日本企業における度重なる不祥事を受け、コーポレートガバナンスを高めるために会社法が2019年に改正され、新たに上場企業等で社外取締役の設置が義務づけられています。どうして、社外取締役が義務付けられると、コーポレートガバナンスが向上するのでしょうか?この記事では、社外取締役の役割を解説します。
社外取締役とは、その企業での業務経験がない取締役のことです。英語では「Outside Director」。単語から見ても解るように「社外の人」です。しかし、経営の基本方針や重要な業務執行等、取締役会の決定事項について、取締役会の一員として責任を有します。
なぜ社外取締役が必要なのでしょうか。それは、社内の取締役や執行役員が自分たちや会社にとっての都合を優先してしまい、株主にとって不都合な意思決定をしないか客観的に判断するためです。
そのため、社外取締役については会社法2条15号によって、就任基準が厳しく定められています。親会社だけでなく、子会社や兄弟会社での就業経験が過去10年以内にある場合は、社外取締役になることはできません。さらに、その配偶者及びその二親等以内の親族も社外取締役になれません。
この厳格な基準は、企業や役員との利害関係がない人を任命することによって、より客観的な視点を確保し、コーポレート・ガバナンスを強化することが狙いです。上場企業においては、社外取締役を最低2名を置くことが義務付けられています。
社外取締役に期待する役割については、経済産業省の定める「社外取締役の在り方に関する実務指針」
を見てみましょう。
その役割は具体的に2つあります。
社外取締役の最も重要な役割は「経営の監督」です。
経営陣が作成した経営戦略や経営計画、個別の業務執行の決定に関する議案について、その検討体制や作成プロセスの確認を行ったり、内容が企業と株主にとってためになるものなのかどうかを取締役会において質問したりします。会社の経営陣は、会社の持続的な成長と共に、中長期的な企業価値の向上を図る必要があります。しかし、時としてこの目的から外れた経営がおこなわれることも珍しくありません。
いわゆる会社と経営陣・支配株主等との「利益相反」です。例えばMBOや敵対的買収への対応、役員報酬の決定など、会社と経営陣や、支配株主等との利益相反が生じ得る場面は少なくありません。
それでは、企業の目的からも株主の利益からも外れてしまいます。
社外取締役の役割は、そのような意思決定に対し否を唱えることです。必要に応じては社長・CEO の交代を主導することもあります。
また、このような経営陣によるいきすぎた業務執行に対して「待った」をかける役割以外にも、場合によっては経営陣に対する助言を行うこともあります。
社外取締役は、経歴や血縁関係等なども含め、会社と関りのない人から選ばれます。それは、経営の監督という意味だけでなく、社外の有益な知見を、経営に取り入れるためでもあります。
しがらみにとらわれず、社内の人が言いにくいことを言うことができる立場なので、経営陣に対して遠慮せずに、客観的な立場から経営改善した方が良いことについては、発言・行動をすることが求められています。
「改革は内部からは生まれない」と言います。同じ価値観や事業部門によって利害関係を持つ社内の意見より、社内の常識にとらわれない第三者の目線で見ることにより、新たな改善箇所を発見するのも、社外取締役に求められている役割です。特に、ESG や SDGsの観点に配慮した視点は、昨今もっとも強く求められています。
社外取締役は、企業とかかわりのない立場から、経営への監督と助言が求められる役割です。そのためには、社内の状況も良く知る必要がありますし、経営陣とは相互に尊重し合う信頼関係を構築する必要があります。
あくまで中立的な立場として、経営陣とは適度な緊張感・距離感を保ちつつコミュニケーションすることが重要です。
「監督者」として取締役会と敵対したり、一方的に自分の考えを述べるのではなく、さまざまな立場の意見に耳を傾け、個々の部門にとっての「部分最適」ではなく、全社レベルでの「全体最適」の視点から企業経営を監督することが求められています。その役割を果たすためには、受け入れ企業側のサポートも重要です。必要に応じて、社内の情報にアクセスできるような権限、弁護士などの外部サポートを利用できるような仕組みを整えることなど、会社側の環境構築も求められています。