新卒で野村證券株式会社の投資銀行部門に入社し、2021年に株式会社LegalForceに転職した大木晃氏。同社に入社されるまでのキャリアパスや入社の背景、同社での経験、今後の展望などをHUPRO編集部がお話を伺いました。
【大木氏の略歴】
2011年3月 | 東京大学 経済学部卒 |
2011年4月 | 野村証券株式会社 入社 投資銀行部門 |
2019年5月 | University of Texas at Austin (MBA) 修了 |
2021年5月 | LegalForce入社 経理財務責任者 |
―投資銀行部門を目指したきっかけを教えてください。
大学では経済学部で金融やビジネスを専攻していたことが、最初のキャリア選択のきっかけでした。就職活動を意識し始めた頃にちょうど金融危機が起こり、投資銀行が良くも悪くも注目された時期でしたので、リアルタイムで興味・関心を寄せていました。調べてみると、投資銀行には様々な部門が存在し、各部門によって行っている業務が全く異なることが分かったため、短期インターンにいくつか参加して自分が何をしたいのかを比較検討しました。
その過程でIPOやM&Aなど企業の重大な意識決定やコーポレート・アクションに携われる投資銀行業務が非常に面白そうだと感じました。また、短期よりも長期、個人よりもチームで働くスタイルが自分の嗜好にも合うと考えました。その後は証券会社の投資銀行部門を中心に就活し、案件数が最も豊富で早期に経験値を積むことができるであろう野村證券の投資銀行部門に最終的に入社しました。
―野村證券に実際に入社されていかがでしたか?
先輩方のレベルの高さに圧倒されました。投資銀行の若手業務はエクセルでデータ分析してパワーポイントで資料を作ることが大半なのですが、先輩方は恐ろしいくらい手が動き、分析力もあり、正直、同じ人間のなせる技だとは思えませんでした。
四苦八苦しながらも、少しでも早くキャッチアップするため、仕事の仕方や考え方を学ぶためにひたすら質問を繰り返しました。情報を集めて自分なりの意見を形成して伝えた上で、不足している部分を洗い出すことが重要だと考えていました。何を聞いても嫌な顔一つせず、出し惜しみすることなく教えてくださった当時の先輩方には本当に感謝しています。また、土日も資料の読み込みや情報収集に費やすなど、とにかく必死でした。
―業務時間外でもインプットを続ける仕事へのモチベーションはどこから来ていたのですか?
好奇心の強さ故だと思います。平日や休日の区別なくインプットを自然としていたように感じます。肉体的な疲労はあったと思いますが、自発的にやっていたということもあり精神的にはあまり疲れていませんでした。年次が上がるにつれて自分に任される領域や役割が増えてくると新しいことに触れる機会も増え、好奇心がかき立てられ楽しめるというサイクルができていたのかもしれません。
ー入社されてからの具体的な業務について教えてください。
入社後は投資銀行部門で主に株式引受業務に従事していました。具体的には、公募増資やIPOなどエクイティファイナンス案件のアドバイザー業務です。特にIPOの案件が面白く、1年以上の長期間に亘ってお客様と上場に向けたストーリーの作り込み、資本政策の検討、投資家に対するマーケティング戦略の策定、オファリング関連書類の作りこみなどについて話し合いを重ねて、上場という目標を達成するために奔走していました。
またIPO案件は関係者が非常に多く、社内関係者だけでも上場審査対応をする部署、お客様を担当する営業部署、マーケティング・販売を司る部署、ドキュメンテーションを司る部署など多岐にわたります。それに加えて、弁護士、会計士、上場コンサルのような外部関係者とも一緒に働くことになるため、経験を積むにつれて自分の担当業務のみならず、プロジェクト全体をマネジメントする立場になっていきました。
社内外の関係者の役割を理解したうえで、最適なコミュニケーションを実施してプロジェクトを推進させていく。限られた時間のなかで自分のタスクとプロジェクトマネジメントのバランスを図りながら進めていくことは非常にいい経験になりました。
そして、各関係者と協力しながら想定通りに案件を進めていけるようになると、さらに仕事が楽しくなっていきました。
―具体的にはどのようなことが楽しいと感じたのでしょうか
上場という目標を達成してお客様に満足いただくために、自分が中心となってゴールまでのプロセスを把握し、膨大な量のタスクを整理して、誰に何を任せるかリソース配分して、関係者を適切に動かす。そしてチーム全体がうまくまわったとき、非常にやりがいを感じます。
―留学のご経験があるのですね。どのような経緯だったのでしょうか?
