貸倒引当金は、法人が実際に支出を行っていないにもかかわらず、その費用計上することが認められている引当金のひとつです。
今回は、この貸倒引当金の期末残高となる貸倒見積高の計算方法と、その貸倒見積高を計上するための貸倒引当金繰入額、貸倒引当金の勘定科目の表示箇所について、詳しくご紹介致します。
貸倒引当金とは、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金等の貸金の貸倒れによる損失の見込額をいいます。
債権の貸借対照表価額は、取得原価ないし償却原価から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額を表示する必要があります。
会社計算規則によると、下記の通りです。
「取立不能のおそれのある債権については、事業年度の末日においてその時に取り立てることができないと見込まれる額を控除しなければならない。」出典:会社計算規則
債権の評価を行うにあたり、貸倒見積高を算定する必要がありますが、債権は債務者の財政状態や経営成績に応じて、一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等の3つに大別して、その区分に応じて貸倒見積高の算定を行う必要があります。
一般債権とは、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権のことをいいます。
債権全体または同種、同類の債権ごとに、状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等、合理的な基準により貸倒見積額を算定します。
一般債権の貸倒見積高は、
の算式で求めます。
債権全体または同種、同類の債権ごとに評価を行うことから、対象となる債権を一括評価金銭債権といいます。
一括評価金銭債権とは、売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権で、個別評価金銭債権を除いたもので、具体的には下記のものをいいます。
・売掛金、貸付金
・未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等又は貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの
・他人のために立替払をした場合の立替金
・未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの
・保証債務を履行した場合の求償権
・売掛金、貸付金等の債権について取得した受取手形
・売掛金、貸付金等の債権について取得した先日付小切手のうち法人が一括評価金銭債権に含めたもの
・売買があったものとされる法人税法上のリース取引のリース料のうち、支払期日の到来していないもの
・預貯金及びその未収利子、公社債の未収利子、未収配当その他これらに類する債権
・保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権
・手付金、前渡金等のように資産の取得の代価又は費用の支出に充てるものとして支出した金額
・前払給料、概算払旅費、前渡交際費等のように将来精算される費用の前払として、一時的に仮払金、立替金等として経理されている金額
・金融機関における他店為替貸借の決済取引に伴う未決済為替貸勘定の金額
・証券会社又は証券金融会社に対し、借株の担保として差し入れた信用取引に係る株式の売却代金に相当する金額
・雇用保険法、雇用対策法、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定に基づき交付を受ける給付金等の未収金
・仕入割戻しの未収金
・保険会社における代理店貸勘定の金額
・法人税法第61条の5第1項に規定する未決済デリバティブ取引に係る差金勘定等の金額
・法人がいわゆる特定目的会社を用いて売掛債権等の証券化を行った場合において、その特定目的会社の発行する証券等のうちその法人が保有することとなったもの
貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態には陥ってないが、債務の弁済に重大な問題が生じる可能性の高い債務者に対する債務をいいます。
貸倒懸念債権の貸倒見積高は、財務内容評価法又はキャッシュ・フロー見積法によって行います。
債務ごとに見積を行うことから、貸倒懸念債権は、一般評価債権に対して個別評価債権といいます。
財務内容評価法とは、担保保証等による回収見込額を考慮する方法です。
債権額から担保の処分見込額おとび保証による回収見込み額を控除し、その残額について債務者の財政状態および経営成績を考慮した貸倒率に基づいて貸倒見積高を算定するものです。
つまり、財務内容評価法では貸倒見積額を、
の算式で求めます。
キャッシュ・フロー見積法とは、見積キャッシュ・フローの割引価値による方法です。
