専門商社やベンチャー企業、IT企業と数々の企業を渡り歩いてきた土井 裕介氏。
現在はベルフェイス株式会社で執行役員CFOとして大型の資金調達を成功させています。ただし、輝かしい経歴を持つ土井氏は最初から順風満帆のキャリアを歩んだわけではないようでした。
どんな時もあきらめずに挑戦してきた土井氏のキャリア遍歴をHUPRO編集部がお話を伺いました。
【土井氏の経歴】
2006年 | ビジネス経験を積むために営業志望で、新卒で専門商社に入社するも、経理財務部門に配属される |
2013年 | 転職し、ユナイテッド株式会社で、経理財務マネージャーに昇格する |
2018年 | 更なる経験を求めて転職したブティックス株式会社において、管理部長として上場を実現 |
2019-20年 | ベルフェイスで管理部門を立ち上げながら、CFOとして、50億円を超える調達を実現 |
2021年 | Covid-19の影響もあり、逆風の中でも再度30億円の調達を実現 |
【土井氏のキャリアグラフ】
―新卒では専門商社に入社されたのですね
そうですね。就活は「個人スキルを最大限伸ばせる環境が整っており、事業を海外へ展開している企業」に絞り、就職活動を行いました。
事業を海外へ展開している企業にターゲットを絞ったのは「将来は起業したい」という思いから、海外でも通用するスキルを身につけたいと考えていたからです。
そこで若い頃から海外駐在可能な海外向けの営業部に配属し、スキルアップを図ろうと考え、専門商社に入社しました。
―専門商社では経理部門に配属されていますね
営業職を希望していたので、まさか経理部門に配属されるとは思っていませんでした (笑)
当時はかなり落ち込みましたが、この想定していなかったスタートが今の私のキャリアの土台となりました。
―希望していた部署ではありませんでしたが、経理部門で新たな面白さを見つけられたんですね
たしかに希望していた部署ではありませんでしたが、業務にはやりがいを感じていました。
当時の上司が住友化学㈱出身の方で、「今のうちから海外にも目を向けてしっかり経験を積んでおこうな」と日本の企業だけでなく、海外の子会社や関連会社の経理をはじめとしたバックオフィス業務も幅広く担当させてもらいました。
そこで経理は思っていたよりも単純な仕事ではないと感じました。
―どの部分に「単純な仕事ではない」と感じたのですか?
単純な数字管理ではなく、経営の意思決定や根幹に関わられる部分を「単純ではない」と感じました。
例えば、役員陣に財務状況や今後の見通しを説明する際、会社の経営方針や営業戦略等を知る必要があるため、新卒ながら役員陣の会議や営業戦略会議といった会議体にも参加させてもらいました。
そこで会社の経営にダイレクトに触れ、経営者のものの見方や考え方を学び、意思決定に合わせた予測を立てていくことにとても面白さを感じました。
その後、リーマンショックが発生して海外駐在の話が頓挫したため、転職することとなりますが、経理部門で学んだ土台となる知識は、今後のキャリアにも大きく活かせました。
―その後、ユナイテッド㈱に入社されていますが、どうして入社を決意されたのですか?
経理や財務の仕事を面白く感じていた中で、自身のスキルアップのために「上場企業の経理業務を経験したい」と考えたためです。
上場企業と未上場の企業では、経理の仕事に違いがあります。上場企業では、より多くの「ステークホルダー」の目があるため、細かいルールに則って実務をこなす必要があります。
関係するステークホルダーが増加するため、多方面に納得してもらうための資料作りや、金商法や上場規程等に則った会計方針への対応などは大変でしたね。
ここに関しては、先輩の仕事振りを参考に自分で積極的に手を動かしたり、書籍や参考となる文献等を通じて、知識を習得しました。前職で経理の基本をしっかり学んでいたことも自身の成長に寄与していたと感じています。
―その後、経理財務マネージャーに昇格されていますが、どのようなことを意識されていましたか?
マネジメント自体は初経験でした。私の場合は「自分自身が理解してから相手に指導すること」を徹底しました。
また、考え方の違う人同士がぶつかり合わないように、1対1でのコミュニケーションをしっかりと取ることも意識しました。
経理財務の分野では意欲の差が如実に表れます。それぞれの得意分野/不得意分野や属性があったとしても、得意な人/意欲的な人にだけ仕事を任せるのでは非常に属人的な組織になってしまいます。
このような組織では問題が発生した際に崩壊しやすく、新しく何かやらなければならない際にはストレッチできない組織となってしまいます。
同じ会社に所属しているからといって、皆が人生において同じステージにいるわけでもないため、各個人が優先したいと思うことにはばらつきがあります。プライベートを優先したい、お金を稼ぎたいなど、そのタイミングはそれぞれ違うので、普段からメンバーとコミュニケーションをとっておくことで、個々人のタイミングを理解していないと組織としては強くなれないと感じています。
「人はそれぞれ違う考えを持っていること」を理解してもらい、お互いを尊重できる環境を作ることを意識していました。
その後、ブティックス㈱で管理部長を勤める際も、経理財務・法務・総務を包含して見る必要がありましたが、根底のコミュニケーションの部分では、ユナイテッド㈱の経理財務マネージャーとして学んだことをしっかり活かすことができたと感じています。
ここで身につけたマネジメントスキルは、ベルフェイス㈱のCFOとしての仕事にも活きています。
―ブティックス㈱ではIPO(新規上場株式)を達成されていますが、大変だったことはありますか?
