三井住友銀行、野村證券を経た後、稟議システムや勤怠システム等のITツールをクラウド上で提供するrakumo株式会社で取締役CFO兼経営管理部長として活躍されている西村雄也氏。rakumoのIPOに携わり、2020年9月にはマザーズに上場を果たしました。今回は西村氏のキャリアパスや上場までの道のり、今後の展望などについてHUPRO編集部がお話を伺いました。
2005年 | 株式会社三井住友銀行に入行 (法人営業部配属) |
2007年 | 野村證券株式会社に入社 (M&A部署9年、IPO部署2年) |
2018年 | rakumo株式会社に入社後、2019年取締役CFOに就任 |
2020年 | rakumo株式会社 マザーズ上場 |
【西村氏のスキルグラフ】
-最初のキャリアとして、三井住友銀行を選んだのはなぜですか?
大学の専攻は、電子情報工学科出身で、周りがトヨタ、ホンダ、東芝、ソニー等に就職していたのですが、自分自身は、銀行業務の幅広さから三井住友銀行の法人営業に魅力を感じていました。
技術者として歩むことも自分の特性上向いていると考えていましたが、技術者としての立場よりも、経営サイドからビジネスに関わっていきたいとより感じていたため、様々な業界の経営者の方と直接話ができ、また、様々なソリューションを提供可能な都市銀行を選びました。
―理系から入社されたんですね。入社後に、苦労されたことはありましたか?
理系から都市銀行に入社しましたが、銀行は最初の研修が充実しているので、文系よりも苦労したということはまったくなかったです。また数字には強かったので、財務諸表を読むことに関しても、苦労はなかったです。
ただ、営業に関しては法人の新規開拓の面で苦労しました。当時は飛び込み営業が主流だったので、アタックリストを作成し、各種ネットワークを構築し、新規獲得に励んでいました。
銀行での経験を通じて、デッドファイナンス、国内為替、外国為替、債権流動化(ファクタリング)、リース、コンサル業務等を実践で学び、次のステップを考えていたところ、ヘッドハンティング会社の人からお声がかかり、M&Aに興味を持っていたこともあり、野村證券のM&A部署である企業情報部に入ることになりました。
―野村證券のM&A部署ではどんなことをしていましたか?
野村證券の企業情報部(M&Aの部署)に入り、9年間、アナリスト業務からディールマネージャーに至るまで幅広く経験を積ませてもらいました。未公表等の案件も含めると100件以上の案件に関与させていただき、本当に、野村證券及び当時ご指導いただいた皆様には感謝をしています。
M&A部署では、「いつ、だれが、なにを、どのようにやるのか」ということを徹底的に考えて、プロジェクトを推進していく必要があり、周囲を巻き込んだ業務推進力・リーダーシップ力が大いに向上いたしました。
―M&A部署で9年間働かれたのち、IPO部署に移動したきっかけは何でしょうか?
M&A以外のアドバイザリー業務もやりたいと思ったのがきっかけです。
アドバイザリー業務に関するスタディを進めていたところ、会社設計や会社運営業務をアドバイスする業務に大変興味を持ちました。
野村證券内に公開引受部という部署があり、会社設計・会社運営のアドバイスに近い印象を持ち、部署異動を願い出て、IPOの部署に異動させていただきました。
公開引受部では、数千億円以上の売上の大企業からベンチャー企業に至るまで、様々なお客様のアドバイスをさせていただきました。当時の公開引受部の皆様には本当に良くしていただき、今でも大変感謝をしています。
―ご自身でもアドバイザリーを学ばれていたんですね。どのように勉強されていたのですか?
上場するには、IPOに必要となる各種体制の整備を実施する必要があります。私は、公開引受業務を大きく分けて24項目に分類して、スタディしました。24項目の例をいくつかあげると、上場目的の明確化、予算・中期経営計画の策定、組織設計、取締役会・経営会議の構築というような会社全体に関する大きな方針を決めるようなものから、労務管理、経理体制の構築、上場資料の作成等多岐に渡ります。
それぞれの項目に関する本を読み、分からないことは公開引受部の皆様に聞くというスタイルで取り組みました。お客様に「やらなくてはいけない。」と言うのはすごく簡単なんですが、アドバイス側に寄るだけでなく、相手側に立つとどうかという点を常に意識していました。つまり、自分だったらどう手を動かすかという点を特に意識しておりました。
―金融業界からCFOになった経緯を教えてください。
はじめからCFOを目指していたのではなく、銀行業務、投資銀行業務を経て、事業会社のCFOという職種に魅力を感じ、実際に自分自身でやってみたいという思いが強くなりrakumo株式会社のCFOになりました。
―数ある事業会社からrakumoを選んだのはなぜですか?
