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「小さな課題・挑戦の連続」マネーフォワードの山田一也氏のキャリアを支えた価値観と行動

HUPRO 編集部
「小さな課題・挑戦の連続」マネーフォワードの山田一也氏のキャリアを支えた価値観と行動

【ご経歴】

 
2006年 会計士試験合格/監査法人トーマツ名古屋事務所 入所
2011年 ITベンチャーに転職CFO
2013年 会社を売却。フリーランスコンサルに
2014年 マネーフォワード入社セールス&バックオフィス→プロダクトマネージャー→開発責任者→戦略責任者

【キャリアグラフ】

公認会計士試験合格の秘訣は「淡々と自分のペースを維持すること」

―公認会計士を目指すきっかけになった出来事をお話しいただけますか?

公認会計士を目指して勉強を始めたのは大学1回生の冬頃からです。経営学部に入学したこともあって、どこかのタイミングでビジネスに必要な一通りの知識を身に付けたいとは思っていました。公認会計士試験なら、会計・統計学・会社法などの幅広い知識が求められるので、自分には合っているのではないかと考えたのがきっかけです。「公認会計士になりたい」というよりかは、「幅広い知識を身に付けたい」といった方が適切です。

ただ、大学入学時に明確な意思を持っていたわけではありません。大きな転機になったのは公認会計士OBのキャリア講演。実は、このキャリア講演も主体的に出席したわけではなく、ただ前の授業中に寝てしまって、気付いたときには講演がスタートしていただけなのですが…。

この方は、すでに何社か転職を経験していて1社に囚われることなく、キャリア形成の中で幅広いチャレンジの選択肢が与えられている点も魅力的に感じました。

―公認会計士試験の勉強は順調でしたか?

元々勉強することは苦にならないタイプなので、淡々と進めることができました。よく「同じように資格勉強をしている人たちが集まる環境がないと受験を続けるのは難しい」ということが言われますよね。私の場合はあまり周りのことが気にならないので、通信教育を受講しながら、自宅・大学の図書館で淡々と勉強スケジュールをこなしていました。

朝7時に起床して15分後には机に向かう生活でした。大学の授業が始まるまでしっかり勉強して、夜また2~3時間勉強するというリズムです。幸いなことに、大学3回生の時の初受験で公認会計士試験に合格できました。

公認会計士試験は勉強した分だけ成果が出る資格試験です。メリハリをつけながら淡々と学習を進めるのが合格への近道ではないでしょうか。

もちろん、まったく休みもなく勉強し続けたというわけではありません。たとえば日曜日は勉強を休んで友達と遊んだりしていましたし、アルバイトもやっていました。

―大学3回生で公認会計士試験に合格されたということですが、残りの在学期間はどのような生活を送っていらっしゃったのですか?

当時は試験に合格さえすれば誰でも仕事ができる環境だったので、大学在学中に監査法人トーマツ名古屋事務所で正社員として働き始めました。3回生で概ね卒業単位は取得し終わっていて、残りはゼミだけの状態です。ですから、ゼミの日は有休を取得して出席、残りは社会人として仕事をしていました。

大学生の頃は何も社会のこと・業界のことを分かっていなかったので、「早く資格を取得して社会に出たい」と。新しい環境に入るタイミングが早いほど次のキャリアもすぐに見えてくると考えていたんです。ただ、今になって考えると、1、2年の差は誤差みたいなもの。たとえば大学を卒業してから数年経過してから業界に入ったとしてもキャリア形成には何の支障もありません。もう少し大学生らしい楽しみ方をしておけば良かったと感じることもあります。

ですから、今公認会計士試験などを目指している方は、まったく焦る必要はないと思います。その時々、自分の納得できるような時間の過ごし方をして、ただ着実に目標に繋がるような生活を出来ていれば問題ないのではないでしょうか。

「最初の壁は業務の本質を掴むこと」若手だからこそ何でも素直にチャレンジできた

―最初のキャリアとしてトーマツを選択した理由をお話しいただけますか?

実家が名古屋でしたので、その範囲で通える事務所で、かつ仕事の幅が広いと感じて選んだのがトーマツでした。もちろん監査の経験も積みたかったのですが、それ以外にも色々な業務にチャレンジしたいと思っていました。

実際に入社してみると、上場会社の監査業務がメインの仕事でしたが、アドバイザリー系の仕事も比較的多かったです。たとえば、J-SOXやIFIR導入のコンサルティング、IPO準備支援や財務デューデリジェンスなど、公認会計士がやるような仕事は一通り経験できました。

ルーティーン化される監査業務とは違って、IPOの準備などは印象的なものとして記憶に残っています。最初は何もない状態からスタートして目標に向かって毎年業務内容が変わっていくので、ステップを歩んでいく感覚が刺激的でした。

―トーマツでの仕事は順調に進みましたか?何か壁にぶつかったりしましたか?

