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IFRSの減損会計についてのポイント解説

米国公認会計士 杉山陽祐
IFRSの減損会計についてのポイント解説

IFRS(国際財務報告基準)における減損会計は日本基準とは会計処理方法が異なります。最近では日本の会社でもIFRSを採用する会社も増えていますし、在外子会社の決算ではIFRSを採用する場合もありますので減損処理方法については注意する必要があります。今回はIFRSの減損会計について解説していきます。

IFRSにおける減損会計の特徴は?

減損という会計処理は、資産の帳簿価額がその資産の回収可能価額を超過しないようにするために、その資産の回収可能価額まで資産の帳簿価額を減少させる手続きのことです。

資産というのは企業がその資産を使用することで将来的に収益を生み出すことができるために資産に計上できるのであって、その資産を使用することで想定していた収益を生み出せないのであればその分の価値は資産として計上していることは許されず、収益を生み出せる現実的なレベルまで資産価値を減少させなければならないということです。

減損会計の必要性はお分かり頂けたと思いますが、では具体的にどのように減損すべき価額を計算すればよいのでしょうか。

この計算方法にIFRSの特徴があります。

IFRSにおける減損すべき価額を算出するためには、まずその対象となる資産の回収可能価額を計算します。そしてその回収可能価額が資産として計上されている帳簿価額を下回った場合に、資産の帳簿価額と回収可能価額との差額を減損損失として処理します。

このようにIFRSの減損会計では資産の回収可能価額が資産の帳簿価額を下回った場合に減損が認識され、かつ減損損失が測定される仕組みになっています

一方、日本基準では減損の認識と減損損失の測定は分けて手続きを踏むことになっています。

日本基準においてはまず、対象となる資産の割引前見積将来キャッシュ・フローがその資産の帳簿価額を下回る場合に減損を認識します。

ところが実際の減損損失を測定する際は、対象となる資産の回収可能価額と資産の帳簿価額を比較し、回収可能価額まで帳簿価額を引き下げるという手続きを行うのです。

つまり、減損を判定する際の基準と実際に減損する価額を測定する際の基準が異なっているということです。

このようにIFRSと日本基準では減損損失を算出するまでのプロセスが異なっているため、日本基準では減損損失を免れていた資産でもIFRSを採用した場合には減損損失の対象となる可能性があるということですから要注意です。

IFRSにおける減損会計の対象は?

減損会計の適用対象となる資産の中心は固定資産です。
有形固定資産の例で言えば、土地、事務所や工場などの建物、機械設備などが当てはまります。無形固定資産であれば、のれんが代表的です。

また、投資用不動産や長期前払費用など投資その他の資産も減損会計の対象となります。

このように減損会計の対象となる資産は固定資産なのですが、棚卸資産や繰延税金資産などのように減損会計基準とは別の会計基準で定められている資産については、減損会計基準の適用対象とはならず、それぞれ個別の会計基準に従って処理することになりますので注意してください。

IFRSにおける減損手続きのポイントは?

固定資産が減損会計の対象になるという話をしましたが、固定資産の中でも有形固定資産は耐用年数が決まっていますので回収可能価額の算出も比較的容易です。

しかし、のれんなどの無形資産については、耐用年数が決まっていない上に、日本基準のように規則的な償却が認められていませんから、毎年減損テストを実施して減損の兆候の有無を判定しなければなりません。IFRSの場合は日本基準のような割引前見積将来キャッシュ・フローを算出せずに直接回収可能価額を算出して減損の測定を行う必要がありますから、実務的な手続きが煩雑になることに注意しましょう。

IFRSと日本の会計基準における減損会計の最大の違い

IFRSと日本基準の減損会計の主な違いは上述で説明した通りですが、これら以外で最大の違いとして、IFRSでは減損損失の戻り入れが認められているという点です。

IFRSでは減損の測定を行う際に回収可能価額を算定することが求められていますが、この回収可能価額は企業のある一定の見積もりによって算出された将来における予想値でしかありません。

あくまで予想値ですからその算出の前提が変われば当然その算出結果も変わります。このように回収可能価額を算出するために使用された見積もりに変更があった場合は、過去に認識された減損損失がなかった場合の帳簿価額を限度額として、回収可能価額まで戻り入れをすることになっています。日本基準では一度計上した減損損失を戻すことは認められていませんからこの点は大きな違いです。

ただし、のれんについては戻り入れが認められていませんので注意してください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はIFRSの減損会計のポイントについて解説しました。まずは日本基準の減損会計と大きく違う点を抑えて頂けたら幸いです。IFRSを採用する場合は日本基準での減損会計手続きと異なった手続きが必要になりますので、慎重に決算の準備を進めることをお勧めします。

この記事を書いたライター

商社勤務中に米国公認会計士(USCPA)のライセンスを取得。2015年からフィリピンに赴任。フィリピンにて日系企業を中心に会計税務のアドバイザリー業務に従事。日系企業のフィリピン投資、工場設立、各種ライセンス取得支援など幅広い業務に携わる。
カテゴリ:コラム・学び

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