2つの企業が合併する場合、存続企業となる企業は、その対価として消滅企業の株主に対して株式を発行・譲渡しなければなりません。その際、株式をどれくらい対価として交付・譲渡するかが問題となります。この解決策は合併比率です。合併比率を計算すればどれくらい株式を交付・譲渡しなければならないかがわかります。
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合併においては、対価を合併会社の株式とした場合、被合併会社の株式と交換に合併会社の株式を交付することになります。その交換比率のことを合併比率と言います。
消滅会社の株主に交付する存続会社の株式総数=消滅会社の発行済株式総数✕合併比率
つまり、合併比率は、消滅会社の株式1株について、存続会社の株式を何株交付するかという比率を意味しているのです。存続会社と消滅会社の合併比率が1:0.5であるような場合には、存続会社の1株と消滅会社の0.5株が同じ価値ということになり、消滅会社の株を1株持っている株主は、存続会社の株0.5株を受け取ることができるようになります。
合併比率の計算が必要な理由は、合併当事企業となっている2社以上の株主が、不利益を被る可能性があるからです。たとえば吸収合併のケースを考えてみましょう。吸収合併とは、2つの会社が合併する際、一つの会社が存続し、他の会社が消滅するような合併のことを言います。
この合併に際して、合併比率を1:1とした場合、消滅会社の発行済株式総数が1,000であれば、消滅会社の株主へも株式を1,000株交付すれば良いと考えられるかもしれません。
しかし、株式には時価があるため、存続会社の1,000株と消滅会社の1,000株は同じ価値であるというわけではありません。存続会社の株価が100円で、消滅会社の株価が10円であった場合、時価の異なる株式を1:1の比率で交付してしまうと、もともと消滅会社の企業価値は、10,000(1,000✕10)であったはずのに、100,000(1,000✕100)の価値があるということになってしまいます。つまり、消滅会社の株主は、10倍の価値がある株式を手に入れることができてしまうというわけです。
他方で、存続会社の株主にとっては、新しく設立する会社には、200,000の価値があることになりますが、株主の数は単純に2000(2000株)となっているので、一人あたりの株式価値は100ということになります。結果として、新しく設立した会社から今後受けられる配当が、株主の数が多くなっている分少なくなってしまうのです。これを希薄化と言います。
つまり、合併比率の計算が必要なのは、希薄化を防ぎ、存続会社の株主と消滅会社の株主の公平性を保つためなのです。合併前の両社の株式数が同じであれば、合併比率は企業価値の比率と同じになりますが、合併前の株式数が異なる場合には、合併比率と企業価値の比率は異なることになります。
このように、合併により消滅する消滅会社の株主は、従来の株式の代わりに存続会社の株式を受け取ることになりますが、消滅会社の1株に対して存続会社の株式何株を受け取るかは、消滅株主にとって重要な関心事となります。
こうした理由から、合併比率は合併契約書の記載事項となっており、合併比率の公正を確保するため、その算定の根拠を示す理由書は、合併契約書、各会社の貸借対照表・損益計算書とともに、会社の本店に備え置き株主・会社債権者の閲覧・謄写に供さなければならないこととされています。
合併比率を算定する場合の存続企業と消滅企業の株式の評価方法について、会社法や税法では明確に規定されていません。したがって、合併比率は、原則として、存続企業と消滅企業の経営者で合意した株式の評価額に基づいて算定すればよいことになっています。
したがって、実務上は、存続企業と消滅企業の企業価値を客観的に測定でき、双方の株主の理解を得やすいことから、合併比率は、一般的に企業評価額に基づいて算定されています。企業評価額の算定方法には、様々な方法がありますが、ここでは最も一般的に用いられている株式市価法について説明していきます。株式市価法(株価評価法)とは、合併の当事者となっている株式が上場している場合に、株式の市価(市場価値)に発行済株式総数を乗じて、企業価値を測定する方法のことを言います。
企業評価額=平均株式市価✕発行済株式総数
合併比率は、株式の交換比率のことであるので、合併の当事者となっている会社の1株当たりの価値を対比して算定されることになります。その合併の当事者となっている会社の1株当たりの価値は、合併当事会社の総合的な企業価値(企業評価額と呼ばれる)を、発行済株式総数で除して求めることができます。
合併当事会社の1株あたりの価値=企業評価額/発行済株式総数
合併比率は、合併当事会社の1株あたり企業評価額の比率で求めます。
合併比率 = 存続会社の企業評価額/存続会社の発行済株式総数 : 消滅会社の企業評価額/消滅会社の発行済株式総数
このように、合併比率の算定においては、存続会社と消滅企業の1株あたりの価値、すなわち、これら会社の株価をそれぞれ評価する必要があります。
税務においては、1株当たり時価純資産価額を基に合併比率を算定すれば、存続企業と消滅企業のいずれかが時価ベースで債務超過ではない限り、株主間における経済的利益の移転による、みなし贈与課税の問題は原則として生じません。