会社に海外留学派遣制度があり、周りの先輩が実際に留学しているのを見る中で自分も自然と目指すようになりました。留学準備で英語には非常に苦労しましたが、周囲からのサポートもあって幸いにも留学の機会をいただくことができました。
留学を志した理由は二つあります。一点目は外資のお客様を担当する機会に恵まれ英語を求められることが多かったこと、二点目はビジネスについての理解を深めたいと考えたことです。
一点目については、当時の上司がお客様の本国担当者を相手に直接交渉しているのを目の当たりにして、このまま日本で働いていても自分に同じことは一生できるようにならないと感じたことが大きかったです。二点目については、お客様と議論をする中でビジネス全般、特にマーケティングやオペレーション等のファイナンス以外の分野に対する理解が全く足りないことを痛感していました。ファイナンスを通じて調達された資金が、どのように投資されてビジネスの拡大につながっているのかを学ぶ必要がありました。
海外と対等に渡り合う英語力、ビジネスを実行していくことへの理解、双方を身につけることで投資銀行業務でより価値を発揮できると思いました。
―具体的に大学院ではどのようなことを学んでいたのでしょうか
MBAでは必修科目と選択科目があり、必修科目でビジネスについて各分野を幅広く学び、選択科目ではアントレプレナーシップとベンチャーファイナンスを中心に履修しました。規模こそ小さいですが、起業にはビジネスに必要なあらゆる要素が総合的に求められると考えたためです。
―実際に留学してみて、当初の目標であった事業がわかるアドバイザーになることができましたか
結局なりませんでしたね(笑)ビジネスを全般的に学ぶことで以前よりはもちろん理解できるようにはなりましたが、知識が増えたという表現が正しいような気がします。
お客様が話す事業の話題について以前よりも理解できるようにはなりましたが、自分が行うわけではなく実感が伴わないためその点で付加価値を出すことは難しく、理想とは程遠いと思いました。
とはいえ、現地のスタートアップで実務に携わることができたことは非常に貴重な経験でした。私が留学したオースティンという都市は、シリコンバレーほどではありませんが、米国の中でも近年スタートアップが盛り上がっている都市の一つです。テック企業の集積地でスタートアップも多いため、授業の一環として彼らの事業を手伝う機会に恵まれました。
―実際現地のスタートアップを経験してどのようなことが得られたのですか
規模が小さい分、ビジネスの全体像を把握することができました。私がお手伝いしたのはBtoCのサブスクリプション企業だったのですが、マーケティング経路別に定着率を分析したり、商品の箱詰めを手伝ったり何でもやりました。ちょうど初めての外部調達に向けて準備を始めるタイミングだったので、その点ではファイナンスにおける自身の強みを発揮することもできました。ファイナンスを活かしたボジションでスタートアップに入れば、ビジネスの全体像を見ながら自分の強みを活かせると実感しました。
また私が、オースティンで出会った人たちはスタートアップで働くことを大きなリスクとは捉えておらず、チャレンジすることに非常にポジティブでした。自分がやりたいことを行うことが一番重要というマインドセットの環境に身を置く中で、スタートアップで働くことに対する心理的抵抗感が劇的に下がりました。
―日本に戻ってからはすぐに転職活動を始めたのですか?
