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自己株式の取得でみなし配当が生じる場合の処理について解説

岡山 由佳
自己株式の取得でみなし配当が生じる場合の処理について解説

自己株式を取得する際に、みなし配当が生じる場合があります。法人の全ての取引は、会計処理及び税務処理が必要となりますが、このみなし配当が生じる自己株式を取得する場合には、会計処理と税務処理が異なるため留意が必要です。
今回は自己株式の取得でみなし配当が生じる場合と、その処理についてご紹介致します。

自己株式の取得とみなし配当

自己株式とは、株式会社が発行する株式のうち、自社で取得をして保有をする株式のことをいいます。

自己株式の取得をする際に、株主が出資した金額よりも、株式の譲渡価額が高い場合は、みなし配当として取り扱いがされます。
今回は、自己株式の取得によるみなし配当の会計処理についてご紹介をしていきます。

自己株式を取得する目的

株式会社は、株式を発行し、株主に買い取って貰うことで、経営に必要な資金の出資を受けています。
この株式を自社で取得するということは、運転資金の減少に繋がりますが、様々な目的をもって自己株式を取得する場合があります。
目的には、下記のようなものを挙げることが出来ます。

少数株主整理

少数株主から自己株式を取得することにより、株式の分散による株主管理の手間や費用を軽減させることが出来ます。

株価の改善

市場から自己株式を取得することにより、流通量が少なくなり、1株当たりの利益が上がり、株価が上昇することを見込むことが出来ます。

M&Aの支払対価

合併や買収等を行う場合に、その支払対価として自己株式を交付することにより、新株発行の場合と比較して、発行済株式数の増加による株価の低下を防止し、また新株発行に伴う費用を削減することが出来ます。

敵対的買収への防衛

敵対的買収を行おうとする他社が買収に十分な議決権を得るために会社の株式を獲得しようとする場合に、敵対的買収を受ける会社が自己株式を取得することで、これを阻止することが出来ます。

自己株式を取得することで発生する、みなし配当

みなし配当とは、会社法上の配当行為には該当をしないものの、利益の分配があるという事実に基づき、税法上配当とみなす行為のことをいいます。
自己株式の取得は、株主に対して剰余金を分配する会社法上の配当とは異なるものの、その行為によって株主に利益が生じることから、みなし配当に該当をします。

みなし配当の詳細については、下記コラムをご参照ください。

自己株式取得に係る会計処理

自己株式の会計処理については、企業会計基準第1号自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準によって定められています。
会計上、自己株式の取得は資本取引となることから、取得価額をもって株主資本を控除します。

例えば、自己株式を500千円で預金の支払いにより取得した場合には、仕訳は下記のように行います。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
自己株式 500千円 普通預金 500千円

自己株式の取得に係る税務処理

自己株式の取得をする際に、株主が出資した金額よりも、株式の譲渡価額が高い場合は、株主に対する資本の払戻しを、資本金等の額からの払戻しと、それを上回って払戻ししたときの利益積立金額からの払戻しに区分計算するものとされ、この利益積立金額からの払戻しがあったときに、これをみなし配当として処理を行う必要があります。
この税法上の処理の必要性から、会計処理と税務処理が異なります。

例えば、上記の500千円の自己株式の取得に伴い、税務上で、資本金等の額の減少額が380千円、利益積立金額の減少額、つまりみなし配当の額が120千円であった場合には、仕訳は下記のように行います。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額
資本金等 380千円 普通預金 500千円
利益積立金 120千円    

このように、自己株式の取得によるみなし配当が生じる場合には、会計処理と税務処理が異なります。
その差異を解消するために、法人は申告調整が必要となります。

法人税の申告については、下記コラムをご参照ください。

まとめ

自己株式の取得をし、株主が出資した金額よりも、株式の譲渡価額が高い場合はみなし配当が発生をします。
みなし配当が発生をする場合は、会計処理と税務処理が異なるため、みなし配当を行った法人は、申告の際に調整が必要であり、申告書の作成時に別表4と別表5において処理が必要となります。

法人税が難解であると感じる理由のひとつに、法人税の申告書作成及び納付額の決定をするうえで、申告書に会計上で発生した数字を転記して作成出来るものではなく、このように会計処理と税務処理が異なる場合に、申告書で特殊な処理が必要となることが挙げられます。

法人税法や特殊な処理についてまで、法人の経理担当者や経営者が全て把握することは、難しいものです。専門家にご相談され、申告書作成を一任することが、正しい申告のための最適解であることも多くあります。

この記事を書いたライター

大学在学中より会計業界に携わり10年超の会計事務所、税理士法人での実務経験を経て独立。各業種の会計業務に関するフォローのみならず、ライターとして税務、労務、経理の話題を中心に、書籍やWebサイトに数多くの寄稿を行う等の様々な活躍をしている。
カテゴリ:コラム・学び

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