最初は作業を繰り返すだけで「監査」という業務の本質を掴むのに苦労しました。各プロセスがどのように全体に影響するのか、監査の全体像を把握するのが大変でした。

ただ、これも経験を積むことでクリアできる課題です。最初はバウチングだけ。ただ、クライアントとのコミュニケーションを通じてバックオフィスの実務上の動きが分かるようになりますし、エラーの起きやすい場所なども把握できるようになります。経験を重ねる中でリスクアプローチの考え方を習得できたのは良い成果でした。

―初めてのキャリアをふり返ってみた感想はいかがでしょうか?

社会人1年目・2年目の若輩者が比較的社会人としてのキャリアを積んだクライアントと対等にコミュニケーションを取る機会を持てたのは貴重な経験だったと思います。普通、上場企業の経理部長と社会人経験が浅い人間が同じテーブルにつくことなんてほとんどありませんから。

それに、若いから何でも聞けたというのも大きかったと思います。着飾らず、素直に、ストレートに話せば、丁寧に色々なことを教えてもらえます。このような環境に恵まれたことに感謝をしています。

キャリア選択の鍵は「自分が熱量を注げるか」

―監査法人を退社してベンチャー企業に転職された理由をお話しいただけますか?

もちろん、監査法人でもっと経験を積むべき業務はたくさんありました。ただ、ちょうど私が監査法人5年目の頃に公認会計士試験の合格者が急増して、若い世代の人たちが「監査法人に入社するのも大変・入社しても仕事がない」という事態に陥っているのに直面しました。そんな中で、自分が監査法人から出て若い人たちに経験を積んでもらった方が業界全体にとってはベターなのではないかと考えました。

そもそも、人の出入りがない組織には閉塞感が漂うものです。それに加えて、若い人たちが入ってこられない、経験も積めないとなると、この業界の将来が危ぶまれるのは明らかでしょう。そこで、自分がロールモデルになって業界の閉塞感を打破したいという想いから、監査法人の退社という選択をすることになりました。

―では、次のキャリアとしてベンチャー企業を選択したのはなぜですか?

当時は、事業再生を主軸に据えるか、ベンチャー企業に行くかの2択を考えていました。ただ、会社を再生することよりも、伸び盛りの会社をより伸ばしていくことをやった方が、社会へのインパクトは大きいのではという思いに至って、その結果、ベンチャー企業に入ることを決めました。

名古屋にはベンチャー企業が少なかったので東京に行かざるを得なかったのですが、監査法人以外の世界を知らなかった自分にとっては会社の選び方なども分かっておらず…。今では当たり前のようになっていますが、Twitterで転職活動をしていました。幸い、ベンチャー企業の社長が管理部門募集をツイートしているのを目にして応募、CFO候補として入社するという流れでした。

―ベンチャー企業での仕事はいかがでしたか?監査法人からの転職に壁はありましたか?

監査法人での経験が役に立ったのは1~2割程度で、新しいことを覚える方が多かったという印象です。数字と実際に起きている事象を結び付けることは経験として慣れていましたが、そもそも業界の事情等について精通していたわけではないので、ほとんどゼロから学び始めたと言って良いでしょう。たとえば、バックオフィスの立ち上げなど経験したことがなかったので、税務署やハローワークに分からないことを何度も電話で確認していました。

公認会計士がベンチャー企業のCFOなどに転職するパターンとして、ファイナンス管理・財務だけのスキルを活かせるという考えでキャリア選択をする人が少なくありません。ただ、最近のCFOに求められているのは「事業が分かること」。簡単に言うと、使ったお金の管理ではなく、どのように資金を配分すれば事業にとって効果的かという判断が求められるのです。

ですから、「この事業を成長させたい」「この事業にコミットしたい」「この事業領域に興味がある」など、業界・企業のカルチャー・事業内容に対する熱量があった方が転職後は楽しいですし、成長もしやすいでしょう。「バックオフィス、ファイナンスだからどこの会社でも同じだろう」という感覚では今は通用しません。これではただの”作業屋さん”になるだけですし、自分が会社にいる意味が生まれません。会社のためにも自分のためにも、業務を楽しめるのか、注力できるのかという基準でキャリア選択をすると良いのではないでしょうか。

「小さな課題と小さなチャレンジを重ねる」それが自分の居るべき場所を見つけるコツ

―ベンチャー企業を辞めた理由、そして、次のキャリアを決めた理由をお話しいただけますか?