スタートアップに対する興味は留学前より高まったのは事実ですが、転職活動には至りませんでした。投資銀行ではファイナンスとM&Aが二大プロダクトと言われますが、M&Aの方がより深く事業への理解が求められる業務であることから、経験を積みたいと考えていました。帰国後に希望通りM&Aアドバイザリーの部署に配属していただけたのは嬉しかったですね。
―M&Aのアドバイザーの仕事内容ややりがいを教えていただきたいです
M&Aアドバイザーは、会社/事業を買いたい/売りたいお客様のいずれかのアドバイザーとして、案件の成就に向けて総合的なサポートを行います。財務、税務、法務など様々な観点から慎重に検討することが求められ、非常に難解ですがやりがいのある仕事です。
お客様にご納得いただける形で案件が実現した際には非常に喜びを感じます。一方で、当然ですが決定権はお客様にあります。どんなに尽力してもアドバイザーが決めることはできません。ファイナンスも含めて長期間アドバイザー業務を経験する中で、徐々に自分が意思決定の当事者として働きたいという思いが芽生えたため転職を決意しました。
―転職活動の軸などはどういったものだったのですか
転職する際に考えていたことは二点あります。一点目は自分が価値を提供できるポジションがあるか。結局、自分が転職先で最も貢献できるのはファイナンスにおいてなので、その知見を活かせるポジションで人を探している会社を対象としました。
二点目は、明確な自社製品を有する会社です。アドバイザーとして常に売り手と買い手の間に位置して仲介する役割を担ってきたため、次は今までと異なり、自社で製品を開発・提供している会社で働きたいと考えていました。尚且つ、その製品の提供価値を自分自身が実感できることが重要でした。
―リーガルフォースに選んだ決め手はなんだったのですか
一点目は製品の提供価値に強く共感したことです。私自身、投資銀行業務でかなりの量の契約書を取り扱っていたので、AIで契約書をレビュー可能なリーガルフォースの製品が、どんな課題を解決し、どんな価値をお客様に提供するのかが非常にわかりやすかったです。実体験からこの製品には大きなニーズがあり、多くの人から必要とされると心から感じることができました。
二点目は転職活動の当初の軸にはなかったのですが、まだ市場が確立していないリーガルテックという分野で、自分たちが市場を切り拓いていくということに面白さを感じました。既存製品や既存システムの置き換えではなく、過去に存在しなかった価値を社会に対して新たに提供して業界を創出するという取り組みに自分も寄与したいと考えています。
―事業会社に入社してみて、違いなどは感じたりしますか?
事業に対しての主体性が全然違いますね。事業に関連することは以前よりもさらに深く調べるようになりました。会社として向かうべき方向性を最速で実現するため、ファイナンス面からできることは何かを常に考えるようにしています。営業部門、開発部門、経理財務以外の管理部門の業務など、気になる点、理解しておかなければならない範囲は圧倒的に広くなりました。若い会社なので自部門だけで完結する業務は少なく、常に他部門との連携が必要になるためです。
一方、当然ではありますが、常にフォーカスが自社に当たるため、客観的な視点が欠ける面はどうしても出てきてしまいます。自分の経験からも言えますが、そういった点では専門家は様々な会社を見ている分、公平に物事を見ていて引き出しが多いです。客観的な視点からアドバイザーの方々にサポートいただきつつ、自分たちで意思決定をして事業を走らせていくことは非常にやりがいを感じます。
―これからのキャリアはどのように考えていますか
日本においてリーガルテックという業界を切り拓いて確立させるためにも、LegalForceをファイナンス面から支えることで、より大きく成長させていきたいと考えています。個人としては、役割は経理財務中心ではありますが、元々興味のある事業への理解もより深めていきたいです。まだ入社して5ヶ月という期間ですが、自分にできることを明確にして、どんどん成果を出していきたいと考えています。
―スタートアップへの転職を検討している人へのメッセージをお願いいたします!
自分のやりたいことと、自分が価値提供できることは分けて考え、明確にすることが重要だと考えます。ご自身と転職先の双方がwin-winになるためにはどちらの要素も欠かせません。
自分の強みがどのように発揮されて、活かせるのかが明確になれば自信を持って働くことができます。一方、不足していると思われる部分も明確にして、その点は正直に伝えて周囲からサポートを得ることも重要です。自分が提供できるものを理解できていれば、採用する立場の目線で、客観的に自分のことを評価できると思います。そうすれば希望の転職も可能でしょうし、転職した後も活躍する可能性が高まります。
転職活動に不安を感じることも多くあるかと思いますが、リスクを取らないこと自体がリスクになることもあります。ご自身が転職で実現したいことを明確にし、一度意思決定したら後は自分の力でそれを正解にすべく進むだけだと思います。頑張ってください!
―本日はお話いただきありがとうございます!
今回お話をいただいた、大木氏の務める株式会社LegalForceのHPはこちら!
株式会社LegalForceのHP