今回は、給与計算の仕事を始めた方や企業の監査を担当している公認会計士の方に向けて法定福利費の計算方法についてお話ししていきます。
法定福利費を初めて聞く方や名前は聞いたことがあるけど、どういったものが対象で計算方法が曖昧だった方の参考になれば幸いです。
法定福利費とは、健康保険法、労働基準法、厚生年金保険法等、各種法令で定めている、事業者が負担を義務付けられている費用です。一般的には、社会保険料と言われることが多いです。
具体的には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、子供・子育て拠出金、労災保険料、雇用保険料といった項目があります。
これらの社会保険料は、労働者側と事業者側の両社が負担して支払うものもあれば、事業者が全額負担するものがあります。
これら、事業者が負担する分は法定福利費として、損益計算書に計上されます。
法定福利費の計算については、いくつかのキーワードがありますので、先にそれらのキーワードを紹介します。
標準報酬月額とは、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料といった社会保険料の算定に際して、1ヶ月あたりの標準報酬を決めるものになります。
算定方法としては、4月~6月の報酬総額÷3にて算定します。
報酬総額とは、基本給、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等、労働の対価として現金または現物(例えば、交通定期券が該当します)で支給されるものをいいます。なお、賞与は通常範囲に含まれませんが、年4回以上、賞与が支払われる場合は含まれます。
また監査法人に勤務している公認会計士のように、4月から6月の残業が多くなり、1年間の平均と比しても標準報酬月額が多額となる場合や、4月から6月までの稼働日数が少ないことにより、標準報酬月額が少ない場合等、いくつかの例外規定はありますが、通常の方は4月から6月までの報酬総額を基に標準報酬月額が決定されます。
標準報酬月額は7月1日にて決定され、通常であれば、1年間固定されます。
賃金とは、労災保険及び雇用保険の算定の際に基礎となる給与等です。含まれる給与には、基本給、通勤手当、残業手当や家族手当等の各種手当、事業主負担分の社会保険料、雇用保険料、賞与、前払い退職金等も含まれます。
そのため、標準報酬月額の算定の範囲よりも広いものになります。ただし、役員報酬等、役員に支払われるものは、対象となりません。
また、賃金総額とは、これら全従業員に4月1日から3月31日の1年間に支払った金額の総額を言います。
なお、賃金は、雇用保険の算定の際に使用します。一方の賃金総額は、労災保険の算定の際に使用します。
それでは、それぞれの法定福利費の計算式を確認していきましょう。
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料(以下、健康保険料等といいます。)
は、自社が企業グループや業界団体等の健康保険組合に加入していれば、その健康保険組合で定めた率を用います。
一方、健康保険組合に加入をしていない場合は、全国健康保険協会(協会けんぽと言われます)にて公表している保険料額表を用います。
健康保険組合の率は、組合員の人員構成によって率が異なるため、自社が健康保険組合に加入している場合は、そちらの率をご参照ください。
この記事では、協会けんぽに絞ります。
協会けんぽの場合は、先に標準報酬月額の算定方法は解説しましたが、それによって算定された標準報酬月額を基に1~50まである等級のいずれに該当するかを判断します。
その等級に基づいて協会けんぽのホームページで公表されている保険料額表に記載された健康保険料等が各個人の保険料となります。
例えば、東京都で標準報酬月額が240,000円と算定された方の場合、等級は19となります。
等級19の方の法定福利費は、健康保険料11,808円、介護保険料2,160円、厚生年金保険料は21,960円です。ただし、介護保険は労働者側が40歳から64歳までの場合に発生します。その年齢以外では、発生しません。
なお、健康保険料等は、労働者側も事業者側も折半での負担になります。そのため、上記の保険料額は、事業主負担分を記載しましたが、同額を労働者側は給与の天引きをすることで支払っています。
子ども・子育て拠出金は、厚生年金に加入している従業員が対象となり、実際の子どもがいるかどうかは関係ありません。また、料率も業種によって異なるわけではなく、2021年度は0.36%となっています。
子ども・子育て拠出金は、標準報酬月額を使用して算定しますが、全額事業者側で負担するため、健康保険料等とは異なる点が特徴的です。
労災保険の計算の際は、賃金総額を算定して、労災保険料率を乗じます。
労災保険料率は、事業者の実施している事業によって、労災の発生可能性が異なることから、厚生労働省のホームページにある労災保険料率を基に特定します。
例えば、2021年では、金属鉱業、非金属鉱業又は石炭鉱業の場合の保険料率は88/1000ですが、金融業、保険業又は不動産業の場合は2.5/1000という具合です。
労災保険の特徴は、労働者側の負担がなく、全額事業者が負担をすることです。また、4月1日から3月31日までの企業の賃金総額を基に計算を行うため、1年間分の保険料が確定されることも特徴です。
雇用保険の計算の際は、会社の実施している業種によって、保険料率が異なります。
雇用保険では、労災保険程、業種は細かく定められてはいなく、大きく以下の3つの区分のいずれに当てはまるかで計算がされます。
雇用保険は、失業した際にもらう保険金や育児休業の際の保険金等、従業員側の都合で発生することもあるため、従業員側でも負担を行います。
また、毎月の従業員の賃金額によって金額が変わります。今まで紹介してきた各法定福利費は、基本的に固定額を1年間で支払いますが、雇用保険は異なる点が特徴です。
法定福利費は、労働者が知らないところで、事業者側が負担しているものです。また、全額事業者側負担のものもあり、事業者は労働者が思っている以上に一人あたりに対して法定福利費がかかっているという点が分かっていただけたのではないでしょうか。
法定福利費の特徴は項目数が多く、計算式も様々な点です。中々、一度で覚えるのは難しいですので、実際の実務をやりながら覚えていくと良いでしょう。