ベンチャー企業の売却が決まって、そのままM&A先の上場企業への入社も選択肢に。ただ、1つの会社の中に入るよりも、自分がこれまで習得したノウハウ(バックオフィスの立ち上げ・監査の実務・ファイナンス経験など)を色々な企業に還元することで社会に付加価値を与えたいと考え、結果としてフリーランスのコンサルとしての動き方を選択するに至りました。

幸い業界に知り合いも多かったので、バックオフィスの課題克服サポート・ベンチャー支援に力を入れているコンサルティング会社の仕事をメインにしていました。ただ、どうしても個人で動くと、10社~20社と関わるのが限界で、労働集約的になってしまうという課題にぶつかります。結果として、より広く・多くに付加価値を提供できる方法はないかと思案した結果、ITでレバレッジをかけることを考えて、縁あってマネーフォワードへの入社が決まりました。

―マネーフォワードに入社してからの業務はいかがでしたか?

私がマネーフォワードに入社した頃は、IPO準備を始める時期。バックオフィスをゼロから立ち上げる手伝いもしましたが、BtoBの営業活動をやっていました。マネーフォワードが提供するクラウド会計を会計事務所に販売する仕事、今までのキャリアではやったことがない仕事です。

ただ営業活動を続ける中で、今のプロダクトレベルでは商品を購入してもらえないという課題が浮き彫りになりました。それならば自分が営業をするよりも、今までの経験を活かしてプロダクトマネジメントに注力した方が会社への貢献度が高いのではないかと考え、プロダクト開発に力を入れるようになります。マネーフォワード クラウド会計のみならず、マネーフォワード クラウド給与という給与計算システムを立ち上げたのもこの頃です。

―キャリア選択をするごとに新しいことにチャレンジされていますが、その際に意識していることはありますか?

小さい課題を見つけて1つずつクリアしていくことが大切だと思っています。目の前の課題をクリアするためには知識を習得する必要がありますし、「課題を克服するため」という大義名分があれば、努力を続けること・労力を割くことも苦になりません。

たとえば、料理を作りたい、しかし包丁がない。それならば、包丁を買いにいきますよね。料理を作れないというデメリットに比べれば、包丁を買いに行くことに何の苦労もないはずです。
プロダクトマネジメントの業務に就いていたときには、エンジニアが言っていることの肌感を掴むことができないので、自分でまずはコードを書いてみるということにチャレンジしました。コードを書くには一定の知識が必要ですが、顧客満足を得られる商品開発という目標のためなら、課題解決のために必要な武器を手にするのは価値があるなと
現在はtoB向け事業のCSOとして戦略設計を担当しています。マネーフォワードでは戦略設計自体も各本部担当者に権限と責任を委譲しているため、私は主に「戦略を立てるサポートをすること」「各戦略を齟齬なく有機的に結びつけること」の2点を行っています。事業ドメインが広いため、シナジーを最大化するために取得すべき情報量がとても多いのが喫緊の課題です。日々多方面にセンサーを張りながら何とかやっています。

キャリア選択で迷ったときは「自分の強みと世間のニーズの重なりを意識」

―今後のキャリア形成の具体的なプランは想定されていますか?

あまり遠い未来のことは考えていません。常に目の前で起きている課題のことだけに集中しています。やった方がいいこと・やるべきことに1つずつ取り組んでいけば、必然的に自分がいるべき場所に収まるかなと思っています。

公認会計士資格の取得を目指したときから、常に目の前の課題を乗り越えることを考え、そのために必要なことに力を使ってきました。監査法人への入所、ベンチャー企業での経験、そして現在のtoB向け事業のCSOと、いずれも目の前の課題を越えてきた結果得られた成果だと考えています。これからのキャリアも、このような形で1つずつ、気付いたときには手にしているという形になるのではないでしょうか。

―転職活動をしている人、資格試験の勉強をしている人に向けてお願いします。

たとえば、方法論の1つとして、自分の強みと世間のニーズが重なる領域を見つけるのは効果的な手法です。自分の強みを欲してくれる業界・会社を見つけることができれば、きっと色々な物事がうまく進んでいくでしょう。

もちろん、この考え方だけが正解ではありません。「とにかく自分がやりたいことにチャレンジする」「自分に与えられた選択肢のメリット・デメリットを合理的に比較衡量して適切なものを選択する」など、自分が納得できるような”哲学”に従えばそれで良いと思います。自分の中に哲学・軸をもっていれば、悩んだり後悔したりすることはないはずです。

ただ自分なりの”哲学”をもつときに注意しなければいけないのは、考え方・価値観が独りよがりにならないことです。できるだけたくさんの人に会い、コミュニケーションを重ねる中で、多様な情報をキャッチし、自分の価値観をアップデートしていくことが大切です。

転職活動・資格試験など、キャリアの転機では、どうしても色々と不安に感じることもあるはずです。そのときの支えになるのは自分の中の価値観。自分が納得できる価値観とそれにあった行動を重ねていけば、自ずと今後の展望は拓けると思います。

ー本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
今回お話を聞かせていただいた、山田氏がtoB向け事業のCSOを務める
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この記事を書いたライター

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