株式会社を設立して企業活動を進めるためには、企業の根本原理を記した定款を定めなければいけません。
そして、定款には事業目的を記載する必要がある(会社法第27条第1号)ため、実際の企業活動が定款記載の事業目的に違反した場合にどのような罰則(ペナルティ)が課されるのかが問題となります。
そこで、このコラムでは、定款違反の行為があった場合のペナルティを解説するとともに、あわせて、定款違反の問題を回避するための定款記載方法を紹介します。これから株式会社の設立を検討している方、現在の定款記載方法に疑念を抱かれている方は最後までご一読ください。
株式会社が定款記載の事業目的に違反する行為をした場合、刑事罰が問題になることはありません。
ただし、例外的に当該行為が特別背任罪・業務上横領罪などの刑事法制に抵触する場合には、当該行為を決定した取締役等が刑事訴追を受けるリスクは存在します。
このように、原則として目的外行為が生じた場合でも罰則は問題になりませんが、次の4つのデメリットが生じる可能性がある点には注意が必要です。
それでは、定款の事業目的に違反する行為があった場合のデメリットについて具体的に見ていきましょう。
取締役等の役員が株式会社の定款違反の行為をなし、これによって株式会社に損害を与えた場合には、任務懈怠責任として損害賠償義務が発生します(会社法第423条第1項)。
取締役などの経営陣には、責任ある企業活動を行うために善管注意義務が課されています。定款に記載された事業目的を遵守することも、善管注意義務の一種です。
したがって、定款違反の行為によって株式会社に損害が生じた場合には、当該役員等には損害を賠償する責任が発生することになります。たとえば、政党などへの寄付行為・利益相反行為などがこれに当たります。
定款違反の行為によって許認可事業に影響が出るリスクが生じます。
たとえば、建設業・派遣業・不動産業などでは、監督官庁等からの許認可がなければ事業を展開することができません。その審査の際に、目的外行為が発覚すると、事業活動が不明確であるとして許認可が受けられない・取り消される場合があるでしょう。
株式会社の定款記載の事業目的は、「当該企業がどのような会社なのか、どのような事業を展開しているのか」を第三者が知るためのきっかけになるもの。対外的な信頼性確保のために定款で事業目的を定めているというわけです。
つまり、定款所定の事業目的に違反するような行為が散見される会社に対しては、取引相手などからの信頼を獲得できない可能性が生じます。
実際、新規顧客などの取引相手は、これから契約等を締結する前の段階で、相手方の会社に対する与信調査を行うもの。事業目的とは関係のない取引が多い企業に対しては、不信感を抱くのは当然でしょう。
企業活動を行うためには、金融機関との取引は欠かせません。
ただ、銀行などの金融機関は、これから出資する企業の実態や取引の内容をくまなく確認してから融資を決定します。つまり、定款違反の行為履歴が発覚すると、企業の実態が不鮮明であるという評価を免れません。
その結果、金融機関から希望融資額を受けられず、企業活動が閉塞するリスクが生じます。一度金融機関から不信感を得られると、今後その評判をリカバリーするのは難しいでしょう。
定款違反の行為によって刑事上・行政法上の問題は生じませんが、数々の現実的な問題が生じることが分かりました。
これらのデメリットは企業活動の弊害となるもの。大切なことは、定款違反の問題を回避するために丁寧に定款の記載内容を決定することです。
その際のポイントは次の3点です。
それでは、目的外行為の問題を回避するための定款の記載方法について、それぞれ具体的に見ていきましょう。
定款違反の問題を生じないためには、事業目的を会社法の要請に従った内容で記載する必要があります。
会社法上、事業目的の記載において求められるのは、次の3つのポイントです。
たとえば、営利を目的としていない団体は、会社法上の株式会社とは認められません。つまり、営利性は会社法の大前提の要請として求められる要件です。
また、法律による規制である以上、違法な事業目的を掲げる株式会社を会社法が許容していると考えられないのは明らかでしょう。
さらに、定款に事業目的を記載する趣旨に「第三者への信頼」という観点が含まれることを考えると、客観的に見て定款の記載内容が明確性・具体性を備えているべきだというのも当然です。
したがって、定款の事業目的を記載する場合には、この①~③の要件を充たすように意識してください。
定款の事業目的を決定する際には、企業が現在注力する活動だけではなく、将来的に展開可能性があるものも最初から含めておくのがポイントです。
たとえば、本屋を主軸として事業展開を想定している企業が、今後当該店舗内で飲食サービスも提供する可能性があるのなら、事前にその旨を定款に記載しておいた方が無難でしょう。もちろん、主軸の事業と展開可能性のある事業との間には関係性がなくても問題ありません。
企業活動がどのような経緯をたどるかは明らかではないのが当然ですが、今後の展開可能性がある程度想定される事業については、定款作成の段階から記載内容に並べておいた方がスムーズ。将来定款変更手続きを経るのは労力・時間がかかるのでおすすめです。
定款違反の問題を回避する最大のポイントが、定款の記載内容に解釈の余地を残しておくことです。
「解釈の余地」というと、ポイント1で紹介した「明確性・具体性」と相反するようにも思えますが、明確性・具体性の要請に反しない程度で解釈の余地を作っておくということです。
具体的な実務上のテクニックとして、定款記載の事業目的各号の最後に、「その他前各号に附帯する一切の事業」という一文を入れておくという方法が挙げられます。
末文にこのような受け皿の広い文言を入れておけば、よほど会社にとって問題のある企業活動でない限り、定款違反が問題になることはないでしょう。
定款違反の問題が発生すると、役員が責任を追及されるだけではなく、会社の将来的な事業活動に支障が生じるおそれがあります。
経営者のなかには、「定款なんて設立時に定めるだけの手続き的な意味合いがあるだけで、会社を設立した後は特に問題にもならないだろう」というように、定款の意義を低く考える人も少なくありません。
しかし、定款とは、会社の根本規範を記したもの。対内的・対外的のいずれにおいても非常に重要な役割を果たすものです。
したがって、これから会社を設立しようとする人は、定款の記載内容は丁寧にチェックすることを強くおすすめします。同時に、会社設立後に定款の記載内容と事業活動との乖離を不安に感じる経営者の方は、できるだけすみやかに司法書士・行政書士などの専門家に相談をして、定款の記載内容が問題ないかを確認してもらいましょう。