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全部原価計算と直接原価計算の違いについて

公認会計士・税理士 金森 俊亮
全部原価計算と直接原価計算の違いについて

今回の記事では、全部原価計算と直接原価計算の違いについて書いていきます。
主に以下のような方を対象に記事を書いています。

・日商2級の勉強を始めて工業簿記に取り掛かり始めた方
・工業簿記に苦手意識がある方
・現実の原価計算に興味のある方

原価計算は、工場等で実際に担当されている方は、馴染みがあるかもしれませんが、それ以外の方はあまり馴染みがないのではないかと思います。また、工場等で勤めていらっしゃる方でも他業種ではどのようにやっているかを知らない方もいらっしゃるのではないかと思います。

そこで、今回は、そもそも全部原価計算と直接原価計算はどういったものなのかを解説し、その後、両者の違いについて言及していきたいと思います。

全部原価計算とは

全部原価計算とは、工場等の原価部門において発生した全ての原価を集計して原価計算を行うことを指します。

原価には、直接費と固定費があります。
直接費とは、製品一つを製造するのに比例的に発生する費用です。例えば、材料は製品を作れば作るほど、発生します。

一方、固定費とは、直接費とは真逆で製品の製造数に比例せずに発生する費用です。例えば、工場で雇われている工員さんの給料は、製品を作った数で給料をもらっている方は少ないと思います。いくら製品を作ろうと、発生する原価は変わりません。これが固定費です。

全部原価計算では、直接費・固定費全てを集計して、原価計算を行います。
また、全部原価計算の中にはさらに以下の2つの原価計算方法があります。

実際原価計算

実際原価計算とは、その名の通り、実際に発生した原価を集計して、原価計算を行うことを言います。
実際に発生した原価を製造数量で割戻し、売上原価と棚卸資産に配分します。
例えば、100個の製品を製造し、以下のように実際の原価12,000円がかかったとします。

材料費(直接費) 8,000円
加工費(直接費) 1,000円
人件費(固定費) 3,000円

この場合、製品一つ当たりの原価は120円です(12,000÷100)
この内、販売されたのは、80個、棚卸資産で残ったのが20個だった場合、売上原価は9,600円、棚卸資産は2,400円になります。

標準原価計算

標準原価計算では、あらかじめ製品一つあたりの標準原価を定めておき、製造数を掛け合わせることで売上原価と棚卸資産を計算します。また、実際発生原価との差額は、正常的な差異であれば、全額を売上原価にします。

例えば、1個あたり標準原価100円で計算した場合で販売されたのは80個、棚卸資産で残ったのが20個だった場合は、売上原価は8,000円、棚卸資産は2,000円と計算されます。
その上で、実際発生原価が12,000円だった場合、差額の2,000円は、売上原価にて計上します。

全部原価計算は、主に製造業において用いられています。また、実際原価計算と標準原価計算はどちらも用いられています。
実際原価計算と標準原価計算を比較すると、標準原価計算の方が全ての原価を集計しなくとも棚卸資産が確定できるため、決算が早く締めることができます。

また、標準原価計算を採用すると、実際に原価がかかりすぎているのかどうなのかといった分析も可能になります。そのため、実務上は、標準原価計算の方がメリットは多いと言われます。ただし、標準原価を見積るという手間が発生します。

直接原価計算とは

直接原価計算とは、直接費のみを集計する原価計算手法です。
そのため、工員さんの人件費等の固定費は、原価計算には集計されません。
あくまで直接費のみを計算するのが直接原価計算です。

全部原価計算の実際原価計算で挙げた例題で言えば、材料費8,000円、加工費1,000円が直接費ですので、100個製造した場合は、1個あたりの原価は@90円になります。そのため、販売されたのが80個だった場合、売上原価は7,200円、棚卸資産が20個だった場合は、棚卸資産残高は1,800円になります。
また、固定費の人件費3,000円は、そのまま販売費及び一般管理費として計上されます。

直接原価計算は、コンサルティング会社等、労働集約型と言われる会社で用いられています。
発生する原価が、人件費等の固定費がほとんどの場合です。こういった会社は、人件費を販売費及び一般管理費にて計上されていますので、売上総利益率が高いのが特徴です。

全部原価計算と直接原価計算の違い

ここまで全部原価計算と直接原価計算について見ていきました。
主な違いは以下の通りです。

集計する原価が違う
直接原価計算は、固定費を全て費用とすることから、利益は少なくなる
直接原価計算の場合、固定費は一般的に販売費及び一般管理費にて計上するため、売上総利益率は高くなる
適している業種が異なる

製造業をはじめとした原価計算が重要な企業にとっては、全部原価計算を行うことが適しています。
一方、製造業以外では、直接原価計算を行っている企業が多いです。
直接原価計算は、変動費と固定費を判別する必要がありますが、製造業以外の会社では変動費はそこまで多くはありませんので、判別もそこまで難しくはないと思います。
どちらの方法が適しているかは、自社の状況をよく見て判断されると良いと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか?
全部原価計算と直接原価計算がどういったもので、どういった違いがあるかを理解していただけましたでしょうか。
原価計算は様々な手法が用いられていて、奥が深い領域です。
この他の方法もありますので、ぜひ色々と興味をもって調べていただくと良いのではないかと思います。

この記事を書いたライター

公認会計士・税理士。大手監査法人で10年、監査とアドバイザリー業務を経験し2020年7月独立開業。現在は会計コンサル業務を中心に業務を行い、徐々に税務業務を開拓中。小規模監査法人パートナーも兼務。多摩地域を盛り上げたいと思っている。
カテゴリ:業務内容

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