「自己資本」はよく聞く言葉ですが、企業の貸借対照表の「純資産の部」を見てもその項目は掲載がありません。「株主資本と同じ」と解説している場合もありますが、厳密に言うと違います。今回は会計の基礎知識として「自己資本」について、わかりやすく解説します。
自己資本とは、貸借対照表の「純資産の部」の「株主資本」と「評価・換算差額等(その他の包括利益累計額)」の合計金額のことです。
以前は、自己資本と株主資本は同じものだとされていましたが、2006年施行の改正会社法で、株主資本が「純資産の部」のひとつの項目になったため、現在では自己資本と株主資本は異なるものだと定義されています。
しかし、その企業に「評価・換算差額等(その他の包括利益累計額)」が無い場合は、結果的に株主資本=自己資本となります。
株式会社においては毎年の決算公告をすることが会社法で義務付けられています。その企業の自己資本を調べたい場合は、会社の貸借対照表を見ればわかります。
貸借対照表は、借方が「資産の部」、貸方が「負債の部」と「純資産の部」に別れていて、自己資本は純資産の部を構成する要素の1つです。
自己資本の求め方については下記のコラムで詳しく解説しているので、あわせてご確認ください。
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純資産・株主資本と同じように、返済義務がない資本です。資本金と資本剰余金は株主から拠出されたものであり、利益剰余金はいわゆる社内留保なので、返済義務はありません。
自己資本でプラスされる「評価・換算差額等(その他の包括利益累計額)」は、有価証券の帳簿価格と時価の差額や為替レートの変動による当期の増減額など、企業が保有する資産・負債の時価の変動額を表します。よってこちらも返済義務がありません。
つまり、自己資本は会社が保有しているお金ということで、その額が大きければ大きいほど経営状態が安定し良好なことを表します。銀行などの金融機関で融資を受ける際は、自己資本を必ずチェックされるはずです。
自己資本と対比される言葉に「他人資本」があります。「資本」と名がついていますが、他人資本は貸借対照表の「負債の部」のことです。
自己資本も他人資本も、会社の事業のために使うための資金ですが、自己資本は自分のお金であるのに対し、他人資本(負債)は、他人から借りて資金を集めた状態を表しています。つまり、将来に返済義務のある「借金」が他人資本です。主なものは、銀行等の金融機関からの融資などの借入金、買掛金、未払金、支払手形などです。
返済期限に応じて、1年以内のものを「流動負債」1年超えのものを「固定負債」と呼びます。
貸借対照表で他人資本=負債の占める割合が多い場合には、返済義務のあるお金が多いということで、経営状況に注意が必要です。
自己資本はいろいろな財務分析に利用されますが、代表的なものが「自己資本比率」です。
これは、総資産に占める自己資本の割合を示す財務指標で、法人の財務安全性を判断するために使います。
計算式は以下の通りです。
自己資本比率は、企業の健全性を表す非常に重要な指標です。企業の財務的安全性をみるとき、自己資本の構成比率が高いほうが、すなわち、返済の義務のない財源から資金を調達している方が、健全で耐久力が強いと考えられます。
金融機関においては、一定水準以上の自己資本を持つことが義務付けられています。自己資本が少ないと、融資が焦げ付いた場合に破綻に至る危険性があるからです。世界規模で「バーゼル合意」という国際統一基準(BIS規制)では、国際業務を行う銀行の自己資本比率を8%以上と規定しています。
日本では、銀行法など関係法令に基準を設け、金融庁によって規制をおこなうことによって、各金融機関に対して同質の健全性の基準と、自己資本比率を公表することを定めています。
自己資本比率について、考え方や計算方法については以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
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貸借対照表の「純資産の部」は「株主資本」「その他の包括利益累計額(評価・換算差額等)」「新株予約権」「非支配株主持分(連結財務諸表のみ)」の4つから構成されています。
「自己資本」は、「株主資本」と「その他の包括利益累計額(評価・換算差額等)」の合計金額のことです。企業によっては、「その他の包括利益累計額(評価・換算差額等)」やそれ以外の純資産を構成する要素がないため、結果的に純資産=株主資本=自己資本となっている場合もあります。
混同されがちですが、しっかりと違いを押さえておきましょう。「他人資本」は、貸借対照表の「負債の部」を表す言葉です。自己資本・他人資本ともに、資産を形成する資本という意味で使われていますが、他人資本は返済義務があるということが大きく異なります。企業の健全性を見る場合は、自己資本比率を確認してみましょう。