rakumoを選んだ理由は、大きく分けて3つあります。
1つ目はrakumoで働く人の良さです。ベンチャー企業なのですが、会社全体の考え方がしっかりと安定しており、お会いした方々及び社内の雰囲気の良さに惹かれました。
2つ目はベトナムに子会社があることです。以前から海外子会社の経営管理スキルを身に着けたいと考えてました。海外子会社ってすごく大変なんです。何が大変かというと、連結資料を作成しなければならないですし、税務制度も違います。そもそも遠くに離れている地域とどうコミュニケーションをとっていくか自体が大変です。ただ、私はその経験を積みたかったので、rakumoの海外子会社が決め手のひとつになりました。
3つ目は、「あ、この会社伸びるな」と感じたからです。伸びる特徴は会社によって異なるのですが、rakumoは、様々な観点からそれを感じられました。具体的には、積み上げビジネスを行っているところですね。また、Google社とSalesforce.com社と連携しており、巨大プラットフォームの存在が強いと感じていました。
あとはチャネルですね。rakumoは販売パートナーチャネルと直接販売チャネルのふたつがあり、効率的な販売モデルが作られているのが外から見えたので、そういった観点から安定感もあり、かつ、成長も出来る会社だと感じました。
―取締役CFO兼経営管理部長としてどのような業務を行っていますか?
現在は主に二つの業務を担当しております。一つは経営管理部門のプレイングマネージャー業務です。まだまだ当社は成長段階にある会社なので、経営管理部門にさける人数は10名程度なのですが、経営管理には経営企画から財務、経理、IR、法務・総務、人事・労務、情報システム、内部監査といった幅広い業務があります。そのため、その一つ一つに対して責任を取り、場合によっては共に実務をこなしています。
もう一つは経営マターのプロジェクト等の推進です。IPO推進、M&A・業務提携、資金調達など幅広く業務を担当しています。
―前職の経験が今の仕事に活きていることはございますか?
本当に多くの経験が活きている状況であり、どの経験も今の私には必要不可欠だと考えています。
都市銀行では、デットファイナンスを中心とした銀行業務、及び、銀行との付き合い方を深く学ぶことができました。また、営業の最前線で仕事をしていたため、事業部門へのリスペクトや新規開拓の難しさ・新規開拓において工夫をして考えることの大切さを学び、実際に現在の業務に大いに活きています。
例えば、デッド交渉の他、事業サイドとの協働という面でも相手の立場に立った対応ができていると感じています。
野村證券のM&A部署では、ファイナンスの知識の他、時には、100名以上に渡る利害関係者を巻き込んだプロジェクトマネジメントを学ぶことができました。
rakumoのようなベンチャー企業では、多岐に渡るプロジェクトが走ることもあるため、当該プロジェクトマネジメントの経験は大いに活きています。また、M&A部署においては、専門家との交渉が随時走るため、当該経験も様々な分野(例:契約書交渉)で活きている点です。
野村證券のIPO部署では、会社設計・会社運営について、幅広い面から学ぶことができました。rakumoのIPO時はもちろんのこと、今の経営に活きていると感じています。
―rakumoの上場がするまでのお話を伺ってもよろしいでしょうか?
IPO準備は最短でも2年~3年かかるので、私が入社したときは目標の上場まで2年と数か月でした。
最短上場するためには2018年12月末までに各種体制の整備が必要なので、IPO準備を先程述べた24項目に分けて各種体制の整備を行いました。2019年12月末までに整備した事項の運用に取り組み、2020年9月末までに上場に向けた各関係者対応、及び、投資家に向けた各種準備を行いました。そして2020年9月に晴れて、マザーズに上場することができました。
このようにスケジュール通り進めることができた一番の理由は、会社メンバーのサポートにあります。具体的には、当社は、「情熱。協働。変化。」という行動指針を掲げているのですが、この行動指針の元、rakumoのメンバーからの手厚いサポートをいただけました。
ただ、当社にとっては初めての経験でもあり、会社一丸となって取り組む必要があったことから、会社のメンバーには、「上場の意義・目的・責務等」について、何度も丁寧に説明をすることを心がけておりました。
なお、当社はGoogle Workspaceという業務基盤ツールを使っており、かつ、当社自身が稟議システム(rakumoワークフロー)、勤怠システム(rakumoキンタイ)等のITツール をクラウド上で提供しているのですが、それらのITツールがIPO準備上及び審査上の両面から大変役に立ち、効率的に進めることができました。効率的にIPOを進めていく上では、様々なITツールがあると便利だなと改めて感じました。
―上場する中で一番苦労したことはどのようなことですか?
