【ご経歴】
2005年 | 同志社大学法学部法律学科卒業 |
同年 | 国税局入局 |
2013年 | 税理士試験 財務諸表論合格 |
2017年 | 税理士試験 簿記論合格 |
2018年 | 国税局辞職 |
同年 | 税理士法人 入社 税理士登録 |
2019年 | 開業税理士登録(事業会社経理兼務) |
2020年 | Earth's 税理士事務所(石野裕之事務所)設立 |
ー石野先生はたくさんの資格をお持ちですが、それはどういう理由からですか?
私が大学に入学して間もなくのこと、不況の影響を受けて父が会社からリストラされました。仕事一筋だった父が、再就職先を見つけるのにとても苦労していた姿を見て、会社に依存する働き方の危うさを感じました。
何かあっても困らないためには、「手に職をつける=資格を取ること」だと思いました。資格は目に見える武器です。当時の私は試験勉強や座学は嫌いではなく、むしろ得意なほうだという自覚がありました。そこで自分の強みを生かして、大学在学中にいろいろな資格を取得しようと思ったのです。
ーその頃から将来は独立しようとお考えだったということでしょうか?
いえ、そこまではっきりとしたビジョンを持っていたわけではありません。ただ当時の自分の性格を客観的に見てみると、私は典型的なB型人間で、人とのコミュニケーションはあまり得意ではないという自覚はありました。(今は人と向き合うことが大好きです。)
また、理不尽なことや納得のいかないことに対しては、我慢できず歯向かってしまう性質もあり、世渡り下手な性格を自覚していたので、組織の中でやっていけるのか自分でもわかりませんでした。ただ、とにかく一度就職してみてから考えればいいと思っていました。
ー最初に取得されたのは何の資格でしたか?
大学1回生時に日商簿記3級を取得しました。当時サークルで一緒だった商学部の友人たちが受験していたので、「自分も受かってドヤ顔したい!」という承認欲求丸出しの動機で受験しました(笑)。
その流れで、日商簿記2級も友人たちより先に合格したいと思い、3週間図書館に引き籠って勉強し一発合格することができました。また、大学3回生時に、宅建士資格も合格することができました。
ー素晴らしいですね!独学で資格試験の勉強をするコツはあるのでしょうか?
勉強方法は人それぞれなので、自身に合った勉強方法を模索することが肝要だと思っています。
私の場合、最初に教科書を読んでも文字の羅列で頭に入らず、眠くなるので、まずは何もわからなくても問題集を解くことから始めています。
問題を解くことで脳みそを使いますし、そこでわからない用語などを調べるために教科書を辞書代わりにする方法です。
問題集中心の勉強をすることによって、本試験でどんな問題が出題されるのか、どんな方向からどんな問われ方をするのか、どの部分が覚えておくべき重要ポイントか等、試験の傾向も見えてきます。
問題集の解説はテキストと捉えているので、解説が詳しいものを選ぶようにしています。
ーところで石野先生が税にご興味を持たれたのはいつ頃ですか?
仲の良い友達が入っているからというだけの単純な動機で行政法のゼミに所属しました。そこでは公務員を目指している人の割合がとても多く、その流れで公務員のキャリアを考えました。その中でも興味を惹いたのは「国税専門官」でした。専門的知識を駆使して社会悪と戦うというイメージがあり、純粋にかっこいいなと当時、感じました。
また、国税局で10年間課税セクションに勤めると、税理士試験の税法科目が免除になる点も魅力的でした。もし、組織で働くことに行き詰まった場合、別の道に進むこともできると思い、国税局へ入局しました。
ー国税専門官のお仕事はいかがでしたか?
最初はとても苦労しました。国税は研修が充実しており、税法の基礎や社会人のマナーなどみっちり叩き込まれるものの、現場ではわからないことだらけでした。
今でも覚えていますが、初めて調査に行った日の夜、何もできなかった自分の不甲斐なさが悔しくて、先輩との酒の席で涙が止まりませんでした。
その悔しさから、税務調査の勘を磨こうと、税務調査の暴露本などを片っ端から読み漁りました。 また、税務にリンクする周辺知識・一般常識を深めるために、ファイナンシャルプランナー2級と証券外務員Ⅱ種資格を取得しました。他にも、秘書検定などの資格も取得しました。
ー乗り越えるために勉強されたのですね!
