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IFRS導入のメリットを解説

米国公認会計士 杉山陽祐
IFRS導入のメリットを解説

世界共通の会計基準を目指したIFRS(国際財務報告基準)は欧州を中心に導入が進んでいます。日本においてもIFRSによる決算が認められていますから今後日本企業でもIFRSの導入が進んでいくことが予想されます。IFRSを導入するメリットはあるのか疑問に思う方も多いでしょう。そこで今回はIFRS導入のメリットについて解説していきます。

IFRS導入のメリットは?

IFRS導入のメリットはズバリ「資金調達のしやすさ」にあります。

巷ではIFRS導入における様々なメリットが語られていますが、究極的にはこれに収斂すると考えられます。

IFRSは世界共通の会計基準を目指しています。今までは会計基準は国ごとに独自の会計基準が存在しており、その国の会計基準に従って決算を行っていました。昔はそれで問題ありませんでした。なぜなら各企業は国内で商売が完結していたからです。

しかし時代は変わりました。製造業を中心にモノづくりの仕組みが大きく変わり、企業単独でモノづくりを完結させることが難しい時代に突入しました。そうなると国をまたいで商売をせざるを得なくなりました。商品の移り変わりが劇的に速くなり、企業は設備投資を継続する必要に迫られました。

そうなれば、企業が稼いだ利益だけでは設備投資に回す資金が追い付かないため、銀行などの金融機関や一般の投資家から資金調達をしなければなりません。しかしながら彼らもボランティアではありません。お金を貸すもしくは出資するからには、その貸すお金もしくは出資したお金以上のリターンが得られる見込みがなければ、貸付も出資もしてくれません。

さて、金融機関や投資家が「企業がきちんとリターンを払ってくれるのか」をどこで判断するのでしょうか。もちろん様々な判断材料はありますが、まず基礎となるのが会社の決算書です。

決算書というのは企業の実態を反映している通信簿のようなものです。企業が持っている財産や負債、儲かっているのかどうか、資金を何に、いくら使っているのかなど企業活動の全体像が数字で把握できる優れものです。
しかし、ここで問題があります。決算書に書いてある内容はその通りなのですが、決算書は会計基準に従って作成されています。つまり、採用する会計基準が異なれば決算書の作り方も異なるということです究極的には同じ企業であってもどの会計基準を採用するかによって決算書の数字が変わる可能性があるということです。

日本の投資家であれば日本の会計基準は理解できても、欧米の投資家からすれば日本の会計基準は分かりません。そうなれば日本の会計基準で作成された決算書を信頼して投資をしてよいのか判断が難しくなるわけです。
これがもしIFRSという世界共通の会計基準で作成された決算書だったらどうでしょうか。世界共通ですから欧米の投資家も理解している会計基準で作成された決算書になりますから安心して投資判断ができるわけです

これがIFRS導入による最大のメリットですが、それ以外に語られるIFRS導入のメリットはこれにつなげるための付随的なものとなります。

例えば、決算書の比較可能性はよく取り上げられるメリットです。世界共通の会計基準で決算書を作成するわけですから、日本企業が日本で作成した決算書とフランス企業がフランスで作成した決算書を単純に比較できるようになるということです。投資家としては決算書を横に並べて比較するだけですからとても便利ですね。

決算書の比較可能性から派生するメリットとして、合弁や買収時の意思決定のスピードアップが挙げられます。
合弁や買収などは大きな資金が動きますから、投資する側も投資される側も意思決定には慎重になります。合弁や買収の意思決定というのは最終的には「いくらか」という値段に帰結しますから、その判断材料としてやはり決算書が大事なります。

合弁相手や買収相手を比較する場合においても、同一会計基準で作成されていることで、会計基準による差異の調整などが不要になりますから、その分意思決定がしやすくなるわけです。

決算書は会社の実態を反映させる通信簿のようなものと言いましたが、会社の実態を反映させるという作業は簡単ではありません。会社のあらゆる部署から正確な数字をタイムリーに集めなければなりませんから、経理部だけで完結するようなものではないのです。そうなると、会社全体から正確かつ効率的に情報を収集する仕組みが必要になりますから、会社内の管理能力向上にもつながります。

このように資金調達のしやすさを大目的にして、IFRS導入は様々なメリットがあるのです。

IFRSの導入動向は?

