士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所|HUPRO MAGAZINE
士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所

カテゴリ

粉飾決算の見抜き方、手口はどんなものがある?

公認会計士・税理士 金森 俊亮
粉飾決算の見抜き方、手口はどんなものがある?

ニュースで粉飾決算が世の中を賑わせることがあります。
みなさんも粉飾決算のニュースを聞いたことがあるのではないでしょうか。
そんな時、粉飾決算は見抜けたのではないかと思う方もいると思います。粉飾決算を見抜くことは、不可能ではありません。

本日の記事では、代表的な粉飾決算の見抜き方について記事にします。
なお、今回は、発生頻度が一番高い粉飾決算の売上高の架空計上を題材にします。

売上高の架空計上の手口

まず初めに、売上高の架空計上の代表的な手口についてです。

実際に取引をしていないのに売上高を計上する。

これは、その名の通り、実際には売上をしていないのに、請求書から納品書といった各種書類を偽造することで、架空の売上高を計上することです。
どの業種においても発生可能性のある定番の粉飾決算です。

循環取引における売上高の架空計上

循環取引とは、複数社で、実態のない取引を何回転も行い、売上高を計上していくという手法です。

例えば、A社→B社→C社→D社→A社→B社…というように、共謀した複数社で、少しずつ利益を乗せて売上げていきます。基本的には商品の移動は伴わず、また買い戻しすることが前提の取引ですので、実態がない売上です。売上高を水増ししたい際によく行われます。

工事やソフトウェア開発において、進捗率を操作することで売上高を架空計上する。

建設会社やソフトウェア開発会社等では、従前より工事やソフトウェア開発のプロジェクトに対して、発生が見積もられる総原価に対して、実際に発生した原価を除することで、進捗率を計測し、受注金額に進捗率を乗じることで、売上高を計上するという実務を多額の取引において行なっています。

この場合、発生した原価を他の工事やプロジェクトの原価から付替えを行なったり、架空の工事原価を計上することで、進捗したように粉飾し売上高を過大に計上するという手口があります。
業種は限定的ですが、実際に行われる可能性の高い粉飾決算です。

見抜き方

次に、売上高の架空計上が行われた際の見抜き方です。

売掛金の回転期間分析を行う

売上高は通常、以下の仕訳を起票します。
(借方)売掛金/(貸方)売上高

架空の売上高を計上すると、回収されない売掛金が計上されます。
そのため、売掛金の回転期間分析を実施すると、売掛金が増加している影響で回転期間が伸びます。
理由のない、売掛金の回転期間の増加は、不正の端緒となっていることがあるため、増加理由を確認します。合理的な理由がない場合は、粉飾を視野に入れてさらに理由を確認していきます。

利益率の分析を行う

売上高の架空計上を行う場合、通常は利益も獲得することを目的としています。
そのため、利益率が高い架空取引が計上されることがあります。

一方、循環取引の場合は、利益が乗って自社に帰ってくるため、利益率は低くなることがあります。
通常、安定した経営を行なっている企業の売上高利益率は、安定します。そのため、年単位や月単位で売上高利益率を比較し異常値がないかを確認します。
セールスミックスの変化等、理由もなく売上高利益率が大きく増減している場合は、不正の端緒となっていることがありますので、慎重に理由を確認します。

残高確認を行う

得意先に残高確認を実施することで、架空の売掛金が判明する場合もあります。

残高確認とは、得意先に対して、当社はいくら売掛金を認識していますが相違ないですか?と文書で確認する作業をいいます。
架空の売掛金があれば、得意先が認識していない残高となっていますので、差異が生じます。その差異を分析していくことで判明することがあります。

なお、残高確認の差異は、架空売上以外にも得意先の締め日の影響等様々な理由で発生しますので、差異発生=架空取引ではありません
それでも理由のない差異は、不正の端緒がありますので正当な理由での差異かを得意先の協力を得ながら確かめます。

売掛金の相手先に異常な相手先がいないかを確認する

売掛金の得意先を一覧化し、自社の取引の性質上、異常な取引先がないかを確認します。

例えば、本来は仕入先である会社が売掛金の相手先となっている場合、循環取引が行われている可能性があります
そのため、売掛金の相手先一覧を入手して、異常な相手先が存在しないかを確認し、もし存在する場合は、正当な理由かを確認します。

営業利益が計上されていても、営業活動キャッシュフローがマイナスになっていないかを確認する

通常、業績が好調な会社は、営業活動でキャッシュを獲得しています。
しかし、売上高の架空計上を行なっている会社の場合は、当然にしてキャッシュを獲得できません。そのため、営業活動キャッシュフローはマイナスになる傾向にあります。

営業利益が好調に伸びているのに、営業活動キャッシュフローが継続してマイナスの会社は不正の端緒があるため、正当な理由でのマイナスかを確認します。

工事等で異常な進捗率となっていないかを確認する

工事やソフトウェア開発会社での粉飾手法に対する見抜き方です。
通常、工事やソフトウェア開発の原価は安定的に発生することがほとんどです。
急激に多額の原価が発生し、進捗することはあまりないと言えます。

急激に進捗した工事やソフトウェア開発に関しては、不正の端緒があるため、材料の一時点による投入などの正当な理由での進捗かを確認します。

まとめ

粉飾決算は、実行している方も隠蔽するために、さまざまな手段を使って、明るみに出ないようにします。
しかし、複式簿記という仕組では、どこかに歪みが生じます。
その歪みを見つけ出し、納得いくまで理由を探っていくことが、粉飾決算の見抜き方の基本的な考え方と言えます。

この記事を書いたライター

公認会計士・税理士。大手監査法人で10年、監査とアドバイザリー業務を経験し2020年7月独立開業。現在は会計コンサル業務を中心に業務を行い、徐々に税務業務を開拓中。小規模監査法人パートナーも兼務。多摩地域を盛り上げたいと思っている。
カテゴリ:コラム・学び
    タグ:

おすすめの記事