていたら気付きにくい視点であると思います。
非常に苦労した期間ではありましたが、とにかく仕事に真摯に向き合い、営業成果も少しずつ上がり、新組織の立ち上げにもアサインされるまでになりました。
ー営業で認められ、結果がついてきた中で転職をされた理由は何ですか?
「経営の意思決定ができるポジションに身を置きたい」と考えたからです。
新組織の立ち上げを任されてはいたのですが、私自身は経営の意思決定をできる立場にはいませんでした。そこで次は会社の方針を決める立場に入り、事業を進めていきたいと考えました。
ークラスター株式会社を転職先として選ばれた理由は何ですか?
実は代表の加藤とは京都大学時代の同級生で、元々接点がありました。
当時クラスターはメンバーが7人いたのですが、全員デザイナーかエンジニアで、それ以外はすべて代表がやっているか、そもそも手つかずかの状況でした。
そんな中で加藤から「COOとしてプロダクト開発以外のすべての業務、つまり事業開発と管理業務を全て任せたい」という話がありました。このチャレンジングなオーダーと、元々の関係値的に「自分以外でやれる人いないのでは?」と思って入社を決意しました。
ー「VR」という業界に関してはどのように考えていましたか?
「VR」は、日本発で盛り上げていけるベストな事業領域なのではないかと考えていました。自分の働く上で大切にしたい軸は、日本の産業の発展であり、VRにその可能性を強く感じました。仮想現実等の表現は、日本のゲームやアニメとも密接に関わっており、世界に冠たるキャラクターやゲームを多数輩出する日本からこそ発展していくべき領域だと信じています。
学生時代からの想いである、日本の産業を元気にしたいという価値観とマッチしていて、
「VR」は日本発で世界を牽引していけ産業であると考えています。
ー入社後、COOとして2億円の資金調達をされていますね。資金調達の経験がない中でどのように実現されたのですか?
スタートアップ・ファイナンス系の本を読み漁ったり、ベンチャーキャピタルや弁護士に相談したりと、素直に自身が知らないことを認め学び続けることで、実現可能性を高めていきました。
ー相当努力されたのだと思いますが、具体的に大変だった経験はありますか?
当初注目されていたVR業界自体が下火になってきた時は苦労しました。
2億の資金を調達しても、「これをどう使うのか?」「VRプロダクトをビジネスとして成り立たせることができるのか?」など出口の見えないトンネルに迷い込んだ感覚になりました。
その時は出口の見えない閉塞感をどのように打ち破るか考え、代表加藤が今後の事業やプロダクトについて考える時間を捻出するに集中しました。
当時、自分の専門外であるプロダクトマネジメント業務についても、加藤の代わりに拙いながらも兼任して行っていました。
その後、バーチャルYouTuberの流れに乗ったり、営業組織を強化するなどして徐々に法人案件の引き合いも増え、さらにスマホ対応によりユーザーが増え始めて軌道に乗り始めた時には胸を撫で下ろしました。
―5年後、10年後はどんな会社にしたいですか?
将来的には、クラスター㈱で数億人、数十億人が使用するサービスを作りたいです。
この領域はMeta社(旧Facebook社)も力を入れていますし、世界中でも注目される産業になることは今後間違いないと考えています。
直近では新型コロナウイルスの影響で巣篭もり消費が流行し、VRへの需要も増えました。ポケモンやディズニーなどの大きなIPともタイアップする等、新しい大きなチャレンジもできるようになってきました。
弊社の運営する「cluster」は日本最大級のメタバースプラットフォームだと自負しており、日本のメタバース領域を牽引していきたいと考えています。
そのためにも私個人としては、選り好みせずに、事業やプロダクトが成功するために求められるあらゆる業務を担っていきたいです。CFOだからといって財務周りや、管理部門だけを見るのではなく、プロダクトの開発や運用、マーケティング等も必要に応じて関わっていきたいです。
また弊社は離職率が低いことも特徴で、引き続き働く人を快適に、そして継続して働きたいと思うような環境を作っていきたいと考えています。
―HUPROMAGAZINEの読者にアドバイスをお願いします!
会社によってCFOの役割が違うので、CFOを志す方は自分の専門性を狭めないで、キャリアについて考えて欲しいと思います。特にベンチャー企業では、CFOに求められる役割はファイナンスや会計だけではなく、採用や組織づくり、営業等にまで関わることもあります。
私自身もベンチャーで営業マンをしていたことは、今のCFOとしての働きにもダイレクトに活きています。フロントで働く方々の想いを理解できることで、管理のルールを押し付けることなく会社の体制作りに活かすことができます。
自分のキャリアの幅や可能性を狭めることなく、チャレンジしてみてください!
―本日はお話いただき誠にありがとうございました!
今回お話を伺いました、クラスター株式会社のHPはこちら!
クラスター株式会社のHP