負けず嫌いなので(笑)。知識が増えていったことに呼応するように、自分には瞬間記憶能力のようなものが周囲の調査官達よりも秀でていることを自覚し始めました。
目を通した資料の中で私が「ん?」と思った違和感を頼りに調査を進めて行くと、不正を見つけられるようになったのです。
当時、私が所属していた部署では、上司が選定した調査案件の中で調査したい事案を自分で選ぶことができました。
自身の不正を察知する嗅覚と上司や先輩方のサポートのお陰で、数々の不正を発見することができました。
結果、入局2年目で優良事績発表会に呼ばれ、国税局長から表彰されました。
国税の人事制度上、最速記録だと思います。
また、周囲は、不正が見込まれる情報を予め持っている調査事案に対し、事前情報も何もない一般的な事案で表彰されたのは私だけだったので、不正に気付く能力には確固たる自信を持つことができました。
ーすばらしい成績をあげられたのですね。その後のお仕事は順調でしたか?
それが、体調を崩してしまったのです。いくつか配属先を移動した中で、査察部(いわゆるマルサ)と双璧をなす国税の最強部隊と呼ばれる料調(資料調査課) 出身の先輩と組んで調査を行った時のことでした。私が実績を出してきたやり方は、調査相手の人柄や雰囲気などを観察し、自分の記憶力と勘を頼りに資料の中の違和感を精査する一点突破型の調査方法でした。
一方、先輩のやり方は、調査相手が不正をしている前提で、ありとあらゆるものを片っ端から調べ尽くしていくという資料調査課伝統のローラー作戦型の調査でした。
資料調査課の調子査に対する厳しい考え方や調査手法が、自分の性格や特性、今まで実績を出してきた自分の調査スタンスと合わず、その方針に従わざるを得ない日々が続き、私はストレスで体調を崩してしまいました。通院の結果、適応障害の診断を受け、薬を服用するようになりました。
その経験から自分の中にあったエリート意識や組織の中での出世欲がなくなり、別の生き方を模索しようと考えるようになりました。
ー病気をきっかけに、いろいろ考えられたのですね。
国税専門官は不正・脱税を摘発するのが仕事なので、脱税を発見すると達成感が味わえ、嬉しく感じる反面、何も見つけられないと現場の職員としては、どうしても残念な気持ちになってしまう一面もあります。
本来、真面目に申告されている方のところに調査に入り、何も不正がないというのは称賛すべきことなのに、それを残念、上司にどう説明すればいいのだろうか?と感じてしまう自分の感覚に「俺の人生はこれでいいのか…?」と、人生観に疑問を持つようになっていました。
また、個人の確定申告の対応をする時期は、怒号が飛び交うこともあり大変ですが、とても感謝してくださる方もいました。
そんな時、日頃のもやもやした感情が浄化されるのを感じました。いろいろな経験を通じて、私は「今を頑張る経営者をサポート、応援する仕事がしたい」と考えるようになり、税理士に転職しようと決意しました。
ー税理士試験の勉強はどのようにされていましたか?
私の特性上、試験直前期以外は、人に見られていないとサボりがちになります(笑)。
勉強を継続させるためにはサボれない環境に身を置く必要がありました。そこでSNSで税理士を目指すコ ミュニティを探し、オフ会や勉強会に参加していました。
また、自分自身でもSNSで自習の勉強会のコミュニティを立ち上げました。
見張り役がいないと勉強に集中できない人たちが集まって、各々が自習をし、時間を区切って休憩時間を設けて雑談し、また自習をするという勉強会です。
これはとても巧く作用したと感じます。
勉強がはかどるうえに、異業種の人たちの色んな話が聞けて、視野が拡がったり、良い気分転換にもなり、ストレスなく勉強することができました。そこでの人脈はいまでも活きています。
また、私が10年間国税組織に留まれたのは、オフ会で会計業界で働く人たちの労働環境や税理士試験の税法科目の理不尽さな難しさを、生の声で聴くことができたことが大きいです。
ー苦労された科目はありますか?