ブティックス㈱はビジネスモデルが特殊だったので、売上の先行きが外れることが何回かありました。そこをステークホルダーに理解してもらうことが大変でした。
内部体制の構築はある程度決められた手段に従っていけばいいのですが、それとは別で事業はまったく独立した話です。ある程度予算通りに着地しないといけないので、先行きを証明することに苦労しましたね。
「予算を達成するかしないのか」「予定通りなのか通りじゃないのか」など、そもそも見通しが立てづらいモデルであることを丁寧に話しました。また、予実差がなるべく発生しないようにパイプライン管理を実測しながら説明していきました。
結果、当初の予定から1、2か月ほどずれましたが、ほぼスケジュール通りに上場させることができました。
上場達成までに些細な問題にいろいろと直面しましたが、たとえどんなに時間がなくても最後の最後まで諦めなかったことが大きく影響していると感じています。
―どうしてベルフェイス㈱に入社されたのですか?
新しいテクノロジーを提供している会社で貢献したいと考えたためです。
当時、私はIPOやIR、M&Aなども含めて、一通りのバックオフィスの仕事を経験したので、「そろそろ独立したいな」とも考えていました。
海外で挑戦することも視野に考えていたのですが、改めて考え調べる中で、海外に進出し活躍している「日本のベンチャー企業」が殆どないことが悔しいと思えるようになりました。
そこで、海外に対しても勝負できそうな可能性を持っていて、新たな試みをスタートしている日本の企業を海外に広く知らしめたいと考えました。その中で、世界のビジネスシーンで当たり前のように存在し、非常に濃度が高く価値のある内容あるにも関わらずブラックボックス化している「商談」という、ラストワンマイルの分析・解明に取り組んでいるベルフェイスに入社を決意しました。
―ベルフェイス㈱に入社され、まずはどのような仕事に取り組んだのですか?
管理部門の立ち上げからスタートしましたね。
私が入社した際は総務関係の社員が1名のみと、バックオフィス関係は体制が出来上がっていませんでした。
営業等のビジネス側出身の経営陣しかいなかったため、バックオフィスの必要性を経営陣に説明するところからはじめたので、非常に苦労しました。全体効率として最適なところを図りながら、自分自身が経営目線で話をすることで、社内の理解を得るように意識していました。
管理部門にジョインするメンバーの採用活動も行いました。当時のベルフェイスは、発展途上であったので、新しい制度の発案や作成をできる「能動的な人材」を採用していきました。
―ベルフェイスの根幹を作るところからスタートした後、大型の資金調達を実現されたんですね。
ベルフェイスを成長させていくために、資金調達は必須だなと考えていました。
特に2回目の資金調達は新型コロナウイルスの蔓延でベルフェイス㈱のサービスの需要が増えました。
新型コロナウイルスの蔓延前から採用や開発に投資をしていましたが、さらなる成長のために資金調達を実施した形です。
―資金調達ではどのようなことが大変でしたか?
ベルフェイス㈱は成長性のある企業でしたが、実績がついていきている状況ではありませんでした。
ビジョンセリングで説明していたので、投資家から「ビジョンをどうやって達成するのか」というその「実現可能性」に関して突っ込まれることが多かったです。
そのため、しっかりと説明根拠を考え、その背景やプロダクトの必要性やTAM等の将来的な可能性などについて説明していきました。
また、良い面だけでなく、「リスク面」についても正直にしっかり話しました。投資家の方々に可能な限り理解しやすいような資料作りや方針説明を心がけました。
もちろん「リスク面」には、どうすれば解決できるのか手段もつけて話しました。
最終的にサインを受領したときはすごく達成感がありましたね。想像以上に嬉しかったです。
―資金調達を実現する上で大切なことは何でしょうか?
会社のステージによって変わると思いますが、今の我々のステージでいうならば、会社が掲げているビジョンやミッションが適切で、きちんと向き合って挑戦できていることだと思います。
もちろん、事業の状況も重要です。足元の状況と将来展望への導線を、根拠もとにしっかりと説明していくことも大切だと考えています。
会社と投資家との対話には、信頼関係が重要だと考えています。向かい風の要素があったとしても正直に話をする、良い面も悪い面も含めて説明し、質問やネガティブな指摘だったとしても真摯に向き合って対応するといったことが信頼関係の醸成に繋がっていくと感じています。
―今後はどのようなことを実現したいですか?
ベルフェイス㈱のCFOとして、会社自体や関わってくれる方々が挑戦しやすい環境を整えていきたいです。従業員や会社、社会に対して何らかそれぞれの可能性を拡大できるようにしていくことが、CFOに課せられた使命だと考えているからです。
無作為に挑戦するのではなく、方向性や妥当性を考慮したうえで、道筋を立てることからサポートし、ゴールを明確にしてチャレンジできる環境を目指しています。
また将来的には、IPOの実現に向けて準備していきたいと考えています。
ただ、IPOはただの手段なので、それだけに囚われず、全体感をもって会社や社会にとっての是を考えながらプロジェクトを進行させようと考えています。
海外にベルフェイスを広く知らせるために、海外の投資家とのやり取りも増やしたいですね。
―管理部門を目指す人にアドバイスをお願いします!
「今あるキャリアがこうだから」と決めつけずに、積極的に挑戦してほしいです。私も最初から希望の仕事ができていたわけではなく、あきらめずに挑戦を続けた結果、面白いキャリアを歩むことができました。
今後の日本では、
①成長できる場所がどこかを知っていること
②チャレンジすべきタイミングを知っていること
③チャレンジできる場に立つ勇気を持っていること
この3つの事を理解し、合わせもつ人が伸びていくと思います。
人の成長性は環境によることがほとんどなので、ぜひ勇気ある一歩を踏んで欲しいですね。
―本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
本日はお話を伺ったベルフェイス株式会社 執行役員CFO 土井裕介氏のベルフェイス株式会社のホームページはこちら!