IFRSの導入メリットについてはご理解頂けたと思います。日本においてはIFRSを採用して決算を行うことが認められています。
では実際にIFRSを導入している企業はどれほどあるのでしょうか。

日本取引所グループ のホームページには日本においてIFRSを導入している企業を確認することができます。

こちらの情報によれば、2021年10月現在において、IFRSを適用して決算を行っている会社は235社、今後IFRSを適用して決算を行うことを決定している会社が9社あります。合計で244社ですが、東京の証券市場を管理している東京証券取引所においても市場開設者としてIFRS導入推進に向けた取り組みを積極的行っていることから今後IFRSを導入する企業は増えていくことでしょう。

IFRS導入における影響は?

メリットが多いIFRS導入ですが、実際にIFRSを導入することでどういった影響があるのでしょうか。
IFRSは国際財務報告基準ですから、決算書の作り方を日本基準から国際基準へ大きく変える仕組みとなります。決算書は会社の意思表示という表現が使われることがありますが、会社の意思表示の方法が変更されるわけですから、企業内の経理部門や財務部門の仕事のやり方が変わることにとどまらず、経営の意思決定に影響を与えるような会社全体の広範囲に影響を及ぼすことになります。

しかも海外に子会社やグループ会社を保有している企業は、その子会社やグループ会社にまでIFRSに沿った形で決算を行うよう指導しなければなりません。当然ながら各国はそれぞれの国の会計基準で決算書を作成しています。ですから各国の会計基準で作成した決算書からIFRSの決算書に切り替えるために会計基準の差異を確認し、その会計基準の違いによって発生する差異を埋め合わせるような調整を行う必要が出てくるわけです。

これらの調整は親会社側で行うことが多いようですが、対応しなければならない会社数が増えた場合などは全て親会社で調整を行うことは難しいでしょうから、その場合は子会社やグループ会社に対してもIFRSを導入することになるかもしれません。

IFRS導入における注意点は?

IFRSを導入することで会社の広範囲に影響を与えることはお分かり頂けたと思います。会社の広範囲に影響を与えるということは、それだけコストや人手および時間がかかるということです。

会計基準における個別の影響で言えば、売上基準が大きな論点になる場合があります。日本では出荷基準を売上基準に採用している企業も多いと思いますが、IFRSを導入すれば出荷基準ではなく、検収基準を採用することになりますから売上となるタイミングが変わります。そうなれば在庫として認識するタイミングや請求書を発行するタイミングなど社内の日々のオペレーションの仕組みを変えていく必要がありますから、IFRSを導入する場合は導入に向けた計画が大切となります。

もう一点IFRS導入において注意して頂きたいことは、IFRSが原則主義を採用している会計基準ということです。日本の会計基準やアメリカの会計基準などは細則主義を採用している会計基準で、会計基準で詳細な判断基準や数値による基準を設けていることが特徴です。

これにより企業による会計基準の解釈の違いが無くなりますから、会計基準を作用する企業側からすれば分かりやすい基準になっています。しかしIFRSが採用している原則主義はこのような詳細な基準や数値基準がありません。ですから各企業がIFRSの基準を理解して、自社に当てはめて自ら判断し、会計処理を進めていくことになるのです。このようなある意味曖昧な会計基準であるがゆえにその適用には多くの時間が必要となります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回はIFRS導入のメリットについて解説しました。今の世の中は一か国でサプライチェーンを組むことは難しく、国を横断する取引が必要不可欠な時代です。そのような時代背景ですから各国における各企業の決算書を比較したいという需要は増々増えていくことでしょう。

そうなれば世界各国で異なっている会計基準をIFRSへ収斂させていく流れは今後も加速していくことと思います。IFRSを導入する際には社内において様々な改革が必要になりますが、今回解説したIFRS導入のメリットを参考にして頂ければ幸いです。

この記事を書いたライター

商社勤務中に米国公認会計士(USCPA)のライセンスを取得。2015年からフィリピンに赴任。フィリピンにて日系企業を中心に会計税務のアドバイザリー業務に従事。日系企業のフィリピン投資、工場設立、各種ライセンス取得支援など幅広い業務に携わる。
カテゴリ:コラム・学び

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