一時所得とは、一時的に納税者が取得した収入のこと。事業所得・給与所得などと並んで、所得税の算定基礎に含まれる税区分です。
ただし、一時所得は総合課税で損益通算できないという特徴があるだけでなく、何が一時所得に含まれるのかについて争いが生じる場面も少なくありません(たとえば、競馬の払戻金の課税について話題になったことをご記憶の方もいらっしゃるでしょう)。
そこで今回は、一時所得とはどのようなものなのか、課税対象や計算方法などについて、分かりやすく解説します。
一時所得とは、所得税の算定根拠となる”所得”の1種のこと。
所得には、事業所得・利子所得・配当所得・不動産所得・給与所得・山林所得・一時所得・退職所得・譲渡所得・雑所得の10種類が定められており、そのうち、一時的に納税者が取得したお金のことを指します。
国税庁のHPでは、次のように一時所得の定義を定めています。
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得をいいます。出典: No.1490 一時所得
つまり、一時所得とは、次の4つの特徴を充たす性質の所得であると考えられます。
総合課税で損益通算できないという税制上の特徴があるため、一時所得に該当するかの判断は非常に重要です。
①~④のポイントを押さえて、一時所得への該当性の判断を誤らないようにしましょう。
一時所得に含まれる収入として、国税庁HPでは次の5つの項目を挙げています。
(1) 懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)
(2) 競馬や競輪の払戻金(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除きます。)
(3) 生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除きます。)や損害保険の満期返戻金等
(4) 法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)
(5) 遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等出典: No.1490 一時所得
ただ、実務上は一時所得への該当性がさらに細かく問題になるケースがあるため、一時所得に含まれる収入について、それぞれ具体的な注意事項とあわせて見ていきましょう。
業務に関連して受け取る場合を除き、雑誌・懸賞雑誌・お祭り・町内会の福引などで手に入れた商品・賞金はすべて一時所得に含まれます。
特に注意が必要なのが、現金ではなく商品を受け取った場合。たとえば、ペア旅行券・食事券・回数券・家電・自動車などに当選することもありますが、この場合には時価換算した金額が一時所得として計上されることになります。
公営ギャンブルには、競馬・競輪・競艇・オートレース・ボートレースなどが存在しますが、これらの払戻金は一時所得の対象になります。
これに対して、パチンコ・パチスロなどの公営ギャンブル以外の賭け事は、法的にはギャンブルではなく”遊戯”という位置づけがされているため、一時所得には該当しません。
なお、公営ギャンブル類似のものとして、宝くじ・ロト・totoなどがありますが、これらは一時所得の対象になるものの、例外的に所得税・住民税などの課税対象外になる非課税所得です。当選証明書を取得しておけば税務調査が入ったときに話がスムーズなので覚えておきましょう。
生命保険が満期になった場合、途中解約した場合には、一時金・満期返戻金・解約返戻金などを受け取ることになります。
これらはすべて一時所得に含まれるので、保険会社等から送付される支払調書で受取額を確認しましょう。
ただし、受取額全額が一時所得として課税対象になるわけではなく、払込済みの保険料総額を差し引くことができる点にご注意ください。
参照:No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき
個人から財産を贈与された場合には所得税はかかりません(贈与税はかかります)が、法人から財産を贈与された場合には一時所得として所得税の対象になります(贈与税はかかりません)。
贈与する人が個人か法人かによって税制上の取り扱いが異なるので注意が必要です。
遺失物を拾ったとき、持ち主が見つからなければ拾った人に所有権が移転します。また、埋蔵物を発見した場合には報労金を受け取ることになります。また、民法上の取得時効によって財産を手にすることもあるでしょう。
このように、遺失物等を時価換算した金額・報労金などは、すべて一時所得です。
ふるさと納税によって返礼品を手にした場合、当該返礼品も一時所得に含まれます。
ただし、返礼品を時価に引き直して所得額を計算するのではなく、寄付金額の3割基準から一時所得を導き出す点が特徴的です。
一時所得と似た税区分に雑所得というものがあります。
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも当たらない所得をいい、例えば、公的年金等、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)が該当します。出典:No.1500 雑所得
国税庁が定義するように、雑所得とは、他の9つの所得区分に該当しない収入のことです。たとえば、次のようなものが雑所得に該当します。
ここで重要なのが、年金が雑所得に該当するという点です。
たとえば、公的年金・個人年金が雑所得に該当するのは当然として、本来ならば一時所得に含まれる満期保険金を年金形式で受け取る場合には雑所得に棲み分けられることになります。
それでは、一時所得を実際に納税する場面について具体的に見ていきましょう。
一時所得は、次の計算式によって導かれます。
そして、この計算式によって導かれた一時所得額の1/2相当額を給与所得等の他の所得と合算し、所定の税率をかけあわせて最終的な課税額が確定されます。
ここまで紹介したように、一時所得に含まれるのは金銭だけではありません。
商品・財産などの、金銭以外の形で受け取った財物も、一時所得に含まれる限りは「総収入金額」に含まれることになります。
「収入を得るために支出した金額」とは、その収入を手にするに至った行為をするため、または、その収入を生じた原因の発生にともない、直接要した金額に限られる点に注意しなければいけません。
つまり、何でもすべてが「収入を得るために支出した金額(=必要経費)」に計上できるわけではないということです。
たとえば、競馬の払戻金について考えてみましょう。あるレースで5通りの単勝馬券を購入し、1つの勝ち馬投票券のみが的中したとします(残り4枚の勝ち馬投票券は外れ馬券です)。
この場合、的中による払戻金を生ぜしめた直接の要因は「的中馬券」のみ。つまり、外れ馬券は直接の要因にはなっていないため、必要経費に含めることはできないということです。また、競馬場の入場代金や交通費なども必要経費には含まれません。
したがって、「払戻金額 - 的中馬券購入額」が一時所得となり、外れ馬券は控除対象に含まれないということを押さえておきましょう。
一時所得の場合、50万円の特別控除額を受けることができます。
したがって、「総収入金額 – 収入を得るために支出した金額」が50万円に満たない場合、一時所得は発生しないことになります。
所得税の税率は、次のように所得金額に応じた累進課税制度が採用されています。一時所得と他の所得を合算した金額を基準に、以下の表のどこに位置するかをご確認ください。
課税される所得金額 | 税率 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% |
40,000,000円 以上 | 45% |
これに加えて、住民税が10%の税率で賦課される点もご留意ください。
それでは、一時所得の申告方法について確認しておきましょう。
原則として、勤務先の会社で年末調整される給与所得者の場合、一時所得が20万円(特別控除前70万円)以下なら確定申告は不要です。必要経費を差し引いて50万円以下の場合も同様です。
ただし、例外的に、医療費控除・住宅ローン控除の初年度・寄附金控除・複数の給与先がある場合などには確定申告が必要になるため、一時所得が低いからといって確定申告を失念すると追徴などの重いペナルティが課されるため申告漏れがないようにしてください。
一時所得には、損益通算できない・一時所得の対象範囲が複雑・控除対象の必要経費の範囲が限定的など、注意すべき点が多数あります。
その際には、税理士などの専門家に相談するのも大切なことですが、クラウド会計ソフトなどを活用すれば自分だけでも適切な納税準備が可能となります。
所得の算出は多項目の税制度が絡む領域のため間違いが生じがち。申告漏れ・申告ミスが発生すると、税務署から厳しいチェックが入るので、余裕をもって申告準備を進めるのがおすすめです。