債権の元本の回収および利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることが出来る貸付金等の債権については、債権の元本の回収および利息の受け取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債券の帳簿価格との差額を貸倒見積高とするものです。
つまり、キャッシュ・フロー見積法では貸倒見積高を、
の算式で求めます。
破産更生債権等とは、破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所における取引停止処分等の事由が生じているような、経営破綻または法的、形式的な経営破綻の事実が生じていない者の、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状態にあると認められる実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権をいいます。
破産更生債権等については、債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込み額を減額した残額を貸倒見積高とします。
つまり、破産更生債権等の貸倒見積高は、
の算式で求めます。
また、債務ごとに見積を行うことから、破産更生債権等も、一般評価債権に対して個別評価債権といいます。
破産更生債権等の貸借対照表の記載には、通常の営業債権との区分が必要であることに留意が必要です。
受取手形、売掛金等の債権のうち、破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権で1年以内に回収されないことが明らかなものは、営業債権であっても、その性質は貸付金等の営業外債権に変質したものとして、1年基準が適用されます。
よって、破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権の区分項目により、これらの資産を示す名称を付した科目によって、投資その他の資産に記載をする必要があります。
上記のように算出された貸倒引当金の期末残高に達するまでの金額を、貸倒引当金繰入額/貸倒引当金として仕訳を計上することが一般的です。
以降では、勘定科目としての貸倒引当金繰入額と貸倒引当金の財務諸表の表示箇所についてご紹介致します。
算出を行った貸倒見積高の期末残高を満たすために必要とされる金額は、貸倒引当金繰入額として損益計算書に表示されます。
対象となる債権によって、貸倒引当金繰入額の損益計算書における表示箇所が異なります。
一般債権に対しての貸倒引当金繰入額は、販売費及び一般管理費又は営業外費用に表示されます。
販売費及び一般管理費に表示されるものは、売掛金、受取手形等の本業の活動から生じた債権の貸倒引当金繰入額です。
営業外費用に表示されるものは、貸付金、未収入金等の本業以外の活動から生じた債権の貸倒引当金繰入額です。
一般債権と同様の表示箇所を基準としていますが、臨時かつ巨額の債権を対象とする場合は、特別損失に貸倒引当金繰入額が表示されます。
貸倒見積高の期末残高は、貸倒引当金として貸借対照表に表示がされます。
貸倒引当金の表示方法には、科目別間接控除法、一括間接控除法、直接控除注記法があります。
科目別間接控除法とは、評価勘定の貸借対照表の表示方法の一つとして、本来の各勘定科目ごとから減価償却費、減価償却累計額、貸倒引当金等の評価勘定を間接的に控除するかたちで表示する方法をいいます。
例えば、売掛金の期末簿価が200万円、売掛金に対する貸倒見積高が20万円、貸付金の期末簿価が100万円、貸付金に対する貸倒見積高が10万円計上される場合には、下記のように貸借対照表に記載がされます。
一括間接控除法とは、評価勘定の貸借対照表の表示方法の一つとして、科目別間接控除法のように各勘定科目ごとにではなく、複数の科目を一括してまとめ、これから評価勘定を間接的に控除するかたちで表示する方法をいいます。
例えば、売掛金の期末簿価が200万円、売掛金に対する貸倒見積高が20万円、貸付金の期末簿価が100万円、貸付金に対する貸倒見積高が10万円計上される場合には、下記のように貸借対照表に記載がされます。
直接控除注記法とは、評価勘定の貸借対照表の表示方法の一つとして、評価勘定の額を直接控除したあとの本来の勘定科目の額のみを貸借対照表に記載し、評価勘定とその控除額については、欄外に注記するかたちで表示する方法をいいます。
例えば、売掛金の期末簿価が200万円、売掛金に対する貸倒見積高が20万円、貸付金の期末簿価が100万円、貸付金に対する貸倒見積高が10万円計上される場合には、下記のように貸借対照表に記載がされます。
そして、注記にて下記のように貸倒引当金の存在について記載が行われます。
債権の債権金額、貸倒引当金の当期末残高及び当該債権の当期末残高は、次のとおりである。
売掛金 債権金額200万円 貸倒引当金の当期末残高20万円 債権の当期末残高180万円
貸付金 債権金額100万円 貸倒引当金の当期末残高10万円 債権の当期末残高90万円
貸倒引当金についてご紹介を致しました。貸倒引当金繰入額は、法人が計上することが出来る、支出を伴わない費用のひとつです。
適正に計上をすることで、法人税の節税効果が見込むことが出来ます。是非ご参考になさってください。