会社の存在意義は、第一に利益追求です。だから、売上さえ増えればいい、というのは少々短絡的な考え方です。なぜなら、売上は、利益を計算する構成要素のうちの一つでしかないからです。売上から「さまざまな経費」が引かれ、最終的に残ったものが利益です。そして、「さまざまな経費」のうち、大きな割合を占めるのが、「売上原価」です。「売上原価」を計算するためには、期末の在庫がいくつ残っているのか把握しておく必要があります。つまり、在庫管理が利益に大きく影響する、ということです。それでは、在庫管理が難しい理由や、在庫管理のメリットなどを説明していきます。
最も大きなメリットは、「キャッシュフローが改善されること」です。キャッシュフローが改善される、と言われてもピンと来ないかもしれないので、わかりやすい例でお話しします。いわゆる「黒字倒産」の例です。
「黒字倒産」とは、利益が出ているのに経営破綻してしまうことを言います。その原因としてよく挙げられるのが、「在庫過多」です。
在庫は販売して初めて現金になりますが、決算書上では、資産として現金を持っているのと同じ取り扱いになります。ですが、実際は、売れない在庫をたくさん抱えている状態(在庫過多)というのは、「現金という資産を、すぐに売れない在庫という資産に変えてしまった状態」、突き詰めると、「将来損失を生み出す負債を抱えた状態」とも言えます。
在庫は、すぐに現金化はできません。ですが、家賃や光熱費、人件費などの支払期限は迫ってきます。そして、在庫を抱えすぎて、キャッシュがショートした結果、倒産に追い込まれてしまうのです。在庫をしっかり管理していれば、上で述べたような在庫過多で黒字倒産、といったトラブルを防ぐことができます。
自宅で、たくさんストックしているにもかかわらず、「トリートメントとボディソープはあるのに、シャンプーだけない…」というような場面に遭遇したことはありませんか?
在庫(ストック)は、多ければ多いほど、欠品(ないことに気付かない)が生じやすくなるのです。
在庫管理を徹底することで、こういった欠品により、販売機会を失ってしまうことが防げます。
在庫をたくさん抱えていると、無駄な管理費、人件費、保管に必要なスペースが発生します。在庫をきちんと管理することで、それらの「ムダ」を減らすことができます。また「在庫がないと不安」だから、という理由で過剰に保有している「ムダ」な在庫も減らすことができます。
在庫管理の徹底は、生産性の向上につながります。無駄な時間が減るため、工場の場合は製造リードタイムが短縮され、納期が短くなります。製品の競争力は、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)で成り立っていることから、納期の短縮は非常に強い競争力になるといえるでしょう。
長期保管をしていると、腐敗しないものであっても、紫外線や湿気等によって品質は劣化してしまいます。また、ホコリやチリなどの異物が混入する危険性も高まります。早く使うほど、劣化や異物混入のリスクを低下させることができます。
基準や判断があることで、合理的な管理ができるので、発注や処理が誰でも可能になります。従来は時間を要していたことも基準に基づけば短縮できます。熟練した社員でなくとも、新入社員やアルバイトも管理が可能になります。
在庫が減ることで市場の動きに自然と敏感になり、追従するようになります。需要予測に基づいた発注を行うことで、場当たり注文が無くなる上、生産も計画的に進められます。
上記でご説明したように在庫管理のメリットは様々ありますが、実際に在庫管理に苦労する企業も多いです。在庫管理が難しいと言われる理由として下記の2点が挙げられます。
「売上が一番大事」「いつかは売れるし、安い時に買いだめしておけばいい」「自社倉庫だから、在庫が多くても余分なコストはかからない」など、さまざまな理由から、後回しにされがちです。
会計や税務では、「簿記」や「会計基準」、「税法」といったルールが存在します。しかし、在庫管理には決められたルールがありません。100社あれば100通りのやり方があります。すると、ルールを決めるところから始めなければならないため、上記の通り、後回しになってしまうのです。
そんな在庫管理を徹底して成功を収めている世界的企業を2社ご紹介します。
トヨタは、1950年頃、見込み生産により大量の在庫を抱え、倒産の危機に直面しました。その辛い経験から、「売れるものだけを作る」というのがトヨタ式の考え方として定着しました。
そのトヨタ式を支える代表例が、「かんばん方式」です。
「かんばん方式」とは、部品箱に「いつ、どこで、何が、どれだけ使われたのか」が書かれた、「かんばん」を設置し、部品を使った時に、そのかんばんをはずすことで、その部品の発注を行うという方式です。つまり、「使った分だけ発注する」という無駄な在庫の発生しない在庫管理方法です。
現在は、「かんばん方式」を応用した「ジャストインタイム」という生産方式が採られています。
これらの在庫管理方式の根底にあるのは、「徹底したムダの排除」の思想です。この在庫管理の方法を、そのまま採用するのは難しいかもしれません。
しかし、「過剰な在庫がムダなものである」という考え方を、社内に定着させることの重要性を、感じ取ることはできるのではないでしょうか。
アップルが1995年、抱えていた在庫は58.5日分でした。それが原因となり、業績は最悪の状態でした。そこから、徹底して在庫を減らし、2011年には、在庫2.6日分まで絞り込むことに成功しました。
ここまで在庫を絞ることができた理由はいくつかありますが、そのうちの1つが、「350あった製品を10製品に減らしたこと」でした。
在庫管理は、ただでさえ煩雑な作業なので、在庫の種類自体を減らすことができないか見直してみるのもよいでしょう。
在庫管理は、ともすると後回しにされがちです。しかし、在庫を徹底して管理することが、必ず会社の利益に結びつきます。まずすべきことは、「在庫管理のルールを作ること」です。一度、在庫のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。