細かいものも上げると本当にたくさんあったのですが、スケジュールも予定通り進めることができ、一番苦労したといわれると、明確に上げられる1つのエピソードはないなと感じています。
繰り返しになってしまいますが、メンバーのサポート体制が充実していたことがそのようにうまく進められた主因だと思っています。そのほか、補足的なこととしては、私自身がIPOアドバイザリー業務を実施していた時から、自分自身で手を動かすことを想定しながらクライアント様にアドバイスしていたこともあり、どの様な項目をどの程度の粒度まで実施すればよいのかということについても感度があったのが良かったのかなと今となっては感じています。
一方、私個人で言いますと、経営管理部のプレイングマネージャーという業務に加えて、IPO業務、及び、その他の大規模プロジェクトを推進していたので業務量がかなり多かった事が、強いて言えば大変だった点と言えるかもしれません。
―御社のように上場がスムーズにいく場合と伸びてしまう場合の違いは何でしょうか?
一番は、社内メンバーがサポートしてくれる体制があるかだと感じています。
上場は一人では出来ないので、会社一丸となって対応していく必要があります。そのため、IPOの目的や責務について何度も丁寧に説明し、会社の向く方向をひとつにすることが大切だと考えています。
それぞれが色々な仕事を抱えていますから、結果のフィードバックをすることも大切だと私は思っております。具体的には、「あなたのサポートがあったからこういう結果、成果を得られました。ありがとうございます。」というような感謝を伝えること、かつ、適切なフィードバックをすることが大切と考えています。
―CFOとして活躍される中でどんな事を意識されていますか?
役員の一人として、会社の成長と会社の継続性を同時に考えながら実現していくことが、CFOとしての役割であると考えています。
具体的には、IPOにより会社の知名度を上げ事業成長に取り組むことも一つですし、M&A・業務提携などを実施することによりノンオーガニックな成長を牽引するのも役割かと思います。また、事業成長に必要な資金調達を実行し、株主を中心としたステークホルダーへ適切な説明をするというのも重要な役割だと考えております。
なお、CFOに経営管理部門のマネージメントの役割が入っているケースにおいては、組織設計において、社内及び社外含めでどのような強い組織を作れるかを検討し、実現していくことを意識しております。
また、どうしたらメンバーが成長を感じることができるかを考え続けること及び成長の機会を提供し続けることが重要な役割だと思っています。そのため、タイミング及び人に応じたテーラーメイドでの成長機会を提供することを意識して、組織設計をしています。
そのほかにも、メンバーの考える機会を奪わないようにしております。例えば、何か問題が起きたときに、メンバーに考えてもらうようにしています。さらに、なぜ起きたかではなく、今後どうするかと聞くようにしています。今後どうするかという中には、なぜ起きたかの原因分析と振り返りが入ります。過去ではなく今後どうするかという未来にフォーカスして聞くことにより、よりよい思考回路になると考えています。
―今後のビジョンはどう考えていますか?
会社目標としては、当社グループがビジネスを展開しているGoogle WorkspaceやSalesforce関連のビジネスは、現在でもまだまだ伸びており、将来的にもまだまだ成長する可能性が高いと考えているので、この点をさらに伸ばしていきたいと考えております。
なお、会社としてのビジョンは明確となっており、「仕事をラクに。オモシロく。」 というものを掲げています。これは、IT予算の少ない中小企業のお客様も含めて様々なクライアントにGoogle Workspaceや導入コストの低い当社製品をご使用いただき、煩雑な業務に割く時間を短縮していただき、考える業務など、面白い業務に時間を確保してほしいという思いからこのビジョンを掲げております。
また、チームとしては、今もかなり力強い組織になっているとは思うのですが、更に、継続性が高くより強固な組織にしていきたいと思っています。具体的には、組織・業務の見える化を実現し、主担当以外もその業務ができるような体制を作っていきたいと考えております。それらが、ひいては、チームメンバーの成長にもつながりますし、上場会社としての経営管理部の組織の強さ・継続性に繋がるものと考えております。
―西村さん自身の今後についてはどう考えていますか?
まずは、しっかりと上場会社としての責務を果たしていきたいと思っています。具体的には、四半期ごとに正確な財務諸表を提出し、投資家の皆様に向けた情報発信を適時・適切に行っていきたいと考えています。
また、コンプライアンス違反を起こし、会社の信頼を失うようなこともあってはならないので、そのようなことに関しても研修等しっかりと取り組んでいきたいです。
そして、一定の基盤をしっかりと整えた後には当社自身がベンチャー企業への出資をするなど、世の中を様々な観点からより便利にしていけるような仕事に関与していけたらと思っています。
―ありがとうございます。最後にCFOを志す方やIPOに携わる方に向けて一言をお願いします。
会社に入ったときにまずCFOとしてやるべきことは、会社を同じ方向に向かせる事だと私は思います。上場するための目的や責務を様々なステークホルダー向けに分類してしっかりと関係者に説明していく。ただメンバーだけに説明するのではなく、幹部の人たちも巻き込んで全社で取り組んでいくことが重要だと思っております。
―本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
本日お話を聞かせていただいた西村氏がCFOを務める
rakumo株式会社HP