簿記論に苦しめられました。平成21年に日商簿記1級に合格し、その知識基盤で財務諸表論は独学で受かりましたが、簿記論は3回落ちて、簿記論にはテクニック的な要素が要ると感じ、予備校に通いました。合格まで5年間ほどかかりました。
簿記論は全て計算問題で量が膨大で、時間内に全問解くことは天才以外できません。
また、問題の中から宝探しのように、正答率が高い問題を見つける必要があります。
周りが解ける問題だけを取捨選択して、正解すれば受かる性質の試験です。
しかし、一見簡単そうに見えて難しい問題もあるし、その逆もあり、不確定要素が大きいと感じました。
特に、奇問難問が多い試験回は、合格点数圏内に受験生が密集し、解ける問題だけ解いていった初学者が受かって、上級者が難問に手を出して時間切れで落ちることも多々あるとも感じました。
一定水準の知識があれば、誰もが受かる可能性がある試験だとも感じます。私は奇問が少なく、オーソドックスな問題が多かった平成29年度(67回)でようやく受かりました。
ーこれから受験される方へのアドバイスをお願いします。
試験の直前期が重要で、この時期は「受からなかったら死ぬ」くらいの覚悟で取り組むことだというのが持論です。
そして試験当日は、「落ちてもいい、後のことは考えなくていい」と、冷静に目の前の試験問題だけに向き合い集中するというマインドセットでいました。自身のマインドセットを確立することは肝要だと感じます。
ー税理士試験に合格されてからのことを教えてください。
2018年に税理士資格を取得し、13年間勤めた国税局を退官しました。その後は税理士法人に就職しましたが、自分の得意税法や国税経験が活かせず、苦労しましたし、クライアントは大きい法人ばかりで、経営者の町医者的な存在でありたいという自分の想いとのギャップを感じました。
そんな時に、ひとり税理士として情報発信しておられる井ノ上陽一先生の講演会を受ける機会がありました。井ノ上先生は、「自分の強みも弱みをも、徹底的に自己開示して、気の合うお客さんとだけ付き合えっていけばいい。」という話をされていて、衝撃が走りました。自分の挫折経験や闇歴史も自己開示してもいいんだ、そこで気の合う人だけに来てもらえればよいと。」
ーひとり税理士として独立を決心されたのですね。
こういう生き方もあるんだなと感じました。独立を視野に入れて情報収集をしていた時に、たまたま求人情報で見つけた事業会社が面白そうだと感じました。人事担当者の方とお会いしてみると、とても魅力的だったで、私は事業会社の経理主任兼開業税理士としてスタートしました。
その事業会社は、様々な事業展開をしており、その経営戦略がとても刺激的で勉強になりました。フレキシブルな働き方を許容してくれたので、Twitterでの情報発信を始めてみました。
ー石野先生はいろいろなSNSを活用されていますが、新しいことを始めるのは怖くないですか?
私の場合、取り返しのつかないような重大なリスクがないと判断できれば、興味が勝つのでとりあえず始めてみます。
決断スピードだけは速いのが私の取柄です。
運良く、SNSでの先行者利益を享受できているなぁと感じています。
Twitterでは、税務のことだけでなく、自分の趣味や思考についてもマイペースに混ぜこぜで発信しているので、それに共感してくださる方とつながりができます。フォロワー数を増やすよりも、自分と合う人とだけ繋がれば良いと思って、好き勝手に呟いてます。
お陰様で私と相性のいい、さまざまな専門家とのつながりを持つことができました。この人脈は仕事をしていく上でとても心強いです。
最近では、今年の確定申告時期にclubhouseというSNSで税理士が集まって無料相談をしていたのをきっかけに、芸能関係の方と繋がりができたり、また、著書を出されている税理士の大先輩方とも繋がることもできました。
また、情報発信することやキャッチアップすることは自分の修行にもなります。
座学には自信がありましたが、世の中化け物みたいな人がたくさんいるな、自分は井の中の蛙だなぁと良い刺激を頂いています。
ー独立を考えている方へのメッセージをお願いします。
独立すれば、さまざまな業種の方たちと知り合うことができます。
ひとり税理士のメリットである「自分を無理に偽らなくても良く、相性の良いクライアント様とお付き合いできる」というとことを最大限に生かし、自分の趣味とリンクする方達と仕事ができたりもします。
もちろん、勤務時代とは違うストレス、辛いことも大変なこともたくさんありますが、自分の世界が拡がるのはとても楽しいですよ。
―この先の5年後、10年後はどのようになっていたいですか?
気軽に何でも相談できる「町医者」のような税理士になりたいと思います。私を慕って来てくれる方が、困っていることや悩んでいることについて、適切な方面へつなげるように知識や人脈を広げていきたいです。そうやって私の周りにいる人たちを幸せにしたいと思います。
また、税理士に興味を持ってくれる人が増えるよう、税理士業界の魅力を発信したり、フリーの税理士同士が仲間作りや情報交換ができるような仕組を作りたいです。国税に育ててもらった恩返しも、 いろいろな形でしていきたいと考えています。
そして私自身が仕事を楽しみ、人生を味わい尽くしたいと思います。
ー 本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
今回お話させていただいた、Earth’s税理士事務所の代表石野裕之氏の
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